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幾久しく幸せな日々
くすぶる想い 前半
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冴木課長(ユウマさん)視点
社内恋愛してる恋人が可愛すぎて色々つらい。
そう相談したら、
「けっ!リア充めっ」と言われるに違いない。
分かっているが、つい誰かにこの幸せを言いたくなってしまう。
そんな俺は今日、会社近くの居酒屋で頼りになる部下の山城とサシ飲みだ。
ザワザワとそれぞれに盛り上がる店内なら俺の小さな呟きぐらい許されるだろう。
「たまんねぇんだよな。可愛すぎて。」
こないだの給湯室での可愛い痴態を思い出し身悶えていると、
「課長、、幸せそうで何よりですが、俺はもう帰りたくてしかたありません。」
吐き捨てるように話す山城はビール片手に相変わらずのつれない態度だ。
誰に対してもこの態度を貫くコイツを俺は気に入っている。
「そう言うなよ。ただ惚気たいだけなんだ。課長って手前、会社じゃ話せないだろ?」
酒を片手に、枝豆をひょいと山城の皿にいれる。
「やめてくださいよ。枝豆は迷惑料ですか。ちょっと安すぎませんか。」
眉間にシワを寄せた山城は迷惑そうに顔をしかめる。
まあ、もっと惚気を聞いてもらいたいところだが、酔っ払う前に本題を話して置いたほうがいいだろう。
「お前さ、部内で次に動くとしたら誰だと思う?」
探りを入れるように聞くのは、自身の進退は部長から口止めされているから。
「・・そりゃあ、課長でしょうね。
思い出したくもないでしょうが、不当な理由で一課のエースから二課に左遷のように異動になり、その代わりといった感じで課長に昇進し、すでに5年。僕は二課に来て2年、宮本はやる気はあるがまだ頼りない2年目、加藤さんは来たばかり。誰が見ても分かりそうなもんです。」
やっぱりコイツは周りをよく見てるな。確かに一目瞭然なことも言われてわかるんじゃなくて、すでに織り込み済みなのがコイツの頼れるところだ。
「じゃあ、俺が何を言いたいか分かるか?」
ニヤリと部下を試す。
「もう、そういう事ですか。最近やけに忙しそうだし、指示がやけに完成度を高めたものを求められると思ったんです。溺愛してる加藤さんとやっと付き合い始めたから嬉しさのあまり無駄にやる気がみなぎってるのかと皆で話していたんですが。」
飄々と話すコイツに悪気など一切感じられないが、それが余計に恋する男ゴコロをえぐる。
なに俺、そんなに華と付き合えて嬉しそうなのを隠せてないってことか。
はぁー、ぐいっと酒を煽り自分を慰める。
ゴクリと酒を飲み干すと、諦めがついた。
今更か。
そうだな今更だよな。そんな事大した問題じゃないな。
「人事については、部長に口止めされてるから詳しくは言えない。
だが、俺がいなくなった後、二課をまとめていくのはお前だ。俺の代わりに上司は来るだろうが、部内の現状と、個々のスキルを理解し新しい上司と部員を繋ぐ役目は当面のお前の仕事だ。
多分、お前に今以上に負荷がかかる。一言言っておこうと思ってな。」
俺の代わりの人員にどんな奴が来るのかは知らないが、部内でエースのコイツに負担が増えてしまうのは、仕方がないとはいえ心苦しく思う。
「・・相変わらずですね。部下の事などそんなに気にしなくても大丈夫ですよ。
なるようにしかなりません。
まあ、せっかく言っていただいた分、可能な範囲で役割を全うします。」
そうスッキリとした顔で笑みを向ける山城を頼もしく思う。
「山城、お前いい奴だな。」
ほんと、コイツが華に惚れるとかなくて良かった。そう思ってしまうのも恋する男のしょうもない本音。
ニ課のメンバーは皆いい奴だ。残された時間でどれだけのことが出来るか分からないが、出来るだけ皆に負担をかけない形で異動したい。
「じゃあ、課長、日中社内でいちゃいちゃできるのもそう長くはないんですね。」
ニヤリとからかう山城に、それならと攻勢をかける。
「お前こそ、年下彼女はどうしたんだよ。学生だろ?ぼやぼやしてると近くにいる若い男に盗られちまうぞ。」
コイツの弱みは今のところここだろう。
「なっ、かか彼女じゃないって言ってるじゃないですかっ!アイツは俺の事そんな風に見てないですよ。」
くくくっ。人の恋路は面白い。あの山城が狼狽えてビールジョッキを一気飲みしてやがる。
「ふーん。アイツ、、ねえ。じゃあ、お前はそうゆう風に見てるわけだ。切ないねぇ、片思いか。あれ、でも水族館に連れて行かされたって言ってたよな。脈ありなんじゃないか?」
なんか、俺をおちょくる和田部長の気持ちが少し分かってしまうな。
「・・、もうからかわないでくださいよ。アイツはただ水族館に行きたかっただけなんです。」
居心地悪そうに視線を逸らした山城は恋する男の顔をしていた。
あまりいじめるのもかわいそうだ。このぐらいが頃合いだろう。
「経験者として言えば、誰かに盗られてからじゃ遅いからな。、、まあその場合、取り返すのみだが。」
恋愛初心者の俺は大したアドバイスは出来ないが、頑張れということぐらいしか言いようがない。
金曜日、華は一人で取引先へと行ってしまった。
室内にある皆の予定を書き込んだホワイトボードの加藤の欄には、午後から取引先へ行き、直帰との事。
引き継ぎの前の業務に追われている俺は、大して華と話もできずホワイトボードで華の予定を確認する。
そういえば、こないだの帰り際ちょっと嬉しそうに「自社製品が商品になったの見てきます。」とか言ってたな。
真面目な華らしくて上司としては褒めてあげたいが、彼氏としてはちょっと心配だ。
なぜなら、よりによって出先はあの嫌味な井上さんだからだ。井上さんの上司の鈴木部長は理想の上司だが、井上さんはクセがある。でも、その井上さんがわざわざ商品を見せてくれるって、そこに邪心はないのかと疑ってしまう。・・分かってる、嫉妬深い事を言ってると。分かっていてもそう思わずにいられないんだ、仕方ないだろう。
華を閉じ込めてなどおけるわけないのに、急に俺の前に現れた華は、いつのまにか急にいなくなりそうで時々心配になる。
・・考えすぎだな。好きすぎて思考回路がお花畑だ。
俺にはやるべき事がある。それをこなしていく事が結果的に華を守ることになるのだから。
そう思い業務に集中した。
それが俺の不安な週末の始まりとも知らず・・。
社内恋愛してる恋人が可愛すぎて色々つらい。
そう相談したら、
「けっ!リア充めっ」と言われるに違いない。
分かっているが、つい誰かにこの幸せを言いたくなってしまう。
そんな俺は今日、会社近くの居酒屋で頼りになる部下の山城とサシ飲みだ。
ザワザワとそれぞれに盛り上がる店内なら俺の小さな呟きぐらい許されるだろう。
「たまんねぇんだよな。可愛すぎて。」
こないだの給湯室での可愛い痴態を思い出し身悶えていると、
「課長、、幸せそうで何よりですが、俺はもう帰りたくてしかたありません。」
吐き捨てるように話す山城はビール片手に相変わらずのつれない態度だ。
誰に対してもこの態度を貫くコイツを俺は気に入っている。
「そう言うなよ。ただ惚気たいだけなんだ。課長って手前、会社じゃ話せないだろ?」
酒を片手に、枝豆をひょいと山城の皿にいれる。
「やめてくださいよ。枝豆は迷惑料ですか。ちょっと安すぎませんか。」
眉間にシワを寄せた山城は迷惑そうに顔をしかめる。
まあ、もっと惚気を聞いてもらいたいところだが、酔っ払う前に本題を話して置いたほうがいいだろう。
「お前さ、部内で次に動くとしたら誰だと思う?」
探りを入れるように聞くのは、自身の進退は部長から口止めされているから。
「・・そりゃあ、課長でしょうね。
思い出したくもないでしょうが、不当な理由で一課のエースから二課に左遷のように異動になり、その代わりといった感じで課長に昇進し、すでに5年。僕は二課に来て2年、宮本はやる気はあるがまだ頼りない2年目、加藤さんは来たばかり。誰が見ても分かりそうなもんです。」
やっぱりコイツは周りをよく見てるな。確かに一目瞭然なことも言われてわかるんじゃなくて、すでに織り込み済みなのがコイツの頼れるところだ。
「じゃあ、俺が何を言いたいか分かるか?」
ニヤリと部下を試す。
「もう、そういう事ですか。最近やけに忙しそうだし、指示がやけに完成度を高めたものを求められると思ったんです。溺愛してる加藤さんとやっと付き合い始めたから嬉しさのあまり無駄にやる気がみなぎってるのかと皆で話していたんですが。」
飄々と話すコイツに悪気など一切感じられないが、それが余計に恋する男ゴコロをえぐる。
なに俺、そんなに華と付き合えて嬉しそうなのを隠せてないってことか。
はぁー、ぐいっと酒を煽り自分を慰める。
ゴクリと酒を飲み干すと、諦めがついた。
今更か。
そうだな今更だよな。そんな事大した問題じゃないな。
「人事については、部長に口止めされてるから詳しくは言えない。
だが、俺がいなくなった後、二課をまとめていくのはお前だ。俺の代わりに上司は来るだろうが、部内の現状と、個々のスキルを理解し新しい上司と部員を繋ぐ役目は当面のお前の仕事だ。
多分、お前に今以上に負荷がかかる。一言言っておこうと思ってな。」
俺の代わりの人員にどんな奴が来るのかは知らないが、部内でエースのコイツに負担が増えてしまうのは、仕方がないとはいえ心苦しく思う。
「・・相変わらずですね。部下の事などそんなに気にしなくても大丈夫ですよ。
なるようにしかなりません。
まあ、せっかく言っていただいた分、可能な範囲で役割を全うします。」
そうスッキリとした顔で笑みを向ける山城を頼もしく思う。
「山城、お前いい奴だな。」
ほんと、コイツが華に惚れるとかなくて良かった。そう思ってしまうのも恋する男のしょうもない本音。
ニ課のメンバーは皆いい奴だ。残された時間でどれだけのことが出来るか分からないが、出来るだけ皆に負担をかけない形で異動したい。
「じゃあ、課長、日中社内でいちゃいちゃできるのもそう長くはないんですね。」
ニヤリとからかう山城に、それならと攻勢をかける。
「お前こそ、年下彼女はどうしたんだよ。学生だろ?ぼやぼやしてると近くにいる若い男に盗られちまうぞ。」
コイツの弱みは今のところここだろう。
「なっ、かか彼女じゃないって言ってるじゃないですかっ!アイツは俺の事そんな風に見てないですよ。」
くくくっ。人の恋路は面白い。あの山城が狼狽えてビールジョッキを一気飲みしてやがる。
「ふーん。アイツ、、ねえ。じゃあ、お前はそうゆう風に見てるわけだ。切ないねぇ、片思いか。あれ、でも水族館に連れて行かされたって言ってたよな。脈ありなんじゃないか?」
なんか、俺をおちょくる和田部長の気持ちが少し分かってしまうな。
「・・、もうからかわないでくださいよ。アイツはただ水族館に行きたかっただけなんです。」
居心地悪そうに視線を逸らした山城は恋する男の顔をしていた。
あまりいじめるのもかわいそうだ。このぐらいが頃合いだろう。
「経験者として言えば、誰かに盗られてからじゃ遅いからな。、、まあその場合、取り返すのみだが。」
恋愛初心者の俺は大したアドバイスは出来ないが、頑張れということぐらいしか言いようがない。
金曜日、華は一人で取引先へと行ってしまった。
室内にある皆の予定を書き込んだホワイトボードの加藤の欄には、午後から取引先へ行き、直帰との事。
引き継ぎの前の業務に追われている俺は、大して華と話もできずホワイトボードで華の予定を確認する。
そういえば、こないだの帰り際ちょっと嬉しそうに「自社製品が商品になったの見てきます。」とか言ってたな。
真面目な華らしくて上司としては褒めてあげたいが、彼氏としてはちょっと心配だ。
なぜなら、よりによって出先はあの嫌味な井上さんだからだ。井上さんの上司の鈴木部長は理想の上司だが、井上さんはクセがある。でも、その井上さんがわざわざ商品を見せてくれるって、そこに邪心はないのかと疑ってしまう。・・分かってる、嫉妬深い事を言ってると。分かっていてもそう思わずにいられないんだ、仕方ないだろう。
華を閉じ込めてなどおけるわけないのに、急に俺の前に現れた華は、いつのまにか急にいなくなりそうで時々心配になる。
・・考えすぎだな。好きすぎて思考回路がお花畑だ。
俺にはやるべき事がある。それをこなしていく事が結果的に華を守ることになるのだから。
そう思い業務に集中した。
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