禍ツ天使の進化論

空月 瞭明

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[おまけ] みんなで新婚旅行

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「きれい……」

 白い砂浜に、透き通る海。
 浅瀬に足をひたしながら、レリエルは目の前に広がる青い海原に目を細めた。
 浅いところは水色で、遠くに行くにしたがって深い青になる。
 穏やかな波の感触がくすぐったい。

「変な感じ……」

 レリエルが足元を見つめて微笑んだ時。

「見ろよ、レリエルここ!」

「なんだ?」

 アレスに呼ばれて近寄ると、水中にこんもりとした小さな樹のようなものが生えて、沢山の色鮮やかな小魚が集っている。

「珊瑚だ、熱帯魚の住処になってる」

「わあ……」

「どうだ?」

「うん、綺麗だ」

「化け物!って言わないのか?」

「お、大きかったら怖いけど……」

 赤や青や黄色の魚は、むしろ可愛いと思った。

「成長したなぁ」

「な、なんだよそれ!でも、本当に魚が人間の祖先なのか?」

「脊椎動物の祖先は魚だ。生き物はみんなきょうだいさ。天使だってきっとそうだ」

 レリエルは不思議な気持ちで、浅瀬の小さな珊瑚に集う魚を見つめる。
 透明に輝く水の中でせわしなく動く、小さな生命たち。それを見ていると自然に口元がほころんだ。

「生命を育んだ海、か。人間も天使も、こんな綺麗なところで生まれたんだな……」

 アレスは優しく目を細め、そんなレリエルの頭をくしゃりと撫でてくれた。
 レリエルは顔を上げ、二人は自然に目をつむり、唇を重ねる。
 唇を離したレリエルはくすっと笑った。

「やっぱり、変な格好」

「レ、レリエルだって同じ格好じゃないか!大浴場でも着たし!」

 二人とも、シマシマの上下水着を着ている。体にぴったりした半そでシャツとズボン。
 そこに声が掛けられる。小さな女の子の声だ。

「おーい救世主と守護天使!肉が焼けたから来るのじゃ!レリエル用に焼きフルーツもあるぞ!」

 アレスは頬をひきつらせた。
 固めたこぶしをわなわなと振るわせる。

「だからっ!なんでっ……!新婚旅行について来るんですかあああああっ!」

 振り向いた浜辺には、トラエスト帝国の面々の姿があった。
 焚き火に網をはり、「あちち」などと言いながら慣れない様子で肉を焼いているミークと、黙々と手際よく串に野菜を刺すユウエン。楽しそうに皿に盛り付けるシールラ。
 プリンケはクッションをしきつめた長いすに寝そべり、フルーツに飾られたジュースを飲んでいる。
 ちなみにその隣は、死んだ魚のような目をして膝を抱えて座るヒルデと、気持ちよさそうに体を投げ出して寝そべるキュディアスがいる。

 ピンクの特製水着のプリンケ以外は全員、シマシマ模様の水着姿だ。

「南海諸島でバカンスなんてうらやましすぎるからの!余も休暇をとったのじゃ!」

 ヒルデがどんよりした声音でつぶやく。

「あの……どうして私まで……。こう見えて結構、忙しいのですが……。城に……仕事が山盛り……」

「ユウエンは恋人で、シールラとミークは友達で、ヒルデとキュディアスは余の護衛じゃ!最小人数で来たかったから、一番うでっぷしが強いそなたらを護衛に連れてきたのじゃ!」

 キュディアスはのんびりした口調で、

「まあいいじゃねえかヒルデ、これも職務だ。いい職務だこりゃ」

 肉を焼きながらミークがヒルデのほうをちらちらと見て何やら興奮してつぶやく。

「ヒルデ様、意外な筋肉、イイ体……!ギャップ萌えっ。だ、抱かれてもい……」

「ミークさん、丸聞こえですよぉ~」

 シールラがつっこみ、キュディアスがむくりと上体を上げる。

「おいおい、筋肉つったら俺だろう。どう見ても俺の方がいい体だろ~」

 ふんと鼻息を吹いて両腕を曲げ、ポーズを取る。
 ミークは苦笑いで、

「あ、ヒルデ様の筋肉にしか興味ないんで!」

 ヒルデはうなだれ頭を抱える。

「俺にも興味を持つな……」

 シールラは拍手して目を輝かせた。

「キュディアス様、素敵ですう!もろシールラの好みの筋骨隆々ムキムキ殿方ですうっ!」

「だよな!?やっぱ彼氏振って俺に乗り換えなって」

 得意げな顔をしたキュディアスにシールラは可愛らしく首をかしげる。

「でもシールラ、こう見えてバリタチなんですが大丈夫ですかあ?太マッチョな殿方を女の子にしちゃうの大得意なんですぅ!」

「え……?」

 キュディアスはしばらく凍りついたあと、ユウエンのほうを見る。

「あ、そう言えばユウエンさん、浮いた話を聞かないなあ。今日はユウエンさんと交流を深めようかな」

「……」

 ユウエンは黙々と網の上で串刺し野菜をひっくり返している。シールラが頬を膨らませる。

「ちょっとキュディアス様っ!」

「だーめーじゃ!ユウエンは余のものじゃ!そなたがユウエンを狙いそうだから 制御役にジールも誘ったのに来てくれなかったのじゃ!」

 キュディアスは苦笑いする。

「あー、水着着るの絶対嫌つってました。帝国宰相の威厳に関わるとかで。あれであの人、筋肉ついてないの気にしてるからなぁ」

 シールラが食いついた。

「えっ、そうなんですか!?TiTI編集部にタレ込んでいいですか!?」

「わー、絶対ダメだぞ!俺が情報源だってすぐバレる!」

 浜で行われているやり取りに、浅瀬のレリエルは吹きだした。
 聞いてるこちらが楽しくなって、くつくつと笑う。レリエルの周囲の人間は、みんないいやつらばかりだ。

「なんか前も似たような話をしていなかったか?」

 笑いながら言ったレリエルに、だがアレスは仏頂面で返す。

「どうでもいい……!ヒルデの筋肉も団長の筋肉もミークさんの謎の興味もシールラさんの床事情も宰相の威厳も、全てが心底どうでもいい……!」

 アレスはレリエルの腰をぐっと抱き寄せた。
 そして上空を見据える。
 ふわり、と体が持ち上がった。
 レリエルは焦る。

「お、おい、いいのか飛んで!」

「空の上なら二人きりだ!」

 アレスはレリエルを抱き上げ、そのまま上空へと舞い上がる。
 南洋に浮かぶ小さな島の上から、不満たっぷりの少女の声が聞こえてくる。

「あ、ずるいぞ救世主-----!」

 その声が遥か下に遠ざかり、ぽかりと浮かんだ雲の上。
 アレスの腕の中、レリエルはおずおずと言う。

「ま、待て!自分で……飛びたい」

 アレスは眉を上げ、ぷっと吹きだした。

「それ聞くの何度目かな」

 言って、レリエルの体を離してくれる。
 久しぶりの浮遊感に、レリエルの心は躍った。
 羽を震わせ、上空の大気をいっぱいに吸い込み、レリエルは爽快な気分で微笑んだ。
 地球の空気は、おいしい。
 天界の空気よりずっとおいしい。そう思った

「じゃあ競争するか?」

 アレスの申し出にレリエルは目を瞬く。口の端をあげ、気取った仕草で髪を耳にかけた。

「まさか本物の天使の僕に、勝てると思ってるのか?羽も生えてないくせに!」

「試してみなきゃ分からんさ」

 言うや否や、アレスは凄い勢いで飛び退っていく。

「あ、待て!」

 レリエルは慌てて追いかける。

 二人は笑いながら空を駆ける。風を切って、風となって。
 二つの影は真昼の流星のように、青い空を貫いていった。

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おまけの新婚旅行でした!
TiTIは「第81話 宮廷の夜(4) お夜食できた」に出てきたメイド新聞です。
まさか最後の最後をTiTIの説明で終えることになるとは!

またお会いできたらうれしいです(^^)
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感想 139

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みんなの感想(139件)

ころん
2024.05.29 ころん

すごく面白くて世界観も好きだし素敵な作品でした!
3日間にわけてに読みましたが今喪失感がすごいです。
なので何度でも読み返します笑
素敵な作品をありがとうございました!

2024.06.02 空月 瞭明

ころん様、長丁場のこの作品を読んでいただきありがとうございます❤️😊
三日間お疲れ様でした!
私の書いた中で一番長い作品で、一番書くのが大変だったので、最後まで読んでもらえてほんとに超うれしいです~🤣
読み返していただけるなんてこれまた最高の栄誉でございます、読了ありがとうございました!

解除
黒滝ヒロ
2022.05.10 黒滝ヒロ

一気に読んでしまいました!
設定が非常に面白くて、世界観にハマりました。
映画化希望です!

2022.05.10 空月 瞭明

黒滝ヒロさん

きゃあ〜〜!
ありがとうございます〜〜(涙)
文字数、354,996もあるのに読んでくださったんですか!?
すごい光栄です、しかも映画化希望だなんてなんて嬉しいお言葉でしょう(涙)

これ、一番長く書いたのに一番不人気作品で悲しかったのです
嬉しい感想いただいて幸せです〜!

解除
未夢
2021.04.26 未夢
ネタバレ含む
2021.04.26 空月 瞭明

未夢さん
きゃー!
さらにこちらまで読んでいただけるなんて超うれしいです(TT)
長丁場の物語ですが、実はそろそろ完結でございます!
三十万文字、読むの大変かと思いますがありがとうございます〜!!

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