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その後私の悪行が広まるのにあわせて、アルベルト殿下は私との接触を断った。
しかし噂が流れてしばらくしても、私がそんなことを気にもせず変わらず殿下に会いに行き、普通に過ごしていたことから、モーブ伯爵は大層苛立ってマリアベル嬢に新たに指示をしてきたらしい。
お前はアルベルト殿下を掌握できていない。お前が真にアルベルト殿下から寵愛を受けているのであれば、私を遠ざけるようアルベルト殿下に進言できるはずだと言ってきたそうだ。
お前は母のように顔が美しい。娼婦のような女から生まれたお前なら、容易いはずだと。
「実の娘に対して言うことですか?!……このクズ……!絶対に許せない……!!
私は私で知らず知らず皆様の邪魔を……!!」
「……邪魔などではなかった。私が君に一言、二度と来るなと言えば良かったのに先延ばしにしていたからだ。
君があの時、義務感で私に会いに来ていたのはわかってたが……それでもぎりぎりまで一緒に過ごしたいと……」
「……一緒に過ごしたい…?いやそれより義務感出してましたか?」
「私は義務を果たしてここに来ているのに、って顔をしてた。……君に今やっていることの説明もできず、君が来訪する度、早々に話を切り上げさせて帰らせる回数も多くなってただろう? 君は会いに来る度にどんどん顔が怖くなっていった」
「……いつも余裕の微笑みのつもりだったんですが、そんなにわかりやすかったとは……」
「………わかるさ、君はわかりやすい。だからこの件も説明できなかった。……それに、ずっと見てたからな」
そういってアルベルト殿下がこちらをじっと見てくるので少し気まずくて目をそらす。
あの美貌でジッと見ないでほしい。
「えっと………ではあの時、図書館で会った時舌打ちした挙句関わるなと言ったのは、そういった理由があってですか?
舌打ちまでした、あの時の」
「エルメア、君根に持ってるな?」
「……そういう事情があるのも知らずに、いきなり舌打ちされて関わるなですよ?! もう腹立たしくて手が出るかと……すべて私の為だったと聞いて恥ずかしさしかありませんが……」
「……手を出そうとしてたのか……でも君には効果的だっただろう?君はすぐ私に会いに来なくなった」
「ぐっ…その通りです……そこまで見越していらっしゃったとは…」
「いや特に見越していたわけでは…でも君はすでに怒り心頭と言わんばかりの表情だったからな。怒らせた方が効果的だろうとは思った」
そうして私とアルベルト殿下が完全に交流を断ったことから、マリアベル嬢が上手く取り入っていると確信したのか、モーブ伯爵はどんどん大胆に私の悪評を広め始めたらしい。私は知らなかったが、噂は口に出すのも憚られるような内容もあったそうだ。……子供の嫌がらせみたいな噂しか知らなかったけど、そうか……そりゃ皆から遠巻きにされるわけだわ……。
「そうしてモーブ伯爵の思惑通りに動きながら、調査を継続する中で、密告書を送ってきた犯人も見つかった」
アルベルト殿下の話によると、密告書はある男爵家の次男が書いていたものだった。
彼は懸想している貴族の娘にいたずらで脅迫状を送りつけていたそうなのだが、それがどこからかモーブ伯爵にバレてしまい、それをダシに脅されて書いていたそうだ。
いたずらで脅迫状送るって怖いしやばい。なんだそいつ。
密告書を書いた人物は、自分がやったように、いたずらで脅迫状のようなものを書かされていると思っていた。公爵家に仇なすつもりなど全くないと震えていたらしい。いや、アルベルト殿下とコーネリアス公爵に追い詰められたら私でも震える。
そして、ここでモーブ伯爵がこの事件に関わっている証拠を得た。密告書の指示を出している手紙だ。
その手紙は即刻燃やせと書かれていたらしいが、サーラント公爵家の名があり、もし自分がやったとバレた時にどうにか罪を軽くしてもらう為に残しておいたそうだ。
そいつ良い仕事した!!やばいやつだが!!
手紙の筆跡を確認する為、マリアベル嬢に頼みモーブ伯爵の筆跡がわかる資料をいくつか伯爵家から拝借して確認を行い、モーブ伯爵の手紙で間違いないという結論が出た。
しかし、そこでモーブ伯爵を捕らえることはせず、そのまま泳がせることとなったそうだ。
「なぜ泳がせることに?」
「モーブ伯爵の後ろに、他の人物が関わっているのがわかったからだ。サーラント公爵家に恨みを持ち、この騒動を起こす可能性のある人物……もうすべて終わったから言うが、叔父のロードレイが関わっていた」
「は?ロードレイ殿下?」
「……君、ロードレイ叔父上とサーラント公爵家が色々あったのを覚えているか?」
「も、もちろん」
現国王陛下の実弟、ロードレイ殿下。
女遊びや賭け事、その放蕩ぶりは王国内でも有名で、悪い噂の耐えないお方だった。しかしその実、彼は私の母にずっと思いを寄せていた。サーラント公爵家夫人となってからも彼がアプローチをやめず、公爵家に押し掛けてくる始末。
そしてとうとうロードレイ殿下は事件を起こす。父が王都での仕事で不在の公爵家に押し入り、母に無体を働こうとしたのだ。私が6歳の頃だ。ロードレイ殿下に味方する数人を連れ、公爵家の人間達を武力と権力で取り押さえた挙げ句に行為に及ぼうとした。
最終的に私がロードレイ殿下を背後から花瓶で殴り飛ばし、事なきを得た事件だ。詳細は省く。色々大変だったし、今思い出すだけでもゾッとする。さすがに王弟殿下を殴って無事では済まないと思っていたが、父や母には感謝された。そしてその事件がとうとう先代王の逆鱗に触れ、王太后の故郷に送られた。実質的な追放扱いとなったのだ。
「なんだか色々な人物が関わっていて頭が痛くなってきました……。ロードレイ殿下はそれを逆恨みして私に……?」
「ああ、モーブ伯爵はかつてロードレイ叔父上の取り巻きだった。……金で雇われていた人間も、かつてロードレイ叔父上の追放はおかしいと騒いでいた連中だ。
他国にいる叔父を調べずにいた私が甘かったんだが……調べると毒物もロードレイ叔父上が追放された先の国で採られるものであることがわかった」
「な、なんだか一気に色々明らかになったのですね?」
「すべて上手くいくと思ったんだろうな。酒に酔ったモーブ伯爵が近しい者に、サーラント公爵家は終わる。あの方を敵に回したからだ。あの方からすでに多額の金を得た。そしていずれ自分は王妃の父となり絶大な権力を得る。偉大な方がこの国に戻り、この国の権力の構図を変えてくださると偉そうに漏らしていたそうだ」
「モーブ伯爵が思っていた以上に迂闊な人間すぎる……!」
「本当にな。奴がそんなことを言うような人間は一人しかいない。そうしてロードレイ叔父上を調べて、あの人が黒幕であろうと確信に変わった。……しかし、ロードレイ叔父上が関わったという物的証拠は出てこなかったんだ。そうして私達が卒業を控えていた頃、事態が動いた」
「……ロードレイ殿下が動かれた、ということですね」
「今まで一切音沙汰がなかった王宮に、彼から書状が届いたんだ。
私の卒業パーティーに参加させてもらえないか、かわいい甥の晴れの舞台を見届けたいという内容だった。
私もコーネリアス公爵も、陛下も、確実にそこで何かをするつもりだと確信した。そして彼のイゼルド入国を許可した」
そうして時を同じくして、マリアベル嬢にモーブ伯爵から新たな指示が下る。
私とアルベルト殿下の婚約破棄と、私がマリアベル嬢に対して行った事を、卒業パーティーで発表させろというものだった。
しかし噂が流れてしばらくしても、私がそんなことを気にもせず変わらず殿下に会いに行き、普通に過ごしていたことから、モーブ伯爵は大層苛立ってマリアベル嬢に新たに指示をしてきたらしい。
お前はアルベルト殿下を掌握できていない。お前が真にアルベルト殿下から寵愛を受けているのであれば、私を遠ざけるようアルベルト殿下に進言できるはずだと言ってきたそうだ。
お前は母のように顔が美しい。娼婦のような女から生まれたお前なら、容易いはずだと。
「実の娘に対して言うことですか?!……このクズ……!絶対に許せない……!!
私は私で知らず知らず皆様の邪魔を……!!」
「……邪魔などではなかった。私が君に一言、二度と来るなと言えば良かったのに先延ばしにしていたからだ。
君があの時、義務感で私に会いに来ていたのはわかってたが……それでもぎりぎりまで一緒に過ごしたいと……」
「……一緒に過ごしたい…?いやそれより義務感出してましたか?」
「私は義務を果たしてここに来ているのに、って顔をしてた。……君に今やっていることの説明もできず、君が来訪する度、早々に話を切り上げさせて帰らせる回数も多くなってただろう? 君は会いに来る度にどんどん顔が怖くなっていった」
「……いつも余裕の微笑みのつもりだったんですが、そんなにわかりやすかったとは……」
「………わかるさ、君はわかりやすい。だからこの件も説明できなかった。……それに、ずっと見てたからな」
そういってアルベルト殿下がこちらをじっと見てくるので少し気まずくて目をそらす。
あの美貌でジッと見ないでほしい。
「えっと………ではあの時、図書館で会った時舌打ちした挙句関わるなと言ったのは、そういった理由があってですか?
舌打ちまでした、あの時の」
「エルメア、君根に持ってるな?」
「……そういう事情があるのも知らずに、いきなり舌打ちされて関わるなですよ?! もう腹立たしくて手が出るかと……すべて私の為だったと聞いて恥ずかしさしかありませんが……」
「……手を出そうとしてたのか……でも君には効果的だっただろう?君はすぐ私に会いに来なくなった」
「ぐっ…その通りです……そこまで見越していらっしゃったとは…」
「いや特に見越していたわけでは…でも君はすでに怒り心頭と言わんばかりの表情だったからな。怒らせた方が効果的だろうとは思った」
そうして私とアルベルト殿下が完全に交流を断ったことから、マリアベル嬢が上手く取り入っていると確信したのか、モーブ伯爵はどんどん大胆に私の悪評を広め始めたらしい。私は知らなかったが、噂は口に出すのも憚られるような内容もあったそうだ。……子供の嫌がらせみたいな噂しか知らなかったけど、そうか……そりゃ皆から遠巻きにされるわけだわ……。
「そうしてモーブ伯爵の思惑通りに動きながら、調査を継続する中で、密告書を送ってきた犯人も見つかった」
アルベルト殿下の話によると、密告書はある男爵家の次男が書いていたものだった。
彼は懸想している貴族の娘にいたずらで脅迫状を送りつけていたそうなのだが、それがどこからかモーブ伯爵にバレてしまい、それをダシに脅されて書いていたそうだ。
いたずらで脅迫状送るって怖いしやばい。なんだそいつ。
密告書を書いた人物は、自分がやったように、いたずらで脅迫状のようなものを書かされていると思っていた。公爵家に仇なすつもりなど全くないと震えていたらしい。いや、アルベルト殿下とコーネリアス公爵に追い詰められたら私でも震える。
そして、ここでモーブ伯爵がこの事件に関わっている証拠を得た。密告書の指示を出している手紙だ。
その手紙は即刻燃やせと書かれていたらしいが、サーラント公爵家の名があり、もし自分がやったとバレた時にどうにか罪を軽くしてもらう為に残しておいたそうだ。
そいつ良い仕事した!!やばいやつだが!!
手紙の筆跡を確認する為、マリアベル嬢に頼みモーブ伯爵の筆跡がわかる資料をいくつか伯爵家から拝借して確認を行い、モーブ伯爵の手紙で間違いないという結論が出た。
しかし、そこでモーブ伯爵を捕らえることはせず、そのまま泳がせることとなったそうだ。
「なぜ泳がせることに?」
「モーブ伯爵の後ろに、他の人物が関わっているのがわかったからだ。サーラント公爵家に恨みを持ち、この騒動を起こす可能性のある人物……もうすべて終わったから言うが、叔父のロードレイが関わっていた」
「は?ロードレイ殿下?」
「……君、ロードレイ叔父上とサーラント公爵家が色々あったのを覚えているか?」
「も、もちろん」
現国王陛下の実弟、ロードレイ殿下。
女遊びや賭け事、その放蕩ぶりは王国内でも有名で、悪い噂の耐えないお方だった。しかしその実、彼は私の母にずっと思いを寄せていた。サーラント公爵家夫人となってからも彼がアプローチをやめず、公爵家に押し掛けてくる始末。
そしてとうとうロードレイ殿下は事件を起こす。父が王都での仕事で不在の公爵家に押し入り、母に無体を働こうとしたのだ。私が6歳の頃だ。ロードレイ殿下に味方する数人を連れ、公爵家の人間達を武力と権力で取り押さえた挙げ句に行為に及ぼうとした。
最終的に私がロードレイ殿下を背後から花瓶で殴り飛ばし、事なきを得た事件だ。詳細は省く。色々大変だったし、今思い出すだけでもゾッとする。さすがに王弟殿下を殴って無事では済まないと思っていたが、父や母には感謝された。そしてその事件がとうとう先代王の逆鱗に触れ、王太后の故郷に送られた。実質的な追放扱いとなったのだ。
「なんだか色々な人物が関わっていて頭が痛くなってきました……。ロードレイ殿下はそれを逆恨みして私に……?」
「ああ、モーブ伯爵はかつてロードレイ叔父上の取り巻きだった。……金で雇われていた人間も、かつてロードレイ叔父上の追放はおかしいと騒いでいた連中だ。
他国にいる叔父を調べずにいた私が甘かったんだが……調べると毒物もロードレイ叔父上が追放された先の国で採られるものであることがわかった」
「な、なんだか一気に色々明らかになったのですね?」
「すべて上手くいくと思ったんだろうな。酒に酔ったモーブ伯爵が近しい者に、サーラント公爵家は終わる。あの方を敵に回したからだ。あの方からすでに多額の金を得た。そしていずれ自分は王妃の父となり絶大な権力を得る。偉大な方がこの国に戻り、この国の権力の構図を変えてくださると偉そうに漏らしていたそうだ」
「モーブ伯爵が思っていた以上に迂闊な人間すぎる……!」
「本当にな。奴がそんなことを言うような人間は一人しかいない。そうしてロードレイ叔父上を調べて、あの人が黒幕であろうと確信に変わった。……しかし、ロードレイ叔父上が関わったという物的証拠は出てこなかったんだ。そうして私達が卒業を控えていた頃、事態が動いた」
「……ロードレイ殿下が動かれた、ということですね」
「今まで一切音沙汰がなかった王宮に、彼から書状が届いたんだ。
私の卒業パーティーに参加させてもらえないか、かわいい甥の晴れの舞台を見届けたいという内容だった。
私もコーネリアス公爵も、陛下も、確実にそこで何かをするつもりだと確信した。そして彼のイゼルド入国を許可した」
そうして時を同じくして、マリアベル嬢にモーブ伯爵から新たな指示が下る。
私とアルベルト殿下の婚約破棄と、私がマリアベル嬢に対して行った事を、卒業パーティーで発表させろというものだった。
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