【5分で読める!】短編集

こよみ

文字の大きさ
上 下
5 / 17

陽だまりと猫

しおりを挟む
 僕の通っていた大学には頻繁に猫が出没する。どういう意味合いでそう呼ばれているのかは知らないが、噂によると近辺に猫屋敷なるものがあるそうだからその影響かもしれない。
 ともあれ、いつものように資料を借りに研究室へ顔を出した日のことだ。
 ちょうど論文が一段落したという智隼ちはやくんに誘われ食堂へ向かう道すがら、足元で「にゃあ」と小さな鳴き声が聞こえた。顔を見合わせ、視線を落とした先にはこちらを見上げる猫が一匹。明るい毛色に縞模様の入った、まだ仔猫と呼ぶべき小さな猫だった。

「なんだよ、餌なんか持ってないぞ?」

 楽しそうに笑って智隼くんがしゃがみ込む。伸ばした手にするりと擦り寄る仔猫はずいぶん人馴れしているようで、逃げる気配すらない。きっと餌付けしている学生でもいるのだろう。
 そういえば丸々と太った猫が構内にいたな……と、思わず周囲を見やると、どこからともなく一匹、また一匹と猫が近寄って来ていた。

「君は本当に猫に好かれますねぇ」

「昔からこの調子なんだよな。餌付けとかしたことないのに」

「太陽か何かと勘違いされてるんじゃないですか?」

「太陽? 俺が?」

 きょとんとした様子で智隼くんが僕を見上げる。まあ、突然言われたらこうもなるだろう。
 僕は一つ頷くと「太陽というか……」と、より正確な言葉で理由を告げた。

「お見舞いに来てくれた時とか特に顕著なんですけど、君ってお日様の匂いがするんですよね」

「お日様」

「はい。空気感と言いますか。君自身が陽だまりになったみたいに、そこにいるだけで妙に暖かくて……何か変なこと言ってます?」

「……いや、ゆきって基本捻くれた言い方する癖に、時々すっげえ可愛いこと口走るよなと思って」

「可愛くありません。適当な言葉を選んだ結果です」

 可愛いと言われるのは不愉快でむっとして言い返すが、はいはいと適当に聞き流されて終わってしまった。同調するように猫たちまでにゃあにゃあ鳴くのが気に入らない。
 ああ、やっぱり不愉快だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

在庫処分

黒蝶
キャラ文芸
短篇を集めた場所です。500字から1000字程度のものを多めにするつもりです。 感想も勿論ですが、リクエストを受け付けます。コメントを送っていただけると喜びます。 (メッセージを非表示希望の場合はその旨をご記入ください)

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜

摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。 どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

横浜で空に一番近いカフェ

みつまめ つぼみ
キャラ文芸
 大卒二年目のシステムエンジニア千晴が出会ったのは、千年を生きる妖狐。  転職を決意した千晴の転職先は、ランドマークタワー高層にあるカフェだった。  最高の展望で働く千晴は、新しい仕事を通じて自分の人生を考える。  新しい職場は高層カフェ! 接客業は忙しいけど、眺めは最高です!

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

処理中です...