オメガの騎士は愛される

マメ

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オメガの騎士はさらわれる―愛のカタチ―

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 ◇



 なんだかくすぐったい気がして、重たいまぶたを開けてみると、目の前にはユアン……私の夫がいた。彼は私を抱きしめながら、私の中へペニスを挿入しようとしていた。

「あ……ユアン……!?」

「リノッ……!」

 ズズッ……!

 私が理解する前に、彼は簡単に挿れてきた。頭がついていかない。

「ユアン! 寝ている時はやめてくださいと何度言っ……!」

「悪い。お前の寝顔が可愛すぎて我慢できなかった」

 彼は悪びれもせずに腰を動かしている。私は彼の思うままに腰を揺らしてしまった。これだけスムーズに入ったと言う事は、私が寝ている間にいたずらされていたのかもしれない。今までにもあったから。
 そう、彼……私の夫であるユアンは、私の意識がなくても、私が寝ていても、自分がしたければ勝手にセックスをする男だった。身体の揺れで目が覚めたのは一度や二度ではない。

「可愛い……って、もう、半年以上経つのに……!」

「ずっと手に入れたかった愛しい人が目の前にいるのに、何もしない方がおかしいだろう? ふふ、もう何度もセックスしているのに、変わらず締まりがいいな」

「ユアン! そ、そんなに恥ずかしい事は……!」

「本当の事だ。リノ、リノ、好きだ。愛している」

 結婚して、ユアンの想いを受け入れてから約半年、今では当たり前のようにほぼ毎日抱かれる日々が続いている。私のセックスの経験値は上がったと思っているが、彼にしてみればまだまだらしい。私は抱かれる度に彼に泣かされ、初めて経験する情事やテクニックに驚かされている。今もそうだ。彼は私と繋がった部分を嬉々として眺めながら私を責め立て、私が恥ずかしがるのを喜んでいる。正直、歪んでいると思う。

「ユアン! この体勢は、やめッ……!」

「何故だ? 俺とお前は心から愛し合っている。恥ずかしがってもここは喜んでいるぞ?」

「んんっ……!」

 彼は自分のペニスが入っている部分の縁をなぞり、私に刺激を与えてきた。その途端に力が入り、中に出されていた彼の精液が漏れるのが分かる。出ている感覚から言って、一回の量ではなかった。目が覚めた時に初めて挿れられたのだと思っていたが、絶対に違う。彼は、私の目が覚める前から挿入していたようだ。しかも、挿入していただけではない。絶対に何度か中に出されている。気づかなかった自分に絶望した。
 彼は私がそんな事を思っているのに気づかないのか、変わらず恥ずかしい事を言ってくる。

「ああ……俺の出した精液が漏れてきたな……もうお腹がいっぱいか?」

 ただでさえ、グチュグチュと下半身から聞こえる水音が恥ずかしいのに、彼は言葉でも責め立てた。夫婦とはいえ、まだセックスを知ってから半年しか経っていない私には刺激が強すぎた。思わず顔を両手で覆ってしまうと、嬉しそうな声が頭上から降ってきた。

「ふふ、リノ、恥ずかしいのか? 顔が真っ赤になっている……こんなに恥じらうのに、ここは毎日俺を飲み込んで……たまらないな」

「な、何を仰っ……」

「可愛いと言っている。心は無垢なままなのに、身体は娼婦のように従順に開く……仕込んだのは俺だが、まさかここまで化けるとは……ギャップがたまらないんだ」

 彼は顔を覆う私の手をどかしてベッドに縫いつけると、深いキスを落としてきた。いきなり身体を屈めてきたから、入っていたペニスがさらに深く刺さる事になり、私は悲鳴を上げた。

「ひっ、んうう……はあ、はあ、ああ……」

「リノ、俺だけの女神……これからどんな性技を仕込んでも、そのまま心は無垢なままでいてくれ」

「い、言ってる意味が分からな……」

「愛している。リノ、お前からもキスを……」

「は、はい……」

 言われるままに彼の唇を舐め、舌を口内に滑り込ませる。すると、私の中に入っていたペニスがぐぐっと大きくなったのを感じた。再び悲鳴を上げそうになったが、ぐっと堪えた。すると、彼は再び笑みを浮かべ、激しくピストンを始めた。

「あっ、あっ、んう、んんんんーーーー!!」

「リノ、リノ、愛している。愛している……!!」

「ユアンッ、激し……ッ」

 しっかりとベッドにに縫いつけられた手はびくともせず、彼の動きを止める事ができない。私は身体を貫かれ、揺さぶられ、何度も中に出されながら、ひたすら激しく抱かれ続けた。



「リノ、大丈夫か?」

「手加減……は……」

「悪い。無理だった」

 セックスが終わった後、疲れて何もできずに身体を投げ出していると、彼が私を気遣ってくれた。だが、疲れの原因は彼である。いつも手加減してくれという私の願いもむなしく、毎回こうなってしまう。

「今日のセックスはどうだった?」

「……突然すぎて、疲れました」

「ははははっ」

「わ、笑い事ではございません! 私は、これでも騎士でしたのに、トレーニングもしておりますのに……」

 私は彼と結婚する前は、隣の国で騎士だった。ただの騎士ではなく、副長を務めるほどの騎士だった。だから、多少筋力が落ちたとはいえ、最近は再びトレーニングを始めているから、体力は彼と初めて身体を繋げた時より戻ってきているはずだった。なのに、彼とのセックスの後はなぜか力が入らない。

「まあ、剣技とセックスは使う場所が違うからな」

「確かにそうですが……」

「お前は今のままでいい。俺に守られていてくれ」

「……」

 彼はいつもそう言って頭を撫でてくれる。夫として頼りがいはあるが、男として、元騎士としては情けない気持ちになった。
 彼は私からリオスでの生活全てを奪ったが、代わりにレガラドでは不自由のないよう全てをくれる。この国での居場所、上質な衣装や食事、身の回りのモノ……そして、私には受け止めきれないほどの愛。私は彼に、何ができるだろう。何を与えてあげられるのだろう。少し考えてみたが、彼はその地位と実績から、私が何か与えなくても自分で手に入れてしまうだろう。そんな考えしか浮かばなかった。

『ここ、舐めてあげんの』

 すると、以前、彼の部下であるモリーから聞いた、情事に関する言葉を思い出した。あまり考えたくはなかったが、今までの傾向から、彼が私からのプレゼントのようなもので喜ぶモノは……恥ずかしい事に、情事に関する事しか思いつかなかった。
 モリーに聞いた話だと、普通のカップルは、セックスの際、受け入れる方が攻める方のペニスを舐めるらしい。でも、私は舐めてもらうばかりで、彼のモノを舐めた事がなかった。というか、どう舐めたらいいのだろう。彼のは大きくて、口に入れるのは難しそうだ。思わず彼の股間をじっと見つめてしまうと、彼は私の視線に気づいたようだ。笑顔で私の上に乗ってきた。

「何だ? まだ足りないのか? お望みならばヤッてやろう」

「ち、違っ……」

「でも、俺の股間を見ていただろう?」

「違うんです! 違うんです……!」

「リノ、それでいい。俺の前でだけは、もっと積極的になってくれ」

「だから違うって……ああああ!!」

 ようやく解放されたと思っていた私の尻の穴に、彼のペニスがズブリと突き刺さった。その途端に身体が歓喜に湧き、彼をたやすく受け入れてしまう。たぶん、番効果なのだろう。私の意思とは裏腹に、私の身体は従順に彼のモノを味わい尽くした。「次はどんな性技を仕込もうか」などという、彼の楽しそうな言葉は、聞こえないふりをした。



 ◇



「では、行ってくる」

「はい、お気をつけて」

 それからしばらく経ったある日の事。名残惜しそうな彼は、私にキスを落としてようやく今日の任務へと向かった。

「……よし。アンナさん、ユアンが出かけました。彼に連絡は……」

「はい。すでにお越しになっております。ですが、本当にラミレス様がお帰りになる時刻まで、という約束ですので、ご了承くださいませ」

「分かっています。もし、ユアンがあなたを罰するような事があれば、私が盾になります。そこはご安心を」

「……はい」

 私は使用人の一人である、アンナという女性に頼み事をしていた。彼女は使用人の中でも優秀で、ユアンに一目置かれた存在だった。彼が留守の際は、私のそばにはいつも彼女がいる。私に誰かが近づこうものなら怒り狂う彼にしては珍しい事だ。だから、彼女なら大丈夫だと確信し、協力してもらう事にした。何を協力してもらうのかというと、私は先日出会った、モリーに会う約束をしていた。場所はこの部屋ではなく、アンナさんの部屋だ。そこならいつユアンが帰ってきても自分の部屋に戻れるだろうから。
 なぜ彼女の部屋を使う事が可能なのか? それは本当に偶然だったのだが、彼女がリオス時代からの私のファンだった……という事が判明したからだ。



 ある日、ユアンが部屋を出て行った後、着替えようと思ったら上着がなかった。だから、彼が片付けるように頼んだのかと思い、彼女に聞こうとした。彼女を探すと、ちょうどテーブルを拭いていた所だった。これはよく見る光景だったが、何やら胸元から写真を取り出し、それを見ながらぶつぶつと何かを唱えているのが聞こえてきた。

『アンナさ……』

『……好きな二人が結婚した。私の目に狂いはなかった……神よ、私を使用人として優秀に育ててくださった事に感謝します……まさか、……様が、……なるなんて……うううっ……』

 彼女はなぜか泣いていた。だが、肝心な所は聞こえなかった。何があったのだろうか。
 まさか、ユアンに厳しく叱られたのか? 辛すぎて、家族の写真を見て自分を慰めているのか? 
 私は心配になって、慌てて彼女に駆け寄り、彼女の腕を掴んだ。

『アンナさん! 大丈夫ですか!?』

『ひぃっ! 突然推しが目の前に!』

『おし?』

『はっ! も、申し訳ございません!』

 彼女は謝っているが、手に持っていた写真がヒラリと床に落ちた。私はそれが気になって、彼女が拾う前にすぐさま手に取った。

『これは……?』

『ああああ終わった……』

 彼女は顔を両手で覆って泣き崩れた。写真を見ると、私のリオス時代の姿が写っている。

『アンナさん、これは?』

『……実は私、リノ様がリオスにいらっしゃった頃からのファンなのです』

『は?』

『その美貌と美しさ、気高く美しいお姿。リオスは敵ではございましたが、リノ様のお姿を初めて拝見しました時からのファンなのです』

『ファン? お会いした事はないはずですが……』

 私が彼女に会ったのはレガラドに来てからで、リオスにいた頃に会った事はない。なぜ知っているのだろう。

『その、内緒にしていただけますか?』

『はい』

『ラ、ラミレス様が、リノ様のお写真を眺めておいでの際に、偶然拝見いたしまして……私も一目見て落ちてしまったのです』

『写真? 私の写真をユアンが持っているのですか?』

『はっ! これ以上言うとラミレス様に殺されますので……!!』

『そ、そうですか、申し訳ございません……』

 彼女は縋りつくように私に訴えてきた。彼が使用人をどんな扱いでいるのか気になりすぎる。気になる所ではあるが、いつかこれをネタにして何か協力してもらえるかもしれない。そう思い、それ以上、追及するのをやめた。

『では、この写真はお返ししますから、いつか私が頼み事をしたら、協力していただけますか?』

『は、はい』

『ありがとうございます。楽しみにしておりますね?』



 ……というわけで、現在に至る。思い出に浸っている間に準備が整ったようだ。

「ではアンナさん、お願いいたします。他の方も知らなかった振りをしてください」

「分かりました。ではリノ様、こちらへ……」

 私は彼女の後について、広い廊下を歩いていった。ちなみに、念のためと、彼女が信頼を寄せているという使用人が私の後に二人ほどついてきていた。
 使用人の住むエリアは、私達が住むエリアと少し離れていた。

「こちらでございます。どうぞお入りくださいませ」

「ありがとうございます」

 彼女の部屋に入ると、ガタンッと音を立てて何かが倒れる音がした。そして、元気いっぱいな聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あっ! 久しぶり!!」

 それはモリーの声だった。以前、騎士団に訪問した時に出会い、私に手を出そうとして未遂に終わった男だ。

『リノ様、本当に申し訳ございませんでした』

『……申し訳ございませんでした』

 初めて出会った日の数日後、彼は憔悴しきった様子で彼の夫のカウイと共に謝罪に訪れた。その顔は整っていたはずだが、頬が赤く腫れていて、完全に殴られた痕だった。

『その頬はどうされたのですか? まさか、カウイ殿が?』

『いえ、これは……ラ……』

『わー! リノ様! お気になさらないでください! 自分で転んで頬を強く打ったのです!』

 モリーは何かを話そうとしたが、慌てた様子でカウイ殿が必死に止めた。言ってはいけないモノらしい。

『ユアン』

『本当だ。訓練中にケガをした』

 ユアンに視線を向けてみると、彼の目線はモリーに向かい、なぜか蔑むような視線を送っていた。私が襲われたのを根に持っていたのかもしれない。
 私はそれ以上追及する事はできなかったが、それ以来、モリーとカウイ殿が一緒にいるのをよく目にするようになったと、ユアンから聞いた。彼の話では、モリーは改心して、カウイ殿一筋になったらしい。騎士団の他の人間と関係を持つ事もなくなったそうだ。
 私がこうしてモリーと二人で話すのは、あの謝罪の日以来だ。彼は目を輝かせ、私に話しかけてきた。

「あの、何か聞きたい事があるって話だけど……」

「はい。その前に、あの時のケガはもう大丈夫なのですか?」

「あの時……ああ、謝りに行った時のか。頬はすぐ治ったよ!」

「頬は?」

「あ! 何でもない!」

 彼は慌てて首を振り、口笛を吹いて知らないふりをした。この様子から察するに、他にもケガをしていたようだ。でも、彼が話したくないなら無理に聞いても嫌な気分になるだろう。今日は他に聞きたい事があるし、私は問い詰めたい気持ちを抑えるのに苦労した。

「あなたが話したくないのならば、無理には聞きません。本題に入ってもよろしいでしょうか? あ、アンナさん達はここで下がっていてください」

「承知いたしました」

 私はアンナさんに下がるように命じると、彼……モリーの目をまっすぐに見つめた。

「な、何? 聞きたい事って」

「笑わないと約束してくださいますか?」

「うん」

 彼は私の真剣な様子に心打たれたのか、先ほどまでのヘラヘラとした態度を変え、私と同じように視線を合わせてきた。

「そ、その……ユアンの事で、相談したい事があるのです」

「ラミレス様の?」

「はい、あの、ユアンは、ほぼ毎日、私を愛してくださるのですが、私からも何かできないかと悩んでいるのです」

「は? 惚気?」

「惚気ではございません! 相談です!」

 私が決死の覚悟で相談内容を口にすると、彼はポカンと口を開けて私を見ていた。さらに、惚気だと言ってきた。私は惚気たつもりはない。きちんと相談したつもりだったのだが、彼には伝わらなかったようだ。

「いや、惚気だよ。ほぼ毎日愛してくださる? 毎日ヤッてるって事だよね? 惚気以外の何でもないっつーの!」

「で、でも、私から誘っているわけではございません! ユアンが、私が寝ている間に勝手に入れてくるのです!」

「はい出た天然~! 自分から誘わなくても相手から来てくれるってめっちゃ楽じゃんか! ってか、ラミレス様って相手の意識なくてもヤる人なんだね……」

 私のどの言葉が天然だったのか謎すぎるが、彼はニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべながら聞いていた。これ以上話さない方がいいだろうか。でも、まだ肝心な事を聞いていない。私はさらに決意を固め、彼に聞いてみる事にした。

「それで、相談なのですが……以前、あなたは相手が喜ぶ方法のような事を話しておりましたが、その、ぺニスを舐める……と言っていたような気がして」

「あ、フェラの事? 何、ラミレス様にフェラしたいの?」

「ふぇら? その行為はふぇら、というのですか?」

「……あんた、フェラって単語も知らないって……え? 騎士団て男ばっかだよね? よく今まで生きてきて無事だったね!?」

「リオスの騎士団ではそのような会話に混ざった事がなくて……」

「でもさ、下ネタとかにならなかったの?」

「私にはみんな話しては来なかったのです。天然記念物などと言って」

「ぶっ……なるほど。無垢ってのが分かってたから面白かったんだよ、きっと」

「そ、そうなのでしょうか……」

「でもさ、今はラミレス様の奥さんなんだし、リオスの事は忘れなよ。で、フェラの事だっけ?」

「あ、はい。ユアンのぺニスは大きいので、どのようにすればいいのか分からなくて……」

「んー、咥えるのが難しかったら舐めればいいんじゃない?」

「咥える? ふぇらというのは咥える事を指すのですか?」

「い、いや、咥えたり、舐めたり、しゃぶったり、ぺニスを弄るの全般?」

「しゃぶる? そう、ですか……それは、普通の夫婦の間では当たり前なのでしょうか?」

「少なくとも、オレとカウイとの間では普通だねーめちゃくちゃ喜んでくれるし、いつものセックスより熱い夜を過ごせると言うかさ」

「……」

 そうか。そうなのか。一般の夫婦の間では当たり前なのか。
 じゃあ、私は今までの半年間、ユアンを満足させてあげていなかったという事だ。衝撃の事実に一気にテンションが下がっていく。
 私の様子を目にしたモリーは、慌てて慰めてきた。

「あ! 大丈夫だよ! あんたとラミレス様は特別って言うか……あんたが何もしなくても、ラミレス様は満足してると思うよ?」

「……どうしてそう思うのですか?」

「だって、初めて会った日もびびったけどさ、ラミレス様の執着半端ないもん。今日だって見えてるし」

「何がですか?」

「キスマーク。首輪で絶妙に隠れない場所に何ヵ所もついてる。それってさ、俺のモノに手を出すなって牽制だと思うよ」

「えっ……隠れていなかったのですか!?」

「隠れてないよ。ほら」

 モリーはポケットから取り出した小さな鏡を私に向けた。そこには、首輪から少しはみ出した真っ赤なキスマークが確認できた。

「そんな……今朝、ちゃんと見て支度してきたのに……」

 朝、着替えて首輪をする時、ユアンにつけられた痕が見えないようにしっかり固定してきたはずだった。なのに、これでは丸見えだ。首輪を変えてもらった方がいいだろうか。

「首輪を変えてもらった方がいいでしょうか……」

「いやー、ラミレス様がうんて言わないと思うけど……」

「では、首のあたりが隠れる服が欲しいと頼もうと思います……」

「それが無難だね。大変だよねあんたも」

「……そう、でしょうか?」

「ま、分かってないならいいんじゃない? 今まで疑問を持ってないならさ」

「疑問?」

「この話は終わり! で、フェラの事、教えてあげるよ」

 モリーは何が何やら分かっていない私を置いてきぼりにして、最初の話に戻った。何の疑問か気になる所ではあるが、今日の本題はそれなのだ。諦めて聞く事にした。

「んーとね、フェラは……あ、これ使おうかな」

 彼はテーブルの上に置かれていた、トールという名前の果物を手に取った。これは食後のデザートとして人気のもので、十センチ程の棒状の甘くて美味しい果物だ。

「これ、半分皮を剥くだろ? そしたら、咥えてみてよ」

「……こう、れふか?」

「やば……」

 私はモリーに言われるままに咥えて見たが、咥えているせいで上手く話せなかった。それに対して「ヤバい」とは失礼な言葉だ。私は抗議をした。

「言われたからやったのに、ヤバいとは失礼な方ですね」

「あ、違う違う! ヤバいってのは失礼な意味じゃなくて、エロいって意味」

「は?」

「うーん……あんた、ちゃんとフェラできなくても、先っちょ咥えてあげるだけで舐めなくてもラミレス様は喜んでくれると思うよ?」

「で、でも、私は知りたいのです!」

「じゃあ、オレのやる事、真似してみて?」

 彼はこちらに上目遣いをしながら、トールの外側を舌でゆっくりと上下に舐めた。時折、ジュルリと音がして、吸いながら舐めるという器用な事をしていた。私にできるだろうか。

「はい、あんたの番」

「う……はい……んむ、ん……」

 私は彼がやった通りに真似をしてみた。チラリと彼を見てみると、なぜか彼は真っ赤な顔をして顔を覆っていた。

「ど、どうされらのれふは?」

 私はトール咥えたまま聞いてしまった。行儀が悪いと感じてすぐトールを口から離したが、彼は頭を抱えてブツブツと呟いた。

「ヤバい……無自覚のエロモンスターになってる……ラミレス様……こんなに開発したのか……」

「あの、何かダメな所があるのでしょうか……」

「いえ、あんたは何か口に入れるだけでエロいって分かりました」

「は?」

「ラミレス様、あんたと食事する時ってさ、あんたの事見てない?」

「……そういえば……やたらと視線を感じますが……」

「だよねー! 食事するだけでエロいんだもん! そりゃ毎日しちゃうよね!!」

「い、意味が……」

「あんたはそのままで大丈夫。もし、セックスの時にさっきの技を使う時は、上目遣いを忘れずに」

「……はい。私は上手くできたのでしょうか?」

「大丈夫! オレが保証する!」

 彼はバンバンと私の肩を叩いて励ましてきた。意味が分からない。

「いつでも何かあったら聞いてよ! 力になるからさ!」

「はい。この国で同じオメガ、それも私とユアンの関係をよく知っているのはあなただけなので……これからも頼りにさせていただきます」

「……」

「どうされましたか?」

 彼は不思議と黙ってしまった。頼りにされるのは嫌だったのだろうか。すると、彼はボロボロと涙を流し始めた。

「大丈夫ですか!?」

「お、オレ、こんなんだし、頼りにされた事なかったから嬉しい……」

「そ、そうですか」

「オレ、物心ついた時から親がいなかったから、世間知らずだったし、騎士としても中途半端だし……なあ、同じオメガとして、仲良くしてもいい……?」

「はい。私も、幼い頃に両親を亡くしましたので……同じオメガ同士、仲良くしましょう」

「ありがとう……また呼んでよ。ラミレス様には内緒でさ、剣技も教えて欲しいしさ」

「そうですね。剣技は得意ですし、あなたのように少し小柄な方でも有効な技もありますので、いつか教えます。またよろしくお願いいたします」

「うん……」

 彼は目を真っ赤にしながら頷いた。どうやら私達は友達になったらしい。ユアンには言えないが、オメガの性質についてはオメガにしか分からない。色々話せる相手ができたのは嬉しかった。
 それからカウイ殿の愚痴やモリーの境遇を聞いた後、アンナさんの「ラミレス様が帰ってきます」との合図で解散となったが、次は来週会おうと約束した。


 そして、次に会う日はすぐに来た。楽しみがあると一週間とは早いものだ。ユアンにはバレていない……と思う。いつも通りに出ていったから。

「ではアンナさん、行きましょうか」

 先日と同じようにアンナさんについて行くと、今日は途中にある通路でモリーが待っていた。

「……久しぶり」

「あ……部屋で待っててくださってよろしかったのに……」

「早く会いたくなっちゃったんだ」

「あ、ありがとうございます」

 モリーはなぜかモジモジしている。初めて会った時とは大違いだ。部屋についたら何があったか詳しく聞こう。そう思っていると、彼は視線を私の後ろに向けたあと、顔をしかめた。

「あ!」

「え?」

「あーもしかして、こいつか? ラミレス様の女」

 すると、いきなり後ろから手が回ってきて、私の口を塞いだ。

「……!?」

「あ、本当に別嬪さんだ。噂は本当だったんだな」

「おい! やめろ! ラミレス様に殺されるぞ!」

 知らない誰かに後ろから覗き込むように顔を見られた。モリーは必死に声を上げているが、知っている人なのだろうか。だが、急に口を塞ぐのは良くない。私は両手が空いている事を利用して、誰だか分からない後ろの人間の腹を肘で強く打った。すると、呻き声と共に口から手が離れた。

「ぐぇっ、てめえ、どこにこんな力が……」

「いきなり失礼な事をしてきたのはそちらでしょう?」

 謎の男から距離を取り、モリーとアンナさん達を庇うように盾になると、男は私を上から下までじっくりと眺めた。

「ふうん……いいねえ気の強い奴を組み敷くのは好きだ。おい! 捕まえろ!」

「はい!」

 すると、どこに隠れていたのか、まわりにわらわらと男の仲間らしき男達が現れ、私達を囲んだ。

「くっ……」

 私一人ならなんとか逃げられる。でも、今はモリーとアンナさん達使用人が一緒だ。この人数を庇いきれない。そう考えている間に私達は拘束され、口を塞がれた瞬間、意識が遠のいた。

「リノ様……リノ様だけは、手を出したら……ダメ……」

 私が意識を失う前に聞いたのは、同じく意識を失う前の、モリーの悲痛な呟きだった。




 ◇



 目が覚めると、布で猿ぐつわをされ、手足を拘束されたまま冷たい床の上に転がされていた。隣にはモリーが同じように意識を失ったまま横たわっている。アンナさん達はいなかった。
 暗い中でまわりを見渡してみるが、ここはどこかの部屋のようだが、使われてはいなさそうだった。どうにかして拘束された手足を解放できないかと動いていると、少しだけ拘束の紐が緩んできた。よし、と思った瞬間、部屋の扉が突然開いた。

「あ、起きたか。そろそろ薬が切れる頃だったからな」

 現れたのは先ほどの男と部下のような男達数人だった。ニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
 男は私の髪を掴み、顔が見えるように頭を起こした。

「……近くで見ると本当に美人だな」

「……」

 男に向かって睨んでみると、男はもう一度ニヤニヤと笑った。

「抵抗したら他の奴らがどうなるか分かっているのか?」

 男がそこまで言うと、モリーが目を覚ました。

「んーー! んーー!」

「あ、こっちも目を覚ましやがった。こっちもやるか」

 男はモリーの猿ぐつわを外した。すると、すぐにモリーの叫び声が響き渡った。

「お前……こんな事したらラミレス様に何されるか分かってんのか!?」

 モリーは男を知っているようだった。視線を送ってみると、モリーと目が合った。

「リノ様、こいつは最近騎士団に入ったばかりの奴で、最初は大人しかったんだけど、慣れてきたら図々しくなって……」
 モリーの私を呼ぶ言葉が「あんた」から「リノ様」に変わっている。ちょっと嬉しい。そんな事を考えている間にも、男達は何かを話し合っていた。

「ジーズ、俺達はモリーを……だからお前はラミレス様の……を……」

「そうだな。じゃあ、行こうか」

「!」

 奴らのリーダーはジーズというらしい。ジーズという男はいきなり私を肩に担いだかと思うと、スタスタと部屋の扉に向かって歩き出した。

「んーー! んーー!」

私は暴れて抵抗したが、拘束されていては何もできなかった。
 ドサッと乱暴に床に落とされ、腰から落ちた。だが、乱暴に扱われたせいで猿ぐつわが外れた。手足を拘束する布も緩んでいる。私は気づかれないようそれを外しながら、慎重に話をしてみる事にした。

「あ、あなた方は何をしたいのですか?」

「あ? 何だ口のが外れたのか。まあ、逃げられねえとは思うけどな」

 男はガハハハと下品な笑い声を上げ、私の顎に手をかけた。

「いやあ……ラミレス様の奥さんが綺麗だって話だから、どうにかして会えねえかって仲間と話しててな、そしたら偶然いたから、さらってみたんだよ」

「目的は……」

「あ? 美人がいるとなりゃ決まってんだろ? セックスだよセックス」

「なっ……! 私は夫がおります。あなたとするつもりは……」

「んなの分かってんだよ。だから、こうして無理やりさらったんだ」

 男は楽しそうに笑っている。自分の上司の妻に手を出したらどうなるか知らないのだろうか。怖くないのだろうか。

「……自分の、上司の妻に手を出すなど、騎士としてありえません」

「普通はな。俺らは普通じゃねーんだよ。今が楽しけりゃいい……終わったらどうせ辞めちまうんだ。あんたとあの小僧が黙ってれば問題ねえ」

「モリーはどうなっているのですか!? アンナさん達は……」

 そういえば、この部屋に来てから他の物音が聞こえない。モリーやアンナさん達の安否が気になった。
 すると、男は楽しそうに教えてくれる。

「ベータの女には興味ねえから置いてきた。あのオメガの小僧には、発情期を無理矢理起こす薬を使って仲間が楽しんでると思うぜ? 何てったって、発情期のオメガはかなりイイらしいからなあ」

「なっ……」

 アンナさん達はここに来ていないらしい。それには安心したが、モリーはまずい。早く助けなくてはと焦っていると、いきなり袖を捲られ、プスリと何かを刺された。

「何をした!?」

「はははっ! お前にも打ってやったよ。発情期促進剤。楽しみだなあ。発情期のオメガを抱くのが夢だったんだよ」

「な……」

 私の身体から一気に血の気が引いた。この場で発情期になっては逃げられるものも逃げられない。注入されたモノが本当に発情期促進剤だとしても、即効性ではないはずだ。私はそれを信じ、手足に絡まった布を一気に引きちぎり、彼の腰元に吊るしてあった剣を素早く一気に引き抜いた。そして、男の喉元に突きつけた。

「何だと!?」

「お前達の好きなようにはさせない」

 私は剣を突きつけたまま、そばにあった椅子を持ち上げ、男の顔に一気に叩きつけた。頭に衝撃を受けた男は視線を泳がせ、その場に崩れ落ちる。

「どこに、そんな……ちから、が……」

「これでも私は元騎士だ。甘く見られたものだな……」

 今度は男の頭に椅子を叩きつけた。男は意識を失い、微動だにしなくなった。何度か揺すってみたが、動く様子はない。これならしばらくは平気だろう。

「処罰は……ユアンに任せるか。モリーを助けなくては」

 私は男を置いて、剣を持ったまますぐに隣の部屋へと駆け込んだ。すると、モリーの叫び声が聞こえてきた。

「やめろ!! 入れんな気持ち悪い!! 誰か助けて!!」

 声のする方へ視線を送ると、彼は三人の男に組み敷かれていた。下半身の衣服は剥ぎ取られ、一人の男が今すぐにでもモリーの中に挿入しようとしていた。他の二人も下半身を露出していて、モリーに無理矢理触らせていた。
 私は必死だった。この国では大人しくしていようと思っていたが、薬を使ってまで人を犯そうとする人間に、大事な友人と呼べる存在を汚されそうになり、心から憎しみが湧いた。
 私は足音を立てないように素早くモリーの元へと向かうと、まずはモリーに挿入しようとしている男の髪を後ろから掴み、先ほど奪った剣で喉元を掻き切った。

「ぐあっ!!」

 一気に剣を引いたから深くまでいったはずだ。だが、絶妙に即死しない程度に力を抑えた。私が男の身体を後ろへと投げると、喉元から血を吹き出し、のたうち回りながらもがき苦しんでいた。
 モリーや男の仲間は呆然と私を見ている。突然の事に頭が追いつかないようだ。

「モリー、大丈夫か?」

「り、リノ、様……?」

「少し待ってろ。すぐ終わる」

「は、はい」

 私はすぐに、モリーに性器を触らせていた男の一人の肩に剣を突き刺した。

「ぐあああああ!!」

「お前達……絶対に許さない」

 私は剣を引き抜き、肩の傷を押さえようとした男の胸に剣を突き刺した。背中まで貫通したのを確認すると、力を入れて剣を引き抜く。すると、先ほどの男と同じように、傷口から大量の血を吹き出した男は、目を見開いたまま絶命した。
 あたりは血まみれになってしまったが、早くモリーを助けなければ。残っているもう一人も殺そうと剣を向けると、モリーのそばには誰もいなかった。

「……もう一人は?」

「う、後ろ……!」

「クッ……」

 私はモリーの言葉を聞き、後ろに向かって剣を薙ぎ払った。すると、私の手に誰かを切った感触が伝わってきた。もう一人の男だろう。剣についた血を払いながら後ろを振り返ると、胸のあたりを一直線に切られた男がうずくまっていた。傷が深いから、放っておいても死ぬだろう。

「モリー、大丈夫か?」

「え? 本人? だよね?」

 モリーは私の様子に驚いていたが、私は私だ。そうだと返事をしようとすると、突然、私の身体が熱くなってきた。

「う、あ……?」

 心臓がバクバクして、力が入らなくなる。この感覚には覚えがある。そう、発情期だ。今頃薬が効いてきたらしい。

「クソッ……もうすぐなのに……!」

 私はその場にうずくまってしまった。力が入らない。これではモリーを連れていけない。どうにかして身体を動かそうとしたが、どう頑張っても無理だった。

「モリー……あいつが、目が覚めないうちに、早く、逃げ……」

「リノ様……!!」

 モリーはすぐに私のそばに来てくれたが、私と同じように息が荒い。発情期促進剤が効いているのだろう。

「ど、どうしたら……」

 このままでは、逃げる前にあのジーズという男が目を覚ましてしまう。あの時、命を奪っておくべきだったか。
 この国に来てから甘くなってしまった自分に後悔していると、キィ……と音を立てて後ろの扉が開いた。助けが来たかと期待してしまったが、聞こえてきたのは、聞きたくはない声だった。

「あー……やっと効いたのか。間に合って良かったぜ」

 それはジーズという男の声だった。

「うわっ、ひでえなこれは……お前がやった……んだよな。俺の剣で」

 コツコツと男の靴音が近づいてくる。後ろを振り返ろうとする前に、誰かが私の髪を掴み、頭を持ち上げた。

「ぐっ……」

「てめえ、よくもやってくれたな! 俺達の仲間を!」

 髪を掴んだのは男ではなかった。どこから現れたのか知らないが、さっきまではいなかった男の仲間のようだった。
 いつもの私なら簡単に振りほどけるはずだが、力が入らない今は抵抗する事すらできない。悔しさのせいで少しだけ涙を滲ませてしまうと、髪を掴んだ男がからかってきた。

「仲間をこんな風にしといて涙か。ありえねえな」

 ジーズという男の手が私の首に回り、いきなり絞めてくる。急な苦しさに戸惑っていると、モリーが叫びながらジーズの手を外そうと必死になった。

「リノ様を離せ!!」

「うるせえ弱い奴は黙ってろ! おい、早くこいつを!」

「ああ!」

 ジーズは他にもいたらしい仲間に命令した。仲間はモリーを引き剥がすと、手足を縛り、私が見える位置に転がした。

「ほら、お前が慕ってるリノ様とやらがどんな目に遭うか見てろ」

「やめろ! オレが代わりになる! だから、リノ様は……リノ様だけはダメなんだ!」

 モリーは必死に訴えているが、ようやくカウイ殿一筋になったのに、また嫌な思いをさせたくはない。なら、何をされるか知らないが、私が犠牲になった方がいいだろう。拷問されるなら我慢できるから。そう思った。

「モリー……私は、大丈夫……お前が、犠牲になる事はない……私、が……」

「ほら、リノ様もこう言ってるし、お前は黙って見てろ。おい、口を開けさせろ」

「ああ」

 ジーズは私の髪を掴んだ男に私の口を開けさせるよう命じた。後ろから顔を掴まれ、無理矢理口をこじ開けられて固定された。一体何をされるのだろう。歯を抜かれるのか? よくある拷問の一つだし、そのくらいの痛みなら耐えられる……そんな事を思っていると、なぜか目の前にいるジーズは穿いていたズボンのベルトを緩め、下着を見せてきたと思ったら、すぐに自分のぺニスを取り出した。

「……」

 それなりに大きなぺニスをジーズが自分で少ししごくと、なぜかすぐに大きくなった。そして、そのぺニスで私の頬を叩いてきた。

「久しぶりに美人を犯せるからコイツも喜んでるぜ? 楽しもうな?」

「へ……」

 まさか、まさか、私とこのままセックスしようと言うのか?
 自分の置かれている立場にサアア……と血の気が引いてくる。私はユアンとしかしないと誓ったのに、こんな所で、こんな奴に犯されるのか。
 衝撃すぎて言葉を失っていると、私の口に男が自分のぺニスをねじ込んできた。いきなりの事に涙が滲む。

「ううっ……」

「あー……たまんねえ。やっぱりフェラは美人にされた方がいいな」

「おぇっ……」

 男のセリフと共に、ぺニスが喉奥まで入ってくる。吐き出したくても、顔を押さえられているせいで何もできない。しかも、ぺニスから出てくる苦い汁もまずいし気持ち悪い。というか、男はフェラと言っていなかったか。先日、モリーに教えてもらった行為がこれなのか。確かに、これは愛がなければできない行為だ。
 私の全ての初めてはユアンに捧げると誓ったのに、男に初めてのフェラを捧げてしまった。あまりのショックに涙が溢れてくる。だが、涙を流す私を見ながら、男は楽しそうに笑った。

「さっきまでの威勢はどうした? ああ……でも、泣いてる美人にフェラされるのはたまんねえな」

 完全に私が抵抗できないと分かっている男は、腰を前後に動かしてきた。

「うう、うう……」

「どうせラミレス様にもやってんだろ? ほら、もっと頑張れ」

 最初はゆっくりと、だが、確実に少しずつ腰を動かすスピードが速くなっている。私はたまらず歯を立ててしまった。すると、男のぺニスが口内から出ていった。

「ゲホッ……」

「痛っ……! てめえ! しっかりやれよ!」

「ぐ……」

 男は再び首を絞めてきた。首輪をしているから余計に痛いし苦しい。このまま殺されるかと思ったその時、男の仲間が残酷な言葉を吐いた。

「ジーズ、まだ殺すな。フェラができねえなら早く犯しちまおうぜ? こんな美人滅多にお目にかかれねえし」

「……そうだな。まだ殺されねえ事に感謝しろよ? おい、寝かせて押さえてろ」

「分かった」

 男は私の耳元でそう囁くと、すぐに仲間に命令した。仲間の男が私の身体を倒し、私が動けないように腕を押さえたのを確認すると、私のスラックスと下着を脱がせてしまった。

「濡れて……はねえな。本当に促進剤効いてんのか?」

 男は私の尻の穴に指を入れて確認した。ユアンとする時はこの時点で濡れているが、今は乾いたままだった。当たり前だ。好きでもない男に犯されそうになっているのだから。

「リノ様! お願い! リノ様だけは助けて!」

「うるせえ黙れ!」

 ゴッ……!

 近くにいるモリーの叫び声と、それを抑制させようとしたのか殴ったような音が聞こえてくる。

「リノ……さま……逃げて……お願い……カウイ……ラミレス様……助けて……」

「モリー……!」

 弱々しい声で助けを乞うモリーの声が聞こえる。意識を失いそうになっているのだろう。何もできない自分が悔しかった。

「おい、こっちに集中しろよ。何てったってこれから頑張ってもらうんだからよ」

 バシッ。

 目の前の男は私の頬を強い力で平手打ちした。いきなりの衝撃にめまいがする。

「全然濡れねえな……まあいっか。こっちが良ければ」

 男はぺニスを私の穴にあてがった。どうやらこのまま挿れようとしているようだ。ぺニスが私の穴をグッ……と押すと、今まで経験した事のない気持ち悪さが私を襲った。

「おぇっ……」

 私はあまりの気持ち悪さに吐いてしまった。私を押さえている男の腕に吐瀉物がかかり、男は「うわっ」と手を離した。だが、それでも身体は動かない。逃げられない自分が悔しい。

「汚ねえなあ。おい、ちゃんと押さえてろ! 俺が終わったらお前の番なんだから」

「わ、悪い」

 だが、ジーズは汚いと言いながらも体勢を直し、私の膝に手をかけて足を開くと、再びぺニスを穴にあてがった。もうダメだ。抵抗できない。

「ああ……ユアン……ごめんなさい……約束、守れなかった……」

 涙が溢れ、謝罪の言葉が漏れる。私が諦めたと悟った男は笑っていた。

「あはははっ! 世界最強の男の番を犯せるなんて最高だなあ。じゃ、頑張ろうな?」

「ユアン……ごめんなさい……」

 男は腰を進めようと私の中にぺニスの先を潜り込ませた。気持ち悪さに拍車がかかる。

「うぐ……」

「うわ、すげ……吸いついてくる……一気に挿れちまうか」

 男は何やら呟くと、一気に挿れようとするのか一度ぺニスを抜き、再び穴にぺニスの先をねじ込んだ。

「じゃ、行くぞ?」

 ああ……全部入ってしまう。絶望に打ちひしがれ、目をつむって耐えようと、強く閉じた。
 ……が、いつまで経っても奥までぺニスが入る様子はなかった。代わりに聞こえてきたのは、男の絶叫だった。

「ぎゃあああああああ!!!」

 声と共にぺニスが抜け、私を拘束していた手も外れた。不思議に思って目を開けると、なぜか、ジーズの右腕がなくなっていて、傷口からは血が吹き出ていた。

「な、なに、なに……?」

 男は自分の腕を押さえながらも、自分に何が起こっているのか理解できないようだった。男の仲間もガタガタと震えていて、ある一点を指差しながら見つめている。

「なに、が……?」

 訳が分からない。モリーがやったのか? でも、彼は拘束されていて、動けないはずだ。すると、地の底を這うような、私でも恐怖を感じる低い声が聞こえてきた。

「……よくも……やってくれたな……」

 それはユアンの声だった。安心したと同時に、どうしてここが分かったのだろうという思いが私の頭の中を駆けめぐる。

「そいつは死なないように手当てしろ。後で拷問する。お前はモリーの保護を。他は死体を運べ」

「「はっ!」」

 カウイ殿の声も聞こえる。どうやら複数の部下が一緒に来ているらしい。

「リノ!!」

 すると、ユアンは私の名前を叫び、勢いよく走ってくると、私のそばで動けなくなっていたジーズの仲間の首を剣ではねた。ゴトン……と音を立て、彼の首は身体から離されて床に落ちた。先ほどまであった命が消えた。一瞬だった。
 ユアンは男の死体の始末を部下に命令すると、露出していた私の下半身を来ていた軍服で隠し、抱きしめてくれた。

「リノ!! すまない……俺とした事が、場所を特定するのに時間がかかった……すまない……! 辛い思いをさせた……」

「ユアン……ごめんなさい……私は、あいつに……」

「……どこまでされた。頬が赤くなっている」

 その声には感情がなかった。いつもと違う様子に戸惑いながらも、私は少しずつ彼に話す。

「発情期の、促進剤を打たれて……動けなくなった所で、口にぺニスを挿れられました……うまく、できなくて、頬を打たれ……」

 そこまで話した途端、彼の顔が悪鬼と化した。だが、彼はさらに私に話すよう促す。

「……次は?」

「ぺ、ぺニスを、入れられました……先だけ……今も、身体が、動かなくて……」

 彼の私を抱きしめる手に力が入る。痛いくらいだったが、今の私にはこのくらいがちょうど良かった。嫌でも彼の愛情を感じられたから。

「ユアン……ごめんなさい……私は、初めては全てあなたに捧げると誓ったのに……初めての、ぺニスを舐めるという行為を……あいつに……」

 そこまで言うと、悔しさで涙が溢れてくる。私の様子を見た彼は、もう一度私の身体をぎゅっと抱きしめ、耳元で恐ろしい言葉を吐いた。

「リノ、お前の口の中を、神聖な場所を汚したモノは排除する。あいつは拷問にかけて少しずつ殺していくから安心してくれ」

「排除……?」

「ああ。あいつの仲間は全員殺した。騎士団の中にもまだ仲間が残っているから、そいつらも全員殺す。主犯のあいつは一番の苦しみを与えた上でこの世から抹殺する」

「……」

「俺の女神を汚した者は全員許さない」

「ユアン……」

「ああ、リノ……辛かっただろう?」

「はい……モリーは……」

「カウイが保護した。安心してくれ」

「はい……」

 ユアンは男達の処罰を淡々と伝えて来たが、とりあえず全員殺されるのは確定しているらしい。この国の拷問がどんなモノかはまだ知らない。ただ、彼の口ぶりからは想像を絶するモノのようだ。他にも聞きたい事はあったが、少し尻の穴が痛い気がする。濡れていないのに挿れられたからだろうか。

「ユアン……お尻が、痛い……」

「……見せろ」

 彼は私の訴えを聞き、まわりに見えないように私の体勢を変え、尻たぶを割り開いた。そして、尻の穴を指でなぞった。ピリッとした痛みが私を襲う。乾いた所に無理矢理挿れたから、少し切れているようだ。

「うっ……」

「クソッ、切れてる。リノ、すぐに医師に見せる。少しだけ我慢してくれ」

「はい……」

 彼は私にキスを落とすと、軽々と私の身体を持ち上げた。どうやらここから連れ出してくれるようだ。私は彼の腕の中にいる事で安心したのか、そのまま意識を失ってしまった。




 ◇



 目が覚めると、ユアンが私の手を握ったまま眠っていた。

「私、は……」

「リノ! 目が覚めたか!」

 彼は私の声にすぐ反応した。

「ユアン……私は……」

「もう大丈夫だ。心配ない」

「でも、私は……あいつに……」

「何をされたのかはモリーに詳しく聞いた。発情期促進剤の効果を打ち消す薬を投与したから大丈夫だ」

「……」

「リノ?」

「申し訳ございません……私が、モリーにお聞きしたい事があると誘ったから、モリーまであのような目に……」

 私が無知なせいで誘拐され、モリーまで危険な目に遭わせた。私も襲われたが、自業自得だ。それは間違いない。
 自分が招いた事態に落ち込んでいると、ユアンが私の頬を伝う涙を指で拭った。気づかないうちに涙がこぼれていたらしい。

「リノ、辛かっただろう……」

「私が、私が悪いのです。私は、汚された私は、もうあなたの妻である資格などございません……私は汚い……どうか、離縁を……」

「リノ、気にするなと言っただろう? モリーも自分が危ない時にお前が助けてくれたと感謝していた。お前は悪くない」

「でも……!」

「なら、モリーに会わせよう」

「え?」

 すると、彼の言葉を待っていたかのように扉が開かれ、モリーとカウイ殿が現れた。モリーは私を見るなり、走ってベッドのそばまでやってきた。

「リノ様! ごめんなさい! オレが、弱かったから、リノ様を危険な目に……」

「モリー……」

「オレが襲われていた時、あなたは助けてくださいました。びっくりしたけど、凄く強くて……あの姿は一生忘れません」

「……」

「主犯の奴はラミレス様が拷問にかけています。他の仲間も全員この世にいないのです。オレはあなたのせいで誘拐されたと思っていません。オレが、我慢できなくて迎えに来たから……」

「……でも、私は……あの男に、初めての、行為を……」

「あんな無理矢理なのはカウントしなくていいんです。リノ様は抵抗できなかったのですから……挿れられたのも、全部じゃないんです。あんなのただの接触事故です」

 モリーは私の手を握りながら訴えてきた。ユアンはそれに対して何も言わない。モリーの言葉を信じろという事だろうか。
 でも、全部入ってなかったとはいえ、私がユアン以外の男に犯されたのは事実なのだ。国の重要人物の番として、危機感が足りなかったと言われても仕方のない事だ。

「……ユアンはこの国の重要人物です。その番が、こんなに簡単にさらわれて、襲われるなど、危機感が足りないと言われても……仕方のない事です……私は、まだこの国の事を何も知らない……ユアンにふさわしくないのです」

「なら、誰ならふさわしいのですか?」

「え?」

「オレは、あなたの強さを目の当たりにしました。ラミレス様の執着も見ています。あなた以上にラミレス様にふさわしい方を知りません」

「……」

「自信を持ってください。あなたに足りないのは性の知識だけで、他は誰もあなたに敵いません。ラミレス様と番になりたいと思っていた奴らも、あなたが番になったと知って、一斉に手を引きました。それはあなたの地位と、強さを自覚していて敵わないと悟ったからです。自信を持ってください」

「モリー! 一言余計だ!」

「はっ! も、申し訳ございません! でも、性の知識はラミレス様が教えれば大丈……」

「モリー!」

「ごめんってば!」

 モリーはカウイ殿に頭を小突かれていた。確かに性の知識は足りない自覚はあるが、私は自分が思っている以上にユアンにふさわしいのだろうか。

「ユアン……私は、あなたの隣にいてもよろしいのでしょうか……」

「当たり前だ。お前以外はありえない」

「……」

 私は汚い。

 みんなに何を言われても、その思いが頭から離れなかった。今も、あの男が触れた場所から身体の隅々まで、嫌な感覚が消えてはくれなかった。

 どうしたら、どうしたら。

 何も言えなくなって黙ってしまうと、ユアンが私の顎に手をかけ、いきなりキスをしてきた。

「ユアン?」

「汚いお前に触れた俺も汚いと思うか?」

「い、いいえ! あなたは汚くはな……」

「でも、自分は汚い……そう思っている」

「……はい」

「なら、ショック療法をしよう」

「え……」

「カウイとモリーは下がれ。これからリノに身体で分からせる」

「「は、はい!」」

 ユアンはいきなり二人を下がらせたあと、服を脱ぎながらベッドに乗り、私を押し倒した。

「……怖いか?」

「……いいえ」

「お前は俺の隣にいるのが正解だ。それを分からせる」

 彼は私の目をまっすぐに見ながらそう言った。いつもの甘い雰囲気ではなく、彼の目が笑っていないような気がするが、気のせいだろうか。私も彼の目をじっと見ていると、私の唇に彼の指が触れ、ボソリと小さな呟きが聞こえた。

「リノ、正直に答えて欲しい」

「はい」

「モリーには何の用で会っていた?」

「聞いてはいないのですか?」

「ああ」

 ここで隠してもすぐにバレるだろう。そう思った私は、素直に伝える事にした。

「あ、あなたが、何か喜ぶ事ができないかと思って、相談をしていたのです」

「相談?」

「はい。その、初めてモリーにお会いした時に……ふぇ、ふぇらという性技をお聞きしまして、やり方が分からず、教えてもらおうと……」

「フェ……」

 彼はポカンと口を開けていた。くだらないと思っているのだろうか。

「あなたやモリーには当たり前かもしれませんが、私は、知らなかったのです。そんな性技があるという事を……でも、詳しく教えてもらう前にさらわれて、あの男に……」

 私は申し訳なさに目を逸らしてしまった。だが、彼はいきなり私の身体を抱きしめてきた。彼の身体が震えているような気がするが、気のせいだろうか。

「ユアン?」

「リノ……モリーに会っていたのは俺のため、だったんだな?」

「は、はい」

「……あの男は、お前のここに、どこまで入れた?」

 彼は私の口の中に指を突っ込むと、今度は真顔で聞いてきた。モリーに聞いたのではなかったのか。だが、その真剣な表情を見たら、とてもじゃないけど「モリーに聞いたのでは?」と再び聞けなかった。私は、仕方なく口を開いた。

「……喉奥まで入れてきました。息ができなくて、苦しくて……凄く、気持ちが悪かった、です……」

「ふうん……では、他に触れられた場所は?」

「し、尻の穴を……」

「あいつのぺニスは、全部は入っていないんだな? 全部入っていたらもっと裂けていたはず」

「は、はい、先の、方、だけ……」

「分かった。ありがとうリノ。あいつの次の拷問が決まった」

「な、何を……」

 私が恐る恐る聞いてみると、またしても恐ろしいセリフが聞こえてきた。

「指を切り落とし、ぺニスも切断する。神聖なるお前に触れた罪は重い」

「ひっ……」

 私は聞いただけで身体がすくんでしまった。指なら聞いた事はあるが、ぺニスは聞いた事がない。自分のぺニスまで痛くなりそうな気がして、思わず股間を手で隠すと、彼は豪快に笑っていた。

「……俺が怖くなったか?」

「い、いいえ……リオスでも捕虜への拷問はよくある事でしたから……ただ、自分のぺニスまで痛くなった気がしたのです」

「あははは……それでこそ俺の妻だ。やはり俺の妻はお前しかいない」

「……」

「フェラ、が知りたいと言ったな?」

「はい」

「俺が教えてやろう」

 彼は私が着ていた夜着をくつろがせると、下着を脱がしてぺニスを取り出し、あっという間に口の中へ入れてしまった。突然の刺激にビクッとなったが、彼は気にせず、私のぺニスへ舌を這わせた。

「あ……」

「こうして、全体を舌で愛するんだ。先の方も敏感だから、舌で集中的に責めてもいい」

「ユアン……! ダメ……出ちゃう……!」

「出していい。お前のを飲みたい」

 そのセリフと共にチュ……と先を吸われ、勢いよく私の精が吐き出された。あまりの早さに顔を覆っていると、彼は嬉しそうに笑った。

「ああ……もう濡れてきた。あいつの時は乾いていたというのに、俺に対してはこれだけで濡れて……最高だ」

 彼は私の尻の穴に指を這わせた。濡れているせいで簡単に指が入り、クチュクチュと音が鳴る。

「痛いか?」

「いいえ……」

「なら、指を増やしてもいいか?」

「はい……」

 彼の指が二本、三本と増えていくにつれ、下半身から聞こえる水音が激しくなる。いつもならば、このまま指を抜かれたらすぐにぺニスが入ってくる。だが、今回だけはすぐに入れて欲しくなかった。

 指が抜かれて彼のぺニスが現れた瞬間、私は彼の腕を叩いた。

「ま、待って……」

「リノ?」

「私に、練習を、させてください……ふぇ、ふぇら、の……私の体験を、上書きして欲しいのです」

 彼は固まってしまった。でも、私の記憶のフェラはあいつのぺニスを口に入れたモノだけだ。忘れるにはユアンのぺニスを舐めるしかない。そう思った。
 はっ……と気を取り直した彼は、嬉しそうに私を抱きしめたあと、こう言った。

「リノ、大丈夫か……?」

「はい。あなたのぺニスを、舐めたいのです」

「……分かった。では、身体を起こして……」

 彼は私の身体を起こしたあと、自分の足をベッドに投げ出した。身体の中心にはすでに大きくなったぺニスがそそり立っている。

「リノ……こちらへ……」

「は、はい」

 あまりの景色に息を飲んでいると、彼が自分の前に座るように促した。

「無理ならすぐにやめてもいい。無理だけはしないでくれ」

「だ、大丈夫….失礼いたします……」

 私はゴクリと息を飲み、彼のぺニスを握った。彼のぺニスはドクドクと脈を打ち、血管が浮き出ていた。色も赤黒く、凶器に感じた。これがいつも自分の中に入っているとは信じ難い事実だったが、私は勇気を出して、彼のぺニスへ顔を近づけた。

「……ふ、」

「うぁ……」

 モリーに最初に聞いたように、先の方を咥えてみて、それからもう少し口内へ入れてみた。すると、頭上から呻き声が聞こえてきた。痛かったのだろうか。

「ら、らいろーふ、れふか?」

「うっ!」

 心配になって咥えたまま彼を見上げてみると、なぜか苦しそうな表情になったあと、私の口内へ彼の精液が勢いよく発射された。

「んんーー!?」

 突然の事に頭がついていかず、とりあえず口を離してしまったが、口内には彼の精液が残っていて、ゴクリとそれを飲み込んだ。苦かった。
 ……彼はこんなに早かっただろうか。今日は何かおかしいと思いながら彼を見ると、私を凝視したままゴクリと息を飲んでいた。

「あ、あの……」

「す、すまない。リノ……あまりの破壊力に出てしまった。もう一度……」

「はい」

 破壊力とは何だろう? と思いながらも、私は再び彼のぺニスを握り、今度は茎の部分を舌でなぞった。

「うっ……」

 彼は先ほど出したはずだが、ぺニスはもう大きくなっていて、ドクドクと脈を打っていた。回復の早さに驚きながらも何とか必死に舐めてみる。頭上から呻き声が何度も聞こえてきたから、上手くやれていると思いたい。

「ユアン……私は、上手くできていますか?」

「あ、ああ……最高の景色すぎて言葉が出ない」

「は、はあ」

 どうやら喜んでくれたようだ。彼の声は恍惚としていて、心から気持ちがいいと思っている様子だった。しばらくそのまま舐めていると、彼の指が私の頬に触れた。

「リノ……俺に跨がってくれ」

「……どういう風に?」

「俺の顔の上にお前の股間が来るように。俺もお前を舐めたい」

「え……」

 それは恥ずかしい体勢だと躊躇していると、彼は私の身体の向きを変え、自分の顔の上に私の股間が来るようにした。だが、私の目の前にも彼の股間がある。こんな体勢は初めてだ。

「普通の夫婦はこうして互いに舐め合うんだ」

「そ、そうですか……」

 彼は私のぺニスを弄り始めた。彼の言う事は本当なのだろう。私が無知すぎるせいで、夫婦として当たり前の事ができていなかった。申し訳なさが私を襲ったが、彼は気にしていないようだ。きっと、少しづつ教えるつもりだったのだろう。私は再び彼のぺニスへ舌を這わせ、愛撫し始めた。

「はあ、はあ……ああ、リノ……最高だ……」

 彼は愛おしそうに、私のぺニスを弄りながら尻の穴を舐め始めた。いつもより息が荒いのは気のせいだろうか。すると、彼がいきなり舌を穴に入れてきた。

「あっ……!?」

 私はペタンと尻を下げてしまった。私の股間が彼の顔に押しつけられた状態になってしまい、恥ずかしさで涙がにじむ。

「も、申し訳ございません!」

「いや、最高だ……このまま舐めさせてくれ」

「は……?」

 彼は気にせず穴を舐め始めた。苦しくなかったのだろうか。信じられない。

 彼の舌は先ほどよりも深く潜り込み、何度も何度も私の力を抜けさせた。私は彼のぺニスを掴んだまま何もできない状態が続き、息も絶え絶えとなった頃、彼はようやく精を放ってくれた。だが、その間に私が達したのは三回だ。彼よりも遥かに多い。このまま眠ってしまいたいと思ったが、彼が私を解放する事はなかった。

「リノ、これからお前を抱くのは俺だ。あの男の事は忘れろ」

「……はい」

 彼はようやく舐める行為をやめてくれたが、今度は私を組み敷き、足を大きく開いてぺニスを穴へあてがった。すでに私の穴は濡れていて、自分でも液体が穴から漏れているのが分かる。私は、これほどまでに彼を待っていたのだろうか。恥ずかしさにモジモジしていると、彼が問いかけてきた。

「……怖いか?」

「い、いいえ……あの男の時は怖かったのに、あなたとのセックスは……こんなに濡れているので、恥ずかしくなったのです」

「……」

「ユアン?」

 彼は顔を手で覆って何やらブツブツと呟いていた。どうしたのだろう。

「リノ……お前はどれだけ俺を喜ばせれば気が済むんだ?」

「へ? あああっ!」

 彼は嬉しそうに私の中へ入ってきた。穴の中がキュウ……と締まり、彼のぺニスを奥へ奥へと導くのが分かる。本能で彼を欲していたのかもしれない。でも、あの男の時は気持ち悪いだけだったが、ユアンは違う。もっと奥へ、もっと奥へと入れて欲しくて、気づけば自分で彼の腰へ足を絡めていた。

「リノ、リノッ」

「ユアン……私にはあなただけ……愛しています……忘れさせてください……」

「ああ……あいつは始末するから安心してくれ。お前の中、締まるっ……」

 彼はいつもよりも息が荒かった。やはり何か違うのだろうか。

「ユアン……息が、いつもと、違っ……」

「お前の中が、いつもより締まる……どこでこんな技を覚えた?」

「あ、あなたが教えたのでは……」

「……そうか、俺が……そうだな、俺がお前の身体をこんなに濡れやすくした……リノ、キスを……」

「ん……」

 彼は私に深いキスをしてきて、ぎゅっと抱きしめたかと思うと、繋がったまま私の身体を起こし、対面する形で私を膝の上に乗せてしまった。これでは私のぺニスと繋がった部分が丸見えだ。以前、後ろから座って繋がった事はあるが、対面は初めてだった。目の前に彼の顔があり、その目はギラギラと熱かった。

「……」

 ああ、彼は私を抱く時、こんな表情で抱いてくれるのか。私はどうだろう? 彼と同じようになっているだろうか。

「リノッ!」

「ああんっ!」

 ゆっくり考えたいのに、座っているせいかさっきよりも奥までぺニスが入ってくる。圧迫感と快楽に必死に耐えているのに、ユサユサと彼は私の身体を攻撃してきて、息が整わない。

「ユアン……苦し……」

「辛いか?」

「気持ち、よくて、苦し……」

「……っ、」

 私ら息も絶え絶えに訴えるが、訴えても彼の動きが激しくなるだけだった。腰を掴まれ、上下に激しく揺さぶられる。パンパンと肌と肌がぶつかり合う音と、私の喘ぎ声、そして彼の荒い息遣いだけが部屋に響いていた。

「リノ……俺のが入っている所を見せてくれ」

「え……」

 すると、突然彼は私の身体を少し後ろに倒し、結合部がよく見えるようにしてしまった。これでは丸見えで、ヒクヒクと彼を飲み込む穴の襞までしっかりと見えそうだった。

「ああ……リノッ、こんなに奥まで飲み込んで……奥まで入っているのが分かるか? 最高の景色だ……」

「ああっ! ユアンッ、やめて、恥ずかしい……!」

「リノ、愛しているよ。二度とあんな目には遭わせない……」

「私も、あなたでなきゃ、嫌です……」

「リノッ!」

「あああああっ!」

 私が発した言葉のあと、彼はガツガツと今までよりも大きく腰を動かし、根元までぺニスを飲み込ませた。そして、最奥で熱い感触があり、彼が精を放ったのだと分かった。

「……?」

 だが、いつまで経っても彼がぺニスを抜く気配はなかった。それどころか、私を膝に乗せて抱きしめたまま、グリグリと中に出したモノを穴の中へ馴染ませている。マーキングのようなモノだろうか。しかし、ちょっと苦しい。

「ユアン、苦しい……」

「すまない。もう一度出そうだ」

「え……」

 彼は再び何度か腰を動かすと、もう一度中に精を放った。底なしすぎてちょっと怖い。だが、そんな思いは繋がった部分から出てくる彼の精液で消えてしまった。こんな卑猥な光景を最高の景色だなんて、彼の頭はおかしいと思う。

「リノ、お前ももっと気持ちよくさせよう」

「わ、私は、もう……」

 私が拒否をしているというのに、彼は私のぺニスを扱き始めた。だが、もう何度も出しているから出るモノはないと思う……と、思ったのに、不思議な感覚が私を襲った。痛いような、気持ちがいいような、そんな感覚。

「ユアン、止めてください……何か、変な感覚が……」

 私がそう言った瞬間、彼の目が輝いた気がした。ヤバい事を言ってしまったと後悔しても遅かった。彼はさっきよりも手の動きを早くして、私のぺニスを扱きまくった。
 すると、不思議な感覚から「何か精液ではないモノが出る」という感覚に変わった。自分の中で焦りながら身体を離そうとしたが、私と彼はまだ繋がったままだ。離れる事などできなかった。

「ユアン! ダメ! 何かが……」

「出していい。ほら、俺が受け止める」

「嫌……っ!」

 ビシャッ……!

 私が叫んだと同時に、我慢できずに透明な何かがぺニスから出てしまった。臭いはしないし透明だが、漏らしてしまったのだろうか。

「も、もら、漏らし……うう~~……」

「リノ、これは尿じゃない。潮吹きというモノだ」

「し、潮……?」

 恥ずかしさに涙を流してユアンを叩いていると、彼は尿じゃないと言ってきた。潮とは何だろう。

「本当は女が吹くモノだが、男でも吹く。味はしないから気にするな」

 そう言って彼は私から出た潮というモノをペロリと舐めた。彼は何でも舐めるが、汚いと思わないのだろうか……。

「……ユアンは、汚いと思わないのですか?」

「お前のものなら思わない。ここまで出してもらえると夫冥利に尽きるな」

 彼はそう言いながら、私にキスをした。確かに味はしなかったけど、自分から出た不思議なモノを間接で味わうとは思わなかった。泣きたい。
 私がそう思っているのも知らず、彼はゆっくりと私の中から出ていった。全部抜けた瞬間、ドロリと大量の精液が流れ出て、それまでも楽しそうにじっくり見ていた彼の表情が忘れられない。私が泣き出してしまったのは仕方のない事だと思う。



 ◇



 二ヶ月後、私は再びモリーとカウイ殿を部屋に迎えた。また危ない目に遭わせるよりはと、カウイ殿が一緒という条件をつけ、ユアンが許可を出してくれたのだ。

 ちなみに、誘拐当時、一緒にいたアンナさん達は意識を失った状態で発見され、そこで私とモリーが誘拐されたと発覚したそうだ。アンナさん達に罪はないと私が泣いて訴え、彼女らはそのまま私の使用人として働いている。ちなみに、彼女らには私とモリーが何をされたかは秘密にしてあった。 

「お二人とも、わざわざありがとうございます」

「いえ、リノ様が会いたいと仰るのならいつでも伺いますよ。モリーも会いたがってましたし。な、モリー」

「うん」

 カウイ殿はモリーと仲が良さそうに微笑みあっていた。

「お二人は以前よりも仲睦まじいですね」

「はい。こいつがリノ様に手を出した時、少しお仕置きをしました」

「お仕置き?」

「まあ、詳しくは言いませんが……改心してくれたようで……今回の件もですが、リノ様には感謝しております。ありがとうございました」

 カウイ殿は頭を深々と下げてきたが、相談に乗ってもらったのは私の方だ。私の方がお礼を言いたかった。

「いえ……私の方がモリーに相談に乗って頂いたのですから、私の方も感謝しております」

「モリー、良かったな」

「うん……あの時のリノ様、凄くかっこよかった……カウイがいなかったら本気になってたかも」

 モリーは恥ずかしそうに私を見つめた。その言葉は本気のようで、不思議と熱い視線を感じた。

 すると、私とモリーの会話を遮るように、カウイ殿が話を始めた。

「ラミレス様から、主犯の処刑についてはお聞きになりましたか?」

「仲間は全員殺したと伺っております。主犯の拷問については……指と、ぺニスを切り落とすなど言っておりましたが……実行されたのでしょうか?」

 確か、指とぺニスを切り落とすとか、私まで痛くなるような事を言っていた。どうなったのだろうか。すると、カウイは大きく頷いた。

「その通りでございます。犯人の仲間は、今後事件を起こす可能性があるとして、全員殺害いたしました。主犯も……リノ様が聞いた以上の拷問を受け、しばらく放置して苦しんだあと、細菌による患部の壊死と、衰弱で息を引き取りました」

「首をはねるような方法で処刑されたのではなかったのですか?」

「はい。ラミレス様の命により、簡単には死なせず、じわじわと命を削っていきました。確実に死にましたから、ご安心を。一連の処罰に関しては全て陛下にも了承を得ております」

「そうですか……」

「あまり驚かないのですね」

「リオスでも拷問や処刑はありましたから……」

「さすがはリオスの騎士団副長ですね」

「や、やめてください。昔の話です……今は、ただの一人の男性の妻で……」

 すると、モリーの顔色が悪くなっていた。大丈夫だろうか。

「モリー、大丈夫ですか?」

「い、いや、物騒な話を淡々としてるから……本当にリノ様ってリオスでは偉い人だったんだなって……」

「「物騒?」」

 私とカウイ殿は声を揃えて聞いてしまった。カウイ殿と話しているのは、命をかけて生きていた騎士なら当たり前の日常だった。私も敵を拷問にかけた事があるし、かけられた事もある。物騒だと思った事もない。不思議だった。

「……偉い人ってみんなそうなんだね……常識が通用しない……」

 モリーは小さな声で呟くと黙ってしまった。常識といえば、私も聞きたい事があった。ユアンのセックスでの異常な行為だ。
 彼は私と繋がった部分を見たがり、キスマークをつけまくる。舐めるのも好きだし、この前は潮というモノまで舐めていた。モリーは執着されていると言ってきたが、カウイ殿はそこまでするのだろうか。

「カウイ殿、お聞きしたい事があるのです」

「何でしょうか?」

「あの、あなたは、モリーと、せ、セックスする際、互いにフェラという性技を行うのですか?」

「ぶっ……」

 カウイ殿は飲んでいた紅茶をいきなり吹き出してしまった。ゲホゲホと咳き込み、モリーに「だからリノ様は天然だって言っただろ?」と背中をさすられている。

「リノ様、それは誰に……」

「ユアンが……普通の夫婦は必ずしていると、仰るのです」

「……まあ、夫婦によって、でしょうか……」

「あなたはしないのですか?」

「……する時もありますし、どちらかと言えばモリーが積極的なので……いや、このような話は、やめましょう!」

「私は、夫の立場からの意見が知りたいのです! ユアンは色々な行為を当たり前だと仰るのですが、ちょっと、信じられないような時もございまして……」

「ら、ラミレス様が当たり前だと言うなら、きっとそうなんだと思います!」

「では、あなたは繋がった部分を見たら、そこから溢れた精液を見たら最高の景色だと思うのですか!?」

「ぶはっ……!」

 カウイ殿は再び紅茶を吹き出した。モリーは隣で肩を震わせながら爆笑している。

 ……この様子だと、私にしてくる数々の恥ずかしい行為は、私とユアンの間でしか発生しないモノだと推測された。勢いよく話してしまった自分が恥ずかしくなってくる。

「……分かりました。ユアンが異常なのですね。先ほどの言葉は忘れてください」

「で、でも、それほどまでにラミレス様がリノ様を愛してらっしゃるという事ですから……」

「……でも、私の体力がついていけないのです。カウイ殿から抑えるように言っていただけないでしょうか?」

「無理です」

 私の望みを言ってみたが、カウイ殿はきっぱりと断った。やはり上司には進言できないという事か。だが、カウイ殿は続けてこう言った。

「リノ様、それがラミレス様の愛の形なのですよ」

「愛の形?」

「はい。ラミレス様は、今まで特定の人間を隣に置く事はございませんでした。いわば初恋のようなモノなのです。しかも、あなたは敵だった……ずっと手に入れたくてたまらなくて、こじらせてしまったのかと……異常な行為も、執着も、少々重いかもしれませんが、それがラミレス様の愛の形なのだと思います」

「……愛の形、か……」

「はい。そうです。愛の形は人によって違いますから……」

「私は、ついていけるのでしょうか……」

「ついていけなくても、ラミレス様があなたを離さないと思います」

「そうですか……また、来てくださいますか?」

「はい! 私達で良ければ……でも、ベッドの中での事は、私達以外には話さない方がいいかと……」

「なぜですか?」

「その、びっくりしてしまうので……」

「そ、そうですか……申し訳ございません……他に話さない方がいい内容がありましたら、ちゃんと言ってくださいね?」

「はい。では、そろそろラミレス様が帰ってくると思いますので、この辺で失礼いたします。また呼んでください」

「はい。ありがとうございました」

「失礼いたしました」

「またね!」

 二人は時間だからと早々と部屋を後にした。もっと聞きたい事はあったが、私がユアンに教えてもらった事は、どうやらあまり大きな声では言ってはいけないようだ。

「愛の、形か……」

 私のユアンに対する愛の形はどんなモノなのだろう。いつも受け身だからよく分からない。セックス以外で何かできる事はないのだろうか。
 すると、しばらくしてからユアンが帰ってきた。私がテーブルでため息を吐いているのを見て、すぐに隣に座ってくる。

「リノ、体調が悪いのか? 今日はカウイ達が来たはずだが……」

「愛の形というモノを考えておりました」

「愛の形?」

「はい……あなたは目に見える形で私を愛してくださいます。それは自分でも理解しておりますが……私はあなたに何ができるのかと、考えていたのです」

「……俺はお前がフェラをしてくれただけで、天にも昇るような気持ちだったが? あれも愛の形だろう?」

「ベッドの中での事以外で、です」

「敵だったお前がこの国に嫁いで来ただけでも俺は充分だったが……」

「え?」

「リオスと決着をつけないとお前が手に入らない。だから早く戦争を終わらせた。その上、お前は素直に嫁いでくれて、俺を受け入れて、初めてまでくれた。正直、結婚してもセックスは何年かけてもできないと思っていた。俺は今のままで充分だ」

「そ、そんな事を思っていたのですか?」

「ああ。世間的に見れば、俺達は政略結婚。俺はリオスを潰した……お前は俺の全てを拒否すると思っていた。だから、今の、毎日お前を抱ける日々は夢を見ているようだ。愛していると言われるとは思っていなかった」

「……」

「リノ……今の日々は夢ではないよな?」

「は、はい」

「お前が俺を受け入れてくれた……素直に俺に抱かれてくれる……それも愛の形だろう?」

「そ、そうでしょうか……私は、色々な事に無知すぎて、あなたが物足りないのでは、と……」

「無知すぎる所がいい。教えがいがあるからな」

「あなたは、それでいいのですか?」

「ああ。今のまま、お前が俺を毎日受け入れてくれたらいい。満足だ」

「愛とは、難しいモノなのですね……」

「難しくはないさ。こうして、肌を合わせれば分かるだろう?」

 彼は私に深いキスをして、そのまま胸元をまさぐってきた。

「もう……こうやって誤魔化すのはやめてください……」

「でも、お前のここは固くなって来たぞ?」

「う……」

 彼は私の股間に手を伸ばした。キスされただけで固くなるなんて、彼に染まってしまったという事か。

 恥ずかしがる私の身体を抱き上げた彼は、ベッドへ足を運びながらこう言った。

「今日も教えてやろう。俺の愛の形とやらを」

「……はい」

 私は素直に頷き、ベッドに寝かされたあと、彼の愛撫を素直に受け入れた。





         





 Fin.
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