執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

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初恋は香りとともに

解氷

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冴木課長視点

酔っ払い達は、人の行き交う駅構内で「結婚しなくて良かったじゃん!」とわめいた
俺は彼女が泣いてる気がして、好奇心にまみれた周りの視線から彼女を隠すように後ろから抱きしめた。
もう一軒付き合えと顔を近づけ、彼女の顔を確認すると、幸い涙はこぼれてないし、びっくりした表情の後、だんだん顔が赤くなってきたので解放した。残念だが、ここは駅なので。
周囲の気遣いのおかげで、二人っきりになった俺はそれらしい理由を告げ強引に拓の店に連れて行った。ほんとはすごく嫌だったが、仕方ない。今は緊急事態なのだから。
結婚をやめた話を聞きたくて、彼女を連れて行ったのに、またもや追い詰められたのは俺の方だった。
俺のお気に入りの酒、ブランデーの中のコニャックっていうやつ。コニャックにも沢山の種類がある。ブランデー自体ぶどうを蒸留させたものだからワインと似ているかもしれない。俺のお気に入りは爽やかな柑橘系の香りとバニラの香りが混じり合うまろやかな味の逸品。
その香りを嗅いだ彼女は、「課長の香り」って言った。
しかも「いい香り」って、、、。
愛用してる香水とお気に入りの酒を褒められただけなのに顔が熱くなる。
俺が動揺してるのに気づいてるのは拓だけだ。またしても、彼女にやられた、、と思っていたが、これで無自覚攻撃は終わらなかった。

「あつい!喉が、胃まで熱いのが通り抜けました。 美味しいです!」
涙目でニッコリ微笑む彼女。

AV女優もびっくりなコメント。
いや、そう思う男の性を男ならきっと許してくれる。
俺のいい香りがする物を、飲んだら喉も、胃まで熱くなっちゃって。
でも、美味しいよっと涙目で笑う。
いかがわしい事を彼女にさせてしまったようだ。
俺は、お気に入りの酒を勧めただけなのに。
身体が色々熱くなった俺は、しばらく彼女の顔を見れなかった。。
そんな俺の内心を知らず、彼女は拓の作ったアルコール度数の高そうなカクテルをちびちび飲み、話を切り出すのを考えていたようだ。

正直、聞きたい。
何があって、結婚をやめたのか。
彼女が結婚して、その人生を捧げてもいいと思った男は一体どんな奴なのか。
そいつとはどんな別れをしたのか。まだ、そいつの事を忘れられないのか。。

そこまで考えて、聞きたいけど、聞きたくないかもしれないと思った。
それに聞いたところで、今、彼女はそいつの隣ではなく俺の隣にいるんだ。
左手に所有の印もない自由な状態で。
変わらない過去に嫉妬するより、今は彼女を甘く優しく溶かしたい。

俺は、彼女に対する俺の気持ちを抑え気味に語った。
俺のドロドロした溶け合いたい願望は、君の心を捕まえるまでは内緒だ。逃げられちゃうからね。
俺のしょうもない話を聞いて、彼女は人ごとのような感想は言わなかった。俺の外見も中身も好きって言ってくれて、もちろん嬉しかった。理性が飛びかけたけどね。
理性が煩悩に勝った後、彼女も瀕死の痛みを感じた事があるんだと気づいた。
心が瀕死の重傷を負った奴は、相手の傷の具合を見て話すんだ。冗談で言えるレベルか、そっとした方がいいのか。心の傷は見えない分、取り扱いは厄介だ。みんな、こちらを心配して声をかけるけど、その優しさを受け取れる余裕さえ失っていると逆効果でしかない。
酔っ払いのたわごとに固まる彼女を見て、彼女もそうなんじゃないかと思った。
いや、そうだった?傷がしっかりと癒えてはいないが、最近の彼女はよく笑う。
前を向いているんだ。
瀕死の状態から、這い上がってきたんだと思う。
そう思うのは、俺も似た感情があるからだ。女にこりごりし、理不尽な人事異動、やっても評価されない業務。それらに絶望して、心に壁を作り腐りかけた時、和田営業部長や川上人事部長が助けてくれた。言い寄ってきた女の叔父にあたる重役はいつのまにかいなくなり、俺の仕事も和田部長のおかげで上層部にも評価されるようになった。
飲みに無理やり連れていかれ、部長の豪快すぎる失敗談や、下ネタなどを聞きながら延々と飲まされたのは今はいい思い出。今も誘ってくるけど、いじられるのが分かるから行かないよ。
だから仕事は完璧にやろうと持ち直した。でも、女は無理だった。
そんな時、彼女に出会ったんだ。
こちらに壁を作りながら、仕事を覚えようとする彼女に親近感を覚えた。似ているから、敵じゃないよ、味方だよ、だから近づいてもいいよねって。
今から思えば、無意識に自分と彼女の似ている部分を探したのかもしれない。
実際は、俺は塩まいてたし、彼女は仮面被ってたんだけど。
それに、彼女の頭の中は俺みたいに欲望や、煩悩、妄想でいっぱいではないだろう。
もし、彼女が煩悩でまみれたら、、その時は全力で受け止める所存だ。

涙が止まった彼女はにこにこと笑いながら飲んでいて目の保養だったが、どうやら様子がおかしい。飲みながら、上体がフラフラと左右に揺れ、とろんとした目になっていた。
拓を見ると、ニヤリと笑っていた。
あいつ、、わざと彼女に強い酒を飲ませたな。
一瞬美味しくお持ち帰りするという素敵な妄想をしたが、、涙を飲んでタクシーに乗せた。
彼女の「好き」が俺の「好き」にレベルは無理でも、種類が同じになるまでは待っていたい。今のところは。。
タクシー代を断る彼女に、いや俺の(友達の悪巧みの)せいなので良心が痛み、無理やり渡した。
お礼をという彼女に「華」と呼ばせる約束を取り付ける。
タクシー代で、彼女を華と呼べるなら安いものだ。
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