追憶のアイデア

【完】それは、たとえばこんなお話。

それは、たとえばこんなお話

昔むかし､ あるところに男の子と女の子がいました｡
　二人はまだ小校生でしたが､ 将来を誓い合った､ いわゆる ｢許嫁｣ という間柄でした｡
　ある日､ 女の子が男の子に一冊の本を薦めました｡ それは､ その女の子が10歳になるお誕生日に､ お父さんとお母さんから､ ｢読書の趣味を持たせよう｣ と思って買ってもらった本でした｡ 本の内容は､ 10歳の子供には難しいものでしたが､ 女の子にはなんとなく伝わってきました｡
　男の子はその話を聞いて､ 女の子にその本を貸してくれるよう頼みました｡ 女の子は笑って答えました｡
｢私は､ ××君にはこの本を新品で買って欲しいんだ｣
　断られたのは少し残念でしたが､ 仕方なく､ 男の子は女の子が言った通りに本屋で買うことにしました｡
　そうは言っても､ 小学生のおこづかいでは100円の古本を買うので精一杯です｡ 幸いにも ｢本ねーじゃん｣と言う古本屋が､ 男の子の家の近くにはありました｡
　男の子は言いました｡
｢古本屋で買ったらダメなの？　本屋じゃ高くて……｣
　すると､ 女の子はちょっと残念そうな顔で ｢高いんじゃ､ しょうがないね｣ と言ってくれました｡
　ですが､ 男の子は女の子の残念そうな顔が忘れられませんでした｡ ですので､ こっそりお金を貯めて､ その本を新品で買いました｡ 途中女の子に遊びに誘われましたが､ それを断ってまで､ お金を貯めました｡
630円は確かに手痛い出費ですが､ これで女の子に近づける気がしたからです｡
　それから時間が経ち､ 二人は大人になって結婚しました｡
　ですが､ 二人は全く恋人らしいことをしませんでした｡ もちろん子供なんいませんし､ 結婚式だって挙げませんでした｡
　だって､ 二人の読んだ一冊の青い本にはこう書かれていたのですから｡
　｢青春とは嘘であり､ 悪である｡｣ と｡