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◇
俺には幼い頃の記憶がない。
物心ついたときには娼館にいた。
最初に客を取ったのは十歳の時だ。
その娼館に来る客は、国のお偉いさんやら裕福な家庭の奴が多くて、女よりも幼い男を好む奴も少なくなかった。
俺は、恋も何も知らないまま、最初の客を取らされた。
最初は何をされているのか分からなかった。気持ちよさも感じなかった。
『ああ、何か裸にされて、何か触られて、何かが俺の中に入ったな。痛いな』
感じたのはそれだけだった。
中には人の身体を痛めつけたり、血を見るのが趣味な変態もいた。そんな奴ほど身分が高くて、見た目は優しそうで人当たりの良い奴が多かった。
一時期、そんな奴らに気に入られたせいで、俺の身体は傷だらけになった。今でも背中や腹に深い傷跡が残っていて、たぶん消える事はないだろう。
娼館の主人も、金さえもらえれば俺達がどんな目に遭っても気にしなかった。かけられた言葉は「お疲れ様」それだけだった。
俺も最初は泣いたり喚いたりしていた。でも、誰も助けてくれないと気づいてからは、抵抗する事を諦めた。何をしても結果は変わらないと気づいたから。
そして、俺の身体は従順というか慣れたというか、自分の意思とは関係なしに、身体を痛めつけられても勃つようになった。
まあ、これは後々便利になったから感謝している。客にはマゾのレッテルを貼られたけど。
その娼館で客を取っていたのは五年くらい。
成長期を迎えた俺は、みるみるうちに背が伸びて、あまり客に好まれなくなった。
客を取れない奴に居場所はない。俺はすぐにその娼館を放り出された。それを知った変態貴族に捕まりそうになったけど、金も取らずに変なプレイはしたくなかった。だから、必死に逃げて、逃げて、逃げまくって、その街からなんとか脱出した。
幸せになりたいとは思わない。それはとうの昔に諦めている。
ただ、平穏な日々を過ごしてみたい。逃げた時に思ったのはそれだけだった。
街を出てからは歳を偽り、いくつかの酒場を転々として働いた。中には男好きな奴に声をかけられたけど、幸い、そこで俺の過去や素性がバレる事はなかった。同僚も何かしら事情がありそうだったから、お互い様という事らしい。
それからさらに五年。
二十歳になった俺は、最初の娼館があった街から遠く離れた街の酒場で働いていた。ここは過去に事情がある人間が多いようで、特に何も聞かれなかったし、すぐに採用された。
今までと違ったのは、オーナーや同僚との関係が良好で、客との距離も近い事。ここに来て二年になるけど、変なトラブルもなかったし、街で客と顔を合わせると普通に挨拶してくれる。居心地のいい店だった。
そんな平和な日々に慣れてきた頃、酒場では不穏な会話が聞こえるようになった。
『なんかさ、帝都の方で戦争が始まるらしいよ』
『ああ…どっかの貴族がフィドラーの王族巻き込んだんだっけ? この国もおしまいだな。勝てるわけないよ』
『あっちには世界最強の騎士団もあるしなあ』
『この国にもファンは多いのになあ。皮肉な事だ』
『この街まで来ないといいけど……』
世界最強の騎士団。
それは、フィドラー騎士団の事だ。
隣国のフィドラーという国は軍事力に長けていて、王室直属の騎士団には精鋭達が揃っている。
俺が産まれる前よりずっと昔、ある国に惨敗した事があるらしく、それから徐々に軍を強化して今に至るらしい。
団長を務める男はアレックスなんとかと言って、その強さと恐ろしさから「黒い悪魔」と呼ばれている。ちなみに会った事はないけど、メディアや雑誌やらで顔は見た事がある。
剣など持った事のない、今までアウトローな世界でしか生きていない俺でも知っているのだから、世界中で知らない人はいないのだと思う。
ま、俺には関係のない話だけど。
俺には幼い頃の記憶がない。
物心ついたときには娼館にいた。
最初に客を取ったのは十歳の時だ。
その娼館に来る客は、国のお偉いさんやら裕福な家庭の奴が多くて、女よりも幼い男を好む奴も少なくなかった。
俺は、恋も何も知らないまま、最初の客を取らされた。
最初は何をされているのか分からなかった。気持ちよさも感じなかった。
『ああ、何か裸にされて、何か触られて、何かが俺の中に入ったな。痛いな』
感じたのはそれだけだった。
中には人の身体を痛めつけたり、血を見るのが趣味な変態もいた。そんな奴ほど身分が高くて、見た目は優しそうで人当たりの良い奴が多かった。
一時期、そんな奴らに気に入られたせいで、俺の身体は傷だらけになった。今でも背中や腹に深い傷跡が残っていて、たぶん消える事はないだろう。
娼館の主人も、金さえもらえれば俺達がどんな目に遭っても気にしなかった。かけられた言葉は「お疲れ様」それだけだった。
俺も最初は泣いたり喚いたりしていた。でも、誰も助けてくれないと気づいてからは、抵抗する事を諦めた。何をしても結果は変わらないと気づいたから。
そして、俺の身体は従順というか慣れたというか、自分の意思とは関係なしに、身体を痛めつけられても勃つようになった。
まあ、これは後々便利になったから感謝している。客にはマゾのレッテルを貼られたけど。
その娼館で客を取っていたのは五年くらい。
成長期を迎えた俺は、みるみるうちに背が伸びて、あまり客に好まれなくなった。
客を取れない奴に居場所はない。俺はすぐにその娼館を放り出された。それを知った変態貴族に捕まりそうになったけど、金も取らずに変なプレイはしたくなかった。だから、必死に逃げて、逃げて、逃げまくって、その街からなんとか脱出した。
幸せになりたいとは思わない。それはとうの昔に諦めている。
ただ、平穏な日々を過ごしてみたい。逃げた時に思ったのはそれだけだった。
街を出てからは歳を偽り、いくつかの酒場を転々として働いた。中には男好きな奴に声をかけられたけど、幸い、そこで俺の過去や素性がバレる事はなかった。同僚も何かしら事情がありそうだったから、お互い様という事らしい。
それからさらに五年。
二十歳になった俺は、最初の娼館があった街から遠く離れた街の酒場で働いていた。ここは過去に事情がある人間が多いようで、特に何も聞かれなかったし、すぐに採用された。
今までと違ったのは、オーナーや同僚との関係が良好で、客との距離も近い事。ここに来て二年になるけど、変なトラブルもなかったし、街で客と顔を合わせると普通に挨拶してくれる。居心地のいい店だった。
そんな平和な日々に慣れてきた頃、酒場では不穏な会話が聞こえるようになった。
『なんかさ、帝都の方で戦争が始まるらしいよ』
『ああ…どっかの貴族がフィドラーの王族巻き込んだんだっけ? この国もおしまいだな。勝てるわけないよ』
『あっちには世界最強の騎士団もあるしなあ』
『この国にもファンは多いのになあ。皮肉な事だ』
『この街まで来ないといいけど……』
世界最強の騎士団。
それは、フィドラー騎士団の事だ。
隣国のフィドラーという国は軍事力に長けていて、王室直属の騎士団には精鋭達が揃っている。
俺が産まれる前よりずっと昔、ある国に惨敗した事があるらしく、それから徐々に軍を強化して今に至るらしい。
団長を務める男はアレックスなんとかと言って、その強さと恐ろしさから「黒い悪魔」と呼ばれている。ちなみに会った事はないけど、メディアや雑誌やらで顔は見た事がある。
剣など持った事のない、今までアウトローな世界でしか生きていない俺でも知っているのだから、世界中で知らない人はいないのだと思う。
ま、俺には関係のない話だけど。
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