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第2話 タロー、土下座す
しおりを挟む魔女。
ピンク色のカバ。
そして黒いトカゲ、ムル。
「……というわけでこの人に助けてもらったんだよお」
ムルが満面の笑みでタローの方に両手を差し出し、こちらが本日の大特価商品! というような感じで両手のひらを上にする。
「まあ、たすけたっつーか成り行きで……」
タローの前に個性豊かなというか統一感のないメンバーが並んでいる。<盗賊チーム>の連中が立ち去ってからしばらくして彼らが現れたのだ。走るでもなく焦るでもなく、普通に道を歩いてやってきた。
「そうなんだ、ありがとね」
魔女がまったく気持ちの入っていない口調で礼を言った。背中に綿毛がついてたからとっておいたよ、そうありがと、という場面で用いられるべき語感であった。
なぜタローは魔女と判断したか。絵本や子供向けアニメに登場する魔女以外に見えない、いかにも安い設定の衣装で決めていたからである。黒いとんがり帽子、足首までの黒いローブ、手に持っているいかにもな杖の先には銀色の星などをつけている。よく見ると首から小さいドクロ的なアクセサリーを下げている。
一般的な基準では美人と呼ばれるべき容姿とタローは判断した。紫色の長い髪。唇も同じような紫系統の色をつけている。
「いつのまにかムルがいなくなったから焦ったわよ。遅れたらまた税金ふやされちゃうじゃん。かんべんしてよマジで。ただでさえ苦しいのに」
冷たいというか気の乗っていない口調で魔女が続ける。
「だってえ、木の実見つけたんだもん。お腹すいてたんだもん」
「一声かけてから行きなさいよ、どんくさいわね」
「ギルがお弁当あるからっていうからついてきたのにい」
「あたしは自分のお弁当の話をしただけですう」
「えええええ」
ものすごい涙声になってきたムルに、ギルと呼ばれた魔女は冷ややかな一瞥を投げた。ちょっと言い方ってもんがあるよね、とタローは思ったが、こういうときに口を挟むと良いことがないということを社会生活で学んでいる。
「まあまあちょっと待ったらいっしょ。なんもそんな言い方でムルばちょうさなくてもいんでないかい。ムルだってなんまら泣いてるべや。あずましくないしょ」
ピンクのカバが聞いたことがあるようなないような方言でしゃべる。簡単な甲冑のような装備をしているが、ボロボロで、刃物はおろか小石があたっても貫通しそうな状態である。もはやカバが立って甲冑を着ていることにも日本語を話すことにもなんの抵抗も感じないタローであった。
「あんたムルをたすけてくれてありがとなあ。こいつ身体はでかいけどケンカはからっきしだから<盗賊チーム>なんて相手にした日にははんかくさいことになったべ」
「あ、えと、はんか……?」
「ジル。これから大会出るんだから今日こそきっちり標準語で決めてっていってたじゃん。ダサいわね。また舐められちゃう」
ピンクのカバ、ジルがうぅという顔で黙り込む。言い方。言い方ね。
「あ、あのお……お取り込み中大変恐縮なんですが、大会ってなんですか。あとここどこですか」
「は? 今日は<全魔物勝ち抜き黄金武闘会>の日だよ? あんた知らないの?」
ギルが今度はタローに呆れたような視線を向けてきた。
「いや、実はさっき急にこちらにお邪魔することになったもので。なんか手違いがあったみたいで、気がついたらこのあたりにいたんですよね……できれば早めに戻りたいんで、最寄りの駅とか教えてもらえると助かります」
「エキ? なにそれ。なんかわかんないけど、ここは<はずれ村>と<魔王城>の真ん中くらいよ。どっちも半日もかからないで行けると思うけど。あんたどっからきたの」
「都内です」
「トナイ村ね。聞いたことないからずいぶん遠いんだろうね。気の毒だけどこのへんは乗り合いの馬車とかもないから歩いて帰るか、親切な魔物に乗せてもらって飛んでいくかになるわね。ひとりなの?」
「あ、はい」
「ムルを助けてもらったから送ってってあげたいけどこっちも急いでんのよ。ムル追いかけてちょっと遠回りしちゃったし。うーん」
そういってギルは考え込む。ひたすら冷酷な女帝タイプかと思っていたタローは、親切そうな一面を見せたギルに少し驚いた。
「やっぱ時間ないからダメね。ひとりで帰って」
えー、という顔で脱力するタロー。さっきは遠くに見える街をとりあえず目指そうと考えたが、こんなわけのわからない連中がうろうろしてるところを一人でいきたくない。少なくとも目の前のメンツは人(魔物)が良さそうだから、できれば安全なところまで同行したかった。
「どうだべ、このお人なんかつええっつうし、うちらと一緒に会場行ってもらったら。途中でまた他のチームとかに襲われかねないから用心棒にもなるんでない?」
「あっそれがいいよ。なんかこの人、僕が震えてる間にちゃちゃっとあいつら追っ払っちゃったんだよ。強いんだよお」
ムルとジルが助け舟を出してくれる。
「……あんた、なんか技つかえるの」
ギルは頬を人差し指で支えるようなしぐさでタローを見据えた。
「え、わざ? あっ小さい舞台なら台本書いたことあります。カメラもひと通りできます。美術もちょっと齧りました」
「ぜんぜん聞いたことない魔術ね。こういうのはできるの?」
といってギルは杖を前に出し、真剣な顔をしてなにかをつぶやいた。
すると、あたりが一瞬暗くなり、杖の先端から小さな炎が発生した。炎はそのままゆっくり前方に移動し、ぱちんと弾けて消えた。タローからは、ちいさいライターの火が風に吹かれて三十センチくらい飛んでいったように見えた。
ギルが肩で息をしながら不敵に微笑み、タローを振り返った。
「どう。なかなかのもんでしょ」
「すげえ! 今まで見たギルの<ファイア>の中でいちばんでけえ!」
「ギル……がんばって練習したんだな」
ムルとジルが目を潤ませている。タローには感動のポイントがちょっと見えなかったが、話をあわせることにした。
「いえ、そんなすごいことはできないっす。でもいろいろ役にたつと思います。手先器用なのと段取りには自信があります。連れてってください! このとおり!」
五体投地的に土下座を決めると、ギルはふうとため息をついてうなづいた。
「まあいいわ。でもあたしたちは試合があるから魔王城についたら解散よ。あとは自分でなんとかして」
「わーい仲間が増えたっ仲間が増えたっ」
「なまら久しぶりのチーム新規加入だべや。けっぱるべ、あんた」
ムルとジルはハイタッチして喜んでくれている。
「ところであんた、名前は?」
タローはあっという顔をしてポケットから革財布を取り出す。ムルがちょっとびくっとしたが、今回は取り乱さなかった。名刺を一枚抜いて差し出す。
「はじめまして、わたくし山田タローと申します。制作プロダクションでADやらせていただいてます。今後ともよろしくお願い申し上げます」
ギルは差し出した名刺を手に取り、眺めている。読めるんだな。
「じゃあタローくん。早速出発するわよ」
「はい! 巻いていきましょう!」
◇
第二話を読んでいただきありがとうございます!
タローはこれからどうなるのか?
武闘会ってなんじゃ?
気になってきたなら……
お気に入り、どうかよろしくお願いいたします!
またすぐ、お会いしましょう。
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