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 やっと落ち着いたマリアベル嬢に椅子に座ってもらい、4人でお茶をする。
 それにしても、こんな風に対面する事になるとは……。改めてじっくりマリアベル嬢の顔を見てみるが、やはり全く記憶にない。
 私に恩があるからと、事件解決の為にとても頑張ってくれていたのに、思い出せないことが心苦し過ぎる。でもどんなに思い出そうとしても、やはり学校で会ったことがある以外の記憶がない。


「あの、マリアベル嬢、改めて今回はありがとうございました。あと私の事はどうぞエルメアと呼んでください」
「エルメア、様」
「はい、どうぞ今後はそのように。……お母様はいかがお過ごしですか?」
「……母は、事情を改めて皆様にお伝えした後、アルベルト殿下とエルメア様のお父上…サーラント公爵閣下の計らいで、特に罪に問われることはなく……今は家で過ごしております」
「……そうなのですね、よかった……」


 めちゃくちゃ安心したー!!アルマ殿は嵌められただけだ。何か罪に問われていたら、私もちゃんと証言しようと思っていたが、父とアルベルト殿下だけで収めてくれていた。
 本当によかった……。

 よし、じゃああとは何で助けてくれたか聞くだけなんだけど……。私貴女のこと覚えてないけど、何で助けたの?って聞くのかなり気まずい。気まず過ぎる。
 聞くしかないけど!気になるし!


「……それで、あの、マリアベル嬢もアルマ殿も、私と関わりがあり、今回事件解決のお手伝いをしてくださったとアルベルト殿下から聞いておりまして……。でも私、本当に申し訳ないのですがマリアベル嬢の事もアルマ殿の事も思い出せないのです。……いつお会いしたことがあるかお伺いしても?」


 散々危険な目にあわせたくせに、貴女のこと知りませんとか本当にひどい奴だな……自分よ……。
 こんなにわかりやすい見た目の女の子と会っていたら普通忘れないはずだよね?でも覚えてないんだよ!!めちゃくちゃ記憶遡っても、こんな美人が記憶にないんだよ!
 そんなことを考えながらマリアベル嬢の言葉を待っていたら返答は予想外のものだった。


「……覚えていらっしゃらなくて、当然です。直接お会いしてお話するのは、これが初めてです。……一度も関わったことはございません」
「え?」


 私は思わずぽかんとした顔になった。あれ?恩があるって話では……?あ、もしかして個人的なやつではなくて、サーラント公爵家として何かしたことがあるってこと……?


「あ、ではサーラント公爵家と何か関係が?」
「……いえ、私も母もサーラント公爵家の皆様と関わりを持ったこともございません」
「えーっと??」


 ちらっとアルベルト殿下を見たら、難しい顔してマリアベル嬢を見ていた。そしてコーネリアス公爵も。
 ん?もしかして恩があるのは嘘だったってこと……?いやでも嘘ついてまで私を命をかけて助ける意味なんてないよな……。
 さっきまで穏やかだったアルベルト殿下が少し厳しい雰囲気でマリアベル嬢に声をかけた。


「……実際にエルメアに関わったこともない、サーラント公爵家にも関係がない。それではどうやってエルメアを知った?……恩があるというのは嘘だったのか?」
「……アルベルト殿下とコーネリアス公爵閣下に申し上げたことに嘘はありません。私はエルメア様に多大な恩があります。人生をかけて返すべき恩が」
「ならその詳細を話してほしい。エルメアの前なら、言えない理由もないだろう?」
「……言えません」
「……それは私達がいるからか?」
「いえ……エルメア様にも、お二人にも、内容はお話出来ません」


 マリアベル嬢は俯くと、膝の上で拳を握りしめた。
 おいおい、アルベルト殿下、なんで怖い感じになってるの?いや、まあ命をかけてまで助けてくれた理由は知りたかったけど……。それでも、理由を知らなくたって助けてくれた事実は変わらない。

 殿下の雰囲気が怖かったので助けを求めようとコーネリアス公爵を見たら、彼も真剣な表情でマリアベル嬢をじっと見つめていた。

 いやだから怖いって!!

 思わず、あの!!と大きい声をあげる。


「マリアベル嬢が話したくないのなら、私は話してくれなくても構いません!……ただ、私はマリアベル嬢を覚えてもいないのに、危険なことをさせてしまったことが心苦しくて……。だから良ければ理由が聞きたかっただけなのです」
「……エルメア様、申し訳ありません……。私も母も、この話は絶対にお伝えすることが出来ないのです。……ですがっ!決して貴女に危害を加える為、何か要求する為に関わったのではありません。それだけは本当です!」
「………わかりました。……私に危害を加えるつもりなら、そもそもこの件に関わらければ良かった。それなのにわざわざマリアベル嬢は私の為にたくさん協力してくれた。それだけで十分ですよ。……そうですよね?」


 牽制のつもりでアルベルト殿下とコーネリアス公爵に順番に、ね?ね?と声をかける。
 もし、何か目的があったのだとしても、彼女が命をかける程のリスクを負う必要性はない。割に合わないだろう。それに彼女の表情を見て、私を大切に思ってくれていることは伝わってきた。

 目を見開いて二人を交互に眺めていると、アルベルト殿下が溜め息を吐いた。
 いやなんでこいつはしょうがないなみたいな顔してるんだよ!


「エルメア、別にマリアベル嬢を責めている訳じゃない。ただ、恩があるから手伝わせて欲しいと言っていたのに、実際君とは関わりがないというのは気になるだろう」
「嘘は言ってないって言ってます。それでいいじゃないですか」
「……君というやつは本当に……」


 もう一度大きな溜め息をつくと、アルベルト殿下はわかった、この事には言及しないと言ってくれた。
 ほっと胸を撫でおろす。よかった、マリアベル嬢が怪しい!捕まえろ!みたいなことになったらどうしようかと思った。
 マリアベル嬢によかったね!って気持ちでにこっと笑いかけたら、まるで眩しいものを見るような目で見られた。

 そして彼女は小さく、本当に小さく呟いた。


「……私が大好きな貴女のままで、私、本当に嬉しいです」


 会ったこともない、関わったこともないと言っていたのに、大好きな私のままという言葉が引っかかった。

 でもマリアベル嬢の優しげな瞳は、私への悪意等は一切はなく、ただ深い愛情のようなものを感じられて、だから私はその言葉は聞こえなかったふりをした。

 これ以上、突っ込んではいけない気がしたのだ。
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