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秘密の写真
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「アンナさん……教えて欲しい事があるのですが」
「何でしょうか?」
「ユアンは、私の写真をどこにしまっているのですか? 一緒に暮らしていても、見た事がないのですが……以前、あなたはユアンが私の写真を眺めていたと仰っていましたよね?」
私達が誘拐され、犯人の処刑も終わってしばらくした頃、私は写真についてふと思い出した。ユアンは私の写真を眺めていたと。でも、彼が私の前で写真を見ている事はなかったし、どこかにしまってあるのかと部屋中探したが見つからなかった。彼女なら知っているだろうと聞いてみたが、彼女は首を振った。
「ああ……そういえば、どこにしまってあるかはお聞きしておりませんね……私が見たのも偶然でして、私が部屋に入りましたら、ラミレス様はすぐに写真を懐にしまっていたので……」
「そうですか……リオス時代の写真、懐かしいので私も見てみたかったのですが……」
リオスは私が生まれ育った故郷だ。懐かしい景色も写っているかもしれないと期待したのだが、彼女は分からないらしかった。すると、彼女はキラキラと目を輝かせながら聞いてきた。
「探してみますか?」
「大丈夫でしょうか……」
「リノ様が見たかったと言えば全て解決します! 探しましょう! 今ならラミレス様いらっしゃいませんし! 私も見たいのです!」
最後は本音が漏れていたが、彼女は協力してくれるらしい。私達はすぐに部屋の中を探す事にした。
……だが、写真の隠し場所は見つからなかった。部屋という部屋を隅々まで、寝室もベッドの下や寝具の下まで探したが、見つからない。ユアンの書斎も見てみたが、唯一見つけた写真は結婚式の時の写真で、それは机の上に額に入れて飾ってあった。
「ないですね……」
「リノ様……もし、リノ様が秘密の写真をお持ちでしたら、どこに隠しますか?」
「そうですね……隠し部屋があればそことか……あ」
私は自分で隠し部屋と言った時、ユアンの本棚に並んでいる一部の本が落ちそうになっている場所が目に入った。彼の本は全て大事なものだろう。慌ててその本を手に取り、元の場所に戻そうとすると、なぜか違和感があった。
「……あれ、ここ、色が違う……?」
一冊分のスペースだけ、なぜか本棚の色が濃くなっていた。試しに先ほど落ちそうになっていた本をその場所にはめてみると、カチッと小さな音が鳴った。そして、本棚が横に動き、小さな扉が出現した。
「こ、これは……」
「隠し部屋……でしょうか……」
扉には鍵がかかっていたが、私はリオスで鍵を開くための訓練も受けていた。捕虜になった際に逃げられるように。
「アンナさん、何か、針金のような物はありますか?」
「それならここに……」
彼女は自分の髪を留めていたヘアピンを渡してくれた。この長さなら開けられる。
「ありがとうございます。これは……難しいな……うん、あの方法でいけるか?」
使われていた鍵は複雑なモノだったが、約十分ほどで鍵は解除された。
「では、開けます」
「はい」
私は小さなドアノブに手をかけ、扉を開けた。中は薄暗くてよく見えなかったが、扉の近くにスイッチがあるのが見えた。スイッチを押すと、パッと部屋が明るくなり、部屋全体の様子が見えるようになった……が。
「こ、これは……!」
「す、すご……」
部屋の中、というか、壁は私の写真でいっぱいだった。置かれている机の上には、私のリオス時代の写真と、この国に来てからの写真、さらに、私の裸の写真まであった。裸の写真は、いかにもセックスの後という、ユアンの精液であろう白いモノが身体にかかったものまであった。これだけはアンナさんに見られたくなかった。
「アンナさん! この辺は見ないでください! アンナさん?」
だが、彼女は恍惚とした表情で私のリオス時代の写真を眺めていた。
「推し部屋……あれも、あれも、素敵……」
「おし?」
「少し分けて欲しいくらいです……はっ! 申し訳ございません……!」
「い、いえ、ここに隠していたのですね……」
「リノ様、引かないのですか?」
彼女は不思議な事を言ってきた。ユアンは私を好きだったらしいが、私は敵だった。敵の写真を沢山持っていたら国内でもスパイと間違われたり、立場が危うくなる。だからここに集めていたのだと思ったが、なぜ引くのだろう。
「引く? ユアンは私を好きだったと言っておりました。私は敵でしたので、敵の写真を沢山持っていたらスパイと間違われる可能性もあります。だからここに集めていたのでは……」
「いや、そうではなく、異常というか……」
「これは異常な事なのですか? 写真をしまう場所がなかったのでは……」
「……そうですね。リノ様はそういうお方でした。知らない方がいい事もあります」
「?」
「お似合いのご夫婦だという事です」
「……よく分かりませんが、いつ撮られたのでしょう……」
「リオスにスパイを送っていたと聞いた事がありますから、その時に撮られたのかもしれませんね」
「でも、恥ずかしい写真まで……ユアンに処分するように言います」
「ダメです! もったいない!」
「え?」
「い、いえ、ラミレス様が大切にされているモノを処分してしまうのは、ちょっと……」
「では、今度は隠れて撮らずに、二人で撮りましょうと言えばよろしいでしょうか?」
「いえ! この部屋の存在は知らない事にした方が……隠しておりましたので……」
「そうですか……難しいモノですね」
「これも……ある意味、愛の形なんだと思います。私も好きなもののお写真を集めるのは好きですし」
「そういうモノなのですか……」
「はい。次はラミレス様が確実に帰って来ない時に来てみましょう……今日はこの辺で……」
「そうですね。リオスの景色もまた見たいですし……じっくり見るのは今度にいたしましょう」
なんだかはぐらかされたような気もするが、ユアンの愛の形は私の想像つかないモノが多い。それだけは確かだった。
後日、この日の話をモリーとカウイ殿にしてみたが、二人してかなり引いていたし、心配された。私は意味が分からなかったが、分からなくても幸せなのだから、それでいいと言ったら、二人してお似合いの夫婦だと言っていた。やっぱり意味が分からなかった。
Fin.
「何でしょうか?」
「ユアンは、私の写真をどこにしまっているのですか? 一緒に暮らしていても、見た事がないのですが……以前、あなたはユアンが私の写真を眺めていたと仰っていましたよね?」
私達が誘拐され、犯人の処刑も終わってしばらくした頃、私は写真についてふと思い出した。ユアンは私の写真を眺めていたと。でも、彼が私の前で写真を見ている事はなかったし、どこかにしまってあるのかと部屋中探したが見つからなかった。彼女なら知っているだろうと聞いてみたが、彼女は首を振った。
「ああ……そういえば、どこにしまってあるかはお聞きしておりませんね……私が見たのも偶然でして、私が部屋に入りましたら、ラミレス様はすぐに写真を懐にしまっていたので……」
「そうですか……リオス時代の写真、懐かしいので私も見てみたかったのですが……」
リオスは私が生まれ育った故郷だ。懐かしい景色も写っているかもしれないと期待したのだが、彼女は分からないらしかった。すると、彼女はキラキラと目を輝かせながら聞いてきた。
「探してみますか?」
「大丈夫でしょうか……」
「リノ様が見たかったと言えば全て解決します! 探しましょう! 今ならラミレス様いらっしゃいませんし! 私も見たいのです!」
最後は本音が漏れていたが、彼女は協力してくれるらしい。私達はすぐに部屋の中を探す事にした。
……だが、写真の隠し場所は見つからなかった。部屋という部屋を隅々まで、寝室もベッドの下や寝具の下まで探したが、見つからない。ユアンの書斎も見てみたが、唯一見つけた写真は結婚式の時の写真で、それは机の上に額に入れて飾ってあった。
「ないですね……」
「リノ様……もし、リノ様が秘密の写真をお持ちでしたら、どこに隠しますか?」
「そうですね……隠し部屋があればそことか……あ」
私は自分で隠し部屋と言った時、ユアンの本棚に並んでいる一部の本が落ちそうになっている場所が目に入った。彼の本は全て大事なものだろう。慌ててその本を手に取り、元の場所に戻そうとすると、なぜか違和感があった。
「……あれ、ここ、色が違う……?」
一冊分のスペースだけ、なぜか本棚の色が濃くなっていた。試しに先ほど落ちそうになっていた本をその場所にはめてみると、カチッと小さな音が鳴った。そして、本棚が横に動き、小さな扉が出現した。
「こ、これは……」
「隠し部屋……でしょうか……」
扉には鍵がかかっていたが、私はリオスで鍵を開くための訓練も受けていた。捕虜になった際に逃げられるように。
「アンナさん、何か、針金のような物はありますか?」
「それならここに……」
彼女は自分の髪を留めていたヘアピンを渡してくれた。この長さなら開けられる。
「ありがとうございます。これは……難しいな……うん、あの方法でいけるか?」
使われていた鍵は複雑なモノだったが、約十分ほどで鍵は解除された。
「では、開けます」
「はい」
私は小さなドアノブに手をかけ、扉を開けた。中は薄暗くてよく見えなかったが、扉の近くにスイッチがあるのが見えた。スイッチを押すと、パッと部屋が明るくなり、部屋全体の様子が見えるようになった……が。
「こ、これは……!」
「す、すご……」
部屋の中、というか、壁は私の写真でいっぱいだった。置かれている机の上には、私のリオス時代の写真と、この国に来てからの写真、さらに、私の裸の写真まであった。裸の写真は、いかにもセックスの後という、ユアンの精液であろう白いモノが身体にかかったものまであった。これだけはアンナさんに見られたくなかった。
「アンナさん! この辺は見ないでください! アンナさん?」
だが、彼女は恍惚とした表情で私のリオス時代の写真を眺めていた。
「推し部屋……あれも、あれも、素敵……」
「おし?」
「少し分けて欲しいくらいです……はっ! 申し訳ございません……!」
「い、いえ、ここに隠していたのですね……」
「リノ様、引かないのですか?」
彼女は不思議な事を言ってきた。ユアンは私を好きだったらしいが、私は敵だった。敵の写真を沢山持っていたら国内でもスパイと間違われたり、立場が危うくなる。だからここに集めていたのだと思ったが、なぜ引くのだろう。
「引く? ユアンは私を好きだったと言っておりました。私は敵でしたので、敵の写真を沢山持っていたらスパイと間違われる可能性もあります。だからここに集めていたのでは……」
「いや、そうではなく、異常というか……」
「これは異常な事なのですか? 写真をしまう場所がなかったのでは……」
「……そうですね。リノ様はそういうお方でした。知らない方がいい事もあります」
「?」
「お似合いのご夫婦だという事です」
「……よく分かりませんが、いつ撮られたのでしょう……」
「リオスにスパイを送っていたと聞いた事がありますから、その時に撮られたのかもしれませんね」
「でも、恥ずかしい写真まで……ユアンに処分するように言います」
「ダメです! もったいない!」
「え?」
「い、いえ、ラミレス様が大切にされているモノを処分してしまうのは、ちょっと……」
「では、今度は隠れて撮らずに、二人で撮りましょうと言えばよろしいでしょうか?」
「いえ! この部屋の存在は知らない事にした方が……隠しておりましたので……」
「そうですか……難しいモノですね」
「これも……ある意味、愛の形なんだと思います。私も好きなもののお写真を集めるのは好きですし」
「そういうモノなのですか……」
「はい。次はラミレス様が確実に帰って来ない時に来てみましょう……今日はこの辺で……」
「そうですね。リオスの景色もまた見たいですし……じっくり見るのは今度にいたしましょう」
なんだかはぐらかされたような気もするが、ユアンの愛の形は私の想像つかないモノが多い。それだけは確かだった。
後日、この日の話をモリーとカウイ殿にしてみたが、二人してかなり引いていたし、心配された。私は意味が分からなかったが、分からなくても幸せなのだから、それでいいと言ったら、二人してお似合いの夫婦だと言っていた。やっぱり意味が分からなかった。
Fin.
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