執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

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番外編 キスとぬくもり 安藤課長編

16 過去と今 安藤課長編

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沙織視点

「いやあ、こんな美人さんが課長だなんて嬉しいなぁ。」

「前の冴木君は中々手厳しくてねえ、、やっぱり美人さんが相手になるとモチベーションが上がるよ。」

新幹線に乗ってはるばる会いに来た相手先はメタボリックな上司となんだかジロジロ見過ぎな部下。

「お褒め頂きありがとうございます。」
謙遜するのは白々しいので、にっこり笑顔でお返事する。

「どうだい、夜、泊まりだろう?いい店があるんだ。連れてってあげるよ。」
来た来た。
ニヤニヤと誘う相手に酒を片手にどんなセクハラが待っているか・・考えなくても分かること。
「わあ、ありがとうございます。・・ですが、私共最終の新幹線で帰らなくてはいけないんです。」
「「!」」
申し訳なさそうな顔で断ると、
「えぇっ。最終で?酷い会社だなあ、出張費の削減かい?僕が会社に言ってあげようか?」
なってないなあと吠える相手に、他社の事など余計なお世話だと思うが、ここはきっぱりお断りしたいところ。
ふふ。こんな時のための殺し文句。
「加藤さん新婚なんですよー。やっぱり早く帰りたいでしょう。」
「えっ、あ、いや、、あの。」
あたふたと赤くなる加藤さんを愛でていると、
「なんだ、そうなのぉ。旦那が帰って来いって?心が狭いねえ。」
けらけらと笑う上司と部下。
面白いのはこれからよ。
「加藤さんの旦那さんはあの冴木課長なんですよ。」
「「!!」」


宿泊先ホテルのレストランにて

「もー、安藤課長、ああゆうの困ります。事前に言っといてくださいよ!」
そう言うのは、先ほどまで「あの冴木君の奥さん?、、いやあ、こりゃ参ったなあ。。そうだね、早く帰った方がいいよね。うんうん。」と打って変わって低姿勢になった相手先に、「いえいえ、そんな、、。」と困っていた加藤さん。
「ふふ。ごめんねぇ。なんか明らかにセクハラされそうな気配だったじゃない?山城くんでもいれば安心だけど、どうしても女だけだと甘く見られるのよ。だから、冴木課長の名前使っちゃった。」
なんだかんだで冴木に頼るようでむかつくけど、自衛もしないといけないから仕方ない。
「大事な加藤さんに何かあったら・・悲しいもの。」
これは本心。
「っ!あ、あの私だけじゃなく、安藤課長自身も大切でしょう!」
「・・かわいい。」
ああこのかわいい子撫でくりまわしたい。
「もうっ。美人な人にかわいい言われてもっ・・。」
「あら、嫌だった?」
かわいいものは愛でたいのにと、ついつい自身でもよく分かってる妖艶な笑みを浮かべる。
「っはあ・・。もうなんか・・羨ましいです。美人で仕事が出来て、ああいう事態にもさらっと対応出来ちゃって。。」
加藤さんはがっくり肩を落として、グラスに入ったお酒を飲んだ。
羨ましい・・か。
人から見たらそう見えるように振舞っているだけ。
そう言ったところで、それを嫌味なく受け取ってくれる人間は少ないだろう。
「私も羨ましいわ。あなたも。・・冴木課長も。」
目の前のかわい子ちゃんは、あの誰にも執着なんてしなかった冴木課長を別人のようにして永遠の愛を手に入れた。私とは全く違う人生を歩いている彼女が羨ましく思うのは仕方がない。
「・・今だから言っちゃいますけど、私安藤課長が二課に来るのほんと嫌だったんです。」
おおう。君もか。。
かわい子ちゃんからのぐさりとくるセリフに心が痛んだ。
「こんなに美人で、仕事できて、それを鼻にかけた感じでもなく、親近感があって・・そんな素敵な女性が私の知らないユウマ(冴木課長)さんの・・過去にいたと思うと、・・不安でした。」
加藤さんの絞り出すように、一生懸命話す姿は、抱きしめちゃいたいぐらいかわいい。
「でも「分かってます。二人の間に何もないと聞いていてもです。」
私の否定のセリフに被せて来た加藤さん。
「それでも、不安だったんですが、、今は・・。」
今は?
「私の理想の上司です。」
「っ!」
ふふっと可愛らしく笑う加藤さんに、きゅんとした。だって、同性にそんな事言われたことなかった。。
だいたいやっかみや嫉妬、悪口、陰口のオンパレードだった。
「うーん、やっぱり冴木にはもったいないなあ。。」
つい本音が漏れると、
「何言ってんですか。餌付けしてくれる相手がいるって言ってたじゃないですか!」
口を尖らせる加藤さんに、そうだ、そんなこと口走ったわ。。と思い出した。
「まあ・・ね。そう長く続く相手じゃないと思うけど。」
そう、仮の恋人期間は終わりが見えてる。
「お相手のこと、嫌いになったんですか?」
「・・っきらいじゃないけど、、。」
「けど?」
真面目に聞いてくる彼女に嘘はつけない気がした。
「・・でも無理だと分かるから。ダメになる未来が見えてるのに長くはいられない。」
はあとため息が漏れた。
言葉に出すとやはり、、胸が軋む。
でも、踏み出せば、もっと傷つくことも分かってるから・・。

「本当に好きなんですねえ。」
加藤さんがしみじみと言った。
「っ・・好きは好きだけどっ。。」
だって、KAIもかわいいから。
「本当に好きだから、一緒にいて傷つくのが怖いと思うんじゃないですか?
あ、なんか偉そうな事言ってすみません。。あの、でも、分かるんです。私もあったんで。。でも、そうやって自分からも相手からも逃げちゃうと、お互いすごく、、すごく傷つくんです。でもその過去があるから、今はどうにかユウマさんの隣でも踏ん張って立ってられるんです。大事なものから逃げちゃダメだって。。」
「・・惚気かしら?」
「っそーじゃないですよ!もう、真面目に話してるのにぃ!!」
「あははっ!」
加藤さんの慌てぶりに笑いながら、逃げている自分の図星を指されたといたたまれなくなった。

恋愛なんて、結婚しなければいつかは終わるもの。
そう思ったのはいつからだったか。
「俺にはもったいないから。」
学生の時にそう言われた時か
「今度(本命)彼女と結婚するんだ。」
年上のリーマン彼氏にそう言われた時か
「転勤するならもう終わりだ。」
結婚か別れかを迫った元彼か
・・ろくな恋愛してないな。

いつも必ずくる終わりの時

分かっているのに、、脳裏をよぎるのはKAIの笑顔と抱き寄せる力。
KAIもいつか私の過去になるのか・・。そう考えていると、

「安藤課長!ちゃんと聞いてくださいよ!傷つくのが怖いと思えるぐらい好きだと思える相手に出会えるのって、すごく、ラッキーだと思うんです。だから、諦めないで向き合ってほしいです!」
茶化す私に一生懸命に訴える子はほんといい子なんだと分かる。
「ふふ。・・ありがと。」
「っいいんです。」
笑う私にほおを染めるこの子にKAIの残像が重なる。
・・確かに重症なのかもしれない。
会いたくないとここに来たのに、、

今、すごくKAIに会いたい。
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