執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

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絆を結う

ご馳走さま

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安藤沙織視点(新女性課長視点)

「なるほどねぇ・・。加藤さんの前任担当者は佐藤係長か。それで契約の見直しを?」
「はい、私は営業経験はまだまだなんですが、出来る事をと思いまして。」
自席にあの冴木のかわい子ちゃんである加藤さんを「ちょっと聞いてもいいかしら?」と声をかけ、彼女が配属になってからの仕事内容を聞く。
課としての業務内容などは既に冴木、和田営業部長から聞いているし、資料を読めば大体の事は分かる。
そして一週間もたてば、課内のパワーバランスも・・。
初日こそあの塩まいてたイケメン冴木の加藤さんを見る目が甘すぎて寒気を感じたものの、もうすっかり慣れた。
いちいち腰に手を添えてエスコートしたり、皆が気を回して「お昼を二人でどうぞ」なんて言えば、「悪いね。」なんて口ばっかりで、いそいそと見たことも無い甘い笑顔で加藤さんを連れて行く。
そう、加藤さんと話そうと思うとアイツ(冴木)が邪魔をする。
なに、そんなに私がこの愛されてますオーラを出してるかわいこちゃんをいじめると?
私、そんなに落ちぶれてないんだけど。
まあ大阪支社で冴木が社内結婚すると聞いた時は、とうとう肉食女子に捕まったか、バカな奴めと思ったのに、実際来てみればどう見ても冴木が彼女を溺愛・・。
そうなれば、やっぱり気になるじゃない?

私と寝たのも一回きり。
役員の親戚を手厳しく振ったところで、一課から二課に左遷された日。
もともと同じ一課で冴木は三つ先輩として、新入社員の私の指導係だった。一課でもずば抜けて優秀だった冴木に少しばかり憧れを抱いたのは・・若気の至りだ。
だって誰だってきゅんとするわよ。
見た目もスーパーイケメンで、仕事もスピーディーかつ理論的。失敗しても声を荒げず、まずはリカバリーをしてから、反省点を自身に考えさせる。そして結果を出せば、ご褒美的な甘い笑み。
いつもはポーカーフェイスでどこか人を小馬鹿にしたようなアイツが左遷された日、泥酔した挙句になし崩し的に私を抱いた。
愛なんてないただ、ただ、欲望だけの交わり。
私も彼氏と別れたばかりだったのもあったかもしれない。
遠距離なんて無理だ、仕事なんか辞めて俺の嫁になれと言った横暴彼氏にさよならを告げた。
私がどれだけ会社で頑張っていたかを知っていたはずなのに、たかが大阪と東京に離れたら無理だなんて言う愛ならいらないと捨てていった。だから彼氏と別れた事も後悔なんてしていないけど、アイツとの愛のないセックスは私を正気にさせた。
気持ちが伴わない交わりは、たとえ身体は快感を感じて熱くなり、汗をかいても心は冷たく冷え込んでいくんだと。
翌朝、メモを残してホテルを出た。
悲しいんじゃない、
ただ・・虚しかったから。
どこかでアイツの事は私が一番理解してるなんて思ってた。
お互い見目のせいで実力なんて正当に評価されないし、アイツの左遷と一緒に私も大阪支社への異動が決まって・・。
きっと、私とあいつは似た者同士分かり合えると思ってた。
だけど、現実は・・

「・・それで、顧客ユーザーのニーズを担当者から頂いて・・何か?」
「あ、ごめんなさい。着任早々頑張ったんだなぁと思って。」
おっと、昔の記憶にトリップしすぎちゃった。
目の前で几帳面に書かれたノートを広げ上司である私に報告する加藤さん。
あいつの好みはこうゆうのだったのか。。
ちょっとした感傷に浸るぐらい誰にも迷惑にはならないと思うんだけど。

でも、課内の視線が・・。
出来る子二番手山城くん始め、忠犬ぽい宮本くん、優しそうな佐々木さんまで心配げにこちらを見つめている。
ちょっと、過保護すぎやしないかしら?
仲が良すぎる課へ入るのって、殺伐とした課に入るより気を使うのよね。

「加藤さん、一緒にランチどうかしら?・・二人で。」
うふふと優しげな笑みを浮かべる私から邪気など感じないでしょう?
「は、はい。喜んで・・。」
引きつりそうな笑みをどうにか取り繕ってる加藤さんはなかなか・・
可愛がりたいタイプかも。


華視点
「ここ?」
「あ、違うとこが良かったですか?」
断る事など出来なさそうな笑みに誘われて、安藤さんといつものカフェまで来ちゃったけど、ダメだったかな?オトナ女子はどんなとこでランチしてるんだ。
「ううん、久し振りだと思って。」
そう言ってにこりと笑う笑みは、なんとも艶っぽい。
いいなぁ。。百戦錬磨のようなその笑み。
ユウマさんと二人で打ち合わせする姿は、神々しささえ感じる萌えショット。
仕事もできて美人で優しいなんて、、。
勝手にへこんでしまう。
膝の上でそっとユウマさんから贈られた指輪をなぞり、心を落ち着かせる。
「私、特製ロコモコ。加藤さんは?」
「え?あ、じゃあ、トマトパスタで。」
ええ、特製ロコモコってあの一回り大きなロコモコだよね・・なんて思っていると、
「私、結構食べるのよ。だって、食べなきゃやってらんないじゃない?昔来てた時は、こうゆうメニューなかったのに。」
うふふとイタズラっぽく笑う安藤さん。
「・・可愛い。」
「え?」
キョトンとした安藤さんに、自分の心の声が口から出ていたと知る。
「あ、すみません。馴れ馴れしく失礼な事を。」
あたふたと自分の失言を謝罪する。
上司に可愛いはないよね。
「・・く。」
「く?」下を向いた安藤さんに不安を感じる。
「あははっ!もうだめ。我慢できないっ。きょどり過ぎでしょ!?」
その艶やかな風貌とはかけ離れた豪快な笑いっぷりにこっちが呆気にとられる。
「あ、あの・・。」
おずおずと話しかけると、
「はぁー!久々笑ったわ。」
目尻に浮かぶ涙を拭きつつ、ウインクして笑う安藤さんについ胸キュンする。

「ねえ、加藤さんも私が冴木課長を狙ってると思ってるの?」
胸キュンものの笑みから、悪女の笑みへと早変わりした安藤さんは、ズバリと聞いてきた。

なんなんだこのひとは・・。
でも、私も知りたい。
「違うんですか?」
出来れば、違うと言ってほしい。

「じゃあ、返してて言ったら返してくれるの?」
クスリと笑う安藤さん。
返す?ユウマさんを?

ぷつんと自分の中で何かが切れた。

「ユウマさんはモノじゃないですよ。返すも返さないもないでしょ。」
声を落としているが、目の前の安藤さんに対して苛立ちを隠せない。
「でも、私に取られたくないんでしょ?」
もうなんて意地悪な顔するんだ、この人。
「当たり前じゃないですか!ユウマさんの気持ちは縛れなくても、私はユウマさんが大好きなんです!」
つい前のめりになって啖呵を切っていると、目の前の安藤さんが口元を押さえてプルプルし始めた。
「?」
「ぐ、くく、だって、良かったわね、冴木課長。」
ええぇ!?と思い振り返ると、そこには顔を真っ赤に染めたユウマさん。
「い、いつからそこに・・。」
「・・あー、モノじゃないぐらいから?」
「あはは、もうヤダ、苦しい。なんなの!寒いし面白すぎでしょ!?」
・・安藤さん、あなたこそ、です。

身悶える私達を横目にもくもくと特大ロコモコを食べると、「じゃ、ご馳走さま!」そう言って立ち上がった。
隣でびくんと固まるユウマさんに違和感を感じていると、
「やあね、ちゃんと自分の分は払うわよ?」
そういたずらっぽく笑った安藤さんは颯爽と出て行った。

「・・なんか言われた?」
ユウマさんがため息をつきながら聞く。
「なんかあるんですか?」
つい疑いの眼差しを向けてしまう。
「何も、ない。」
そう縋るように見つめるユウマさんに何かを感じなくはない。
脳裏にあの艶っぽくも可愛い安藤さんの顔が浮かぶ。

そっと隣に座るユウマさんの手を握る。
感じるぬくもり。
香るバニラの香り。
見上げれば、こちらを心配そうに見つめるユウマさんの顔。

「・・華?」
囁くようなユウマさんの声。

過去のない人なんていない・・よね。

「ここから先は・・私だけ・・ですよ?」
ボソリと呟く。
「・・やっべ。」
何となく前かがみになるユウマさん。


会社への帰り道、安藤新課長は思う。

ランチタイムに赤面するカップル。
どう見ても目に毒。
はぁ、、どこかにいい男転がってないかしら?
ふふ、しかしあいつ覚えてたんだな。
一人ニヤつく私も大概不審者だ。


「ご馳走さま」
あの日、ベッドに置いたメモ書き


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