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第2章 【異世界召喚】冒険者

第82話 撤退行動。

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「くっ!どうして接近に気付かなかった?!」

 サリーは左肩を右手で強く掴み、必死に止血をしている。

 偵察を行い、オーガを発見したら合図を空に上げ、直ぐに帰還する手筈だったのだ。それ故、戦闘時に必要な回復アイテム等は持っておらず、現状自らの手で止血する他無い。

 幸な事に、そこまでの出血量は無い。が、これでは全力で逃げ切る事は出来ないだろう。ましてや、敵が何処に居て何処から攻撃されたのか見えなかったからだ。

 「それよりも早く合図を出してここから離れなくてはっ」

 そうは思うものの、何処からともなく飛んで来た――恐らく石の様な物に、左肩を撃たれ、その勢いで偵察をしていた木の上から転落してしまったのだ。受け身は取ったとはいえ、かなりのダメージを負っている。

 木の陰に身を隠し、攻撃された方向から身を守る。

 侍女隊の2人も、何事かと飛び起きたが、サリーの怪我を見てすぐさま臨戦態勢をとった。

「二人共。此処から撤退します。その前に合図を空にお願い。そうすればきっと、レオニード様が向かって来てくれるはずです」

「分かりました」

 一人の侍女が頷き、空に向かって上げる合図の準備をしている。

「サリーサ……貴方、走れる?」

 そう聞いたのは侍女隊の中でも、サリーと行動を共にする事が多かったギルと言う侍女だ。

「当たり前でしょ?って、言いたいところだけど。正直、全力は厳しいかも知れないわね」

 サリーは精一杯の作り笑いでそう答えると、少しだけ木の陰から顔を出し、辺りを伺った。

 この時考えたのは、この瞬間にも周囲から回り込まれたら逃げられなくなる可能性だ。

 合図を上げる時点で、こちらの場所が見つかってしまうが、そもそも攻撃された段階で発見されているという事だ。

 ならば、せめて二人だけでも先に逃がす為に、自分が時間を稼ごうと考えていた。

「既に居場所が知られているから動くなら早い方が良い。行って!私も直ぐに追いかけるから!」

 サリは―半ば強引に侍女隊の二人を押し出すと、攻撃が飛んで来た方向へと煙幕が発生するアイテムを投げ飛ばした。

 恐らく50㎡程は飛んだのでは無いか。

 アイテムが地面に叩き付けられた瞬間、シュゥゥゥーッと言う音と共に煙幕が展開される。昼間であれば灰色掛かった煙幕が見えるが、星明りのしたではその色は見えない。

 だが、夜でこそ視界を塞ぐのに最適だということは分かる。

 こちらの姿は煙幕のカーテンによって、完全に闇に隠れる形になっているからだ。敵からすれば、星の明かりだけでは絶対に見えないはずだ。

「今よ!行って!」

 サリーの言葉と同時に、侍女の一人が空へと合図を打ち上げた。

 打ち上げられた軌道を見せず空へと昇り、そして一瞬だけ弾ける様に光を放った。

 もし煙幕が無い状態で今の光が放たれていたのなら、完全にサリー達の姿を捉えられていた事だろう。

 救いだったのは、煙幕を放った凡そ50m以内に敵が居ない事だろう。

 それは同時に、遠距離から狙撃をともいえる攻撃を行える何者か・・・が存在するという事だ。

 サリーはその事に気付いており、背中に冷たい汗が流れるのを必死に無視した。

 侍女隊の2人は、直ぐに走り出し、城へと撤退を開始した。

 サリーも勿論撤退するが、攻撃はされたが肝心のオーガを発見していないの事。それが撤退を一足遅らせる要因となっていた。

「はぁ……まさか、オーガが遠距離攻撃とかするの?そんな話、聞いた事が無いのに……」

 サリーはそう一人呟き、煙幕の方を睨む。

 煙幕の内側に敵が居ない事を確認し、再び木の陰に身を隠す。

 オーガでなくても、敵性の何かが居る事は確かなのだ。隣国の兵士が間違いで「ごめんなさい、人がいるとは思わなかったんで」何て事は絶対にない。

 仮に本当にオーガだったとしても、自分の隠密スキルと煙幕。そして全力とはいかないまでも、スピードで撤退は出来るだろう。そう思っていた。

 50mは距離があるのだ。何とかなる。

 そう思いながら、煙幕が薄くなり始めた方向をそっと覗き込む。

 その時、サリーは自分の考えがある意味で正しかった事を知ったが、激しく後悔する事になった。



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