8 / 11
4
しおりを挟む
リノ・アルムとの結婚式には、リオスの王や重鎮達はもちろん、リオスの騎士団も招待していた。彼が俺のモノになったという事、リオスがレガラドに完全に堕ちたという事を世間に見せしめるためだ。
俺とリノ・アルムが神官の元へと歩いていく途中、リオスの騎士団の者達は、心底悔しそうな表情で俺を見ていた。きっとリノ・アルムは予想以上に慕われていたのだろう。俺がチラリと隣を見ると、目を伏せて騎士団の連中をあまり見ないようにしていた。自分が受け入れた事とはいえ、今まで苦楽を共にした仲間に「花嫁」となってしまった姿は見られたくなかったのかもしれない。
たが、俺はその姿を見て、本当に彼が俺のモノになるのだという実感が湧いた。正直言って、心の底から歓喜していた。誓いのキスがなかったのが残念だが、結婚すれば嫌でも夫婦の営みが待っている。すぐには受け入れてもらえないのは覚悟しているから、彼の発情期のタイミングで身体を繋げる作戦でいた。
そして、結婚式から数ヶ月が過ぎた。
俺はまだ、リノ・アルムの元へと行けずにいる。遠征や他の国との交戦がが重なったためだ。これは予想外だった。
彼につけた使用人には、彼の一日の行動を逐一報告するように伝えていた。彼は何かを求める訳でもなく、何か不満を漏らす訳でもなく、普通に生活しているらしい。隙を見て逃げようなどというような行動も取ってはおらず、穏やかに暮らしているとの事だ。
彼は普段から発情を抑える抑制剤を飲み、発情期を管理しているらしい。レガラドの医師にそれを伝え、薬を処方されたと聞いていた。
会えない日々がしばらく続き、今日こそはと思うとまた会えない。そんな状態にイライラして、俺のまとっている空気が殺伐とし始めた時、その情報は伝えられた。
「リノ・アルムが体調を崩した」
それが伝わったのは、レガラドの王都からかなり離れた土地への遠征の日だった。俺はいてもたってもいられず、残りの業務を騎士団副長のカウイに任せ、慌てて王都へと戻った。カウイはかなり驚いていたが、説明は後だ。今はリノ・アルムの容態の方が大切だった。
王都へ戻り、居住区へと向かう。体調が悪いというのはどのような状態なのか。倒れたのか、怪我をしたのか。早く会いたい。それだけが頭を占めていた。
だが、部屋へと戻った俺が見たのは、ポカンとしながら俺を見つめる彼の姿だった。
「リノ!」
俺は咄嗟に彼の名を呼び、慌てて彼を抱き上げると、寝室に向かいながら彼に話しかけた。
「体調が優れぬというのはどういったご様子ですか? 頭が痛いのですか? それとも、熱が? 喉の様子は? いや、胃腸の調子でしょうか? 吐き気はないですか?」
「……」
俺が詳しく聞こうとすると、彼は未だにポカンと俺を見つめていた。言葉も話せぬほどヤバい状態なのか? 俺はさらに焦って聞いていた。
「こ、言葉も話せぬほど苦しいのですか!? おい! 早くリノをベッドへ! なぜ一人にしていたのだ!」
「も、申し訳ございません……!」
思わず使用人を叱ってしまうと、彼がか細い声で、ようやく口を開いた。
「ラミレス殿、私は大丈夫ですから……」
「何が大丈夫なのですか!? 体調が優れぬというのはこの国に来てから初めてではないですか! あなたの一大事に落ち着いていられますか!」
そう、彼は大丈夫と言っているが、彼がレガラドに来てからというもの、体調を崩したという報告は一切なかった。今回が初めての事だ。それを、大丈夫と彼は言う。まだ気を使っているのだろうか。
「リノ! 答えてください! どこの調子が悪いのですか!」
俺は彼を抱きあげたまま、激しく揺さぶった。苦しいなら早く言って欲しかったのだ。だが、彼から放たれた言葉は意外なものだった。
「いや、私は健康です」
「……は?」
「ですから、私は健康です。体調が優れぬというのは、その、嘘なのです」
「ど、どうして、ですか?」
「……退屈だったのです」
「退屈、とは?」
話が見えない。退屈だから体調が優れぬと言った……意味がわからない。俺は彼を降ろし、静かに話し始めたのを黙って見ていた。
「あなたとの婚礼が終わってから、数ヶ月が経ちました。ですが、あなたは私に会うわけでもなく、夜になっても帰ってきません。私はこの国に来る前、ご存知かと思いますが、騎士でした。ですから、今のこの状態はとても苦しく、話し相手もいなくて、鍛錬もできずに暇をしていたのです。ですから、一人にして欲しいと、使用人の方にお願いいたしました」
「リノ……」
彼の口調が戦場で会っていた時と違うような気がするが、俺は彼の「退屈だった」という言葉にショックを受けた。彼には優秀な使用人をつけていて、退屈しないように、ありとあらゆるモノを用意していた。だが、使用人には彼とあまり話をしないように命令していた。単純に、俺より使用人と仲良くなって欲しくなかったから。完全に俺のエゴに過ぎないが、それが彼を退屈にさせていたらしい。
彼がこれからどうしたいか、確認する必要を感じた。
「……今日は深い話になるようだ。二人にしてくれ」
「は、はい!」
俺は使用人達を部屋から下がらせ、彼とのこれからを考える事にした。
俺とリノ・アルムが神官の元へと歩いていく途中、リオスの騎士団の者達は、心底悔しそうな表情で俺を見ていた。きっとリノ・アルムは予想以上に慕われていたのだろう。俺がチラリと隣を見ると、目を伏せて騎士団の連中をあまり見ないようにしていた。自分が受け入れた事とはいえ、今まで苦楽を共にした仲間に「花嫁」となってしまった姿は見られたくなかったのかもしれない。
たが、俺はその姿を見て、本当に彼が俺のモノになるのだという実感が湧いた。正直言って、心の底から歓喜していた。誓いのキスがなかったのが残念だが、結婚すれば嫌でも夫婦の営みが待っている。すぐには受け入れてもらえないのは覚悟しているから、彼の発情期のタイミングで身体を繋げる作戦でいた。
そして、結婚式から数ヶ月が過ぎた。
俺はまだ、リノ・アルムの元へと行けずにいる。遠征や他の国との交戦がが重なったためだ。これは予想外だった。
彼につけた使用人には、彼の一日の行動を逐一報告するように伝えていた。彼は何かを求める訳でもなく、何か不満を漏らす訳でもなく、普通に生活しているらしい。隙を見て逃げようなどというような行動も取ってはおらず、穏やかに暮らしているとの事だ。
彼は普段から発情を抑える抑制剤を飲み、発情期を管理しているらしい。レガラドの医師にそれを伝え、薬を処方されたと聞いていた。
会えない日々がしばらく続き、今日こそはと思うとまた会えない。そんな状態にイライラして、俺のまとっている空気が殺伐とし始めた時、その情報は伝えられた。
「リノ・アルムが体調を崩した」
それが伝わったのは、レガラドの王都からかなり離れた土地への遠征の日だった。俺はいてもたってもいられず、残りの業務を騎士団副長のカウイに任せ、慌てて王都へと戻った。カウイはかなり驚いていたが、説明は後だ。今はリノ・アルムの容態の方が大切だった。
王都へ戻り、居住区へと向かう。体調が悪いというのはどのような状態なのか。倒れたのか、怪我をしたのか。早く会いたい。それだけが頭を占めていた。
だが、部屋へと戻った俺が見たのは、ポカンとしながら俺を見つめる彼の姿だった。
「リノ!」
俺は咄嗟に彼の名を呼び、慌てて彼を抱き上げると、寝室に向かいながら彼に話しかけた。
「体調が優れぬというのはどういったご様子ですか? 頭が痛いのですか? それとも、熱が? 喉の様子は? いや、胃腸の調子でしょうか? 吐き気はないですか?」
「……」
俺が詳しく聞こうとすると、彼は未だにポカンと俺を見つめていた。言葉も話せぬほどヤバい状態なのか? 俺はさらに焦って聞いていた。
「こ、言葉も話せぬほど苦しいのですか!? おい! 早くリノをベッドへ! なぜ一人にしていたのだ!」
「も、申し訳ございません……!」
思わず使用人を叱ってしまうと、彼がか細い声で、ようやく口を開いた。
「ラミレス殿、私は大丈夫ですから……」
「何が大丈夫なのですか!? 体調が優れぬというのはこの国に来てから初めてではないですか! あなたの一大事に落ち着いていられますか!」
そう、彼は大丈夫と言っているが、彼がレガラドに来てからというもの、体調を崩したという報告は一切なかった。今回が初めての事だ。それを、大丈夫と彼は言う。まだ気を使っているのだろうか。
「リノ! 答えてください! どこの調子が悪いのですか!」
俺は彼を抱きあげたまま、激しく揺さぶった。苦しいなら早く言って欲しかったのだ。だが、彼から放たれた言葉は意外なものだった。
「いや、私は健康です」
「……は?」
「ですから、私は健康です。体調が優れぬというのは、その、嘘なのです」
「ど、どうして、ですか?」
「……退屈だったのです」
「退屈、とは?」
話が見えない。退屈だから体調が優れぬと言った……意味がわからない。俺は彼を降ろし、静かに話し始めたのを黙って見ていた。
「あなたとの婚礼が終わってから、数ヶ月が経ちました。ですが、あなたは私に会うわけでもなく、夜になっても帰ってきません。私はこの国に来る前、ご存知かと思いますが、騎士でした。ですから、今のこの状態はとても苦しく、話し相手もいなくて、鍛錬もできずに暇をしていたのです。ですから、一人にして欲しいと、使用人の方にお願いいたしました」
「リノ……」
彼の口調が戦場で会っていた時と違うような気がするが、俺は彼の「退屈だった」という言葉にショックを受けた。彼には優秀な使用人をつけていて、退屈しないように、ありとあらゆるモノを用意していた。だが、使用人には彼とあまり話をしないように命令していた。単純に、俺より使用人と仲良くなって欲しくなかったから。完全に俺のエゴに過ぎないが、それが彼を退屈にさせていたらしい。
彼がこれからどうしたいか、確認する必要を感じた。
「……今日は深い話になるようだ。二人にしてくれ」
「は、はい!」
俺は使用人達を部屋から下がらせ、彼とのこれからを考える事にした。
3
お気に入りに追加
706
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
お前だけが俺の運命の番
水無瀬雨音
BL
孤児の俺ヴェルトリーはオメガだが、ベータのふりをして、宿屋で働かせてもらっている。それなりに充実した毎日を過ごしていたとき、狼の獣人のアルファ、リュカが現れた。いきなりキスしてきたリュカは、俺に「お前は俺の運命の番だ」と言ってきた。
オメガの集められる施設に行くか、リュカの屋敷に行くかの選択を迫られ、抜け出せる可能性の高いリュカの屋敷に行くことにした俺。新しい暮らしになれ、意外と優しいリュカにだんだんと惹かれて行く。
それなのにリュカが一向に番にしてくれないことに不満を抱いていたとき、彼に婚約者がいることを知り……?
『ロマンチックな恋ならば』とリンクしていますが、読まなくても支障ありません。頭を空っぽにして読んでください。
ふじょっしーのコンテストに応募しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
生徒会長の包囲
きの
BL
昔から自分に自信が持てず、ネガティブな考えばっかりしてしまう高校生、朔太。
何もかもだめだめで、どんくさい朔太を周りは遠巻きにするが、彼の幼なじみである生徒会長だけは、見放したりなんかしなくて______。
不定期更新です。
俺が番になりたくない理由
春瀬湖子
BL
大好きだから、進みたくて
大切だから、進めないー⋯
オメガの中岡蓮は、大学時代からアルファの大河内彰と付き合っていた。
穏やかに育み、もう8年目。
彰から何度も番になろうと言われているのだが、蓮はある不安からどうしても素直に頷く事が出来なくてー⋯?
※ゆるふわオメガバースです
※番になるとオメガは番のアルファしか受け付けなくなりますが、アルファにその縛りはない世界線です
※大島Q太様主催のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加している作品になります。
※他サイト様にも投稿しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる