愚かな者は世界に堕ちる

マメ

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 ルイと名乗った占い師……彼は呆然とする俺をよそに、話を続けた。
「今日、鑑定する内容はお決まりですか?」
「あ……恋愛運、です。結婚したいので……」
「了解いたしました」
 俺は何とか言葉を口にしたが、彼は鋭い視線を俺に向けながら、一言だけ呟いた。怖い。
 男性の占い師だからなのか、彼の性格なのかは知らないが、今までの占い師とは全く違う様子に驚きを隠せない。さっき女運が悪いと言われたが、それでも見てくれるのか、彼は最初と同じようにカードをシャッフルし始めた。
 「……」
 淡々と進むカード展開。めくられたカードは逆位置が多かった。
「ふーん……」
 彼はカードをじっと見たあと、俺の方に視線を向けた。うう、見られるだけでも緊張する。
「花村様、あなた、先ほども言ってしまいましたが、女運が悪いですね。このままでは結婚は難しいでしょう」
 うわ、来た。こんな直球で来る占い師は初めてだ。今までなら悪い運勢でもアドバイスをくれたり、やんわり遠回しに言って不快にしない人が多かったのに。ある意味凄いというか、自分の占いは完璧だという自信があるのだろうか。
「女運が悪い……というのは、具体的には、どのように……?」
 俺は恐る恐る言葉を口にした。すると彼は、すぐに答えを口にした。
「金を使わせる女性とばかり付き合っている。今まで付き合ってきた女性にいくらかけて来ましたか? 今まで付き合ってきた女性はあなたと恋愛をしたいのではなく、あなたが何でも買ってくれるから付き合ったようですね。今、貯金ないでしょう?」
「……な、何で金がないって分かるんですか!?」
 彼の言葉は正解だった。思い返せば、俺と付き合ってきた女性はみんなブランド物が好きとか、高い食べ物が食べたいとか、なぜかデートの度に金を使わせるような子が多かった。というか、全員そうだったかもしれない。
そのままズバリと当てられた俺は、続いて彼が発した言葉に呆然となる。
「ああ……別れる原因は、あなたが結婚を匂わせたら別れを切り出される事がほとんどだったようですね」
「何で分かるんですか!?」
「全てカードに出ています。あなたの気持ちは運命の輪の正位置なのですが、彼女達の気持ちは正義の逆。また、過去のカードにペンタクルの五…あと、彼女達は結婚する気は全くなかったようですね。あなたの結婚結婚という気持ちが重かったようです。都合よく使われたんですよ。二股もかけられてましたね」
「そ、そんな……」
 彼はズバリと言い当ててきた。今までの彼女に金を使ってきたのも当たっている、結婚を匂わせたあと、すぐに別れを切り出されたのも当たっている。ちなみに、最後に付き合った子は俺と別れたあと、不倫相手とできちゃった婚をした。もちろん計算的に俺の子どもではないが、あんなに将来の話をしてものらりくらりとかわされたのに、あっさり結婚したのが信じられなかった。
「じゃ、じゃあ、最後に付き合った子と、どんな別れをしたか分かりますか?」
「少々お待ちください」
 彼はサッとシャッフルしたあと、カードを展開した。
「彼女が不倫して、できちゃった婚ですよね?」
「何で分かるんですか!?」
「カードに出ています」
「何のカードが出たんですか?」
 俺は思いきって聞いてみた。何度も占いをしたからカードの意味が少しは分かるようになっているのだ。
「彼女の気持ちに女帝の逆、これは不倫や望まぬ妊娠を意味します。あなたの気持ちは世界の正位置なので、将来を考えられる相手と見ていたようですが……過去に月の正位置、これは先が不安、未来がぼんやりしている、そして、やはり不倫も意味しますので、最後の彼女はあなたと付き合う前から不倫していた可能性がありますね。当時の様子も悪魔が出ていて、誘惑に弱い女性だったようです。他にも死神の逆……力の逆など、正位置では良いカードなのに逆……つまり、ネガティブな意味になるカードばかりなので、お付き合いされていた時はお相手様のペースに振り回されながらもなかなか言いたい事が言えないお付き合いだったのかと感じます。あと、やはりペンタクルの五が出ていますので、今までで一番お金を使ってしまったのではないかと」
「……ペンタクルの五って、お金のカードなんですか……」
「そうですね…絶望や失望を表す、いわゆる貧乏カードと占いの世界では言われております。ただ、この絵柄には、教会の光が描かれておりますので、まわりから救いの手が差しのべられているのに気づいていない……とも解釈できます。当時もご友人から忠告されませんでしたか?」
「……されました……今度は大丈夫か? って……それはどのカードが伝えてるんですか?」
「カップの三ですね。あなたに彼女ができても素直に喜べなかったようです」
「……そうですか」
 彼の言う事は全部当たっていた。最後の彼女の事は試すつもりで聞いてみたが、全くもってその通りすぎて、思い出したら泣きたくなる。
 でも、彼の鑑定は本物だ。ここまで当たっているのだから。しかも、ズバズバ言うけど確信もついている。このような占い師は初めてだったが、鑑定は信頼できるような気がした。
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