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第一章 大樹の森

第十話 本格的訓練

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「動きが大分良くなって来たな」
 フレアが思わず言葉を零す。
 近接戦闘での訓練、俺の攻撃もどうにか届くようになっていた。
 (防がれないとは言ってない)

 だが、相手の攻撃に対しては相変わらず突っ込んでしまう。
 状況を判断して避けられる時は避けろとユーリカから指導されたのだが…


 3度同じことを言われた後……背後から突然の殺気!?
 俺は大きく左に転げるように避けた。
 今まで俺が立っていた地面には深々と突き刺ささった木剣が…が…が…

「なぁんだ…やれば出来るじゃないですか…今までふざけてたんですかぁ?」
「いっいえっ!ユーリカさんの指導のお陰ですっ!」
 それ以来、わざわざ自分から攻撃に突っ込む変な癖はでなくなったのだが、
 訓練中に時折ユーリカの不意打ちが仕掛けられるようになった……



 少し休憩を挟んだ後に遠距離攻撃の訓練が始まり、
 俺はそこでユーリカよりお言葉をいただいた。

「諦めなさい」
「はい……」


 被害が出る前にやめた方がいいとのことで……俺は見学に専念することに。
 皆が弓や投石機で投げられた皿の様な的を狙う…
 それを見て飛び出したくなるのを必死に抑えてうずうずとしていると…

…ユーリカに肩を叩かれた。

「ヌィ君にわぁ、この時間特別訓練をしてあげますねぇ」

 さわやかな笑顔。
 だが返答の選択肢は「はい」か「Yes 」か「ありがとうございますか」…
 肯定と感謝の表現以外は許されていない。


「遅いですよぉ」
「は、はいっ」
 ユーリカとの模擬戦闘訓練…
…決して重症を負うようなとんでもない打撃が放たれる訳ではないのだが…
…この訓練は命がけだ。

 下手な動きを見せようモノならその笑顔に殺気がこもり。
 そこで怖気づくようなら更なる追い打ちがかかる。

「うーん…なんかしっくりこないですねぇ…武器を変えてみましょうかぁ」
 ユーリカのその言葉で俺の武器は短剣、
 いやもっと短いナイフサイズの短い木剣へと変更された。


「攻撃はもっと距離を詰めてぇ、即座に離れるぅ」
 セリフはのんびりとしているのに何故攻撃のはこんなにも素早いのか…

 ユーリカの指導で距離の詰め方、離れるタイミング、躰の動かし方を覚える。

 最初は至近距離での闘い…距離を詰めることに恐怖があったが、
 だんだん躰がスムーズに動くようになる…
…どうやら俺にはこの戦闘スタイルがあっているようだ。


「いいですねぇ…
 私も久しぶりにもっと躰を動かしたくなってきちゃいましたよぉ、
 明日からも楽しみですねぇ…ふふ…」

 タノシミデスネ…

 その後、恐る恐る剣術の得意なフレアには訓練をしないのかと尋ねたら、
 フレアは型が出来上がってるので急な刺激を与えて崩さない方がいいそうだ、
 人それぞれ指導の仕方が違うらしい。

 それとそんな事になったら後で怒られると言っていた、
 権力的なモノでもあるのだろうか。



 特別訓練が終わると時刻は夕食間近になっていた、あれ?魔術の訓練は?

『Ogon' Strelyat' /火撃/ファイアショット』
 空気を震わせ低い音を立てながら炎の固まりが前方へと放たれる。
 皆は既に次の段階の魔法訓練、各属性に合わせた攻撃魔法の最中だった。

 ガレットの放った魔法が的に当たり大きな炎となって包み込む。
 アンジェの魔法は炎は大きくないが的の中心を捉え、その跡が深く刻まれる。
 イーサンは最初はでかい炎があがるのだが距離が延びるとその威力が弱まる。
 同じ魔法でも個人個人の資質や技術によって大きく変わるようだ。


「ヌィくんはマナの練り方、流し方といった基礎訓練をしよう、
 資質が現れた時に出来ないと困るからね、なんだったら私が毎晩指導するよ」

「大丈夫です、わたしがみますっ」
 腕を広げたアンジェが飛び出して留めてくれた。
 おかげでソフィアは俺に対する個人レッスンを諦めてくれたようだ。

 だが、食事後や就寝前に少しだけでも自主訓練をするようにとだけ念を押された。
 それで本当に魔法が使えるようになるといいんだけれど……

 何はともあれ、この日より本格的な訓練が開始されたのだった。


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