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第一章 大樹の森

第十一話 ボア

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『Rulet /回転/ロール』
 ガレットの手のひらでダイスがくるくると回りだす。
 数秒後、ダイスは赤い面を見せて止まり……ぽわっと淡く光る水飛沫が飛び散る。

「はぁい、昼の水……まぁまぁの相手ですかね」
 壁の扉に刻まれた溝が光り……ゆっくり開かれた。

 Guuuuhhhhhh…

 低い唸り声がギルド裏の訓練場に響く。
 突き出た鼻と天に向けられた牙、粗く茶褐色の体毛で覆われた巨体、
 荒々しくその蹄で地面を抉りながら敵意を剝ける獣…ボア……猪だ。

「ちなみにぃ、火だったら蛇、地の場合は羊、風が兎で、水が猪でした、
 刈った獲物はご褒美ですので皆さん頑張ってくださいねぇ」

「500マナってとこね」
「いいね当たりだ…さっさと狩るぞ!」
「「「ぉおおっ!」」」
 パーティの実力を測る為にギルドが用意した獣と戦う試験……
 絶好の獲物に喜びと気合の混ざった声があがり、ガレット班の戦闘が始まった。


 Gueeeeeeehhhh!

 開始早々に獣の悲鳴が響く。
 猪の左目と首筋に刺さった2本の矢…クラリッサとオフィーリアの先制攻撃だ。

「いいぞ、2人ともっ」
 ガレットが槍を構え、矢を放った2人を庇うように立つ。


「ぅおぉぉぉおおっ!」
 雄たけびをあげ、イーサンが猪の目の前で剣を振る。
 だが、その気合と筋肉の割に与えているダメージは大したことがない……

「あれわぁ獲物の気を引いて、ヘイト…敵対心を自分に向けさせているんです」
 なるほど、攻撃の矛先が他メンバーへ向くことを防いでいる訳か。


「バラ……」
 クラリッサの剣が無防備な猪の左脇を突き、即座に飛び退き距離を開ける…
 その動きは優雅で言葉の通り鋭い棘を持った薔薇のよう……

「ロース…」
 剣撃の合間を縫いオフィーリアの放った矢が猪の背に刺さる…見事な連携だ。
 このコンビネーションが薔薇=ローズという技なのだろうか。

「カシラ!」
「ヒレッ!」
 続くイーサンとガレットの攻撃と声…
 …どうやら皆、相手が肉にしか見えていないようだ。
 きっと、先日俺たちが食べていた肉が羨ましかったのだろう。


「ハッ!」
 何度目かのクラリッサの突きで猪の動きが止まる…

「うぉぉぉおおっ!!」
 一際大きい雄たけびと振り下ろされたイーサンの剣が猪の首に深く喰い込み、
 鈍い音を立てて項が垂れ…巨体が地面に倒れ土埃が舞った。

「「「やったぁっ」」」
「「「わぁぁ」」」 
 ガレット班からは喜びと安堵、俺たちからは称賛と感嘆の声があがる。


「初めてにしてわぁ中々でしたぁ、合格点をあげますねっ」
 何点か指摘とアドバイスはあったがガレット達は見事合格を勝ち取った。


「よし、次はお前らの番だぞ、ハハハ」
「楽しみね、期待してるわ」
 俺たちの緊張を解してくれようと掛かるイーサンとクラリッサの声。





「次わぁフレアさんのパーティですね、準備をしてください」
 訓練場に入ると俺はナイフを抜き、アンジェとレイチェルは弓を構える。

「……いいか?」
 フレアの問いかけに俺たちは頷く…


『Rulet /回転/ロール』
 刻印が光り回転するダイス……ガレットの時よりもその時間が長く感じる。
 だがやがてその動きを止めたダイスは…
…うっすらとした影に包まれ、風がフレアの前髪を揺らした。

「風はうさぎだよ」
「…よかった…それなら狩りなれてる…」
 アンジェの呟きに俺も安心して言葉が零れる。


「なんだ兎じゃ大した稼ぎにはならないし外れかぁ、残念だったな」
「そうね、でも試験は楽でいいじゃない」
 耳に届くイーサンとクラリッサの声。



「よし、いつも通りにいく…」

…扉の溝が光り…静かに開き始める…
…訓練場に入ったフレアが弓を構えようと腕を持ちあげる…

「!? フレアっ避けろっ!!」
 妙な威圧感を感じ、俺は思わず叫んだ。
…突然耳に届いた風切り音…肌に感じる風圧…

 咄嗟に身を反らせるフレア…
…持っていた弓は真っ二つに切断され、張った弦の勢いで跳ねて地面を転がる。
 袖が切り裂かれ、白い肌を覗かせている。


 尋常ではないその初撃に……俺は反応出来なかった…


「ダ、ダイスは……夜の目だった…」
 レイチェルの声が震える……

「……ボーパルバニー…」
 アンジェが獣の名を口にする……

 腰の剣に手を添えたフレアが呟く……
「魔獣……か…」



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