ある旅行者の日記・番外編

マメ

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ある王達の会談

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【side:王】


 リョウと結婚して五十年が過ぎた。子ども達も産まれ、すくすくと順調に育っている。
 子ども達は乳母を付けるわけではなく、リョウの「できる限り自分でも育てたい」との希望で、公務がない時はトキやシギを始めとする使用人達と共に、二人の子育てに奮闘している。
 子ども達はリョウの影響を強く受けているのか、基本は素直だが、地球での常識や不思議な事を話す時もある。リョウは地球ではよくある事と話しているが、私のまわりに地球出身の者がいないので、それが本当かは分からない。だが、リョウも子ども達も城の者も楽しそうに日々を過ごしているから、リョウの申し出を受け入れたのは正解だったと思っている。


 今日の公務はセラフィムでの会談だった。セラフィムの王、ラファエルは私の幼き頃からの親友でもあり、良き理解者でもある。私の今までの歩みはもちろん、リョウとの馴れ初めや、結婚に至るまでの全てを知っている男でもあった。また、私も彼の全てを知っている。
 会談は予定通りに終わり、安心して用意された部屋に戻ると、ラフから呼び出された。何やら話があるらしい。断る理由もないのでラフの私室に向かうと、彼は酒を用意して待っていた。
「トウガ、お疲れ」
「ああ。お前もな……今日は何の話だ?」
「あー……リョウ君やちびちゃん達の近況を聞きたくてな」
「そうか。みんな変わらず楽しそうに過ごしている」
「結婚前も言ったが……まさかお前が恋愛結婚するとはな」
「運命だったからな……まあ、受け入れられるまで色々ありすぎたが」
「あっはっはっはっ」
「笑いすぎだぞ、ラフ」
「いや、英雄王トウガ様がまさか振られるとは思わないじゃないか。最初に断られたと聞いた時は耳を疑ったぞ? お前と結婚したい奴は沢山いたからな……宴で色んな国の連中にトウガに近づくにはどうすればいいか聞かれたからなあ」
「……私も振られるとは思っていなかった。リョウの故郷が特殊だったんだ」
「まあそうだけどな。今は幸せなんだろ?」
「そうだな……子ども達も他の子どもより頭がいいし機転がきくようだ。このまま育てば良き王になるだろう」
「そうか……リョウ君は相変わらずか?」
「相変わらずとは?」
「お前と対等に話してるのか?」
「ああ。それがどうした?」
「この前の宴でリョウ君がお前の事をトウガって呼んだの覚えてるか?」
「この前……ああ、リョウが体調を崩した時か」
 先日、ある国の宴に参加した際、リョウはハードなスケジュールによる過労で少し顔色が悪かった。最初は我慢していたようだが、宴の途中で笑顔を作れなくなるほど辛くなったらしく、隣にいた私に「トウガ、具合が悪いかも」と城にいる時のように話しかけた。きっと「王妃」を演じる事も忘れていたのだろう。すぐに休ませたが、その時、まわりにいた者の驚いた顔が忘れられない。ラフはその時の事を言っているようだ。
「お前の事を呼び捨てにする奴は限られてるからな……俺はリョウ君とお前の仲を知ってるから気にしなかったけどさ、夫婦とはいえ、公の場で王を呼び捨てにする王妃は見た事がないと、皆驚いていたな」
「でもその後は王妃としてのリョウだっただろう? 皆忘れているさ。それが原因でリョウに何か言う輩がいたら潰す」
「……」
「ラフ?」
「お前、そういえば……リョウ君にちょっかい出した奴とかリョウ君に近づく奴をさりげなく社交界から消してるよな? リョウ君知ってるのか?」
「リョウは知らない。あいつは自分が人気があると未だに理解していない。危ないから私のそばにいろと言っても堅苦しい話はしたくないと離れてしまうんだ。他国の者と話すと、どうしても政治の話になるからな……それが苦痛らしい」
「はー……自覚ないって凄いな……リョウ君、物腰が柔らかいから、話したいって王族や貴族は沢山いるぞ?」
「ああ。知っている。私が離れた時を狙って近づいている者も把握済みだ。結婚してからも……私に相応しくないと直接攻撃する者もいる。リョウは慣れていると言って私にあまり言ってこない。だから使用人を常にリョウのそばにつけている」
「大変だなリョウ君も」
「ああ。負担をかけている自覚はあるんだが……でも、最近は子ども達もリョウを守ってくれている」
「ちびちゃん達が?」
「リョウには攻撃するが、子ども達がいると私に伝わると分かって皆大人しくなるようだ。二人にはリョウに何か言う輩がいたら私にすぐ言えと話してある」
「そうか……頼もしいな。お前が子どもと遊んでる姿が想像できない」
「遊ぶというより、子ども達に言われるままできる事をしているだけだがな。リョウにもお前は遊ばないと思ってたと言われた」
「あっはっはっはっ」
「笑うな」
 そこまで話した時、いつもラフの護衛をしているジル殿がいない事に気がついた。二人で話したいと下がらせたのだろうか。彼はセラフィムの元騎士団長で、今は訳あって騎士団を引退し、ラフの護衛を任されている。そして、進展はしていないようだが、実はラフの番でもある。
「そういえば……ジル殿はいないのか?」
「あー……」
 ラフは頭をポリポリと掻き、気まずそうな表情を浮かべた。何かあったようだ。
「トウガ、この話は内密にして欲しいんだが」
「ああ」
「実は……この前、ジルを抱いた」
「合意の上か?」
「いや、あまりにも拒否られたから勢いで抱いた」
「……私がリョウを襲った際に、それでは好意を持たれるどころか嫌われるぞと怒ったのは誰だ?」
「……俺だ。お前と同じ事をしてしまった。どうしたらいい?」
「私には何も言えない。私の場合はしばらく会ってもくれなかったからな」
「ジルもしばらく会ってくれない。他の者を護衛にして欲しいと言ってきた」
「まあ、そうだろうな」
「何か策はないか?」
「……数ヶ月後、リョウの誕生の宴がある。そこにジル殿も連れてくればいい。表向きは護衛だとしても、ジル殿の騎士団時代を知っている国の者も来賓予定だ。見る者が見ればお前の伴侶候補だと分かるだろう」
「なるほど……」
「それに、子ども達が翼を見たいそうなのでな。見せてやってくれ」
「翼?」
「ああ。翼を生やした種族がいると教えたら目をキラキラさせていてな……」
「そうか……ちびちゃん達を使うって手もあるな……」
「子ども達は何も知らない。無理に何かをさせるな」
「分かってる。ちびちゃん達が間に入ってくれるかな……」
「さあ? それは当日のお楽しみだな」
「分かった。リョウ君の宴には必ずジルを連れていく……帰ったらリョウ君によろしくな」
「ああ」
「俺もジルとの子が欲しい……」
「私もお前が結婚したら家族ぐるみで親しくしたい。ジル殿ならリョウの事を知っているし、安心だ。頑張れ」
 それから私達は、朝が来るまで飲み明かした。王とはいえ、やはり親友とは心が安らぐものだ。ラフも私がいるのといないのとでは雰囲気が違うと話していた。私も同じ気持ちだった。
 私も苦労したが、番と一緒になれる喜びをラフにも知って欲しいという気持ちはある。だが、私はリョウに対して酷い事を散々やってしまった。ジル殿にはリョウのような思いをさせたくないし、リョウにもずっと笑顔でいて欲しいと思っている。
 まあ、子ども達が生まれたお陰で、さらにリョウとの絆が深まったというのもあるかもしれない。未だにリョウの私に対する暴言は酷いものだが、それさえも愛しいと思うのだから、私はリョウに対して重症なのだろう。ラフに言ったらまた爆笑されそうだ。
 帰ったらリョウを抱こう。そう思いながら、ラフの恋の話をひたすら聞いていた私だった。




Fin.
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