12 / 48
第一章 大樹の森
第十二話 ボーパルバニー
しおりを挟む風切り音と風圧が再び襲う。
その瞬間、俺の目の前にその魔獣…ボーパルバニーの姿があった。
夏色の体毛、なびく長い耳、小柄な体躯、その特徴は兎そのモノ。
赤黒く濁った瞳、裂けた口、並ぶ鋭い牙……兎とは異なる…モノ。
キィンと響く高い金属音…構えたナイフと魔獣の切歯の衝突…
…その衝撃に押されながらも辛うじて魔獣の切歯を受け流した。
魔獣の二撃目…その狙いは俺の首筋…ヤツはいきなり命を狩りにきた。
初めて正常な思考状態で出くわした魔獣。
その素早さ、跳躍力、威力そして殺意…
…それは獣という枠から外れたモノだった。
「くっ…速過ぎるっ……ヌィ、アレに反応できるのはお前だけだっ!」
フレアが叫ぶ。
「皆ヌィの後ろさがれっ! ヌィ頼むっ、攻撃を止めてくれ」
フレアの指示にアンジェが素早く動く。
魔獣の矛先が……戸惑い行動が遅れたレイチェルに向いた。
響く風切り音と押し寄せる風圧……その元凶に俺は自ら飛び込んだ
「間に合ぇええ!…」
キィィンと高い金属音が再び響く。
俺はレイチェルを狙う魔獣の三撃目をナイフで受け止め…
…その衝撃に抗い…踏みとどまる。
「ぐあっ…」
攻撃を喰らった…それは切歯を防がれた魔獣が繰り出した蹴りの一撃。
ナイフを握る右腕を鈍い痛みが襲い……麻痺して…感覚が…消え…動かせない。
零れ落ちそうになるナイフを必死で……掴む。
「よくもヌィをっ」
『Ogon' stena /火壁/ファイアウォール』
蹴りの勢いで俺から離れていた魔獣と俺の間、
そこに俺の背丈ほどもある炎が一気に噴き出し広がった。
それは防火壁ではなく火の壁、アンジェの魔法だ。
「うまいぞアンジェ、レイチェルは投石で牽制を頼む」
震えと炎の壁で矢の狙いが逸れる恐れがあるとみての判断だろう。
レイチェルもそのフレアの指示で一呼吸置き、少し落ち着きを取り戻した。
俺は痺れた右手から左手に持ち変えたナイフを構える。
時間の経過と共に炎の壁が薄まり……魔獣の後ろ脚に力がこもる…
…それは先ほどから何度も見せた突進攻撃の予備動作。
…来る…
「レイチェルッ」
「やっ…」
魔獣の踏み込みに合わせたフレアの指示で放たれたレイチェルの投石。
それは飛び出す直前の魔獣の足元に着弾し、攻撃の勢いを僅かに削いだ。
響く風切り音と衝撃……俺の首筋を狙った魔獣の突進…
今まで受け止める為に水平に構えていたナイフを…
…魔獣に向けて垂直に突き上げる…
待ち構えるのでなく……自ら魔獣へと向かう。
ナイフが魔獣の切歯を掻い潜り…首筋を切り裂き…血が噴き出す。
攻撃を食らいながらも魔獣の反撃の蹴りが左腕に衝撃を与える…だが……
「負けるかぁぁぁっ!!」
鈍い痛みに襲われ痺れる左腕に力を籠め、全身でその衝撃を…押し戻した!
反動で魔獣の躰が俺から離れ……
「はぁあああっ…!」
その隙を逃がさず振り抜かれたフレアの剣が魔獣を高く打ち上げる。
切り裂かれた胴から血を吹き出して宙を舞う魔獣…
…その躰が地面に落ち、小さくバウンドして力なく転がった…
「……ぎりぎり……合格ですかねぇ……次は期待してますよ」
「は、はい……」
俺はその言葉に安心して……倒れるように座り込んだ。
▶▶|
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる