愛人契約しました

長月〜kugatu〜

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いじめられました

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庶務課とは階数が違っているため、営業部の人に会うことがほとんど無い。
そのあたりは助かるというか、さすがに専務にあれだけ言われてしまったら部長も僕に会いたいとは思わないだろう、ただ問題なのが、専務は女性にモテるということ。
次期社長で29歳で高身長、高学歴、スーパー3高ってことだから、この状況も頷けるということで本来なら専務の専属秘書になりたい肉食系女子は沢山いることだろう。その彼女達にとって僕は目の上のたんこぶだ。

そしてこの状況というのは給湯室でコーヒーをドリップ中に秘書課の女性二人が入ってきた。

「大抜擢で専務付になったって人ですよね?」

明らかに敵意丸出しなのがわかるが、ここは当たり障り無く・・・
「昨日、配属にになりました、よろしくお願いします」

「わざわざ、他部署から秘書にしたってことは、そうとう仕事ができるのね」

「いえ、まだわからないことばかりですので、ご教授いただきたいです。」

「専務って砂糖は入れるのかしら?」

「ブラックです」と答えると「ふ~ん」といいながら二人組のうち若干年上らしき女性がドリップ中のコーヒーの粉の上に、砂糖をドカドカと入れて
「あら、ごめんなさ~い、ブラックって返事が遅いから砂糖を入れちゃった」
と、楽しそうに二人並んで出て行った。

「はぁ・・まさか女子から嫉妬で苛められるとは思わなかった」

ドリッパーの粉を入れ替え、砂糖の入ってしまったコーヒーは自分で飲むために自身のカップへ注ぐ。
再度、ドリップをはじめていると、 砂糖女が一人で戻ってきた。

うわ~、専務と同じくらいかすこし年上だと思うが、一昔前だと“お局様”とか言われた人種だろうか?なるべく刺激をしないようにやり過ごすしか無い・・・と、思っていると

「どうやって、取り入ったわけ?部長と同じように身体?」

?!

「どんなに綺麗な顔をしていても、所詮は男だし飽きられたらおしまいよね?」

ここで、へたに何か話すのはマズい気がする。

「なにか言いなさいよ、バカにしてるの?」
「別に、あんたに負けたとは思ってないから」
そう言って、ふたたび給湯室から出て行った。

・・・・ああ、そういえば昨日、秘書課のリーダーって言っていたっけ・・・部長の愛人その1ということか。

遅くなって済みません、と言ってコーヒーを専務のデスクに置く

「何かありましたか?」

まさか、嫉妬でいじめをうけていました。とも言えず 「何も無いです」 とだけ答えて、自分のデスクに着席し、スケジュールのチェックとメールチェックをしていく。


今日は午後からは取引先へ専務就任の挨拶廻りで、夜は食事会が入っている。

車での移動とはいえ、何社も愛想を振りまいている為、さすがの淳一も疲れを隠せない。
そのため車内ではむやみに話しかけず、タブレットでメールのチェックをしていく。

ホテルのレストランでは、取引先の社長とその令嬢が同席しての食事会となった。
目的が見え見えだが、食事には付き合わざるを得ないため、淳一は一つため息をついてから極上の笑顔で席に着いた。

その間、哲はロビー横のカフェで待機する。 
二時間ほどで、エレベーターから和やかな雰囲気の三人が降りてくると、同じカフェで待機していた相手方の秘書がすっと社長の後ろに付いた。

車を待たせてある正面玄関まで送ると、ご令嬢が淳一に「こんど食事に誘ってください」と耳元でささやき、手を軽く触れてから車に乗り込み、さらに姿が見えなくなるまで淳一に熱い視線を送っていた。




これは完全に、オチたんだろうな・・・


「お茶漬けが食いたい・・・」

「おいしいディナーを頂いたのではないですか?」

「堅苦しいのは苦手だ、おいしいものもおいしさが半減する」
そう言って、肩をちょっと上げる仕草をする。それが淳一という人間を知ると、キザに見えない。

「かわいらしいお嬢さんでしたね、専務にすっかりご執心のようです」

「ふ~ん、哲はああいうのが好み?」

「は?僕は・・・」

「哲の方が綺麗だと思うよ」
さらっと言われて全身が熱くなる、なんて答えたらいいのかまごまごしていると、迎えの車がやってきた。 車に乗り込むと、淳一は目を瞑ってしまったので、声を掛けずにメールチェックを始めた。 まだ、部屋の地理がわかってないので、運転手にマンションの近くにこの時間でも開いているスーパーがあるか聞いてみると、大型チェーンのスーパーが深夜0時まで営業しているという。

「すみません、僕だけそこで降ろしてもらっていいですか?」
明日の朝の食材と、お茶漬け用の何かを買っていこうと思っていたら

「わたしもそこで降ろしてください。大村さんはそこから帰宅していただいて結構です。」

「かしこまりました」

運転手さんは大村さんっていうのか・・・・って
「え!でも、お疲れじゃ無いですか?買い物くらい一人で大丈夫です」

「帰りに迷子になると困りますので、一緒に行きます」

たしかに、迷子にならないとは言い切れそうにないし、ここは素直に従うことにする。 そんなやりとりをしていると目的地に到着して、二人並んでスーパーに入っていく。
端から見たら、どういう風に見えるのだろう年は六つくらいの違いだから、会社の先輩後輩とかだろうか、まさか愛人契約してるとは思わないだろう。
魚の切り身や野菜、お肉、今までは自分の為に一人で買い物をしていた。必要だから仕方なくという感じだったが、二人で買い物を、それも食品とかって友人同士だったり恋人だったり少し親密な感じがする。

梅のペーストとカリカリ梅、そして厚めに削られた鰹節をカートに入れる。

「それは?哲は梅好き?」

「淳一さんがお茶漬け食べたいって言っていたから」

「へぇ~帰ったら食べようか」
なんだろう、こんな些細なことがすごく幸せに感じる。 買い物袋をぶら下げて二人で歩く、いつか淳一さんの隣にいるのが、どこかの令嬢に変わることがあったとしても、今日のこの日を忘れないと思う。


淳一さんには先に風呂に入ってもらい、その間にお茶漬けの準備をする。
厚切りの削り節でだし汁をつくって、使った削り節を刻む。
カリカリ梅も同じように刻んで準備完了。
淳一さんが風呂から上がったところで、ごはんに梅ペーストを少々と刻んだ削り節とカリカリ梅をいれてだし汁を掛ける。
キュウリの輪切りを軽く塩もみしてショウガのみじん切りと大葉のみじん切りを入れ化学調味料と醤油を少々たらせば漬物も完成だ。
テーブルに持って行くと「いい香りがする」と淳一さんが嬉しそうに微笑んだ。

「カリカリの食感と鰹の風味がいいね、あと鰹を刻んでいれてあるのもいい」
「キュウリもショウガと大葉が爽やかに香って食欲を促進させる、哲はいいお嫁さんになりそうだ」

「ははは、お嫁って。よく母親が作ってくれたんです、親父が納期に追われている時なんかさらっと食べられるから」

「哲はお父さんを尊敬していたからね」

「え?」
どうして、知っているんだろう? 確かに、僕は親父を尊敬していた、今もしている。 小さな工場だったけど、あの工場のメンバーではないと出来ないほどの技術を持っていた。だから、大手企業の社長が直接、親父に会いに来ることがあった。
それが、子供ながらに自慢でもあった、僕にはそういう技術を受け継げるほどの器用さは無かったが、せめて経営でバックアップしたいと思っていたのに、もっとはやく、現状を把握していれば・・・

「ごちそうさま、片付けは俺がやるから、哲は風呂に入ってくればいいよ」

今更そんなことを考えても仕方が無い。Ifはないんだから・・・

「すみません、そうします」


バスルームの鏡をのぞき込む、 身体についている情事の痕は、消えていない。

「はぁ・・・今日も、無いかも・・」
僕は、淳一さんに抱かれたいと思っている?
たかだか数日で、僕は淳一さんに惹かれている・・・

リビングに戻ると、淳一さんがソファでくつろぎながらタブレットを見ている。 身体に痕があってしたくないのなら、僕が淳一さんに奉仕をすればいいんじゃないか
「あの・・」

「適当にくつろいでください」

「えっと・・・」
どう、切り出していいのかわからず立ったままでいると

「どうしました?俺がいて落ち着かないなら、部屋に戻ってもいいですよ」

「いえ・・あの・・」 「く・・・口でします」

「・・・・・・」

「何を?」

「あの、セ・・・セックスのかわりに、口でします」
言葉にすると、こんなに恥ずかしいんだ・・
全身の血が沸騰する、でも、必要とされたい。

淳一の前に跪くと
「必要ない、べつに困ってないから、わたしはもう寝ます」

淳一は、跪いたまま固まっている哲をリビングに置き去りしにして自身のベッドルームに戻っていった。

嫌われ・・・た?
困ってないって・・・
よく考えれば、そうだよな 別に僕じゃなくても・・
一緒に住んでいるからと言って特別なわけじゃない。
簡単に引っ越しをする分、追い出すのだって簡単だろう。

苦しい・・・なんで、こんなに苦しいんだろう・・・

ポトポトと膝に水滴が落ちる なんで、泣いてるんだろう・・・
部長を忘れるために、軽々しく愛人になることを承諾したからバチがあたったのかもしれない。

愛人・・・一番じゃ無い
そんなことわかってる、わかっていた。
ゆっくりと自分の部屋にもどる、足が鉛のようだ 好きな人に拒絶されるのがこんなに辛いとは思わなかった。



・・・・好きな人?


最初は失礼な人だと思った
でもたった2日一緒にいただけなのに好きになるなんてことがあるんだ・・・




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