100 / 110
番外編 キスとぬくもり 安藤課長編
11温度 後半 安藤部長編
しおりを挟む
安藤部長改め沙織視点
今日は久々最悪の日だった。
この古き良き風習の残る会社において女性管理職がストレスフルなのは特段珍しいことでもない。
ないのだけれど・・帰る道すがらどうしょうもない感情が私をイラつかせていた。
今日の昼下がり
「この新規事業について何かご質問は?」
営業企画部の係長がドヤ顔で役職者会議で発言する。
この新規事業?
何をふざけたこと言っちゃってる。
この事業案は私が大阪時代に提案したもの、そのまんま。それを自分の案の様に部課長会で発表するの面の顔の厚さ・・。
大阪時代の時は本部から却下と言われたのに、それはただ自分達の手柄にしたかったのかしら?
「前山係長、素晴らしい案ですね。・・ただこの値、最新ではない様ですが・・見積もりに影響がありそうですね?」
憂い顔の私はさも心配そうに呟く。
「最新値?これいつのだ?」
「この数値の確証はどこから?」
ざわつく会議室を心配そうに見つめる(そぶり)。
「えっ!?・・最近為替は動いてなかったし、大幅な値動きはなかったはずだ。変な言いがかりはやめてくれたまえ。」
憮然とした表情で言い返す係長は確か旧派閥の人間だ。
派閥なんかどうだっていいんだけど・・人の苦労を自分の手柄にしようってのは気に入らないじゃない?
「この数値、三ヶ月ほど前のものですよね?現在においては、この取引先は外資との合併の話が進んでおります。もし、今営業をかけるのなら・・私でしたら、この取引会社のライバル会社であり、国内トップシェアのメーカーを選びますが。」
「が、合併の話など聞いたことないぞ!?」
「デタラメじゃないのか?」
「その情報はどこから?」
ざわざわとスーツを着たおじさん達が騒ぐ中、鶴の一声が聞こえた。
「その話、本当ですよ。・・まあ、まだ公にはなっていませんが。」
そう発言したのは、小綺麗なスーツを着た川上人事部長。
以前は営業担当として活躍していたそうだが、人事部においても人脈はあるということかしら?
「まあ、少し練り直しが必要では?」
ニッコリと笑う川上部長の顔からは少しばかりぞくりとした寒気を感じた。
「はい、ちょっと情報を精査しないと。」
取り繕ったような笑みを浮かべるゴマスリ男に内心げんなりとしつつ、役職者会議は終了した。
その後、クレームの発生した取引先や問題を抱えた取引先、注文の多い取引先などを山城くんと回った。
すると、、
「あー、綺麗な課長さんだねえ。。冴木君は?来てくれないの?彼の方が話分かるからさー。」
「ええっ!冴木君はそんな事言わなかったのに!君じゃ話にならないよ!」
「だからさ、駄目だって一点張りじゃない。もう少し歩み寄りがないとウチも考えちゃうよね?」
・・めんどくさい。
だから人たらしの冴木の後任はしたくなかった・・。
そう言っても仕方がない事実を飲み込み、笑顔と話術と、情報戦、そして出来る子山城くんのフォローもあり、どうにか、言いくるめ乗り切れた。
そんなぐったりとした気持ちで、やたらきらびやかな高層マンションのドアを開ければ、
「おかえりっ!」
美しすぎる男子が笑顔で迎えてくれた。
・・スウェットなのにこの華やかさ。ホスト通いする女子の気持ちがちょっと分かっちゃうかも・・。
でも、今日はそんなキラキラさえめんどくさい。
こんな日はとっととお風呂に入って、全て洗い流してしまえ!そう思ってた。
「あー気持ち良かった!ありがとう。」
美貌の男子はマッサージもお得意だった様で、高いヒールで歩き回った脚は今は羽根の様に軽い。
突然の同居で腹も立ってたけど、ご飯も美味しいし、マッサージも上手いし・・。
「KAIっていいお嫁さんになるわぁ。」
軽くなった脚をさすりつつ呟くと、
「はっ!?」
KAIは飲んでたおしゃれなドラフトビールを吹き出しながら「嫁じゃねえんだよ。」と悔しそうに愚痴る。
「ふふっ。なんか見た目とギャップあるわね?」
つい憂いを纏った男の可愛らしい一面に笑みがこぼれた。
「っ、どうせ中身はガキっぽいですよ。」
ソファの上であぐらをかいたKAIは口を尖らす。
「ガキっぽい?んー、、かわいこちゃんだと思うけど?」
隣に座るかわいこちゃんを見つめて愛でていると、ふいっと目線を外し前を向いたKAIが呟いた。
「・・そうやって笑ってんのが良いよ。」
ボソッと呟いた声は聞き取れるかどうかの大きさで、
それが、余計に胸に刺さった。
あー・・、気ぃ使わせちゃったんだな。
こんな年下の子に気遣われるなんて、情けないなぁ。
ふうっとため息が漏れる。
「ごめん、私イライラしてたね。」と言うと、
「うーん?なんだろ。なんか違うんだよ。・・それにごめんってのも違うなあ。」
手入れされたツヤツヤキューティクルの髪の毛をぐしゃぐしゃとかきまぜながら言葉を探すKAI。
この子に打算とか裏とか、そんなのないんだろうな。
「ありがとう?うん、そうだね。KAIありがとう。」
そして、ちょっと悪い奴だと疑っててごめん。それは心の中で謝罪する。
「ありがとう、か。うん、嬉しい。」
「・・。」
そう笑ったKAIの笑顔は、巷に溢れるモデルのKAIのカッコつけた笑みより数倍破壊力のあるかわいさ。
ついその可愛らしさににまにまと癒されていると、
「・・っじゃあご褒美、ください。」
顔を赤らめつつも挑むようにこちらを向いた眼は真剣そのもの。
かわいこちゃんも男だった、そういえば。
この子も私を抱きたいのかしら。
そう思い、首を傾げより艶やかに笑ってみせる。
「どんなのがお好み?」
KAIが望んだのは・・。
「手、繋いでください。」
「へ?」
意外すぎて私自慢の艶やかな笑みも剥がれ落ちた。
「ダメですか?」
眉を寄せたかわいこちゃんは悲しげだ。
「あっ、ダイジョーブ、ダイジョーブ!」
へこむKAIをフォローしようと、勢いよく左手をKAIの右手に絡めると、
一瞬びくんとしたKAIの手は、優しく私の手を包んだ。
じんわりと伝わる高い温度。
何かが伝染するようなそんな錯覚。
「手、気持ちいいです。」
繋いだ手を嬉しそうに持ち上げるKAI。
「・・性癖?」
ポツリとつぶやくと、
「せっ!?なんつうこというんですかっ!」
KAIが真っ赤な顔で怒り出した。
手は繋いだまま。
「っ、、あははっ!やばいなんかハマった!」
その慌てぶりにお腹が苦しいくらい爆笑した。
「くそっ、もうっ、いちいちっ・・。」
不満げにブツブツ言うKAIと笑いがおさまらない私が飲み明かしたそんな夜。
もちろん手はそのままで。
今日は久々最悪の日だった。
この古き良き風習の残る会社において女性管理職がストレスフルなのは特段珍しいことでもない。
ないのだけれど・・帰る道すがらどうしょうもない感情が私をイラつかせていた。
今日の昼下がり
「この新規事業について何かご質問は?」
営業企画部の係長がドヤ顔で役職者会議で発言する。
この新規事業?
何をふざけたこと言っちゃってる。
この事業案は私が大阪時代に提案したもの、そのまんま。それを自分の案の様に部課長会で発表するの面の顔の厚さ・・。
大阪時代の時は本部から却下と言われたのに、それはただ自分達の手柄にしたかったのかしら?
「前山係長、素晴らしい案ですね。・・ただこの値、最新ではない様ですが・・見積もりに影響がありそうですね?」
憂い顔の私はさも心配そうに呟く。
「最新値?これいつのだ?」
「この数値の確証はどこから?」
ざわつく会議室を心配そうに見つめる(そぶり)。
「えっ!?・・最近為替は動いてなかったし、大幅な値動きはなかったはずだ。変な言いがかりはやめてくれたまえ。」
憮然とした表情で言い返す係長は確か旧派閥の人間だ。
派閥なんかどうだっていいんだけど・・人の苦労を自分の手柄にしようってのは気に入らないじゃない?
「この数値、三ヶ月ほど前のものですよね?現在においては、この取引先は外資との合併の話が進んでおります。もし、今営業をかけるのなら・・私でしたら、この取引会社のライバル会社であり、国内トップシェアのメーカーを選びますが。」
「が、合併の話など聞いたことないぞ!?」
「デタラメじゃないのか?」
「その情報はどこから?」
ざわざわとスーツを着たおじさん達が騒ぐ中、鶴の一声が聞こえた。
「その話、本当ですよ。・・まあ、まだ公にはなっていませんが。」
そう発言したのは、小綺麗なスーツを着た川上人事部長。
以前は営業担当として活躍していたそうだが、人事部においても人脈はあるということかしら?
「まあ、少し練り直しが必要では?」
ニッコリと笑う川上部長の顔からは少しばかりぞくりとした寒気を感じた。
「はい、ちょっと情報を精査しないと。」
取り繕ったような笑みを浮かべるゴマスリ男に内心げんなりとしつつ、役職者会議は終了した。
その後、クレームの発生した取引先や問題を抱えた取引先、注文の多い取引先などを山城くんと回った。
すると、、
「あー、綺麗な課長さんだねえ。。冴木君は?来てくれないの?彼の方が話分かるからさー。」
「ええっ!冴木君はそんな事言わなかったのに!君じゃ話にならないよ!」
「だからさ、駄目だって一点張りじゃない。もう少し歩み寄りがないとウチも考えちゃうよね?」
・・めんどくさい。
だから人たらしの冴木の後任はしたくなかった・・。
そう言っても仕方がない事実を飲み込み、笑顔と話術と、情報戦、そして出来る子山城くんのフォローもあり、どうにか、言いくるめ乗り切れた。
そんなぐったりとした気持ちで、やたらきらびやかな高層マンションのドアを開ければ、
「おかえりっ!」
美しすぎる男子が笑顔で迎えてくれた。
・・スウェットなのにこの華やかさ。ホスト通いする女子の気持ちがちょっと分かっちゃうかも・・。
でも、今日はそんなキラキラさえめんどくさい。
こんな日はとっととお風呂に入って、全て洗い流してしまえ!そう思ってた。
「あー気持ち良かった!ありがとう。」
美貌の男子はマッサージもお得意だった様で、高いヒールで歩き回った脚は今は羽根の様に軽い。
突然の同居で腹も立ってたけど、ご飯も美味しいし、マッサージも上手いし・・。
「KAIっていいお嫁さんになるわぁ。」
軽くなった脚をさすりつつ呟くと、
「はっ!?」
KAIは飲んでたおしゃれなドラフトビールを吹き出しながら「嫁じゃねえんだよ。」と悔しそうに愚痴る。
「ふふっ。なんか見た目とギャップあるわね?」
つい憂いを纏った男の可愛らしい一面に笑みがこぼれた。
「っ、どうせ中身はガキっぽいですよ。」
ソファの上であぐらをかいたKAIは口を尖らす。
「ガキっぽい?んー、、かわいこちゃんだと思うけど?」
隣に座るかわいこちゃんを見つめて愛でていると、ふいっと目線を外し前を向いたKAIが呟いた。
「・・そうやって笑ってんのが良いよ。」
ボソッと呟いた声は聞き取れるかどうかの大きさで、
それが、余計に胸に刺さった。
あー・・、気ぃ使わせちゃったんだな。
こんな年下の子に気遣われるなんて、情けないなぁ。
ふうっとため息が漏れる。
「ごめん、私イライラしてたね。」と言うと、
「うーん?なんだろ。なんか違うんだよ。・・それにごめんってのも違うなあ。」
手入れされたツヤツヤキューティクルの髪の毛をぐしゃぐしゃとかきまぜながら言葉を探すKAI。
この子に打算とか裏とか、そんなのないんだろうな。
「ありがとう?うん、そうだね。KAIありがとう。」
そして、ちょっと悪い奴だと疑っててごめん。それは心の中で謝罪する。
「ありがとう、か。うん、嬉しい。」
「・・。」
そう笑ったKAIの笑顔は、巷に溢れるモデルのKAIのカッコつけた笑みより数倍破壊力のあるかわいさ。
ついその可愛らしさににまにまと癒されていると、
「・・っじゃあご褒美、ください。」
顔を赤らめつつも挑むようにこちらを向いた眼は真剣そのもの。
かわいこちゃんも男だった、そういえば。
この子も私を抱きたいのかしら。
そう思い、首を傾げより艶やかに笑ってみせる。
「どんなのがお好み?」
KAIが望んだのは・・。
「手、繋いでください。」
「へ?」
意外すぎて私自慢の艶やかな笑みも剥がれ落ちた。
「ダメですか?」
眉を寄せたかわいこちゃんは悲しげだ。
「あっ、ダイジョーブ、ダイジョーブ!」
へこむKAIをフォローしようと、勢いよく左手をKAIの右手に絡めると、
一瞬びくんとしたKAIの手は、優しく私の手を包んだ。
じんわりと伝わる高い温度。
何かが伝染するようなそんな錯覚。
「手、気持ちいいです。」
繋いだ手を嬉しそうに持ち上げるKAI。
「・・性癖?」
ポツリとつぶやくと、
「せっ!?なんつうこというんですかっ!」
KAIが真っ赤な顔で怒り出した。
手は繋いだまま。
「っ、、あははっ!やばいなんかハマった!」
その慌てぶりにお腹が苦しいくらい爆笑した。
「くそっ、もうっ、いちいちっ・・。」
不満げにブツブツ言うKAIと笑いがおさまらない私が飲み明かしたそんな夜。
もちろん手はそのままで。
0
お気に入りに追加
2,274
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる