執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

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初恋は香りとともに

マジ惚れます 後輩宮本視点

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始業前、俺は自分のコーヒーを入れて、ついでに冴木課長にも入れて朝のコーヒータイムをのんびり楽しんでいた。
この課で一番下っ端だからというのもあるが、俺はこの冴木課長に心酔している。

新入社員研修で、研修最終日に新入社員に向け実務と社会人としての責任について話していた冴木課長は、めっちゃカッコ良かった。
研修がほぼ終わり、学生気分の抜け切らない俺たちは冴木課長が研修室に入ってきても、どこかざわつき落ち着いてはいなかった。

冴木課長は颯爽と壇上に上がった。
「今、君たちには会社からこの瞬間も給料が出ていると分かっているのか」
冴木課長の絶対零度な視線と低めな声が、ざわつく室内に響いた。
瞬間的にシーンと静まり返る室内。

「先月まで学生だろうと、社外の人間にとっては君たちはもう当社の看板を背負ってる。
君たちに今すぐに会社の利益に貢献しろというのは無理だろう。
しかし、会社は君たちの未来の貢献に投資として給料を払っているんだ。
だから、君たちは営業時間内は最大限の努力で仕事を覚えなさい。
君たちの頑張りに対し、失敗はつきものだ。失敗はいくらでもフォローする。
だが、同じ失敗を繰り返してはならない。また、相談、連絡も常に忘れずに行うこと。
その心がけを忘れなければ、必ず評価は付いてくる。

君たちのこれからに期待しています」

冴木課長はそう言って微笑んだ。

新入社員が恋に落ちた瞬間だった。

俺のハートにも矢が刺さった。

俺はノーマルのはずだけど。

そんな二課に配属されたのは、社内ローテーションが終わった半年前から。

羨ましがる同期にハブにされかけたけどね。
でも、あの冴木課長の元で働けるなんて、俺社内ローテーションで頑張ってよかった。

しかし、現実は厳しかった。。
いや、冴木課長は思い描いていた通りの理想の上司だった。
問題は、俺の教育係となった佐藤係長だった。佐藤係長は、冴木課長と同期らしいが能力の差は俺の目からみても歴然。
まず、教えてくれないし、聞いても言った、言わないの繰り返し。で、ミスは全部俺のせいみたいな。
モチベーション下がりまくり。
でも、やっぱりさ、冴木課長がフォローしてくれるわけ。そりゃ、頑張るしかないじゃん。



始業9時、電話が鳴ったら、
「宮本くーん、田口商店の人が納期過ぎてるのにどうなってるって、激怒してんだけど。」
事務の佐々木さんが蒼白。
コーヒー飲んでた俺も蒼白。


「すみません、俺の伝達ミスです。すみません、本当にすみません。」

俺は取引先からの納期の変更依頼を可能かどうか佐藤係長に確認して、折り返し得意先に連絡した。納期の変更依頼は、基本的に役職者以上が工場への連絡をすることになっている。
だから佐藤係長がするはずだったが、

「僕は聞いてませんよ。」
パソコンの画面を見ながら、佐藤係長は言った。
カッと頭に血が上った。
「なっ、「宮本!得意先からの変更依頼のメールを今すぐこっちに送れ、すぐに工場に行くから準備しろ。山城、悪いが、午後の会議代わりに出てくれ、後は、、」

俺の発言に被せてきた冴木課長は立て続けに部員に指示を出す。
しかし、佐藤係長にはスルーだ。
俺は消化できない気持ちのまま冴木課長と社を出た。

課長は、まず工場へ経緯を説明し、どうにか最短での納期を約束してもらい、その後得意先に最短プラス2日の日程での納期の交渉を勝ち取った。

無理無理な案件だったのに、どこでも、冴木さんならしょうがないって、最後は納得してくれて。

俺は無力で、隣でひたすら謝るしかなかった。だって、今の俺じゃこの交渉は無理だから。

朝から対応に追われ、帰りは夕方になっていた。

後ろにいる冴木課長がため息をついた。

憧れの人にため息をつかれ、俺は心底泣きたくなった。

でも、帰ってきた言葉は予想外の優しさと、研修の時と変わらない厳しさで。

マジ惚れです。冴木課長。
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