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第4話 タロー、キレる
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ギルによれば、前の魔王はふた月前に胃を悪くして引退したそうだ。
胃を。魔王が。
あまり聞かないワードはタローに一定の衝撃を与えたが、すでにこの世界に馴染み始めている彼にとってその事実を飲み込むことには大きな困難は伴わなかった。
「そっすか」
「でね、ほんとだったら国中の村から立候補希望者集めて魔力比べとかやるんだけど、今回はちょうど武闘会の時期だったし、予算も大変らしくていっしょにしちゃえってなったみたい」
「いいんですかねそんな感じで」
「いいんじゃないやることは似てるし」
ギルはそのことにさほど関心がないらしいように見えた。
「ただなあ、ワルキューレ村から魔王が出たらいろいろ面倒と思ってる魔物は多いよ。あたしもだけど。あいつらがめついから税金とかめちゃくちゃやりそうだし、女に当たりがキツいし」
「前の魔王ってどんなひとだったんですか」
「スケルトン。骸骨戦士。遺伝的に魔力量が多かったから当選したみたいだけど、やっぱ身体壊すくらいストレスすごいんだろうね、魔王って」
胃、ないよね。骸骨戦士。あと骸骨の遺伝。
タローが多すぎる突っ込み選択肢に惑ううちに客席がふたたび沸いた。
『ただいまのとくてんはあ、わるきゅーれむらあ……』
死神側がまた失点したらしい。続くアナウンスで、死神側のキーパーが泣き出したこと、これにより試合はワルキューレ側の勝利と確定したことが告げられた。
「ありゃ。やっぱ強いなあ。これであそこの地区はワルキューレの一位通過が決まったわよ」
「次はどこと当たるんですか」
ギルはうーんと眉を寄せた。
「盗賊チームになるわね。次、うちの地区の一位とあたるのよ」
タローが目を丸くしてギルに向けると、ないない、という感じでギルは笑った。
「うちは参加賞狙い。出場した村は来年の税金、ちょっと安くなるのよ。その代わり遅刻したら増額。だから焦ってムル探してたの」
「えっでも、まぐれで一発もあり得るって……」
「あんたムル助けてくれたときに見たでしょ。あいつら悪役っぽいの得意だからけっこう泣かすのうまいんだ。いじめっ子優遇して育ててるみたいだし」
嫌な村だなあ。
「というわけで、もうすぐうちの出番だからあたしたち行くね。いろいろありがとね」
「あっ、こちらこそ。お世話になりました」
ギルは近くの席にちょこんと座っていたムルとジルに声をかけ、荷物をまとめさせた。ジルが外して忘れそうになっていた肩装甲を付け直してあげたり、前の座席に差し込んである飲み物のカップをふたつ回収することも忘れない。
「出場者控室は出口のとこだから、そこまで一緒に行こう」
「あっ、カップ捨ててきます」
「ありがと。フタとストローはプラだからね。氷はわけて流してね」
はい、と素直に返事をして走るタロー。
と、赤い服の多数の観客と、それに囲まれるように同じ赤いユニフォームを着けた、ワルキューレの控え選手たちが客席に入ってくるところだった。わいわいと楽しそうな様子。自チームの勝利後、他チームの奮闘を高みの見物、というところらしかった。
すれ違いざまにチラとみる。さすが戦場の女神、戦士の魂の回収者。どの選手も迫力のある美貌だった。迫力があるのは首より少し下も同じであった。
「……あら、ギルじゃない」
ひとりがギルを見つけ、声をかけた。取り巻きがいっせいにそちらをみる。
「ひさしぶりね。元気にしてた?」
ギルはしばらくじっと上目遣いにそのワルキューレを見ていたが、ふっと横を向いた。
「おかげさまでね」
「まさか魔女に転向してるとは思わなかったわよ。あなた魂の回収うまかったのに突然やめちゃって……あっ、もしかして<はずれ村>の魔法使いって」
そういってワルキューレは、わざとらしく驚いたような顔を作って見せた。
「そっか、まだ<魔女の村>には入れてないんだ。あそこハイレベルだもんね。それで無所属の集まりの村なんだ。へえ」
「……はずれ村は無所属の集まりじゃない。やりたいことや目標がある魔物が修行のために集まるところ」
「そうね、うん、わかってるごめんなさい、修行だもんねえ。きっとすごいファイアとか使えるようになったのよね」
口に手の甲を当てて、あはは、と笑う。取り巻きも釣られて笑う。
ギルは無表情のまま、横を向いている。
タローには当然、事情はまったくわからない。ギルの経歴も知らない。しかし、これくらいわかりやすい背景説明もなかったし、登場人物に感情移入することはドラマ作りにおいてもっとも大事なことだとタローは常に意識して仕事にあたってきた。
足を止めて経緯を見守るタロー。カップを持つ手に少し力が入っていた。残っていた中身が溢れる。
「はずれ村の地区は次、うちの地区とあたるのよねえ。対戦することになったらどうぞお手柔らかにね。一位になれたら、だけど」
そういってワルキューレは、ごきげんよう、とでもいうように大袈裟な会釈をして歩き出す。取り巻きもぞろぞろついていく。ギルの横を通り過ぎ、客席の階段の横にたつジルとムルの方へゆく。
その時、ワルキューレの足がジルの足にかかった。いや、かけた、というべきだったろう。バランスを崩して、階段に落ちそうになるジル。
あっ、とタローとギルが思わず声を出すと、ワルキューレはつぶやいた。
「汚いカバね。触らないで」
ギルの目が鋭くなった。右手の杖を前に出す。わずかに発光する杖。それを見てワルキューレを囲んでいた赤い客、大柄な男たちが凄んだ。こちらに向けて一歩踏み出す。
しかし、タローの方が少し早かった。
『演出開始……アクション!』
右手を上に向けて折り曲げ、前に倒すとともにピッと指をさす。
スタジアムに急に強い風が吹いた。帽子をかぶっている観客は一斉に押さえた。タローが持っているカップとストローも、飛ばされた。
ジルに吐き捨てたワルキューレの隣にいた、別のワルキューレが階段に足をかける。と、横にいた女性客のスカートが風に舞って、その足にまとわりついた。バランスを崩す。思わず伸ばした手が、最初のワルキューレの胸元あたりを掴んだ。
文字通り絹を引き裂くような音を立てて、最初のワルキューレのユニフォームが裂けた。そういう仕様らしく、下にはなにも付けていなかった。絶叫するワルキューレ。
倒れかけたワルキューレはさらに必死の形相で、最初のワルキューレの腕を掴む。ふたりともバランスを崩したが、最初のワルキューレだけが階段を落ちかけた。
タローが空を指差す。垂れこめていた雲に切間が入る。スポットライトが最初のワルキューレの顔にあたる。
先ほど吹き飛んだカップのストロー二本が宙を舞い、ちょうど最初のワルキューレの両方の鼻の穴に刺さった。と同時にカップの蓋二個は、裂けた胸の左右にぴたっと張り付いた。
眼球がグリンと裏返るワルキューレ。
鼻にストローを八の字に刺し、カップのふたを装着した半裸のワルキューレは、無謬の光につつまれながら階段をいちばん下まで落ちていった。スタジアムの巨大モニターは、鼻ストローが横切る口を大きく開けて気絶する彼女の顔をいつまでも大写しにしていた。
なぜか、客席から大きな拍手が沸き起こった。
◇
第四話までついてきていただきありがとうございます!
ユニは引っ張られたくらいで裂けちゃだめですよね。
あっこれ、タローがアレする流れだ……と思ったら、
評価とフォローをどうかよろしくお願いいたします!
またすぐ、お会いしましょう。
胃を。魔王が。
あまり聞かないワードはタローに一定の衝撃を与えたが、すでにこの世界に馴染み始めている彼にとってその事実を飲み込むことには大きな困難は伴わなかった。
「そっすか」
「でね、ほんとだったら国中の村から立候補希望者集めて魔力比べとかやるんだけど、今回はちょうど武闘会の時期だったし、予算も大変らしくていっしょにしちゃえってなったみたい」
「いいんですかねそんな感じで」
「いいんじゃないやることは似てるし」
ギルはそのことにさほど関心がないらしいように見えた。
「ただなあ、ワルキューレ村から魔王が出たらいろいろ面倒と思ってる魔物は多いよ。あたしもだけど。あいつらがめついから税金とかめちゃくちゃやりそうだし、女に当たりがキツいし」
「前の魔王ってどんなひとだったんですか」
「スケルトン。骸骨戦士。遺伝的に魔力量が多かったから当選したみたいだけど、やっぱ身体壊すくらいストレスすごいんだろうね、魔王って」
胃、ないよね。骸骨戦士。あと骸骨の遺伝。
タローが多すぎる突っ込み選択肢に惑ううちに客席がふたたび沸いた。
『ただいまのとくてんはあ、わるきゅーれむらあ……』
死神側がまた失点したらしい。続くアナウンスで、死神側のキーパーが泣き出したこと、これにより試合はワルキューレ側の勝利と確定したことが告げられた。
「ありゃ。やっぱ強いなあ。これであそこの地区はワルキューレの一位通過が決まったわよ」
「次はどこと当たるんですか」
ギルはうーんと眉を寄せた。
「盗賊チームになるわね。次、うちの地区の一位とあたるのよ」
タローが目を丸くしてギルに向けると、ないない、という感じでギルは笑った。
「うちは参加賞狙い。出場した村は来年の税金、ちょっと安くなるのよ。その代わり遅刻したら増額。だから焦ってムル探してたの」
「えっでも、まぐれで一発もあり得るって……」
「あんたムル助けてくれたときに見たでしょ。あいつら悪役っぽいの得意だからけっこう泣かすのうまいんだ。いじめっ子優遇して育ててるみたいだし」
嫌な村だなあ。
「というわけで、もうすぐうちの出番だからあたしたち行くね。いろいろありがとね」
「あっ、こちらこそ。お世話になりました」
ギルは近くの席にちょこんと座っていたムルとジルに声をかけ、荷物をまとめさせた。ジルが外して忘れそうになっていた肩装甲を付け直してあげたり、前の座席に差し込んである飲み物のカップをふたつ回収することも忘れない。
「出場者控室は出口のとこだから、そこまで一緒に行こう」
「あっ、カップ捨ててきます」
「ありがと。フタとストローはプラだからね。氷はわけて流してね」
はい、と素直に返事をして走るタロー。
と、赤い服の多数の観客と、それに囲まれるように同じ赤いユニフォームを着けた、ワルキューレの控え選手たちが客席に入ってくるところだった。わいわいと楽しそうな様子。自チームの勝利後、他チームの奮闘を高みの見物、というところらしかった。
すれ違いざまにチラとみる。さすが戦場の女神、戦士の魂の回収者。どの選手も迫力のある美貌だった。迫力があるのは首より少し下も同じであった。
「……あら、ギルじゃない」
ひとりがギルを見つけ、声をかけた。取り巻きがいっせいにそちらをみる。
「ひさしぶりね。元気にしてた?」
ギルはしばらくじっと上目遣いにそのワルキューレを見ていたが、ふっと横を向いた。
「おかげさまでね」
「まさか魔女に転向してるとは思わなかったわよ。あなた魂の回収うまかったのに突然やめちゃって……あっ、もしかして<はずれ村>の魔法使いって」
そういってワルキューレは、わざとらしく驚いたような顔を作って見せた。
「そっか、まだ<魔女の村>には入れてないんだ。あそこハイレベルだもんね。それで無所属の集まりの村なんだ。へえ」
「……はずれ村は無所属の集まりじゃない。やりたいことや目標がある魔物が修行のために集まるところ」
「そうね、うん、わかってるごめんなさい、修行だもんねえ。きっとすごいファイアとか使えるようになったのよね」
口に手の甲を当てて、あはは、と笑う。取り巻きも釣られて笑う。
ギルは無表情のまま、横を向いている。
タローには当然、事情はまったくわからない。ギルの経歴も知らない。しかし、これくらいわかりやすい背景説明もなかったし、登場人物に感情移入することはドラマ作りにおいてもっとも大事なことだとタローは常に意識して仕事にあたってきた。
足を止めて経緯を見守るタロー。カップを持つ手に少し力が入っていた。残っていた中身が溢れる。
「はずれ村の地区は次、うちの地区とあたるのよねえ。対戦することになったらどうぞお手柔らかにね。一位になれたら、だけど」
そういってワルキューレは、ごきげんよう、とでもいうように大袈裟な会釈をして歩き出す。取り巻きもぞろぞろついていく。ギルの横を通り過ぎ、客席の階段の横にたつジルとムルの方へゆく。
その時、ワルキューレの足がジルの足にかかった。いや、かけた、というべきだったろう。バランスを崩して、階段に落ちそうになるジル。
あっ、とタローとギルが思わず声を出すと、ワルキューレはつぶやいた。
「汚いカバね。触らないで」
ギルの目が鋭くなった。右手の杖を前に出す。わずかに発光する杖。それを見てワルキューレを囲んでいた赤い客、大柄な男たちが凄んだ。こちらに向けて一歩踏み出す。
しかし、タローの方が少し早かった。
『演出開始……アクション!』
右手を上に向けて折り曲げ、前に倒すとともにピッと指をさす。
スタジアムに急に強い風が吹いた。帽子をかぶっている観客は一斉に押さえた。タローが持っているカップとストローも、飛ばされた。
ジルに吐き捨てたワルキューレの隣にいた、別のワルキューレが階段に足をかける。と、横にいた女性客のスカートが風に舞って、その足にまとわりついた。バランスを崩す。思わず伸ばした手が、最初のワルキューレの胸元あたりを掴んだ。
文字通り絹を引き裂くような音を立てて、最初のワルキューレのユニフォームが裂けた。そういう仕様らしく、下にはなにも付けていなかった。絶叫するワルキューレ。
倒れかけたワルキューレはさらに必死の形相で、最初のワルキューレの腕を掴む。ふたりともバランスを崩したが、最初のワルキューレだけが階段を落ちかけた。
タローが空を指差す。垂れこめていた雲に切間が入る。スポットライトが最初のワルキューレの顔にあたる。
先ほど吹き飛んだカップのストロー二本が宙を舞い、ちょうど最初のワルキューレの両方の鼻の穴に刺さった。と同時にカップの蓋二個は、裂けた胸の左右にぴたっと張り付いた。
眼球がグリンと裏返るワルキューレ。
鼻にストローを八の字に刺し、カップのふたを装着した半裸のワルキューレは、無謬の光につつまれながら階段をいちばん下まで落ちていった。スタジアムの巨大モニターは、鼻ストローが横切る口を大きく開けて気絶する彼女の顔をいつまでも大写しにしていた。
なぜか、客席から大きな拍手が沸き起こった。
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