after school rainy

闇猫古蝶

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dream

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今日も直接暴力を振られたりはしなかった。

授業中嫌がらせをされることはあったが…

昼休みも穏やかに過ごすことができた。まぁひとりでいた事に変わりはないが。

放課後。
シオンの居るあの空き教室を訪ねてみる。

外では小雨がふっていた。

「いますかー?」

そう声をかけてドアを開ける。

「なんだよいますか、って」

笑いながら言うシオンはとても柔らかい表情をしていた。

「シオン。今日は歌うだけじゃなくて少し話したいんだけど、いい?」

シオンは少し考えた後

「ああ」

と短く返事をした。

「カノンは夢、とかあるのか?」

「私…は」

大丈夫、きっとシオンなら馬鹿にしない。

「歌手に、なりたい」

「歌手?俺、カノンなら絶対なれると思う」

「本当?」

「本当だ」

友達に言ったことはある夢。けれど笑われてしまった夢。親にも言っていない夢。

それをシオンだけは真っ直ぐ『なれる』と言ってくれた。

私みたいな凡人がなれるかなんてわからない。けれどシオンが応援してくれるなら…

きっと叶えられる気がした。

「シオンの夢は?」

「俺…?」

シオンは少し、暗い表情になったきがした。

「夢なんて、ねぇよ」

「歌、本気でやりたいとは思わないの?」 

「思わない」

「もったいない…あんないい声してるのに」

お互い言葉をつぐむ度、シオンの顔は暗く沈んでいくきがする。

「俺より、カノンの話しようぜ。俺の話聞いても、面白くないだろ?」

少し笑いながらシオンは言った。

「面白い、とかじゃなくて。知りたいから」

「知りたい…」

「うん。ダメかな?」

数秒の沈黙。

「ダメ、じゃない。」

なぜか少し顔を赤らめてシオンは言う。

「でも俺もカノンのこと知りたいから…」

「私のこと…?」

知りたい、なんて言われたのが初めてで。でも嬉しくて。

なんて言ったらいいか、わからなかった。

「今日は俺の話でいい。でも″次″はカノンの話でいいか?」

「うん…!」

次…次がある。また、シオンに会える。
それだけで、当たり前なのに。
なぜかすごく嬉しかった。

「カノンは好きなことってあるか?歌以外で」

「んー…読書、かな。色々な人の人生をみてるみたいで面白いし」

「他には?」

他、と言われ少し考える。
私が好きなこと…そうだ

「こうしてシオンと話すのが好き、かな。私あんまり友達いないし」

シオンは驚いたような、嬉しいような表情になる。

「俺と話してて楽しいか?」

「楽しいからここに来てるんだよ」

「そっ、か…」

シオンは少し照れたように俯いて、再び顔をあげる。

「好きな人、とか。気になる人、っているのか?」

「うーん…仲良くなりたい人ならいる、かな」

返事は、ない。

「明峰優希っていって、茶髪の人。知らない?」

「優希…?」

優希の名前に反応する。知り合いだろうか?

「アイツには、近づかない方がいい!」

「え?」

少し大きな声をだしたシオンにびくりとする。

「悪い。でもアイツは、危険だから…」

悲しいような怯えているような、そんな表情。

「危険?危ない人にはみえなかったよ?」

「それでもアイツはだめだ」

「どうして?」

「それは…」

シオンは口ごもる。

「この話はまたにしよう。もう暗くなってきたから、帰れ」

「うん…」

その言葉に頷き鞄を持つ。

外を見ると窓に雨が叩きつけるように降っている。

ドアに手をかけ振り返りシオンを見ると座ったまま困惑したような表情をしていた。

「またね」

小さく行って教室をでる。

下校時刻が過ぎて誰もいない道を一人で帰る。
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