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第109話 北部プラーナ窟(2) 空色の剣
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「ちょうど目標の島の上だ。さてどうやって壊すか……」
希石と呼ばれる、鉄球のような銀ピカの丸石が、四角い箱のような金属製の台座に置かれていた。確かにシンプルな装置。希石の大きさは片手で持てそうなサイズだ。ヒルデの使う水晶玉くらい。
本来は石の祠、ヴィチェト小堂があったはずの場所だ。
この島は、儀式以外での立ち入りは固く禁じられ、大切にされてきた聖地である。
その聖なる祠を破壊し、こんな下らぬ装置を置くとは。
「壊すと言っても、希石自体を破壊するのは無理だ。台座から取り外して、プラーナ窟以外の場所に隠せばいいんじゃないかな」
「いや、それじゃ生ぬるい。破壊すべきだ」
「だから無理だ。非常に硬度の高い石だ。おそらく地球上にあるどの物質より硬い」
アレスは剣を抜き放った。
「斬る」
確信があった。いや信頼、と言うべきか。アレスはこの剣に絶大な信頼を寄せるようになっていた。
「剣で!?何を言っているんだ、地球の金属では絶対に破壊できない物質だ!剣が折れてしまうぞ!」
「神剣ウルメキアに斬れないものなんてない。たとえ宇宙からやってきた地球外物質でもな!」
断言した、その時。
剣から音が発生した。
ピーーー……ーーーー……ン……
と言う音。
水音のような、あるいは弦楽器のような。
一度きりであったが、決して忘れられないだろう、不思議な音だった。
それはまるで、アレスからの信頼に剣が共鳴したかのようだった。
「アレス、剣の色が……!」
空色に、染まっていた。
アレスは驚愕に目を見張り、神剣を見つめた。
そう言えばプリンケが、伝承では空色の剣とされている、と言っていた。神剣が、その本来の色を取り戻したのだ。
どこまでも透き通る、地球の空の色。
アレスの胸に感傷が生じた。
——この美しい空を、この惑星を、誰にも渡すものか。
アレスは片手で希石をつかんだ。何度かひねると、台座からすぽりと抜けた。
ずっしりとした重量があるそれを、宙に思い切り放り投げた。
上空に飛んだ希石を見据え、剣を構えた。落下する軌道を見極め深呼吸し、剣を振る。
斜めに一閃。銀色の希石はすっぱりと真っ二つに両断された。
二つの半球に別れたものが、地面に落下する。
落ちた銀色の半球は、またたく間に黒く変色した。まるで錆びついたかのように。
「まさか!」
レリエルが手で口を覆った。
「し、信じられない……!でもすごい、これで希石の機能は失われた、もう石ころ同然だ。プラーナを吸い上げる事は出来ない」
「それは良かった」
アレスは剣を腰の鞘に収めると、黒ずんでしまった希石のを拾い上げた。よくよく見ると真っ黒ではなく、切った断面には年輪のような灰色の縞模様があった。
「これが地球外の物質か……」
「そうだ」
そんなレリエルを見遣って、アレスは先ほど言いかけだった言葉の続きをつなげる。
「前から思ってたんだけど、『天界』って地球外惑星の事なんだろ?お前らは宇宙からやって来たんだな?」
レリエルは、なんで今更そんなことを言うのか、といった顔をした。
「もちろん、そうだ。でもただの惑星じゃない。高次元の惑星だ」
「ああ、次元上昇か。この神域みたいな神気まみれの状態になった惑星のことを、高次元すなわち天界つってるんだよな」
「そうだ」
アレスは一つため息をつき、苦笑する。
「天使は異星人だったんだなあ」
異星人に会いたいと話してヒルデに狂人扱いされたのは、いつの会話だったろうか。
「浮ついた科学主義者」としての自身の「夢」は、実はとっくに叶えられていたのだ。
レリエルが眉をひそめる。
「その呼び方、変な響きだからなんか嫌だ」
「お前らがいた天界は、今どうなっちまってんだ?」
「言っただろう、炎で焼かれて闇に閉ざされてしまったって」
「別の異星人の襲撃でも受けたのか?」
「違う。巨大な隕石が衝突したんだ。惑星の環境が急速に悪化したから、地球まで星間移動して来た」
「なるほど」
「天界に異変が起きて天使に滅亡の危険が迫った時、神様は卵に戻るんだ。そして普段は中に入れない宮殿の中に、たくさんの天使が入れるだけ入って、仮死睡眠状態になる。宮殿は星間飛行船モードに形状変化して、先の天界を捨て、星間移動をする。移住可能な惑星を探して」
「星間飛行船モード……。もしかして巨大な卵みたいな形か?」
「なぜ知ってるんだ?」
「目撃者がいるんだよ。宙に浮かぶ巨大な卵形の物体が、『蓮の花が開くように』宮殿に変化した、っていう有名な逸話と絵画があるんだ。あの天空宮殿は、卵になった神と、仮死状態になった一万の天使を引き連れて、この地球まではるばるやってきたんだな。遠い宇宙のどこかの星から」
全く途方も無い話だった。苦笑を浮かべたまま、いやはやと頭を振る。「浮ついた科学主義者」の自分ですら、なかなか理解が追いつかない。
「さあ、行こうか次の目標へ。次は北西部、傀儡村やテイム川のある方向だ」
----------------------------------------------------------
>異星人に会いたいと話してヒルデに狂人扱いされたのは、いつの会話だったろうか。
「第8話 宮廷魔術師長と騎士団長(1) 魔術と科学」です
希石と呼ばれる、鉄球のような銀ピカの丸石が、四角い箱のような金属製の台座に置かれていた。確かにシンプルな装置。希石の大きさは片手で持てそうなサイズだ。ヒルデの使う水晶玉くらい。
本来は石の祠、ヴィチェト小堂があったはずの場所だ。
この島は、儀式以外での立ち入りは固く禁じられ、大切にされてきた聖地である。
その聖なる祠を破壊し、こんな下らぬ装置を置くとは。
「壊すと言っても、希石自体を破壊するのは無理だ。台座から取り外して、プラーナ窟以外の場所に隠せばいいんじゃないかな」
「いや、それじゃ生ぬるい。破壊すべきだ」
「だから無理だ。非常に硬度の高い石だ。おそらく地球上にあるどの物質より硬い」
アレスは剣を抜き放った。
「斬る」
確信があった。いや信頼、と言うべきか。アレスはこの剣に絶大な信頼を寄せるようになっていた。
「剣で!?何を言っているんだ、地球の金属では絶対に破壊できない物質だ!剣が折れてしまうぞ!」
「神剣ウルメキアに斬れないものなんてない。たとえ宇宙からやってきた地球外物質でもな!」
断言した、その時。
剣から音が発生した。
ピーーー……ーーーー……ン……
と言う音。
水音のような、あるいは弦楽器のような。
一度きりであったが、決して忘れられないだろう、不思議な音だった。
それはまるで、アレスからの信頼に剣が共鳴したかのようだった。
「アレス、剣の色が……!」
空色に、染まっていた。
アレスは驚愕に目を見張り、神剣を見つめた。
そう言えばプリンケが、伝承では空色の剣とされている、と言っていた。神剣が、その本来の色を取り戻したのだ。
どこまでも透き通る、地球の空の色。
アレスの胸に感傷が生じた。
——この美しい空を、この惑星を、誰にも渡すものか。
アレスは片手で希石をつかんだ。何度かひねると、台座からすぽりと抜けた。
ずっしりとした重量があるそれを、宙に思い切り放り投げた。
上空に飛んだ希石を見据え、剣を構えた。落下する軌道を見極め深呼吸し、剣を振る。
斜めに一閃。銀色の希石はすっぱりと真っ二つに両断された。
二つの半球に別れたものが、地面に落下する。
落ちた銀色の半球は、またたく間に黒く変色した。まるで錆びついたかのように。
「まさか!」
レリエルが手で口を覆った。
「し、信じられない……!でもすごい、これで希石の機能は失われた、もう石ころ同然だ。プラーナを吸い上げる事は出来ない」
「それは良かった」
アレスは剣を腰の鞘に収めると、黒ずんでしまった希石のを拾い上げた。よくよく見ると真っ黒ではなく、切った断面には年輪のような灰色の縞模様があった。
「これが地球外の物質か……」
「そうだ」
そんなレリエルを見遣って、アレスは先ほど言いかけだった言葉の続きをつなげる。
「前から思ってたんだけど、『天界』って地球外惑星の事なんだろ?お前らは宇宙からやって来たんだな?」
レリエルは、なんで今更そんなことを言うのか、といった顔をした。
「もちろん、そうだ。でもただの惑星じゃない。高次元の惑星だ」
「ああ、次元上昇か。この神域みたいな神気まみれの状態になった惑星のことを、高次元すなわち天界つってるんだよな」
「そうだ」
アレスは一つため息をつき、苦笑する。
「天使は異星人だったんだなあ」
異星人に会いたいと話してヒルデに狂人扱いされたのは、いつの会話だったろうか。
「浮ついた科学主義者」としての自身の「夢」は、実はとっくに叶えられていたのだ。
レリエルが眉をひそめる。
「その呼び方、変な響きだからなんか嫌だ」
「お前らがいた天界は、今どうなっちまってんだ?」
「言っただろう、炎で焼かれて闇に閉ざされてしまったって」
「別の異星人の襲撃でも受けたのか?」
「違う。巨大な隕石が衝突したんだ。惑星の環境が急速に悪化したから、地球まで星間移動して来た」
「なるほど」
「天界に異変が起きて天使に滅亡の危険が迫った時、神様は卵に戻るんだ。そして普段は中に入れない宮殿の中に、たくさんの天使が入れるだけ入って、仮死睡眠状態になる。宮殿は星間飛行船モードに形状変化して、先の天界を捨て、星間移動をする。移住可能な惑星を探して」
「星間飛行船モード……。もしかして巨大な卵みたいな形か?」
「なぜ知ってるんだ?」
「目撃者がいるんだよ。宙に浮かぶ巨大な卵形の物体が、『蓮の花が開くように』宮殿に変化した、っていう有名な逸話と絵画があるんだ。あの天空宮殿は、卵になった神と、仮死状態になった一万の天使を引き連れて、この地球まではるばるやってきたんだな。遠い宇宙のどこかの星から」
全く途方も無い話だった。苦笑を浮かべたまま、いやはやと頭を振る。「浮ついた科学主義者」の自分ですら、なかなか理解が追いつかない。
「さあ、行こうか次の目標へ。次は北西部、傀儡村やテイム川のある方向だ」
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>異星人に会いたいと話してヒルデに狂人扱いされたのは、いつの会話だったろうか。
「第8話 宮廷魔術師長と騎士団長(1) 魔術と科学」です
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