執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

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幾久しく幸せな日々

すれ違う心

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冴木課長(ユウマさん)視点

不安な金曜の夜を越え、どうにか甘い週末を迎えた俺はまたも大満足で週明け出社した。
今の俺はまさに無敵といったところだ。
溜まりまくる決裁書類も、次々に来るメールも、次々に部下に指示をしなければならない案件もどんと来い!と思える。
「おい宮本、この先々週の案件どうなってるんだ。こちらからの返信待ちなんじゃないか?」
「あ、す、すいません。でも、それ工場の研究室からはまだ検査結果出てなくて、、、。」
「お前、いい加減にしろよ。結果が出てないから返信を怠ってたんじゃ、向こうからしたら何もしてないのと一緒だ。結果が出ないなら、出ないでさっさと状況報告しろ。ついでに研究所にも目処ぐらい聞いて、相手先には余裕を持って伝えるんだ。」
「はい!すぐやりますっ!」
宮本、お前いいやつなんだがな・・いかんせんつめが甘い。
「山城、お前もcc入ってるだろう。宮本の案件ではあるがお前もメールに目を通した筈だ。自分の仕事だけではなく、部内全体に少しは気を配れ。」
悪いな、山城。負担が増えることを見越して、お前には次のステージに上がってもらいたいんだ。
「すみません、気をつけます。」
心得たといた態の山城。お前にはほんと助けられる。
そんな感じで忙しく業務に追われていると、社用スマホに取引先の鈴木部長から着信が入る。
社の直通電話ではなく、社用スマホに直接ってことは俺に話したい事があるって事か。
スマホを片手に営業部を出た。
空いている商談室に入り、鈴木部長と話して上司としての心構えを教えられる。鈴木部長の言うことは、いつも的を得ていて俺のことを思ってのアドバイスに頭が下がる。俺もあんな上司になりたいと思わせる人。せっかくの助言を生かせるようさらなる努力が必要だ、と思い営業部へ戻る。

華視点

なんとなく、最近のユウマさんは山城さんや宮本くんに厳しい気がする。

気のせいではないと日に日に思うのは私だけじゃない。最初は付き合い始めてやる気みなぎってるんじゃ?なんて比喩されたけど、、それだけじゃない気がする。読みかけのメールを処理して、コーヒーでもみんなに配るかと給湯室へ行くと先客がいた。
「山城さん・・。最近、課長が厳しくて大変ですね?」
私がもっと仕事が出来たらお手伝いできるのですが・・。年齢だけは年上な先輩として心苦しく思ってしまう。
「いいんですよ。いづれ必要になる事なんです。
・・加藤さんも寂しくなりますね。まあ、2課は課長が異動してもさほど変わりばえしないと思いますけど、次の上司、いい人だといいですね?」

「・・そうですよね。私もそう思います。」
私、ちゃんと笑えてる?
ううん、大丈夫。身についた辛い時こそ笑えというスキルはきっと発動している。
今は、考えちゃダメ。
山城さんに迷惑をかけてしまう。ぐっと手を握りしめ、口角を上げる。
「寂しいですね。でも、私も頑張らなくちゃ。」
震えそうになる唇を気合いで微笑みに変える。
「そうですね。僕もです。」
山城さんは、にこりと微笑みコーヒーを片手に自席に戻っていった。

「はぁぁ。」
流しの縁に両手をついて、押し殺すように息を吐き出した。
なに、今の?
ユウマさんが異動?そんなの私聞いてないんだけど。
昨日あんなに一緒にいたのに。。。
山城さんには言って、私には言えないってどういう事?
そんなに、、私が頼りない?相談もできないってこと?

自分の不甲斐なさが苦しくて仕方がなくて涙がにじむ。流しの縁をぎりっと握り、涙を堪える。
「はあっ!」
蛍光灯が青白く光る天井に向け強く息を吐き出す。弱く泣きそうな想いを吐き出すように。
ここで、泣いちゃダメ。
ユウマさんにどんな考えがあろうとも、私が出来る事を私はするしかないんだ。

自席に戻り、メールを処理しているとユウマさんが帰ってきた。
その顔は厳しいもので、週末の甘さは感じられない。
私、何甘えた事言ってんだろ。ユウマさんは、こんな私だから言ってくれないのかもしれない。

すると、メールの中に井上さんから面白いメールが来ていた。
当社の製品に関して、顧客から改良の要望がきていると。
もしかしたら、新製品開発につながるかもしれないから、是非目を通して欲しいとの事。
うわあ。すごく嬉しい。こうやって、情報共有してくれるのって、うちみたいな顧客と接点がないメーカーにはとても貴重なもの。書かれている内容は残念ながら詳しくは分からないが、これは工場に連絡しなくてはっ!

すくっと立ち上がり、冴木課長の前に立つ。
「いま、お時間大丈夫ですか?」
「あ、もしかして井上さんからメール来た?さっき、鈴木部長から連絡があったんだ。」
にこりと笑うイケメン上司はどうやら耳もいいらしい。
「はい、ですので工場に明日でも行ってこようと思うんです。あとで佐野さんにもアポを取っておきます。」
聞きたい事は他にもあるけど、今は、、自分のできる事をしなきゃいけない。
すると、腕組みし考え込む課長。
「加藤一人じゃ工場へ説明に行くの大変じゃないか?明日でなければ俺も一緒に行ってあげられるが。」
そう麗しい笑みを浮かべる課長は、私をどう思ってるの?
「いえ、早い方がいいと思いますし、忙しい課長の手を煩わせるのも気が引けます。なので、一人で行けます。」
そう言う私は、上手く笑えてる?ぎゅっと握った手に力が入る。
「いや、、でも、わかる奴がいた方が工場の人間も話しやすいだろう、、。」
、、そんな事言われたら、、。
「私じゃダメですか?」
少し声が震えてしまうのを止めることは出来なかった。
あなたの隣に立ちたいと私は言ったんだけど、私じゃあなたの足かせにしかなりませんか?
あなたの後ろで、なんの相談もしてもらえないぐらい弱い存在ですか?
「えっ?いや、そうじゃない。」
目を見開き、取り乱す課長をただ見つめるしか出来ない。口を開けば、ポロリと泣いてしまいそう。

「俺、明日工場に行くんです。だから、加藤さんと一緒に行けますよ。」
膠着した空間に助け舟を出したのは山城さんだった。
課長は、一瞬眉をしかめたが結局明日の工場行きを許可した。


仕事を終えて、帰りの車内でスマホを見るとユウマさんからの着信があった。

今は話したくない。
だって、なんかすごく惨め。
どうして異動の事言ってくれなかったって当たってしまいそう。
だって、言わないのは私が頼りないからでしょう?
ユウマさんを責める資格は私にはない。
それでも、この苦しい気持ちはどうにもならない。

〈今日は、用事があります。〉
ラインを送る。
ちょっとだけ嘘。
でも、用事ならあるのもほんと。
私には、一人で泣く時間が必要なの。



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