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獣愛―ケモノアイ―
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【 side 陵太郎 】
王と結婚してから、約二十年が過ぎた。
王は未だに俺を大事にしてくれるし、結婚前と同じように、頻繁に俺を抱く。飽きないのかなと思うけど、そんな事はないらしい。
一度だけ、抱かれている時に「こんなにヤッたら飽きるだろ」って聞いてみた事があった。でも、王は普通に「お前に飽きる事はない。毎日でもしたい」と、真顔で言ってのけたのだ。自分で聞いておきながら、こんなに恥ずかしかった事はない。
日本では結婚してから二十年も経つと「恋人」というより「夫婦」としての絆が深くなって、子どもができたら育児が優先になって、「男と女」より「父と母」としての意識が強くなるらしい。うちは父親しかいなかったからよく分からないけど、俺の友人の両親達は、確かにそんな感じの人が多かった。
早くに結婚した友人や先輩もそうだった。結婚して数年立ったらセックスレス。そんなパターンは普通だった。
自分も好きで結婚した人にそんな感情を抱くのかなと、ちょっと怖かった時期もあるが、どうやら王はそのパターンに当てはまらなかった。
それから俺は聞くのをやめた。
子どもがいないからかもしれないけど、二十年変わらないでいてくれただけでも嬉しかった。
俺は最近、思う事がある。
それは公務の時や、城内で見かける使用人の子どもが遊んでいるのを見た時だ。
あの時、もし俺達の子どもが生きていたら、今頃育児に追われていたのかなと。
子どもは好きだ。見ているだけで幸せになる。
特にこの世界の子供は、まだ犬耳と尻尾を隠せなくて、動物好きにはたまらない。見る度に、俺も自分の子どもが欲しいなあと思っていた。
ただ、俺達には問題がある。
狼と人間という、種族の違いだ。
この世界では、種族が違うと子どもを作るのは難しい。普通に作っても可能性はゼロに近く、奇跡が起こらない限りできないそうだ。
では、どうやって作るのかというと、あまり言いたくはないが、野生に近い獣の姿で交わるのだそうだ。
俺は人間だから変われない。だから、俺達が子どもを作るには、王が獣の姿になる必要がある。つまり、獣姦だ。
俺は獣姦の趣味はない。だから、王がキレて獣の姿で挑まれた時は泣き叫んでしまった。
でも、やっぱり好きな人の子どもが欲しい。ここ数年、その気持ちが強くなっていた。
だから俺は、医師に会って調べてもらおうと思う。子どもが作れる身体になっているのかどうかを。
あの時はダメかもしれないと言われたけど、もしかしたら、この二十年のうちに変わっているかもしれない。それに賭けてみたかったのだ。
結果が出るまで王には内緒だ。
期待させては悪いから。
◇
「今の状態ですと、お子様ができる確率は五十パーセントと言ったところでしょうか」
「五十……ですか」
「はい。月経は毎月必ず来ているようですし、昔より身体の状態は良くなっています。確実にとは言えませんが、可能性はあります。負担がかかるのはリョウタロウ様ですから、陛下とよくご相談してみてください」
医師は確かにそう言った。
流産した時はもう無理かもしれないと言っていたのに、今度は可能性があるという。
確率は半分。
それだけでも充分だった。
まだ王には言わないようにお願いして、俺は医務室を後にした。
それから数日後。
その日はなぜか、王が帰ってくるのが早かった。最近は毎日遅くまで書類に目を通しているらしく、帰るのは俺が寝てからになる事が多い。なのに、今日は夕食を終えて寛いでいるあたりで帰ってきた。
「おかえり。今日は早いんだな」
「リョウ……私に隠している事はないか?」
王はなぜか、深刻な顔つきで俺に聞いてきた。その声は固く、本当に不安そうだ。
「何を? 毎日全部言ってるだろ?」
王には起こった事を包み隠さず話しているし、元の世界の事もそうだ。特別隠すような事は何もない。あるとすれば、医師に診察を受けた事くらいだ。
でもあれは医師しか知らない。トキにも言わないように口止めしたし、今日下がる時も何も言ってなかった。だから、漏れたとは考えにくい。
じゃあ、何の話かなあと首を傾げていると、王は俺の座るソファーの前で跪き、俺の手を握ってきた。
「え? 何? どうしたんだ?」
「リョウ……私に隠し事はしないと約束してくれ」
「してないよ?」
「……」
「トウガ?」
「本当に言うつもりが無いのだな」
王は深いため息を吐くと、今度は俺の両腕を掴み、真剣な顔で見つめてきた。
そして、こう言った。
「リョウ……お前が最近、医務室に頻繁に出入りしていると報告があった」
「え、誰に聞いたの?」
「……その反応……本当なんだな」
「……」
「リョウ……答えてくれ。何の病に侵されているんだ? 私に言えないような病なのか?」
「あー……」
「治らぬ病なのか? 怒らないから答えてくれ」
王は真剣な顔で俺の腕を揺さぶってきた。その顔は本当に絶望的な様子で、本気で俺が病気になったと思っているようだった。
「リョウ……」
「……」
本当は王の仕事が落ち着いてから言おうと思っていたけど、これはもう言わないとダメだよな。誤解されて騒ぎになったら悪いし、黙っていたと医師が責められたら申し訳ない。
「実はさ、検査を受けてたんだ」
「検査? やはり体調が悪いのか?」
「違う。子どもの事を聞いてた」
「子ども?」
「うん。子どもを産める可能性はあるか調べてもらってた」
俺がそう口にすると、王はわずかに固まった後、静かに呟いた。
「しかし、子はできないはずでは……」
「それがさ、可能性はあるんだって。五十パーセントだけど」
「……本当か?」
「うん。前はダメだって言われたのに、進歩しただろ?」
王は信じられない物を見たかのように、俺を見つめてきた。
「お前は……大丈夫なのか? 子作りは私が獣の姿で……」
「うん。だって、そうしないとできないんだろ?」
「……」
「俺さ、あの時はできないかもって言われて諦めたけど……やっぱさ、公務とか、城の中で子ども見ると可愛いなって思っちゃうんだよ。あの時流れなかったらあのぐらいになってたのかなーとか、考えちゃって。笑っちゃうよな……自分で覚悟はしたはずなのに」
「……」
俺は王の顔をまっすぐ見据え、覚悟を伝えた。
「俺……可能性があるなら賭けてみたいんだ。失敗してもいい。好きな人との子どもが欲しい」
「……」
「俺と、子作りしてくれないか? 獣の姿は怖いし、自分が産むのは信じられないけど、もう、覚悟はできてるから」
「リョウ……!」
「!」
王はいきなり俺を抱きしめ、震える声で囁いてきた。
「リョウ……ありがとう……私がお前を拒むはずがないだろう?」
「トウガ……」
「お前の覚悟はよく分かった。私もお前との子が欲しい」
「……うん」
王は俺の唇にキスを落とすと、そのまま俺を抱き上げ、足早に寝室へと向かっていった。
「……」
あれ、まさか、これからするつもりなのか? 今日じゃなくても良かったんだけどなあ。
いや、俺の言い方だと、そう取られるのは仕方がないか……。
俺はいきなりの状況にビビリながらも、王の真剣な顔を見たら何も言えなくなった。
俺は王の首にしがみつき、俺を抱える力が強くなるのを感じながら、これから行う行為のために覚悟を決めていった。
◇
「リョウ……本当にいいのだな?」
王は俺をベッドに降ろすと、すぐに聞いてきた。まだ不安なんだろう。
何度言われても覚悟はできてる。俺の中に拒むという選択肢は一切なかった。
「うん……大丈夫だから……」
「リョウ……」
「さあ、来い!」
俺は目をつぶり、身体を大の字にして王の前にさらけ出した。だが、王は何の反応もしなかった。
「あれ?」
ゆっくりと目を開けてみると、王はポカンとした表情で俺を見つめていた。
「トウガ?」
「リョウ……さすがに私も、最初から獣の姿で襲ったりしないぞ?」
王は少し笑いながら、俺の頭を撫でてきた。どうやら、俺の行動は間違っていたようだ。恥ずかしいなあと思っていると、王は俺に覆い被さり、いつものようにキスをしながら服を脱がし始めた。
「最初は普通に愛させてくれ」
「ん……」
深いキスに優しい手つき。いつも受けているはずなのに、今日はどこか違う気がした。
王はまず、人型のままで俺の中に入ってきて、いつものように俺を愛してくれた。
王の手が触れた場所と、二人が重なった場所がすぐに暑くなって、くすぐったくて、気づけば自分から腰を揺らしていた。
「あっ、あっ、トウガ……」
「リョウ……」
二人の身体が溶け合うように熱くなり、俺は我慢できずに一度達してしまった。王に長年開発された身体は素直だった。荒げた息を整えようと王の腕を掴んだが、王はそれを気にせず、何度も何度も腰を打ちつけてきた。
「あっ、ああっ、あっ、」
「……」
「あっ、あふ……んっ、」
そんなつもりは無いのに、口を開くと声が出てしまう。それを抑えようと口を閉じると、王にすかさずキスをされ、舌を入れられ、結局声が出てしまう。その繰り返しだった。
何も考えられなくなって、何度も達して、これ以上ないくらい愛されて、俺はずっと王にしがみついていた。
「はあ……はあ……」
「……」
王がようやく俺の中で達した時、俺は疲れて力が入らなかった。王はそんな俺にキスを落とすと、すぐにペニスを抜いた。
「……?」
いつもならしばらく抜かないのに、どうしたんだろうと王の顔を見ると、王は真剣な顔で俺に聞いてきた。
「リョウ……そろそろ、いいか?」
「あ……」
「お前の覚悟が変わらぬうちにしたい」
王は少し不安そうだった。俺の意思が変わってしまうのが怖いんだろう。
でも俺は、この時になっても、王の子どもが欲しいという気持ちは変わらなかった。
俺は王に微笑みかけ、目の前の大きな身体に抱きついた。
「トウガ……大丈夫、俺の気持ちは変わらない」
「リョウ……」
「だから、獣の姿になって欲しい」
「ああ……」
王は一度俺の身体を抱きしめた後、すぐに獣の姿に変わり始めた。
王の獣の姿は迫力がある。
……というより、正直に言うと恐ろしい。
真っ黒で、俺より大きな身体に鋭い牙、さらに全身から溢れる威圧感とくれば、見る者すべてを恐怖に陥れてしまうだろう。俺も初めて見た時は本当に怖かった。
俺は今まで何度も見ているはずなのに、やはり、目の前で見ると怖かった。獣の姿で組み敷かれ、その迫力に動けなくなっていた。
でも、自分で受け入れると決めたのだ。
俺は震える身体をなんとか抑え、王に話しかけた。
「ちょっと、触ってもいい……?」
「ああ……」
王は頭を俺の顔の近くに下げてくれた。そして、その首に抱きつくと、触り心地のよい毛並みが俺の肌に触れた。
もふっ。
「……」
「リョウ……やはり怖いか? 震えている」
王は俺が震えているのに気づいたらしい。これだけくっついてたら当たり前だけど、それでも、俺は逃げるつもりはなかった。
「大丈夫……」
「だが……」
「ちょっと、久しぶりに見たから怖かっただけ……こうして、触ってれば大丈夫……」
俺は王の首にしがみつき、その毛並みを何度も触って確かめた。王もそうしていれば俺が落ち着くと分かったらしい。それからは何も言わず、時には俺の顔や首を舐めたりしてきたけど、しばらくは俺の好きなように触らせてくれた。
そして、少しずつ俺の緊張は解れていった。
「落ち着いたか?」
「はい……」
「うつ伏せになれるか?」
「ん……」
王は俺の顔を何度も舐めた後、うつ伏せになるように指示してきた。この方が楽という事だろう。
少し緊張しながらうつ伏せになると、王は鼻先で俺の尻を突いてきた。
「少し腰を上げてくれ」
「……」
言う通りにしてみたが、自分でその場所を差し出すような形になって、かなり恥ずかしい。でも、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないんだよな。
王はすぐに、女性器の中心を大きな舌で舐めてきた。ペロペロというよりも、ベロリベロリと大胆に舌が這い回る。俺の身体を解そうとしてくれているようだが、人型の時とは違いすぎて、このままパクリと食われてしまうんじゃないかと不安になる。
目をつぶって、しばらくその感覚に身を任せていたら、そのうち背中にプニプニと、柔らかい物が乗っかってきた。
「ん……?」
何だろうと思って見てみると、それは王の前足だった。どうやら、当たったのは肉球らしい。
「リョウ……入れてもいいか?」
王はそろそろ良いかと聞いてきた。
だが、俺は肉球の感触が気持ち良くて、こんな真面目な場面なのに、うっかり萌えてしまいそうになった。
「リョウ? やはり、まだ……」
王は心配そうな声で聞いてきた。俺が怖がっていると思ったんだろう。
違うんだ。早く、大丈夫って、言わなきゃ。
俺は慌てて、王に向かって叫んでいた。
「あ……だ、大丈夫だから! どんと来い!」
「……」
「あ……」
ヤバい。俺、何言ってんだろ。どんと来い! って、バカみたいじゃねえか。
「リョウ……やはり恐怖で言動がおかしくなっているようだが……大丈夫か?」
王は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。都合良く解釈してくれたらしいけど、恥ずかしい。でも、肉球に萌えてたなんて絶対に言えない。
「大丈夫……大丈夫だから、来て……」
俺は覗き込む王の頭をぐりぐりと撫で、大丈夫なのだと何度も口にした。
その様子に、王も俺が怖がってないと分かってくれたようだ。もう一度俺の顔をベロリと舐め、その後すぐに女性器も舐めてくれた。
俺の下半身が充分に濡れたのを確認したのか、王はついに、獣のペニスを穴に擦りつけてきた。
「……ふっ、」
獣のペニスは、人型の時と形が違う。
チラッと見たけど、赤くて先が尖っていて、獣の姿の大きさに見合うほどのデカさだった。もちろん、人型の時よりデカい。
あんなの入るのかと不安になるが、以前襲われた時はしっかり入っていた。だから、今回も大丈夫だろう。
あの時の事はショックであまり覚えてないけど、少し苦しいのを我慢すればいいだけだ。愛の力で乗り切ろう。
そう決心して、じっと静かに待っていると、ずっとペニスを擦りつけていた王の声が聞こえた。
「……入れるぞ」
「……っ、はいっ、どうぞっ……!」
ズズッ……。
「うぐっ、あっ……!」
王の声に反射的に返事をした瞬間、今までに経験した事のないような衝撃が俺を襲った。思わずくぐもった声を出してしまい、その後はひたすら衝撃に耐えるだけになった。
「ひっ、あっ、んあっ……」
「はあっ、はあっ……」
物凄い大きさの物が最奥まで入り込み、さらに経験した事のないスピードで、俺の中を抉っている。その速さについていけず、シーツを握ってやり過ごそうとしても、すぐに揺さぶられて手を離してしまう。
王と重なった場所が苦しい。あんなデカいのを入れたんだから当たり前だけど、本当に苦しい。気持ち良さなんか全然感じなかった。王も必死なのか、はあはあと荒い息遣いが聞こえるだけで、縋ろうにも縋れない。
「……っ、ふっ、あっ……」
聞こえてくるのはパンパンと激しく腰を打ちつける音だけで、その勢いが強すぎて、俺は疲れて腰を上げているのも限界だった。すぐに腰を下げてしまったものの、王は構わず打ちつけてくる。必死に呼吸をしようと口を開けたが、漏れてくるのは情けない小さな悲鳴だった。
「……いや、ひ……ああ……」
疲れる度に涙が溢れ、俺の頬をいくつもの筋が伝っていく。
王が嫌なわけじゃない。悲鳴も自分の意思じゃない。
これはすべて、自分ですると決めた事だ。なのに、自分の身体が苦しいと、本能で根を上げていた。
「ああっ、あ……ひっく……」
俺がどれだけ泣いても、悲鳴を上げても、それでも王の責めは止まなくて、何か縋れる物はないかと視線をさまよわせてみる。すると、顔の横に王の黒い前足があって、気づけばそれに手を伸ばしていた。
「あっ……ううっ……」
王も今は余裕がないんだろう。しっかりと前足を握ってこの責めに耐えていたが、特に反応する事はなかった。
そうして俺は、人形のように呆然としながら、ただひたすら穿たれるだけになっていた。
「ん……うぐっ、」
身体が揺れているような感覚で目が覚めた。そして、次に襲ってきたのは下半身への圧迫感。思わず情けない声を上げてしまい、自分の身に何が起こっているのか確認した。
「あ……?」
「リョウ……大丈夫か?」
聞こえてきたのは王の声。しかも、獣の姿だった。王の下半身は、俺の下半身と繋がっていた。
そうだ。俺は子作りをしていたんだ。
どうやら、途中で気を失っていたらしい。疲れたからだろうか。
「う……」
でも、なぜか気絶する前より苦しい気がする。
「トウガ……なんか、さっきより苦しい……」
「ああ……今、中に出している。根元に瘤ができているから苦しいのだろう」
「瘤……?」
「ああ。私達は犬と一緒だからな。射精をしている時は瘤ができる」
「……知らなかった」
前に襲われた時は気絶したまま獣の姿での行為は終わっていたし、犬の交尾も見た事がなかった。まさか瘤ができるなんて思わなかった。
「すまない。もうしばらく我慢してくれ」
「は、はい……」
とは言ったものの、どんどん流れてくるモノのせいで、腹が苦しくなってきた。いつになったら終わるんだろう。人間と人で多少は違うと思っていたが、こんなに苦しくなるとは思わなかった。人間と同じように、一瞬出せば終わりと思っていたのに。
「うう~……」
「リョウ……」
呻き声を上げて耐える俺の顔を、王は何度も何度も舐めてくれた。抱きしめる事ができない分、それで宥めているつもりなんだろう。
その状態がしばらく続き、少しずつ圧迫感は消えていった。だが、身体の疲労は限界が来ていて、王が俺の中から出て行ったと同時に、再び意識が薄れていった。
次に気が付くと、王は人型に戻っていて、心配そうに俺を覗き込んでいた。
「……」
「リョウ……大丈夫か?」
「……俺、寝てた?」
「ああ。負担をかけてすまなかった」
王は腕枕をしながら俺の頭を撫でてくれた。その顔はまだ不安そうだ。
「トウガ……赤ちゃん、できるかな?」
「そうだな……できたら嬉しいが、できなくとも気にしない。私はお前がそばにいてくれたらそれでいい」
「うん……ありがと……」
「礼を言うのは私の方だ。私と共に生きる事を選んでくれて感謝している」
「……嫌だって言ったら監禁したくせに」
「それを言われると痛いな」
「俺が結婚を受け入れなかったら、どうするつもりだった?」
「お前がはいと言うまで諦めるつもりはなかった。そのためには手段を選ばないつもりだったが……」
王はさらりと言ってのけた。結局は何があっても諦めるつもりはなかったらしい。
って事は、俺が断っても断っても同じ事の繰り返しになっていたかもしれなかったって事だ。手段を選ばないって、何するつもりだったんだろう。ずっと監禁生活とか、もっと酷い事をされた可能性もあったのかな。
だってこいつは国で一番偉くて、強い存在で、何も知らない、何の力も持たない俺が勝てるわけがない。しかも、この国は世界から見てもトップクラスの大国だし、どう足掻いても逃げられはしないだろう。こいつに取ったら、俺なんかミジンコレベルであっさり潰せる存在に違いない。
早めに受け入れて正解だったかもしれない。改めて考えると超怖い。
「……」
「リョウ? やはり疲れたか? 顔色が悪い」
自分の言葉のせいだと微塵も感じていない王は、俺の頬を撫でながら心配そうに声をかけてきた。
「……」
本音を言うとケンカになりそうだ。今は大事にしてくれるし、ここは甘えて誤魔化すしかない。
「トウガ……キスしたい」
「ああ……」
王はすぐにキスをしてくれた。
「ん……」
「リョウ……疲れただろう? ゆっくり休め」
「うん……」
王の言葉を聞いたら眠くなってきて、俺はすぐにうとうとし始めた。その途端に王の腕の力が強くなり、耳元で「リョウ、ありがとう……」という声がしばらく聞こえていた。
◇
王と子作りしてから二ヶ月が過ぎた。
今の所、つわりのような症状は出ていない。やはり、まだ難しかったんだろうか。
残念だけど、可能性は五分五分だったから仕方がないか。そんなに簡単にはできないって事らしい。
「あ~あ……」
子ども、欲しかったな……。
そんな事を思いながら、結婚してからの二十年を思い返してみる。
最初は王妃という立場に慣れなくて、王妃様と呼ばれても自分の事だと思えなかった。二十年も経っているのに、最近、ようやく慣れたような気がする。
王とは結婚前より仲が良い……と思う。
俺が何かミスしそうになると、早く気づいて助けてくれるし、それに対して王が怒る事はない。一般人だったのだから、慣れないのはしょうがない。徐々に慣れてくれと優しく言ってくれる。
でも、あまり甘やかされるとくすぐったいし、結婚前がケンカばかりだったから、これも慣れない。俺はたまに王に対して怒ってしまうし、それを見た使用人が顔を真っ青にして俺を宥めてくる事もある。それでも、王は俺に怒る事はない。
何でだろう。結婚前はあんなに酷かったのに。
「なあ、トキ。トウガって何であんなに怒んないんだ?」
俺はお茶の用意をしていた使用人のトキに聞いてみた。何か聞いているかもしれないから。
すると、トキはキョトンとした表情をして、俺に聞き返してきた。
「怒らない……と言いますと?」
「結婚前は酷かったのにさ、最近はケンカっぽくなっても言い合いにならないなーって」
「……ケンカにならないのは良い事だと思いますが……」
「何か怖くねえか? 結婚前はあんなにすぐ怒ってたのに」
トキはうーんと考える素振りを見せ、お茶を淹れながら考えを口にした。
「それは……あなたが心配なんだと思いますよ?」
「心配?」
「はい。陛下はお一人での公務の際、必ずあなたのご様子を定期的にお聞きになります。何か問題は起きていないかと」
「そうなのか?」
「はい。今は何も問題がなくなったとは言え、あなたが倒れたり意識不明の重体になった時の事が頭にあるのではないでしょうか?」
「今は元気なんだけどなあ」
「あなたは私達よりも身体が小さいですから、何をするにも心配なんですよ。きっと」
「納得いかない……」
「大切にされているとお考えになればいいのですよ。リョウタロウ様」
トキは笑顔でそう言ってきたが、トキも定期的に報告しているって事なのか?結局また監視されてるんだろうか。
まあ、以前のように監禁されたり、無茶をされているわけじゃないから、知らなかった事にしといた方がいいのか? 迷う。
以前の俺なら、監視してんじゃねえよとか言ってしまいそうだけど、何だろな。王を好きになったからなのか、この、見られるのが当たり前な生活に慣れてしまったからなのか、特に怒りの感情は生まれなかった。染まってきちゃったのかな。
そんな事を考えていると、トキが思い出したように話してきた。
「リョウタロウ様、今、国中でウイルス性の風邪が流行っているのはご存知ですか?」
「ウイルス性? インフルエンザみたいなものか?」
「インフルエンザ?」
「元の世界で寒い季節になると流行ってたんだ。高熱が出て、普通の風邪薬じゃ効かないやつ」
「たぶん、それと似たようなものだと思うのですが、疲れているとかかりやすいそうですから、お気をつけくださいね。明日まで陛下はお留守ですし、ご心配をおかけしないようにしませんと」
「そうだな……」
トキとそういう会話をしたというのに、俺は次の日の朝、全身を包む倦怠感でベッドから起き上がる事ができなかった。
「へ、へ、へぷちっ! あー……」
ヤバイな。くしゃみが止まらない。寒気もするし頭が痛い。完全に風邪引いたかな。
今日って何か公務あったっけ……なかったっけ?
ダメだ。頭が働かない。もうすぐトキが起こしに来る時間なのに、このままではまずい。
ベッドの中で一人で焦っていたら、寝室の扉がノックされた。
「失礼いたします。リョウタロウ様、そろそろご起床のお時間でございます」
トキはいつものように挨拶をしながら入ってきた。いつもなら、俺はその声がかかる前にベッドから降りて支度を始めている。だが、今日は身体が重くてベッドの住人のままだった。
「リョウタロウ様……?」
トキはいつもと違う俺の様子に気づき、すぐにベッドのそばへ駆け寄ってきた。
「リョウタロウ様? どうなさいました?」
「あ……ごめん、ちょっと、だるくて……」
「だるいという症状の他に、何かございますか?」
「んー……寒気がして、頭が痛い」
「起き上がれないほどでしょうか?」
「うん……ちょっと、無理かも……」
「失礼いたします」
俺が症状を説明すると、トキは慌てて俺の額に手を当てた。
「あ……! かなり熱くなっております。お熱があるのかもしれませんね……測ってみましょうか」
トキはどこからか持ち出した体温計を俺の脇に挟み、次はタンスを漁り始めた。
「汗もお掻きになっていますから、測り終えましたら一度着替えましょうね」
「はい……」
相変わらず隙がないというか、かなり先の行動まで読んで行動してるんだろう。トキは今日もテキパキしていた。
ピピピピ……。
すると、体温計が音を立てた。熱を測り終わった合図だ。
「失礼いたします……あ……!」
トキは体温計を見るなり、顔を青ざめさせた。
「リョウタロウ様……かなりのお熱です」
「……何度?」
「三十九度二分です」
「へ……」
すげえ。そんなに高い熱が出たの何年ぶりだろう。学生の頃が最後だったような気がする。
「すぐに先生を呼んで参ります!」
びっくりして何も言えない俺を置いて、トキは光の速さで寝室を出て行った。
医師が来たのはそれからすぐだった。
医師は俺の胸に聴診器を当てながら、次々と質問をしてきた。
「リョウタロウ様、トキ君の話によりますと、寒気がして頭痛があり、熱も三十九度あるそうですが、この症状はいつからでしょうか?」
「……朝、起きたら……」
「昨日は同じような症状はございましたか?」
「なかったと、思います……」
「ちょっと痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」
「え……? いてえっ!」
急に鼻に激痛が走ったと思ったらすぐに離れた。よく見ると、医師は細長い綿棒のような物を手に持っている。どうやらあれを鼻に突っ込まれたらしい。まるでインフルエンザの検査と一緒だ。
医師はその棒に付いた俺の鼻水らしき物を、持ってきていたらしい何かのケースに擦りつけていた。っていうか、鼻水でいいならあんなに突っ込む必要があったんだろうか。かなり痛かったぞ。
それから数分が経った後、医師は「ふむ……」と言いながらも、結果を報告する事はなかった。何なんだろ。
「先生、リョウタロウ様のご病気は一体……」
「それが……、……」
トキは医師に詳しく聞いているが、頭が痛いせいでよく聞こえなかった。しかも、痛みはどんどん酷くなっていて、意識も薄れてきた。これはまずいかもしれない。
「うう……」
「……っ、リョウタロウ様! しっかりなさってください!」
「リョウタロウ様!」
あー……、もうダメだ。俺、死ぬのかな。気持ち悪いし、めまいまでしてきた……。
あまりの痛みとめまいのせいで、俺の意識は徐々に薄れていった。
「ん……」
俺が次に目が覚めると、気を失う前と同じようにベッドに寝かされていた。頭の痛みは薄れていたが、意識はぼんやりとしていて、しんどい。
あー、まだ治ってなかったのか。一体何なんだろ。
ボーっとしながら考えていたら、近くでトキの声がした。
「りょ、リョウタロウ様!」
「……トキ?」
「よ、良かった……! 二週間も意識がお戻りにならなかったのですよ……!」
「……」
「先生をお呼びして参ります……!」
に、二週間? 嘘だろ?
びっくりしすぎて反応できないでいると、トキは慌てて部屋を出て行った。
それから数分後、トキは医師と王を連れて部屋に入ってきた。
「リョウ……!」
王は走りながらそばに来て、ベッドの横に膝をつき、俺の手をぎゅっと握ってきた。そして、その目は少し潤んでいた。これはかなり珍しい。ってか、見た事ないかも。
よく見ると、俺の腕には点滴が繋がれていた。二週間も意識が無かったという事は、栄養剤だろうか。
「リョウ……お前は二週間も意識がなかったのだ。どこかおかしな所はないか?」
王はすぐに聞いてきた。心配かけないように、ちゃんと言った方がいいよな……。
「あ、たま、が、ちょっと、いたい……」
「あとは何かあるか?」
「……よく、わかんない……。ボーっとする……」
今感じているのは、頭が痛くて、ボーっとして、かなり辛いという事だ。何とかそう伝えてみると、王は俺の頭を撫でながら、きっぱりとこう言った。
「リョウ、お前は妊娠したんだ」
「え……?」
「私との子ができた。この症状は種族の違う者同士で妊娠するとなりやすい物なんだ。まさか二週間も意識が戻らぬとは思わなかったが……」
「あ、赤ちゃん、できた……?」
「ああ。リョウ、ありがとう……」
王は俺の手を握ったまま、その手に額をつけてきた。感激しているのだろうか。王の声は珍しく震えている。
赤ちゃんができた。
信じられないけど、本当に、本当らしい。ようやく、俺達の子ができたのだ。そう思ったら俺まで涙が溢れてきて、止まらなくなった。しかも、王の後ろにいるトキまで泣いている。
すると、その様子を見ていた医師が声をかけてきた。
「陛下、リョウタロウ様、おめでとうございます。安定期まではもう少し時間がかかります。それまでは今のような不安定な体調が続くと思いますが、ご辛抱ください」
「はい……」
「安定期に入るまで、国民への発表は控えるつもりだ。状態が落ち着き次第、教えてくれ」
「はい。了解しました」
医師と王が何かを話しているが、自分も会話に入る元気がない。ボーっとしながらそれを眺めていたら、王が慌てて声をかけてきた。
「リョウ、もう少し休みなさい。まだ辛いだろう?」
「うん……」
「お休み……」
王が俺の目を見ながらそう言うと、途端に眠くなり、俺の意識は途絶えてしまった。
それからは、比較的のんびりとした日々が続いた。今はつわりが酷いから、公務は休んでいる。
王は分刻みでスケジュールが埋まっているはずなのに、数時間おきに俺の様子を見に来てくれる。具合が悪くて相手をしてやれない事も多いけど、そんな時でも、ベッドのそばに座って俺の寝顔を眺めてから帰っていくそうだ。やはり、流産して俺が死にかけた時の事がトラウマらしい。
本当に結婚前とは雲泥の差だ。こんなに変わるなんて思ってなかった。
明日は定期健診の日だ。順調に育ってくれてればいいな。
◇
「赤ちゃんは順調に育ってますね」
「本当ですか?」
「はい。つわりはもう少し続くと思いますが、赤ちゃんに何の問題もありません」
俺は今、エコー検査を受けている。まだまっ平らな俺の腹だが、その中ではちゃんと育っているらしい。
「それから……ちょっとここを見てください」
先生は近くにあるモニターの画像の一ヶ所を指差した。何か問題でもあるんだろうか。恐る恐る、トキと一緒にモニターを見てみると、そこには、俺の子宮であろう場所の中心に、二つの小さな塊があるのに気づいた。
「これ、分かりますか?」
「はい……赤ちゃん、ですよね……?」
「そうです。そして、この塊は二つあります。つまり、双子の赤ちゃんになりますね」
「「えっ!」」
俺だけじゃなく、トキも同じように声を上げている。本当に驚いているようだ。
一人じゃなくて、二人も赤ちゃんがいる……?
びっくりしすぎて言葉が出ない。子どもはダメかもと言われていたのに、まさか二人も授かるなんて。奇跡としか言いようがない。
「リョウタロウ様……何て事でしょう……奇跡が起きましたね……!」
「うん……」
王に言ったらどんな反応をするだろうか。どうやって伝えようかと思っていると、医師が聞いてきた。
「陛下へは私から伝えましょうか?」
「いえ、これは自分で伝えたいです。まだ言わないでいただけますか?」
「分かりました。それから、もう少し時間が経過すれば、赤ちゃんの性別も分かるようになりますが……お聞きになりますか?」
「いえ……それもまだ黙っていてください。赤ちゃんが男でも女でも、私たちの子に違いはありませんから……生まれてきた時の楽しみにしておきます。陛下にもそうお伝えしようと思っています」
「そうですか……了解しました」
「先生、ありがとうございました」
「はい、また何かありましたらすぐにお呼びください」
そうして、俺達は医務室を後にした。
王が帰ってきたのは夜遅くだった。いつもなら俺は寝ている。
でも、今日はどうしても早く言いたかった。だから、トキが下がった後も起きていたんだけど、王は俺の姿を確認するなり、血相を変えて抱き上げてきた。
「リョウ……! 寝ていないとダメだろう? すぐにベッドへ連れて行ってやる」
「ちょ、ちょっと待って! 降ろせって!」
俺が王の頭をポカポカ叩いて抵抗すると、王は怪訝な表情で俺を見てきた。
「リョウ?」
「話したい事があるんだ」
「話したい事?」
俺が真剣な顔をしていると気づいた王は、俺を抱えたまま、ゆっくりとソファーに座った。王の膝に乗ったままだとバランス悪くて落ち着かないんだけど、まあいいか。
俺は深呼吸をしてから、ゆっくりと赤ちゃんの事を口にした。
「今日さ、定期健診の日だったんだ」
「そうか……子は順調か? まさか、何か問題でもあったのか?」
王は俺の腹を撫でながら、心配そうに眉を下げた。ほんと、前より心配性になったな……失礼だけど、ちょっと気持ち悪い。
「違う。実はさ、俺達の赤ちゃん……双子なんだって」
「……」
王はピタリと動きを止めてしまった。どうしたんだろう。ちゃんと聞いてるのか?
「おい、聞いてんのか?」
王の身体を揺らしてみたが、まだ反応がない。本当に大丈夫なんだろうか。心配になってきた。
「トウガ?」
「あ、ああ……すまない。驚いてしまって……」
「うん……俺も」
「リョウ……!」
王は感極まった様子で、いきなり俺をきつく抱きしめた。本当に嬉しいんだろう。その目には涙が光っている。また珍しいものを見てしまったなあと思っていると、王はぼそりと、俺の耳元で囁いた。
「……きっと、あの時流れた子が帰って来てくれたんだな……」
「……そうかな?」
「ああ……私達の子として生まれたいと、そう思って、戻ってきてくれたのだ」
「……うん」
そんな事ってあるのかな。でも、そう思いたくなるほどの奇跡には間違いない。
「あとさ、赤ちゃんの性別なんだけど、生まれるまで教えないでくださいって先生に言ったんだ。トウガは知りたい?」
「いや、男でも女でも、どちらが生まれようとも私達の子には変わりない。私も生まれるまで楽しみにしていよう」
「……ははっ」
「リョウ?」
「……俺も先生に同じ事言った」
「そうか」
まさかとは思ったが、王も俺と同じ事を言った。後継ぎかどうか知りたいって言われたらどうしようかと思ったが、王も同じ気持ちらしい。安心した。
「生まれたら、いっぱい可愛がろうな……」
「ああ……」
王は俺の顔に唇を寄せてきた。そういえば、しばらくキスもしてなかったかもしれない。
その日、セックスはしなかったものの、俺達は何度も何度もキスをしながら触れ合った。王はずっと俺の腹を優しく撫でていて、時には腹に耳を当て、何かを呟いていたりもした。中にいる子ども達に話しかけていたんだろう。
「本当に、ここにいるのだな……」
「うん……」
それをしばらく眺めていたら、今まで色々あったけど、なんか、俺って幸せ者だなあと、心からそう思えたのだった。
王と結婚してから、約二十年が過ぎた。
王は未だに俺を大事にしてくれるし、結婚前と同じように、頻繁に俺を抱く。飽きないのかなと思うけど、そんな事はないらしい。
一度だけ、抱かれている時に「こんなにヤッたら飽きるだろ」って聞いてみた事があった。でも、王は普通に「お前に飽きる事はない。毎日でもしたい」と、真顔で言ってのけたのだ。自分で聞いておきながら、こんなに恥ずかしかった事はない。
日本では結婚してから二十年も経つと「恋人」というより「夫婦」としての絆が深くなって、子どもができたら育児が優先になって、「男と女」より「父と母」としての意識が強くなるらしい。うちは父親しかいなかったからよく分からないけど、俺の友人の両親達は、確かにそんな感じの人が多かった。
早くに結婚した友人や先輩もそうだった。結婚して数年立ったらセックスレス。そんなパターンは普通だった。
自分も好きで結婚した人にそんな感情を抱くのかなと、ちょっと怖かった時期もあるが、どうやら王はそのパターンに当てはまらなかった。
それから俺は聞くのをやめた。
子どもがいないからかもしれないけど、二十年変わらないでいてくれただけでも嬉しかった。
俺は最近、思う事がある。
それは公務の時や、城内で見かける使用人の子どもが遊んでいるのを見た時だ。
あの時、もし俺達の子どもが生きていたら、今頃育児に追われていたのかなと。
子どもは好きだ。見ているだけで幸せになる。
特にこの世界の子供は、まだ犬耳と尻尾を隠せなくて、動物好きにはたまらない。見る度に、俺も自分の子どもが欲しいなあと思っていた。
ただ、俺達には問題がある。
狼と人間という、種族の違いだ。
この世界では、種族が違うと子どもを作るのは難しい。普通に作っても可能性はゼロに近く、奇跡が起こらない限りできないそうだ。
では、どうやって作るのかというと、あまり言いたくはないが、野生に近い獣の姿で交わるのだそうだ。
俺は人間だから変われない。だから、俺達が子どもを作るには、王が獣の姿になる必要がある。つまり、獣姦だ。
俺は獣姦の趣味はない。だから、王がキレて獣の姿で挑まれた時は泣き叫んでしまった。
でも、やっぱり好きな人の子どもが欲しい。ここ数年、その気持ちが強くなっていた。
だから俺は、医師に会って調べてもらおうと思う。子どもが作れる身体になっているのかどうかを。
あの時はダメかもしれないと言われたけど、もしかしたら、この二十年のうちに変わっているかもしれない。それに賭けてみたかったのだ。
結果が出るまで王には内緒だ。
期待させては悪いから。
◇
「今の状態ですと、お子様ができる確率は五十パーセントと言ったところでしょうか」
「五十……ですか」
「はい。月経は毎月必ず来ているようですし、昔より身体の状態は良くなっています。確実にとは言えませんが、可能性はあります。負担がかかるのはリョウタロウ様ですから、陛下とよくご相談してみてください」
医師は確かにそう言った。
流産した時はもう無理かもしれないと言っていたのに、今度は可能性があるという。
確率は半分。
それだけでも充分だった。
まだ王には言わないようにお願いして、俺は医務室を後にした。
それから数日後。
その日はなぜか、王が帰ってくるのが早かった。最近は毎日遅くまで書類に目を通しているらしく、帰るのは俺が寝てからになる事が多い。なのに、今日は夕食を終えて寛いでいるあたりで帰ってきた。
「おかえり。今日は早いんだな」
「リョウ……私に隠している事はないか?」
王はなぜか、深刻な顔つきで俺に聞いてきた。その声は固く、本当に不安そうだ。
「何を? 毎日全部言ってるだろ?」
王には起こった事を包み隠さず話しているし、元の世界の事もそうだ。特別隠すような事は何もない。あるとすれば、医師に診察を受けた事くらいだ。
でもあれは医師しか知らない。トキにも言わないように口止めしたし、今日下がる時も何も言ってなかった。だから、漏れたとは考えにくい。
じゃあ、何の話かなあと首を傾げていると、王は俺の座るソファーの前で跪き、俺の手を握ってきた。
「え? 何? どうしたんだ?」
「リョウ……私に隠し事はしないと約束してくれ」
「してないよ?」
「……」
「トウガ?」
「本当に言うつもりが無いのだな」
王は深いため息を吐くと、今度は俺の両腕を掴み、真剣な顔で見つめてきた。
そして、こう言った。
「リョウ……お前が最近、医務室に頻繁に出入りしていると報告があった」
「え、誰に聞いたの?」
「……その反応……本当なんだな」
「……」
「リョウ……答えてくれ。何の病に侵されているんだ? 私に言えないような病なのか?」
「あー……」
「治らぬ病なのか? 怒らないから答えてくれ」
王は真剣な顔で俺の腕を揺さぶってきた。その顔は本当に絶望的な様子で、本気で俺が病気になったと思っているようだった。
「リョウ……」
「……」
本当は王の仕事が落ち着いてから言おうと思っていたけど、これはもう言わないとダメだよな。誤解されて騒ぎになったら悪いし、黙っていたと医師が責められたら申し訳ない。
「実はさ、検査を受けてたんだ」
「検査? やはり体調が悪いのか?」
「違う。子どもの事を聞いてた」
「子ども?」
「うん。子どもを産める可能性はあるか調べてもらってた」
俺がそう口にすると、王はわずかに固まった後、静かに呟いた。
「しかし、子はできないはずでは……」
「それがさ、可能性はあるんだって。五十パーセントだけど」
「……本当か?」
「うん。前はダメだって言われたのに、進歩しただろ?」
王は信じられない物を見たかのように、俺を見つめてきた。
「お前は……大丈夫なのか? 子作りは私が獣の姿で……」
「うん。だって、そうしないとできないんだろ?」
「……」
「俺さ、あの時はできないかもって言われて諦めたけど……やっぱさ、公務とか、城の中で子ども見ると可愛いなって思っちゃうんだよ。あの時流れなかったらあのぐらいになってたのかなーとか、考えちゃって。笑っちゃうよな……自分で覚悟はしたはずなのに」
「……」
俺は王の顔をまっすぐ見据え、覚悟を伝えた。
「俺……可能性があるなら賭けてみたいんだ。失敗してもいい。好きな人との子どもが欲しい」
「……」
「俺と、子作りしてくれないか? 獣の姿は怖いし、自分が産むのは信じられないけど、もう、覚悟はできてるから」
「リョウ……!」
「!」
王はいきなり俺を抱きしめ、震える声で囁いてきた。
「リョウ……ありがとう……私がお前を拒むはずがないだろう?」
「トウガ……」
「お前の覚悟はよく分かった。私もお前との子が欲しい」
「……うん」
王は俺の唇にキスを落とすと、そのまま俺を抱き上げ、足早に寝室へと向かっていった。
「……」
あれ、まさか、これからするつもりなのか? 今日じゃなくても良かったんだけどなあ。
いや、俺の言い方だと、そう取られるのは仕方がないか……。
俺はいきなりの状況にビビリながらも、王の真剣な顔を見たら何も言えなくなった。
俺は王の首にしがみつき、俺を抱える力が強くなるのを感じながら、これから行う行為のために覚悟を決めていった。
◇
「リョウ……本当にいいのだな?」
王は俺をベッドに降ろすと、すぐに聞いてきた。まだ不安なんだろう。
何度言われても覚悟はできてる。俺の中に拒むという選択肢は一切なかった。
「うん……大丈夫だから……」
「リョウ……」
「さあ、来い!」
俺は目をつぶり、身体を大の字にして王の前にさらけ出した。だが、王は何の反応もしなかった。
「あれ?」
ゆっくりと目を開けてみると、王はポカンとした表情で俺を見つめていた。
「トウガ?」
「リョウ……さすがに私も、最初から獣の姿で襲ったりしないぞ?」
王は少し笑いながら、俺の頭を撫でてきた。どうやら、俺の行動は間違っていたようだ。恥ずかしいなあと思っていると、王は俺に覆い被さり、いつものようにキスをしながら服を脱がし始めた。
「最初は普通に愛させてくれ」
「ん……」
深いキスに優しい手つき。いつも受けているはずなのに、今日はどこか違う気がした。
王はまず、人型のままで俺の中に入ってきて、いつものように俺を愛してくれた。
王の手が触れた場所と、二人が重なった場所がすぐに暑くなって、くすぐったくて、気づけば自分から腰を揺らしていた。
「あっ、あっ、トウガ……」
「リョウ……」
二人の身体が溶け合うように熱くなり、俺は我慢できずに一度達してしまった。王に長年開発された身体は素直だった。荒げた息を整えようと王の腕を掴んだが、王はそれを気にせず、何度も何度も腰を打ちつけてきた。
「あっ、ああっ、あっ、」
「……」
「あっ、あふ……んっ、」
そんなつもりは無いのに、口を開くと声が出てしまう。それを抑えようと口を閉じると、王にすかさずキスをされ、舌を入れられ、結局声が出てしまう。その繰り返しだった。
何も考えられなくなって、何度も達して、これ以上ないくらい愛されて、俺はずっと王にしがみついていた。
「はあ……はあ……」
「……」
王がようやく俺の中で達した時、俺は疲れて力が入らなかった。王はそんな俺にキスを落とすと、すぐにペニスを抜いた。
「……?」
いつもならしばらく抜かないのに、どうしたんだろうと王の顔を見ると、王は真剣な顔で俺に聞いてきた。
「リョウ……そろそろ、いいか?」
「あ……」
「お前の覚悟が変わらぬうちにしたい」
王は少し不安そうだった。俺の意思が変わってしまうのが怖いんだろう。
でも俺は、この時になっても、王の子どもが欲しいという気持ちは変わらなかった。
俺は王に微笑みかけ、目の前の大きな身体に抱きついた。
「トウガ……大丈夫、俺の気持ちは変わらない」
「リョウ……」
「だから、獣の姿になって欲しい」
「ああ……」
王は一度俺の身体を抱きしめた後、すぐに獣の姿に変わり始めた。
王の獣の姿は迫力がある。
……というより、正直に言うと恐ろしい。
真っ黒で、俺より大きな身体に鋭い牙、さらに全身から溢れる威圧感とくれば、見る者すべてを恐怖に陥れてしまうだろう。俺も初めて見た時は本当に怖かった。
俺は今まで何度も見ているはずなのに、やはり、目の前で見ると怖かった。獣の姿で組み敷かれ、その迫力に動けなくなっていた。
でも、自分で受け入れると決めたのだ。
俺は震える身体をなんとか抑え、王に話しかけた。
「ちょっと、触ってもいい……?」
「ああ……」
王は頭を俺の顔の近くに下げてくれた。そして、その首に抱きつくと、触り心地のよい毛並みが俺の肌に触れた。
もふっ。
「……」
「リョウ……やはり怖いか? 震えている」
王は俺が震えているのに気づいたらしい。これだけくっついてたら当たり前だけど、それでも、俺は逃げるつもりはなかった。
「大丈夫……」
「だが……」
「ちょっと、久しぶりに見たから怖かっただけ……こうして、触ってれば大丈夫……」
俺は王の首にしがみつき、その毛並みを何度も触って確かめた。王もそうしていれば俺が落ち着くと分かったらしい。それからは何も言わず、時には俺の顔や首を舐めたりしてきたけど、しばらくは俺の好きなように触らせてくれた。
そして、少しずつ俺の緊張は解れていった。
「落ち着いたか?」
「はい……」
「うつ伏せになれるか?」
「ん……」
王は俺の顔を何度も舐めた後、うつ伏せになるように指示してきた。この方が楽という事だろう。
少し緊張しながらうつ伏せになると、王は鼻先で俺の尻を突いてきた。
「少し腰を上げてくれ」
「……」
言う通りにしてみたが、自分でその場所を差し出すような形になって、かなり恥ずかしい。でも、恥ずかしいとか言ってる場合じゃないんだよな。
王はすぐに、女性器の中心を大きな舌で舐めてきた。ペロペロというよりも、ベロリベロリと大胆に舌が這い回る。俺の身体を解そうとしてくれているようだが、人型の時とは違いすぎて、このままパクリと食われてしまうんじゃないかと不安になる。
目をつぶって、しばらくその感覚に身を任せていたら、そのうち背中にプニプニと、柔らかい物が乗っかってきた。
「ん……?」
何だろうと思って見てみると、それは王の前足だった。どうやら、当たったのは肉球らしい。
「リョウ……入れてもいいか?」
王はそろそろ良いかと聞いてきた。
だが、俺は肉球の感触が気持ち良くて、こんな真面目な場面なのに、うっかり萌えてしまいそうになった。
「リョウ? やはり、まだ……」
王は心配そうな声で聞いてきた。俺が怖がっていると思ったんだろう。
違うんだ。早く、大丈夫って、言わなきゃ。
俺は慌てて、王に向かって叫んでいた。
「あ……だ、大丈夫だから! どんと来い!」
「……」
「あ……」
ヤバい。俺、何言ってんだろ。どんと来い! って、バカみたいじゃねえか。
「リョウ……やはり恐怖で言動がおかしくなっているようだが……大丈夫か?」
王は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。都合良く解釈してくれたらしいけど、恥ずかしい。でも、肉球に萌えてたなんて絶対に言えない。
「大丈夫……大丈夫だから、来て……」
俺は覗き込む王の頭をぐりぐりと撫で、大丈夫なのだと何度も口にした。
その様子に、王も俺が怖がってないと分かってくれたようだ。もう一度俺の顔をベロリと舐め、その後すぐに女性器も舐めてくれた。
俺の下半身が充分に濡れたのを確認したのか、王はついに、獣のペニスを穴に擦りつけてきた。
「……ふっ、」
獣のペニスは、人型の時と形が違う。
チラッと見たけど、赤くて先が尖っていて、獣の姿の大きさに見合うほどのデカさだった。もちろん、人型の時よりデカい。
あんなの入るのかと不安になるが、以前襲われた時はしっかり入っていた。だから、今回も大丈夫だろう。
あの時の事はショックであまり覚えてないけど、少し苦しいのを我慢すればいいだけだ。愛の力で乗り切ろう。
そう決心して、じっと静かに待っていると、ずっとペニスを擦りつけていた王の声が聞こえた。
「……入れるぞ」
「……っ、はいっ、どうぞっ……!」
ズズッ……。
「うぐっ、あっ……!」
王の声に反射的に返事をした瞬間、今までに経験した事のないような衝撃が俺を襲った。思わずくぐもった声を出してしまい、その後はひたすら衝撃に耐えるだけになった。
「ひっ、あっ、んあっ……」
「はあっ、はあっ……」
物凄い大きさの物が最奥まで入り込み、さらに経験した事のないスピードで、俺の中を抉っている。その速さについていけず、シーツを握ってやり過ごそうとしても、すぐに揺さぶられて手を離してしまう。
王と重なった場所が苦しい。あんなデカいのを入れたんだから当たり前だけど、本当に苦しい。気持ち良さなんか全然感じなかった。王も必死なのか、はあはあと荒い息遣いが聞こえるだけで、縋ろうにも縋れない。
「……っ、ふっ、あっ……」
聞こえてくるのはパンパンと激しく腰を打ちつける音だけで、その勢いが強すぎて、俺は疲れて腰を上げているのも限界だった。すぐに腰を下げてしまったものの、王は構わず打ちつけてくる。必死に呼吸をしようと口を開けたが、漏れてくるのは情けない小さな悲鳴だった。
「……いや、ひ……ああ……」
疲れる度に涙が溢れ、俺の頬をいくつもの筋が伝っていく。
王が嫌なわけじゃない。悲鳴も自分の意思じゃない。
これはすべて、自分ですると決めた事だ。なのに、自分の身体が苦しいと、本能で根を上げていた。
「ああっ、あ……ひっく……」
俺がどれだけ泣いても、悲鳴を上げても、それでも王の責めは止まなくて、何か縋れる物はないかと視線をさまよわせてみる。すると、顔の横に王の黒い前足があって、気づけばそれに手を伸ばしていた。
「あっ……ううっ……」
王も今は余裕がないんだろう。しっかりと前足を握ってこの責めに耐えていたが、特に反応する事はなかった。
そうして俺は、人形のように呆然としながら、ただひたすら穿たれるだけになっていた。
「ん……うぐっ、」
身体が揺れているような感覚で目が覚めた。そして、次に襲ってきたのは下半身への圧迫感。思わず情けない声を上げてしまい、自分の身に何が起こっているのか確認した。
「あ……?」
「リョウ……大丈夫か?」
聞こえてきたのは王の声。しかも、獣の姿だった。王の下半身は、俺の下半身と繋がっていた。
そうだ。俺は子作りをしていたんだ。
どうやら、途中で気を失っていたらしい。疲れたからだろうか。
「う……」
でも、なぜか気絶する前より苦しい気がする。
「トウガ……なんか、さっきより苦しい……」
「ああ……今、中に出している。根元に瘤ができているから苦しいのだろう」
「瘤……?」
「ああ。私達は犬と一緒だからな。射精をしている時は瘤ができる」
「……知らなかった」
前に襲われた時は気絶したまま獣の姿での行為は終わっていたし、犬の交尾も見た事がなかった。まさか瘤ができるなんて思わなかった。
「すまない。もうしばらく我慢してくれ」
「は、はい……」
とは言ったものの、どんどん流れてくるモノのせいで、腹が苦しくなってきた。いつになったら終わるんだろう。人間と人で多少は違うと思っていたが、こんなに苦しくなるとは思わなかった。人間と同じように、一瞬出せば終わりと思っていたのに。
「うう~……」
「リョウ……」
呻き声を上げて耐える俺の顔を、王は何度も何度も舐めてくれた。抱きしめる事ができない分、それで宥めているつもりなんだろう。
その状態がしばらく続き、少しずつ圧迫感は消えていった。だが、身体の疲労は限界が来ていて、王が俺の中から出て行ったと同時に、再び意識が薄れていった。
次に気が付くと、王は人型に戻っていて、心配そうに俺を覗き込んでいた。
「……」
「リョウ……大丈夫か?」
「……俺、寝てた?」
「ああ。負担をかけてすまなかった」
王は腕枕をしながら俺の頭を撫でてくれた。その顔はまだ不安そうだ。
「トウガ……赤ちゃん、できるかな?」
「そうだな……できたら嬉しいが、できなくとも気にしない。私はお前がそばにいてくれたらそれでいい」
「うん……ありがと……」
「礼を言うのは私の方だ。私と共に生きる事を選んでくれて感謝している」
「……嫌だって言ったら監禁したくせに」
「それを言われると痛いな」
「俺が結婚を受け入れなかったら、どうするつもりだった?」
「お前がはいと言うまで諦めるつもりはなかった。そのためには手段を選ばないつもりだったが……」
王はさらりと言ってのけた。結局は何があっても諦めるつもりはなかったらしい。
って事は、俺が断っても断っても同じ事の繰り返しになっていたかもしれなかったって事だ。手段を選ばないって、何するつもりだったんだろう。ずっと監禁生活とか、もっと酷い事をされた可能性もあったのかな。
だってこいつは国で一番偉くて、強い存在で、何も知らない、何の力も持たない俺が勝てるわけがない。しかも、この国は世界から見てもトップクラスの大国だし、どう足掻いても逃げられはしないだろう。こいつに取ったら、俺なんかミジンコレベルであっさり潰せる存在に違いない。
早めに受け入れて正解だったかもしれない。改めて考えると超怖い。
「……」
「リョウ? やはり疲れたか? 顔色が悪い」
自分の言葉のせいだと微塵も感じていない王は、俺の頬を撫でながら心配そうに声をかけてきた。
「……」
本音を言うとケンカになりそうだ。今は大事にしてくれるし、ここは甘えて誤魔化すしかない。
「トウガ……キスしたい」
「ああ……」
王はすぐにキスをしてくれた。
「ん……」
「リョウ……疲れただろう? ゆっくり休め」
「うん……」
王の言葉を聞いたら眠くなってきて、俺はすぐにうとうとし始めた。その途端に王の腕の力が強くなり、耳元で「リョウ、ありがとう……」という声がしばらく聞こえていた。
◇
王と子作りしてから二ヶ月が過ぎた。
今の所、つわりのような症状は出ていない。やはり、まだ難しかったんだろうか。
残念だけど、可能性は五分五分だったから仕方がないか。そんなに簡単にはできないって事らしい。
「あ~あ……」
子ども、欲しかったな……。
そんな事を思いながら、結婚してからの二十年を思い返してみる。
最初は王妃という立場に慣れなくて、王妃様と呼ばれても自分の事だと思えなかった。二十年も経っているのに、最近、ようやく慣れたような気がする。
王とは結婚前より仲が良い……と思う。
俺が何かミスしそうになると、早く気づいて助けてくれるし、それに対して王が怒る事はない。一般人だったのだから、慣れないのはしょうがない。徐々に慣れてくれと優しく言ってくれる。
でも、あまり甘やかされるとくすぐったいし、結婚前がケンカばかりだったから、これも慣れない。俺はたまに王に対して怒ってしまうし、それを見た使用人が顔を真っ青にして俺を宥めてくる事もある。それでも、王は俺に怒る事はない。
何でだろう。結婚前はあんなに酷かったのに。
「なあ、トキ。トウガって何であんなに怒んないんだ?」
俺はお茶の用意をしていた使用人のトキに聞いてみた。何か聞いているかもしれないから。
すると、トキはキョトンとした表情をして、俺に聞き返してきた。
「怒らない……と言いますと?」
「結婚前は酷かったのにさ、最近はケンカっぽくなっても言い合いにならないなーって」
「……ケンカにならないのは良い事だと思いますが……」
「何か怖くねえか? 結婚前はあんなにすぐ怒ってたのに」
トキはうーんと考える素振りを見せ、お茶を淹れながら考えを口にした。
「それは……あなたが心配なんだと思いますよ?」
「心配?」
「はい。陛下はお一人での公務の際、必ずあなたのご様子を定期的にお聞きになります。何か問題は起きていないかと」
「そうなのか?」
「はい。今は何も問題がなくなったとは言え、あなたが倒れたり意識不明の重体になった時の事が頭にあるのではないでしょうか?」
「今は元気なんだけどなあ」
「あなたは私達よりも身体が小さいですから、何をするにも心配なんですよ。きっと」
「納得いかない……」
「大切にされているとお考えになればいいのですよ。リョウタロウ様」
トキは笑顔でそう言ってきたが、トキも定期的に報告しているって事なのか?結局また監視されてるんだろうか。
まあ、以前のように監禁されたり、無茶をされているわけじゃないから、知らなかった事にしといた方がいいのか? 迷う。
以前の俺なら、監視してんじゃねえよとか言ってしまいそうだけど、何だろな。王を好きになったからなのか、この、見られるのが当たり前な生活に慣れてしまったからなのか、特に怒りの感情は生まれなかった。染まってきちゃったのかな。
そんな事を考えていると、トキが思い出したように話してきた。
「リョウタロウ様、今、国中でウイルス性の風邪が流行っているのはご存知ですか?」
「ウイルス性? インフルエンザみたいなものか?」
「インフルエンザ?」
「元の世界で寒い季節になると流行ってたんだ。高熱が出て、普通の風邪薬じゃ効かないやつ」
「たぶん、それと似たようなものだと思うのですが、疲れているとかかりやすいそうですから、お気をつけくださいね。明日まで陛下はお留守ですし、ご心配をおかけしないようにしませんと」
「そうだな……」
トキとそういう会話をしたというのに、俺は次の日の朝、全身を包む倦怠感でベッドから起き上がる事ができなかった。
「へ、へ、へぷちっ! あー……」
ヤバイな。くしゃみが止まらない。寒気もするし頭が痛い。完全に風邪引いたかな。
今日って何か公務あったっけ……なかったっけ?
ダメだ。頭が働かない。もうすぐトキが起こしに来る時間なのに、このままではまずい。
ベッドの中で一人で焦っていたら、寝室の扉がノックされた。
「失礼いたします。リョウタロウ様、そろそろご起床のお時間でございます」
トキはいつものように挨拶をしながら入ってきた。いつもなら、俺はその声がかかる前にベッドから降りて支度を始めている。だが、今日は身体が重くてベッドの住人のままだった。
「リョウタロウ様……?」
トキはいつもと違う俺の様子に気づき、すぐにベッドのそばへ駆け寄ってきた。
「リョウタロウ様? どうなさいました?」
「あ……ごめん、ちょっと、だるくて……」
「だるいという症状の他に、何かございますか?」
「んー……寒気がして、頭が痛い」
「起き上がれないほどでしょうか?」
「うん……ちょっと、無理かも……」
「失礼いたします」
俺が症状を説明すると、トキは慌てて俺の額に手を当てた。
「あ……! かなり熱くなっております。お熱があるのかもしれませんね……測ってみましょうか」
トキはどこからか持ち出した体温計を俺の脇に挟み、次はタンスを漁り始めた。
「汗もお掻きになっていますから、測り終えましたら一度着替えましょうね」
「はい……」
相変わらず隙がないというか、かなり先の行動まで読んで行動してるんだろう。トキは今日もテキパキしていた。
ピピピピ……。
すると、体温計が音を立てた。熱を測り終わった合図だ。
「失礼いたします……あ……!」
トキは体温計を見るなり、顔を青ざめさせた。
「リョウタロウ様……かなりのお熱です」
「……何度?」
「三十九度二分です」
「へ……」
すげえ。そんなに高い熱が出たの何年ぶりだろう。学生の頃が最後だったような気がする。
「すぐに先生を呼んで参ります!」
びっくりして何も言えない俺を置いて、トキは光の速さで寝室を出て行った。
医師が来たのはそれからすぐだった。
医師は俺の胸に聴診器を当てながら、次々と質問をしてきた。
「リョウタロウ様、トキ君の話によりますと、寒気がして頭痛があり、熱も三十九度あるそうですが、この症状はいつからでしょうか?」
「……朝、起きたら……」
「昨日は同じような症状はございましたか?」
「なかったと、思います……」
「ちょっと痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」
「え……? いてえっ!」
急に鼻に激痛が走ったと思ったらすぐに離れた。よく見ると、医師は細長い綿棒のような物を手に持っている。どうやらあれを鼻に突っ込まれたらしい。まるでインフルエンザの検査と一緒だ。
医師はその棒に付いた俺の鼻水らしき物を、持ってきていたらしい何かのケースに擦りつけていた。っていうか、鼻水でいいならあんなに突っ込む必要があったんだろうか。かなり痛かったぞ。
それから数分が経った後、医師は「ふむ……」と言いながらも、結果を報告する事はなかった。何なんだろ。
「先生、リョウタロウ様のご病気は一体……」
「それが……、……」
トキは医師に詳しく聞いているが、頭が痛いせいでよく聞こえなかった。しかも、痛みはどんどん酷くなっていて、意識も薄れてきた。これはまずいかもしれない。
「うう……」
「……っ、リョウタロウ様! しっかりなさってください!」
「リョウタロウ様!」
あー……、もうダメだ。俺、死ぬのかな。気持ち悪いし、めまいまでしてきた……。
あまりの痛みとめまいのせいで、俺の意識は徐々に薄れていった。
「ん……」
俺が次に目が覚めると、気を失う前と同じようにベッドに寝かされていた。頭の痛みは薄れていたが、意識はぼんやりとしていて、しんどい。
あー、まだ治ってなかったのか。一体何なんだろ。
ボーっとしながら考えていたら、近くでトキの声がした。
「りょ、リョウタロウ様!」
「……トキ?」
「よ、良かった……! 二週間も意識がお戻りにならなかったのですよ……!」
「……」
「先生をお呼びして参ります……!」
に、二週間? 嘘だろ?
びっくりしすぎて反応できないでいると、トキは慌てて部屋を出て行った。
それから数分後、トキは医師と王を連れて部屋に入ってきた。
「リョウ……!」
王は走りながらそばに来て、ベッドの横に膝をつき、俺の手をぎゅっと握ってきた。そして、その目は少し潤んでいた。これはかなり珍しい。ってか、見た事ないかも。
よく見ると、俺の腕には点滴が繋がれていた。二週間も意識が無かったという事は、栄養剤だろうか。
「リョウ……お前は二週間も意識がなかったのだ。どこかおかしな所はないか?」
王はすぐに聞いてきた。心配かけないように、ちゃんと言った方がいいよな……。
「あ、たま、が、ちょっと、いたい……」
「あとは何かあるか?」
「……よく、わかんない……。ボーっとする……」
今感じているのは、頭が痛くて、ボーっとして、かなり辛いという事だ。何とかそう伝えてみると、王は俺の頭を撫でながら、きっぱりとこう言った。
「リョウ、お前は妊娠したんだ」
「え……?」
「私との子ができた。この症状は種族の違う者同士で妊娠するとなりやすい物なんだ。まさか二週間も意識が戻らぬとは思わなかったが……」
「あ、赤ちゃん、できた……?」
「ああ。リョウ、ありがとう……」
王は俺の手を握ったまま、その手に額をつけてきた。感激しているのだろうか。王の声は珍しく震えている。
赤ちゃんができた。
信じられないけど、本当に、本当らしい。ようやく、俺達の子ができたのだ。そう思ったら俺まで涙が溢れてきて、止まらなくなった。しかも、王の後ろにいるトキまで泣いている。
すると、その様子を見ていた医師が声をかけてきた。
「陛下、リョウタロウ様、おめでとうございます。安定期まではもう少し時間がかかります。それまでは今のような不安定な体調が続くと思いますが、ご辛抱ください」
「はい……」
「安定期に入るまで、国民への発表は控えるつもりだ。状態が落ち着き次第、教えてくれ」
「はい。了解しました」
医師と王が何かを話しているが、自分も会話に入る元気がない。ボーっとしながらそれを眺めていたら、王が慌てて声をかけてきた。
「リョウ、もう少し休みなさい。まだ辛いだろう?」
「うん……」
「お休み……」
王が俺の目を見ながらそう言うと、途端に眠くなり、俺の意識は途絶えてしまった。
それからは、比較的のんびりとした日々が続いた。今はつわりが酷いから、公務は休んでいる。
王は分刻みでスケジュールが埋まっているはずなのに、数時間おきに俺の様子を見に来てくれる。具合が悪くて相手をしてやれない事も多いけど、そんな時でも、ベッドのそばに座って俺の寝顔を眺めてから帰っていくそうだ。やはり、流産して俺が死にかけた時の事がトラウマらしい。
本当に結婚前とは雲泥の差だ。こんなに変わるなんて思ってなかった。
明日は定期健診の日だ。順調に育ってくれてればいいな。
◇
「赤ちゃんは順調に育ってますね」
「本当ですか?」
「はい。つわりはもう少し続くと思いますが、赤ちゃんに何の問題もありません」
俺は今、エコー検査を受けている。まだまっ平らな俺の腹だが、その中ではちゃんと育っているらしい。
「それから……ちょっとここを見てください」
先生は近くにあるモニターの画像の一ヶ所を指差した。何か問題でもあるんだろうか。恐る恐る、トキと一緒にモニターを見てみると、そこには、俺の子宮であろう場所の中心に、二つの小さな塊があるのに気づいた。
「これ、分かりますか?」
「はい……赤ちゃん、ですよね……?」
「そうです。そして、この塊は二つあります。つまり、双子の赤ちゃんになりますね」
「「えっ!」」
俺だけじゃなく、トキも同じように声を上げている。本当に驚いているようだ。
一人じゃなくて、二人も赤ちゃんがいる……?
びっくりしすぎて言葉が出ない。子どもはダメかもと言われていたのに、まさか二人も授かるなんて。奇跡としか言いようがない。
「リョウタロウ様……何て事でしょう……奇跡が起きましたね……!」
「うん……」
王に言ったらどんな反応をするだろうか。どうやって伝えようかと思っていると、医師が聞いてきた。
「陛下へは私から伝えましょうか?」
「いえ、これは自分で伝えたいです。まだ言わないでいただけますか?」
「分かりました。それから、もう少し時間が経過すれば、赤ちゃんの性別も分かるようになりますが……お聞きになりますか?」
「いえ……それもまだ黙っていてください。赤ちゃんが男でも女でも、私たちの子に違いはありませんから……生まれてきた時の楽しみにしておきます。陛下にもそうお伝えしようと思っています」
「そうですか……了解しました」
「先生、ありがとうございました」
「はい、また何かありましたらすぐにお呼びください」
そうして、俺達は医務室を後にした。
王が帰ってきたのは夜遅くだった。いつもなら俺は寝ている。
でも、今日はどうしても早く言いたかった。だから、トキが下がった後も起きていたんだけど、王は俺の姿を確認するなり、血相を変えて抱き上げてきた。
「リョウ……! 寝ていないとダメだろう? すぐにベッドへ連れて行ってやる」
「ちょ、ちょっと待って! 降ろせって!」
俺が王の頭をポカポカ叩いて抵抗すると、王は怪訝な表情で俺を見てきた。
「リョウ?」
「話したい事があるんだ」
「話したい事?」
俺が真剣な顔をしていると気づいた王は、俺を抱えたまま、ゆっくりとソファーに座った。王の膝に乗ったままだとバランス悪くて落ち着かないんだけど、まあいいか。
俺は深呼吸をしてから、ゆっくりと赤ちゃんの事を口にした。
「今日さ、定期健診の日だったんだ」
「そうか……子は順調か? まさか、何か問題でもあったのか?」
王は俺の腹を撫でながら、心配そうに眉を下げた。ほんと、前より心配性になったな……失礼だけど、ちょっと気持ち悪い。
「違う。実はさ、俺達の赤ちゃん……双子なんだって」
「……」
王はピタリと動きを止めてしまった。どうしたんだろう。ちゃんと聞いてるのか?
「おい、聞いてんのか?」
王の身体を揺らしてみたが、まだ反応がない。本当に大丈夫なんだろうか。心配になってきた。
「トウガ?」
「あ、ああ……すまない。驚いてしまって……」
「うん……俺も」
「リョウ……!」
王は感極まった様子で、いきなり俺をきつく抱きしめた。本当に嬉しいんだろう。その目には涙が光っている。また珍しいものを見てしまったなあと思っていると、王はぼそりと、俺の耳元で囁いた。
「……きっと、あの時流れた子が帰って来てくれたんだな……」
「……そうかな?」
「ああ……私達の子として生まれたいと、そう思って、戻ってきてくれたのだ」
「……うん」
そんな事ってあるのかな。でも、そう思いたくなるほどの奇跡には間違いない。
「あとさ、赤ちゃんの性別なんだけど、生まれるまで教えないでくださいって先生に言ったんだ。トウガは知りたい?」
「いや、男でも女でも、どちらが生まれようとも私達の子には変わりない。私も生まれるまで楽しみにしていよう」
「……ははっ」
「リョウ?」
「……俺も先生に同じ事言った」
「そうか」
まさかとは思ったが、王も俺と同じ事を言った。後継ぎかどうか知りたいって言われたらどうしようかと思ったが、王も同じ気持ちらしい。安心した。
「生まれたら、いっぱい可愛がろうな……」
「ああ……」
王は俺の顔に唇を寄せてきた。そういえば、しばらくキスもしてなかったかもしれない。
その日、セックスはしなかったものの、俺達は何度も何度もキスをしながら触れ合った。王はずっと俺の腹を優しく撫でていて、時には腹に耳を当て、何かを呟いていたりもした。中にいる子ども達に話しかけていたんだろう。
「本当に、ここにいるのだな……」
「うん……」
それをしばらく眺めていたら、今まで色々あったけど、なんか、俺って幸せ者だなあと、心からそう思えたのだった。
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