禍ツ天使の進化論

空月 瞭明

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第112話 南下(1) 星を渡り歩く

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 アレス達は森の中を南下していた。アレスはダチョウ形態のデポに乗って、レリエルは低空飛行で。
 右手にたまに、テイム川の流れが見え隠れしていた。
 
「しかし蛇の次は蜘蛛型の死霊傀儡とはな。天使って植物以外知らないんじゃなかったのか?」

「あの守護傀儡ガーディアン達は地球に来てから作られたものだから……。地球の下等生物の形態が職人的にイマジネーション刺激するものがあったんじゃないかな」

「なるほど……。っていやいや、そんな芸術家みたいな大層なこと言われてもな!あいつらただの死体いじりの外道連中じゃねえか!」

「それか、下等生物の死霊や死体も材料に混ぜて作ったのかもしれない」

「それはそれで、こええ……。ああでも下等生物って言うけどさ、俺から見ると天使の生態こそ下等生物っぽいけどな」

 レリエルは眉間にしわを寄せた。

「天使が下等生物?どういう意味だそれは」

「第一段階で神域を形成し、安全に卵が孵化する領域を確保したんだろ。それって巣づくりっぽくないか?この赤い霧のドームは蜂の巣みたいなもんだ。そして唯一、卵を産める神様は女王蜂だ」

「ジョオーバチ……?」

「まあスケールが宇宙なんだけどな。星間移動して来たんだろ」

「ああ。天使は、はるか昔から星間移動を繰り返して生き残り続けている。たくさんの星を渡り歩いて」

 アレスはその言葉に「ん?」と引っかかりを感じた。

「星を……渡り歩いて?」

「そうだ」

 その恐るべき意味を考える。

「なあ、もしかして、お前たちが前に居た天界ってのも、お前たちの先祖が人間から奪った星なのか?」

「そうだ。既に何億世代もの間、天使は惑星から惑星に移住を繰り返している。先住の人間を殲滅しながら。プラーナはとても不安定でその維持が難しい。完璧な環境が整った惑星じゃないとプラーナで満たすことはできないから、天使は惑星の環境が過酷になったらすぐに星間移動を始める」

「……」

 アレスは戦慄した。
 一体これまで、どれだけの数の星の生命が天使によって全滅させられて来たのか。

 天使は筋金入りの、凶悪・邪悪な侵略生命体なのだ。

「一つの星の寿命よりも長く、天使は種を保存し続ける。天使が生まれた最初の天界、原初の母星がどこだったのか、誰も知らない……」

「母星がどこかも分からない、か……。どえらい危険生物に訪問されちまったなあ、地球……」

 アレスは長いため息をつき、レリエルは目を伏せた。

「危険生物、か。そうなんだろうな、今なら僕も理解できる。天使はそれを神から与えられた使命だと思っているが。『天使は星々を浄化して渡り歩く、神の御使い。低次生命体を浄化し、汚れた下界を次元上昇し天界に生まれ変わらせる。それが高次生命体として、天使が神から授かった使命』……」

 アレスは呆れきって天を仰ぐ。

「狂ってるぜ、まったく」

 その時、霊能感知器ペンダントが青く発光を始めた。

「まずいっ」

 アレスとレリエルは木陰に身を潜めた。
 やがて上空に二名の天使が現れた。その二名の会話が聞こえてくる。

「ミカエル様のおっしゃる通り、希石コアが破壊されていた!例の人間とレリエルに違いない!」

「くそ、奴ら一体どこに!」

「おそらく地上を森に隠れて移動しているはずだ、探し出……」

 言いかけた一人が、ふと地上に目をやった。

「な、なんだあのデカイ白いのは……?」

 ダチョウ姿のデポは木陰に隠しきれなかったようだ。
 アレスはダガーを二本、宙に放った。

「かはっ……!」

 首に深々とダガーを突き立てた天使二人が、落下してくる。
 アレスはデポから飛び降りる。どさりと地面に落ちた二体に枯葉を被せて隠しながら、軽口を叩いた。

「あーあ、デポのせいだからな」

「……」

「ん?」

 軽口に返事がないのでいぶかしんでデポを見ると、寝ていた。

「あれ?おい、デポ!」

 ダチョウ姿のデポを揺らすと、シュルシュルと体が縮む。普通の鳩サイズになってしまった。そしてすやすや眠ってる。

「ど、どうしたんだ?」

 レリエルが心配そうに覗き込んだ。
 アレスは地べたで眠るデポを掴んで持ち上げた。ヒルデに言われていた、大事なことを思い出した。

「あー、そういえば!疲労が溜まると睡眠する、たまに寝させてやってくれって言われてた。ちょっと酷使し過ぎちゃったか」

「どうするんだ移動は!?南西部のプラーナ窟まで、結構あるぞ。それにさっきの会話、もうミカエル様にばれちゃってるみたいだ」

 アレスは難しい顔をしていたが、ふと気づいた。
 先ほどから、右側に見え隠れしていたテイム川。

「どこかに船着き場があったはず……」

「フナツキバ?」

「川下り、すっか!」

「何だそれ!?」

 レリエルは初めて聞いたらしいその言葉に、目をしばたかせた。
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