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第一章 大樹の森

第十三話 ほわほわ ほんわか

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「ヌィ君達はどうするの?」

 ボーパルバニーとの戦いで合格を貰って午後の講習はお休み。
 みんなが午後の予定を話していると、オフィーリアがヌィに声をかけた。

 オフィーリアとはお友達、よくおしゃべりもするし、一緒にいて楽しいけど…
 2人が仲良しでくっついていると…ちょっともやもやする…どうしてかな……


「アンジェが良ければ二人で商店街を見たいと思ってるんだけどどうかな?」
「うんっ!」
 ヌィの言葉に笑顔が零れる。あれ?もやもやがなくなった…変なの。



「うはぁ……すごい人混みだね」
 大通りの人たちや荷車を引くラプトルの姿に夢中になるヌィ。

「そうだね、南側~商店街通りは星降りの街で一番にぎやかなのかも」
 そんな姿をみて何か心がうきうきしながら、私はヌィに返答した。


「あの赤いベリーがおいしいんだよぉ…少し酸っぱいけど甘くて…柔らかくて…」
 鮮やかな色彩が目を引く食料品店、並ぶ野菜や果物にもヌィは興味深々みたい。
「でもね、食べると舌が真っ赤になるの……ぇへへ…」
 私が教えてあげるとヌィは口元を緩めて微笑む、ちょっと食いしん坊さんだ。

「あの絵は牛…羊…猪…」
「うん、たぶんお肉屋さんだよ」。
 ヌィは干し肉を見て少し残念そうな顔をした、新鮮なお肉が食べたいのかな。
 外にだしてたらダメになっちゃうから買わない人は見れないんだよ?


「あっ、ここかも!ちょっと買いたいモノがあるんで覗いてみてもいい?」
「いいよ、なんのお店?」
 ヌィが飛び込んだのは少し地味なお店。
 他においしそうなモノを売ってるお店がいっぱいあるのに変なの。


「うーん、これが胡椒かなぁ、結構な値段するな…」
「あ、調味料?でも似たようなモノを森で見たことあるかも」
 ヌィはなんでもおいしそうに食べてるけれど、ほんとは味に敏感なのかな?
 胡椒が気になるみたいだし、今度お料理を作るときには使ってみょう。

「なんだい、買わないのかい…ふあぁぁぁ…」
 お店のおばさんが大きな口を開けてあくびをした。

「いえ、えっと…これと……その潰れた缶も欲しいんだけど……」
「おやおや、お客様なら大歓迎だよ」
 ヌィは茶色いザラザラした調味料と潰れた筒を買った。なんに使うのかな?


「ありがとう、じゃぁえっと…」
『Reliz 10mana/放出十魔力/リリース10マナ』
 ヌィの言葉で魔結晶から小さな光が離れてお店のおばさんの魔結晶へ移った。

 マナ…魔結晶に蓄えられた魔物の魔力。
 ハンターたちは金貨や銀貨の代わりにお金として使っている。
 ヌィはチャージ式の電子マネーみたいと言っていた、なんのことだろう?

「お待たせ、次はアンジェの見たいものを見に行こう」
 ヌィはお店で買った包みを抱え、私ににっこり微笑んだ。



「すごい品揃えだね、ヌィ」
 私が見たいと言ったのは道具屋、そこにはバッグや衣料品などが並んでいた。

「うん、でもラビットフットと比べるとちょっとお高いね……」
 ヌィはちょっと渋い顔をしている。

 ラビットフットというのはギルドの傍、街の東側に1件だけある道具屋。
 ここよりも安くて便利な道具がいっぱい売っている。

 私もここよりラビットフットのお店の方が好き、かわいい小物も多いし。
 きっとそういうのはレイチェルが選んでるんじゃないかな。
 彼女はラビットフットのお店の娘、リボンや髪留めがかわいくてセンスがいい。

 その後も武器屋とか衣類店とかを順番に見る、結局何も買わなかったけれど。
 二人で一緒にお店を見て回るのはそれだけでとても楽しい時間だった。

 ▶▶|


 ギルド裏の訓練場、ヌィはさっき買った缶に穴をあけて木箱の中に吊るした。


「えっと、あぶって中身をかき回せばいいの?」
「うんっお願い」
 ヌィからされたお願いを不思議に思いながらも私は魔法を唱える。

『Ogon' /火/ファイア』
 小さな火が灯り…

『Veter /微風/ブリーズ』
 缶の中で風が渦を巻く…

「わっ…なにこれ」
 缶にあけた穴からどんどん白い糸みたいなのが溢れ出す。
 私は思わず口をぽかんと開けたまま見つめてしまった。

「ありがとうアンジェ、ばっちりだよ」
 ヌィは器用に棒を動かしてその白い糸を絡めとる。
 ほわほわ白いのがだんだん大きく膨らみだす。

「こんなもんかな? どうぞ食べてみてっ」
 ヌィは私にそれを差し出した、食べ物なんだ初めてみたよ。

「んんっ……ほわほわして不思議だけど……甘くておいしいっ!」
 柔らかい白いほわほわは口にいれると甘さを残して溶けていく。
 ヌィが私の為に作ってくれたお菓子…食べると心がほんわかとした。


 それは綿菓子といって、砂糖…ザラメを溶かして綿状にしたお菓子なんだって。


「なにかぁ、甘ぁぃ匂いがしてるんですけどぉ…」
 匂いに誘われたのかなぁ、やって来たのはユーリカだった。

 私が魔法で砂糖を溶かし、ヌィがそれを絡めとる、二人で一緒にお菓子作り。


「じーーー……」
 いつの間にかソフィアが傍に……
 ヌィが怖がるから近づけないように気を付けなくちゃ。

「真っ白で可愛いわね」
「初めて見るお菓子だよ」
「あ、ありがとうございます」
 クラリッサとオフィーリア、遠慮していたレイチェルにもお菓子を配る。

「甘いモノは苦手だがこれは面白いな」
「すぐなくなっちまうな」
「いただこうか」
 他の皆も、もちろんどうぞ。

「ふぅん、まぁまぁね」
「……面白い作り方」
「酒には合わねぇけどうまいな」
 いつの間にか知らない子供やハンターも混ざっていた…忙しかった訳だよ。

 でもこうして皆と一緒にワイワイ過ごすのはなんだかとても楽しかった。
 これも私のところにヌィが来てくれたおかげかな。


 ▶▶|

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