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幾久しく幸せな日々
ひねもすのたりのたりかな 鈴木部長編
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鈴木部長のひねもすのたりのたりかなな日々
鈴木部長視点
「必要とされるもの」の冴木課長と華が商談が終わり帰社した後
「井上、お前さっきのはないぞ。」
先ほどまでの商談では見せない厳しい顔でこの裏表のない怖いもの知らずな部下を叱る。
「すみません、前任者がひどかったんでつい、、。」
一応申し訳なさそうに謝るものの、本当に悪かったと思っていない事は明確だ。
「お前さ、その顔どうにかしろ。営業として少しは仮面をかぶれよ。正直さがいい時もあるが、ビジネスシーンにおいてそれは稀だ。さっきの加藤さんの方がよっぽど仮面被ってたぞ。」
そう、川上から面白い子が行くからよろしくってメールがあったから、忙しいスケジュールを課長に押し付けて代わりに俺が噂の二人を見にきたんだ。
「仮面?めっちゃ楽しそうに笑ってたじゃないですか。」
こちらの意図を全然分かっていない鈍感すぎる部下に一から説明する。
「いいか?お前が冴木くんの事をイケメン呼ばわりして、そのイケメンのそばじゃ楽しそうで、仕事なんかできないよねってお前が言ったんだろ。だから加藤さんは、ブチっと切れて笑顔で否定したんだろ!」
「えっ!あれキレて?え、俺、別に仕事しないなんて言ってないですけど・・。」
「イケメンいて楽しそう、なんて、仕事しないと同義語だ。いいか、しかも女子は、、とか言うな。このご時世、その言葉は禁句と思え。」
「はい・・。」
返事はしているが、絶対わかってなさそうだ。コイツ頭の回転は早いのに、どうも対人能力に欠ける。課長も持て余していたし、コイツの良さを引き出しつつ、その都度修正していくしかないだろう。
本当なら、加藤さんみたいな動じないタイプのしっかりした子がいてくれたら、ちょうどいいんだけどな。
「井上、今度時間作って加藤さんに納入された製品を使ったうちの商品を見てもらえ。加藤さんは転職者だし、興味あるだろう。それで、お前も担当者として少しは交流を深めて次のビジネスに生かせよ。」
「はい。了解です。」
生返事だが、言ったことはしっかりやるタイプだ。ここは、報告を待ってみよう。
「くすぶる想い前半」華に井上が自社商品を見せた後
「部長、今日あの加藤さんに社内製品を見せたらすごい喜んでました。メモとかすごい取ってて、、なんか俺申し訳なくてこないだの事謝りました。」
へえ、さすが川上推し。この社内で持て余し気味の井上を手なづけたみたいだな。しかし、井上、加藤さんはすでに冴木くんのモノになったらしいぞ。井上からほのかに感じる加藤さんへの好意に少しだけ釘をさす。
「担当者同士、情報交換は必要だな。しかし、馬に蹴られるような事にはなるなよ。」
「え?馬ですか?」
分からないか、井上。分からないなら敢えては言うまい。
「そうだ、うちの製品で加藤さんのとこの部品についてもっとこうしたらみたいな要望ありましたよね。それをちょっと面倒だけど情報交換すれば、新たな商品開発ができるかもしれません!」と井上。
「そうだな。仕事を頑張れよ?」
俄然やる気になった井上に一抹の不安を感じるが、、人の気持ちは強制できるもんじゃないからな。どうにかなるようにしかならない。
まあ、あのイケメンが故に苦労の絶えない冴木くんにはちらりと言っといてやるか。
「くすぶる想い 後半」後の週明け
一通りの決済書類に目を通した俺は、懸案事項を片付けるべく冴木くんに電話する。
「もしもし、冴木くん。鈴木だけど、金曜日は加藤さん寄こしてくれてありがとうね。井上も喜んでたよ。」
「いえこちらこそ、井上さんには加藤の為にわざわざ時間を取ってもらい申し訳ないです。」
なんだろ、やっぱり棘を感じなくはないな。井上のほのかな気持ちを感じとったのか?
「加藤もすごく喜んでました。社内製品についてはまだまだ学ぶ事が多いので、ご迷惑かけるかも知れませんがよろしくお願いします。」
いやいや、こちらこそ、、そんな会話をしつつなんとなく冴木くんらしくて心配になった。
「・・冴木くん、加藤さんを初めて連れてきた時、俺が必要な経験だって言ったの覚えてる?」
「はい。・・女性部下を育てるってこと、、ですよね?」
社外の俺の言葉もきちんと覚えていて、自分なりに考える君を俺はつい応援したくなるんだよな。
「そうだな。それもある。女性ってだけで毛嫌いするわけにいかない。
君に何があったかは詳しくは知らないが、予想は出来る。
そんな中、加藤さんみたいな子が君の元に来てくれてほんと良かったと思う。君の整いすぎた外面に囚われず、男ではなく同じ人として接してくれるそんな女性部下が君には必要だった。そこには突発的なトラブルもあったかもしれないが、川上の人事としての手腕を感謝するんだな。
しかし僕が言いたかったのは、単に女性部下を育てるだけじゃなく、部下を信じて時には失敗させ部下自身で立ち直るのをフォローする側に徹する事だ。仕事のできる君には周りの部下のスピードに耐えられず、どうしても先回りした行動を取ってしまう。商談が失敗しないよう部下を指導するのは上司の役目だが、部下の成長を待ってやるのも相反するようで上司の役目。難しい事を言ってると思うが、大事な部下ならなおさら、、だ。
・・悪いな。社外の人間がえらそうに。」
ついつい色々いらない世話を焼いてしまうのはおれの悪いところだ。
「いいえ、すごく有難いです。・・俺、頑張ります。」
いやいや、君は頑張ってるよ。少し肩の力を抜いたほうがいいと思うんだけどな。・・これも余計か。
井上から、顧客ニーズについて加藤さんと冴木くんにもccでメールするから今後ともよろしく、なんて言って電話を切った。
二人が上司、部下としても、恋人としても上手くいってくれたらいいと思った。
部下を育てる事と子育てはよく似ている気がする。
子育てなんて、父親らしい事をやってこなかった自分が言うのもおかしいが、あの人と動物の間みたいな幼子を優しく、時としてそのかわいい顔をしかめて怒るわが奥さんは、立派に二人の子供たちを大人にさせた。
男からすると、あっという間の20年。きっと、家庭内では大小様々な事件が起こったに違いない。
でも、俺はいつもその顛末を聞くだけで、大したことは何もしなかった。
今日のように、ただアドバイスをするだけ。人の事なら誰しも簡単にアドバイス出来るんだ。当事者じゃないから、客観的に物事を正確に捉えられる。しかし、当事者になると感情が邪魔をし現実が見えずらくなる。
家庭内ではそれなりに俺を大事にしてくれる家族も何事もない普段は会話がないのが悩みのタネだ。
俺の10個下の可愛らしい奥さんとは、よく言えばあうんの呼吸のような夫婦。
しかしその実、会話はほぼない。
・・熟年離婚とか、、そんな事を40を過ぎたばかりの奥さんが考えていたらと思うと胃が痛くなるこの頃だ。
鈴木部長視点
「必要とされるもの」の冴木課長と華が商談が終わり帰社した後
「井上、お前さっきのはないぞ。」
先ほどまでの商談では見せない厳しい顔でこの裏表のない怖いもの知らずな部下を叱る。
「すみません、前任者がひどかったんでつい、、。」
一応申し訳なさそうに謝るものの、本当に悪かったと思っていない事は明確だ。
「お前さ、その顔どうにかしろ。営業として少しは仮面をかぶれよ。正直さがいい時もあるが、ビジネスシーンにおいてそれは稀だ。さっきの加藤さんの方がよっぽど仮面被ってたぞ。」
そう、川上から面白い子が行くからよろしくってメールがあったから、忙しいスケジュールを課長に押し付けて代わりに俺が噂の二人を見にきたんだ。
「仮面?めっちゃ楽しそうに笑ってたじゃないですか。」
こちらの意図を全然分かっていない鈍感すぎる部下に一から説明する。
「いいか?お前が冴木くんの事をイケメン呼ばわりして、そのイケメンのそばじゃ楽しそうで、仕事なんかできないよねってお前が言ったんだろ。だから加藤さんは、ブチっと切れて笑顔で否定したんだろ!」
「えっ!あれキレて?え、俺、別に仕事しないなんて言ってないですけど・・。」
「イケメンいて楽しそう、なんて、仕事しないと同義語だ。いいか、しかも女子は、、とか言うな。このご時世、その言葉は禁句と思え。」
「はい・・。」
返事はしているが、絶対わかってなさそうだ。コイツ頭の回転は早いのに、どうも対人能力に欠ける。課長も持て余していたし、コイツの良さを引き出しつつ、その都度修正していくしかないだろう。
本当なら、加藤さんみたいな動じないタイプのしっかりした子がいてくれたら、ちょうどいいんだけどな。
「井上、今度時間作って加藤さんに納入された製品を使ったうちの商品を見てもらえ。加藤さんは転職者だし、興味あるだろう。それで、お前も担当者として少しは交流を深めて次のビジネスに生かせよ。」
「はい。了解です。」
生返事だが、言ったことはしっかりやるタイプだ。ここは、報告を待ってみよう。
「くすぶる想い前半」華に井上が自社商品を見せた後
「部長、今日あの加藤さんに社内製品を見せたらすごい喜んでました。メモとかすごい取ってて、、なんか俺申し訳なくてこないだの事謝りました。」
へえ、さすが川上推し。この社内で持て余し気味の井上を手なづけたみたいだな。しかし、井上、加藤さんはすでに冴木くんのモノになったらしいぞ。井上からほのかに感じる加藤さんへの好意に少しだけ釘をさす。
「担当者同士、情報交換は必要だな。しかし、馬に蹴られるような事にはなるなよ。」
「え?馬ですか?」
分からないか、井上。分からないなら敢えては言うまい。
「そうだ、うちの製品で加藤さんのとこの部品についてもっとこうしたらみたいな要望ありましたよね。それをちょっと面倒だけど情報交換すれば、新たな商品開発ができるかもしれません!」と井上。
「そうだな。仕事を頑張れよ?」
俄然やる気になった井上に一抹の不安を感じるが、、人の気持ちは強制できるもんじゃないからな。どうにかなるようにしかならない。
まあ、あのイケメンが故に苦労の絶えない冴木くんにはちらりと言っといてやるか。
「くすぶる想い 後半」後の週明け
一通りの決済書類に目を通した俺は、懸案事項を片付けるべく冴木くんに電話する。
「もしもし、冴木くん。鈴木だけど、金曜日は加藤さん寄こしてくれてありがとうね。井上も喜んでたよ。」
「いえこちらこそ、井上さんには加藤の為にわざわざ時間を取ってもらい申し訳ないです。」
なんだろ、やっぱり棘を感じなくはないな。井上のほのかな気持ちを感じとったのか?
「加藤もすごく喜んでました。社内製品についてはまだまだ学ぶ事が多いので、ご迷惑かけるかも知れませんがよろしくお願いします。」
いやいや、こちらこそ、、そんな会話をしつつなんとなく冴木くんらしくて心配になった。
「・・冴木くん、加藤さんを初めて連れてきた時、俺が必要な経験だって言ったの覚えてる?」
「はい。・・女性部下を育てるってこと、、ですよね?」
社外の俺の言葉もきちんと覚えていて、自分なりに考える君を俺はつい応援したくなるんだよな。
「そうだな。それもある。女性ってだけで毛嫌いするわけにいかない。
君に何があったかは詳しくは知らないが、予想は出来る。
そんな中、加藤さんみたいな子が君の元に来てくれてほんと良かったと思う。君の整いすぎた外面に囚われず、男ではなく同じ人として接してくれるそんな女性部下が君には必要だった。そこには突発的なトラブルもあったかもしれないが、川上の人事としての手腕を感謝するんだな。
しかし僕が言いたかったのは、単に女性部下を育てるだけじゃなく、部下を信じて時には失敗させ部下自身で立ち直るのをフォローする側に徹する事だ。仕事のできる君には周りの部下のスピードに耐えられず、どうしても先回りした行動を取ってしまう。商談が失敗しないよう部下を指導するのは上司の役目だが、部下の成長を待ってやるのも相反するようで上司の役目。難しい事を言ってると思うが、大事な部下ならなおさら、、だ。
・・悪いな。社外の人間がえらそうに。」
ついつい色々いらない世話を焼いてしまうのはおれの悪いところだ。
「いいえ、すごく有難いです。・・俺、頑張ります。」
いやいや、君は頑張ってるよ。少し肩の力を抜いたほうがいいと思うんだけどな。・・これも余計か。
井上から、顧客ニーズについて加藤さんと冴木くんにもccでメールするから今後ともよろしく、なんて言って電話を切った。
二人が上司、部下としても、恋人としても上手くいってくれたらいいと思った。
部下を育てる事と子育てはよく似ている気がする。
子育てなんて、父親らしい事をやってこなかった自分が言うのもおかしいが、あの人と動物の間みたいな幼子を優しく、時としてそのかわいい顔をしかめて怒るわが奥さんは、立派に二人の子供たちを大人にさせた。
男からすると、あっという間の20年。きっと、家庭内では大小様々な事件が起こったに違いない。
でも、俺はいつもその顛末を聞くだけで、大したことは何もしなかった。
今日のように、ただアドバイスをするだけ。人の事なら誰しも簡単にアドバイス出来るんだ。当事者じゃないから、客観的に物事を正確に捉えられる。しかし、当事者になると感情が邪魔をし現実が見えずらくなる。
家庭内ではそれなりに俺を大事にしてくれる家族も何事もない普段は会話がないのが悩みのタネだ。
俺の10個下の可愛らしい奥さんとは、よく言えばあうんの呼吸のような夫婦。
しかしその実、会話はほぼない。
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