ある旅行者の日記

マメ

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―――――――――



○月×日



忘れないように日記を書く事にした。


俺はどうやってここに来た?


ここはどこだ?

分からない。


目を覚ませば大人数に囲まれていて、身体を動かしたらまわりの奴らから歓声が上がった。


もしかして歓迎されていたのか?


日本語で話し掛けてみたが通じなかった。


目覚めた部屋は俺に与えられた部屋のようだ。使用人らしき男性が深々とお辞儀をし、何かを話して出て行った。


明日は部屋から出てみようか。


勝手に出歩いても大丈夫だろうか。





――――――




○月×日




冷静に考えてみた。


やはり言葉が通じないのは不便だ。

少しずつでもいい。この世界の言葉を学ばなければ。



部屋に差し込む光が強くなった頃。

俺はそっと部屋から出てみた。思いのほか身体は軽い。


部屋を出ると長い廊下に繋がっていた。誰もいない。



少し歩くと人の気配がした。何か盆のような物を持っている。


話し掛けたら物凄く慌てて俺に何かを言ってきた。理解できないので黙っていたら、無理やり腕を引っ張られて部屋に戻された。


今日はこれしかできなかった。何も進んでいない。


俺はこの先、誰かに会う事はあるのだろうか。不安で頭がいっぱいになる。




 

――――――――


 

○月×日



今日は朝早く叩き起こされ、見るだけで高価だと分かる生地の服を着せられた。


この国の衣装はなんでもありみたいだが、俺は中華風の衣装だった。


そして、物凄く広い部屋に連れて行かれた。


部屋の奥には王様が座る玉座があった。つまり、俺はこの国の王に面会した。



ありえなかった。


王の頭には犬のような耳が付いていた。気のせいだと思いたいが尻尾もあった気がする。


よく見たら側近らしき人間にも犬耳があった。


王は精悍な顔つきで、威厳たっぷりと言った感じの大柄な人だった。犬というより狼を連想させた。

背は俺より30センチは高そうだった。歳は40くらいか。


穏やかに話し掛けられたがやはり分からなかった。


けど、眉を潜めた王が俺に向かって何かを唱えると、なぜか言葉が分かるようになった。びっくりした。



王は俺に早く言葉が通じるようにしなかった事を詫びた。寂しかっただろうと。


話した感じはいい人そうだった。


王なら元の世界に帰る方法を知っているだろうか。






―――――――



○月×日



王に初めて会った日からひと月経った。


いろいろ聞いて分かったのは、この世界の人間は俺達に比べて歳を重ねるのが遅いらしい。

みんな見た目よりも歳を重ねていると聞いた。


使用人の女の子が150歳というのはびっくりした。見た目は中学生くらいなのに。





―――――――




○月×日



どうやら俺は王に気に入られたらしい。

今日は散歩に誘われた。


王は俺に困った事があれば遠慮なく言って欲しいと言ってくれた。本当に優しい人だ。


身の回りの世話も使用人の人が念入りにしてくれるし、今のところ不満はない。

不満は元の世界に帰れないって事くらいだ。


食事もおいしかった。地球の食べ物に似ている物も沢山ある。


初めて見る物が多くて新鮮だった。

王は静かに見守ってくれた。


今度帰る方法を聞いてみようと思う。


なぜ連れて来られたのか聞いてみるのも悪くないかもしれない。





――――――





「……」



 日記を読んで思ったのは、思いのほかこの人物がこの世界を楽しんでいるという事。王がどの王だかまだ分からないが、とりあえずは順調に仲良くなっている様子だ。

「あれ?」

 残りは明日にまわそうかなと思っていたら、ある事に気づいた。
 次の日記から数ページがわずかに破られているのだ。
 なくなっているのは、ページの三分の一程度の物だったが、そのページはなぜか書き殴ったような痕跡があった。

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