89 / 141
第89話 ガブリエル来訪(3) そういうのが
しおりを挟む
レリエルの悲鳴——ガブリエルに対して言った「お願いだやめて」の声を聞きつけて、アレスは寝室に飛び込んだ。
はあはあと息を切らし、部屋を見回す。
「どうした!?こっちにも死霊傀儡出たのかっ!?」
レリエルの無事と、寝室のどこにも死霊傀儡がいないことを確認したアレスは開け放たれた扉の方に振り返った。
居間から寝室へと、職人天使の死霊傀儡が二体、アレスを追って入り込んで来た。
その得物は、片方はこん棒で片方はかなづち。生前、工房で使っていた、材料の死体を潰す道具である。
『逃ゲルカ、人間……』
アレスは剣を構える。
「最後の二体!お前らも新魔剣技で、肉体と魂を同時斬りしてやる!」
そして新技の技名を叫んだ。
「斬魂剣!」
透き通る神剣ウルメキアが、虹のような七色の光彩を帯び、剣身がダイヤように煌いた。
後方から飛んできたかなづちをひょいと避け、こん棒を握って踊りかかってきた前方の腹に虹色の剣身を突き刺す。
剣をひきぬきながら体を蹴飛ばした。こん棒持ちは吹っ飛んで、後方のかなづち持ちに背中からぶつかって倒れた。
二体の死霊傀儡が重なり仰向けになったところに、飛び掛る。上からその腹に、剣を突き刺して貫通させた。
二体、同時に剣に貫かれる。苦悶の声が漏れた。
「ゔグウェええええええ」
引き抜いた剣を逆手に持ち、とどめとばかりにもう一度貫く。死霊傀儡達はぴくりとも動かなくなった。
そして二体の死霊傀儡は、そのまま白い砂と化してしまった。
魂攻撃を加えていないにも関らず、傀儡魂は消失していた。
「よし……」
とアレスは息をつく。今宵初めて実戦で使った新技の出来栄えに満足していた。
魂攻撃と剣技を組み合わせた技だった。
この新技により、剣技でも相手の魂に打撃を与えられるようになった。
材料が所詮は職人天使だったためか、イヴァルトの死霊傀儡より弱かったとはいえ、十体もの数を屠ることができた。
この技は大破魂よりも強大なダメージを相手の魂に与えることができる。相当な威力の魔剣技が出来上がった。
そして神剣ウルメキア。軽くて動かしやすく、さらに恐ろしい程の斬れ味だった。しかもまるで昔から使っていたかのように、不思議なくらいしっくりと手に馴染んでくれた。
救世主云々の話はともかく、こんな素晴らしい剣を借りることが出来て良かった、とアレスは思う。
しかし、とアレスはため息交じり呟いた。
「はあ、天使社会なめてたぜ。俺が生かした職人天使、ほとんど処刑されちまったんだな。で死霊傀儡の材料か。狂った連中だ」
「そう、だな……」
いつの間にかベッドから立ち上がっていたレリエルが、重い足取りで寝室を出る。
居間には、木っ端になったダイニングテーブルや椅子、ボロボロになってひっくり返ったソファ、粉々になったランプのガラスなどが、散乱していた。
レリエルは無言で、それらを片付け始めた。
「どうした?元気ないじゃないか」
「別に……。寝起きだから」
「あっ……。だよな!?分かるよそれ、俺もすげえ腹たったわ!日の出前に来訪とかふざけんな非常識か!」
言いながらアレスも身をかがめて、テーブルの破片など拾い出す。
やがてなんとか部屋は片付いた。居間の半分が粗大ゴミで埋まっている状態だが。アレスはぶつくさ言う。
「ちくしょう家具ほとんど買い換えなきゃじゃねえか。家具買うのって部屋の長さ測ったりしなきゃだから、すげえめんどくさいんだぞ!死霊傀儡なんてわざわざ送ってこなくても、こっちから行くってのに!」
「……」
レリエルはどこか遠いところを見るような目で佇んでいる。
アレスはそんなレリエルを見て、眉を上げる。
「やっぱ、なんかあっただろ?」
「えっ!?」
物思いから引き戻されたかのようにびくりとしたレリエルの頭を、アレスは手で軽くポンポンする。
「本当は、宰相になんか言われたんだろ?」
「ち、ちが……」
否定しようとして、レリエルの目に涙が滲み出す。
「それとも体調悪いか?ヒルデに診てもらうか?」
アレスはレリエルの頭をなでなでした。レリエルが狼狽える。
「ぼ、僕のことなんてどうでもいいだろ!」
「無理すんなよほんと。なんでも全部言ってくれよ」
「っ、だから、そういうのが、僕は!!」
レリエルは顔を真っ赤にして、両腕でドンッとアレスの胸を押した。
「なんだなんだ!?」
「僕は嫌われ者の奇形羽だ!誰にも必要とされない、僕が死んでも誰も泣かない、ただあざ笑われるだけ、僕はそういう存在なんだ!」
必死の形相でそんなことを言うレリエルがおかしくて、アレスの笑みがこぼれた。
「何言ってんだ?そんなわけないじゃないか」
レリエルは苦しげにアレスの笑顔を見つめ、きゅっと胸の辺りを押さえた。
「もう……いい!」
レリエルは顔を背けると、窓辺に寄った。この部屋の一番大きい窓。その窓を開け放ち、窓枠に両腕をつき、ぐっと体を持ち上げ、足を掛けた。
その背中の羽根が立ち上がり、ブルブルと振動を始めた。
「な、何してんだレリエル!?まさかそこから飛ぶとか言わないよな?待てって、お前が天使だってバレたら……」
レリエルは窓から飛び立った。
「ちょ、ちょっと待てええーーーーーー!」
アレスは窓辺に駆け寄った。
上空をあちこちぐるぐる見回したが、レリエルの姿はもうどこにも見えなかった。
「うわあ、飛んでった!あいつ一体どうしたんだよ!?」
※※※
はあはあと息を切らし、部屋を見回す。
「どうした!?こっちにも死霊傀儡出たのかっ!?」
レリエルの無事と、寝室のどこにも死霊傀儡がいないことを確認したアレスは開け放たれた扉の方に振り返った。
居間から寝室へと、職人天使の死霊傀儡が二体、アレスを追って入り込んで来た。
その得物は、片方はこん棒で片方はかなづち。生前、工房で使っていた、材料の死体を潰す道具である。
『逃ゲルカ、人間……』
アレスは剣を構える。
「最後の二体!お前らも新魔剣技で、肉体と魂を同時斬りしてやる!」
そして新技の技名を叫んだ。
「斬魂剣!」
透き通る神剣ウルメキアが、虹のような七色の光彩を帯び、剣身がダイヤように煌いた。
後方から飛んできたかなづちをひょいと避け、こん棒を握って踊りかかってきた前方の腹に虹色の剣身を突き刺す。
剣をひきぬきながら体を蹴飛ばした。こん棒持ちは吹っ飛んで、後方のかなづち持ちに背中からぶつかって倒れた。
二体の死霊傀儡が重なり仰向けになったところに、飛び掛る。上からその腹に、剣を突き刺して貫通させた。
二体、同時に剣に貫かれる。苦悶の声が漏れた。
「ゔグウェええええええ」
引き抜いた剣を逆手に持ち、とどめとばかりにもう一度貫く。死霊傀儡達はぴくりとも動かなくなった。
そして二体の死霊傀儡は、そのまま白い砂と化してしまった。
魂攻撃を加えていないにも関らず、傀儡魂は消失していた。
「よし……」
とアレスは息をつく。今宵初めて実戦で使った新技の出来栄えに満足していた。
魂攻撃と剣技を組み合わせた技だった。
この新技により、剣技でも相手の魂に打撃を与えられるようになった。
材料が所詮は職人天使だったためか、イヴァルトの死霊傀儡より弱かったとはいえ、十体もの数を屠ることができた。
この技は大破魂よりも強大なダメージを相手の魂に与えることができる。相当な威力の魔剣技が出来上がった。
そして神剣ウルメキア。軽くて動かしやすく、さらに恐ろしい程の斬れ味だった。しかもまるで昔から使っていたかのように、不思議なくらいしっくりと手に馴染んでくれた。
救世主云々の話はともかく、こんな素晴らしい剣を借りることが出来て良かった、とアレスは思う。
しかし、とアレスはため息交じり呟いた。
「はあ、天使社会なめてたぜ。俺が生かした職人天使、ほとんど処刑されちまったんだな。で死霊傀儡の材料か。狂った連中だ」
「そう、だな……」
いつの間にかベッドから立ち上がっていたレリエルが、重い足取りで寝室を出る。
居間には、木っ端になったダイニングテーブルや椅子、ボロボロになってひっくり返ったソファ、粉々になったランプのガラスなどが、散乱していた。
レリエルは無言で、それらを片付け始めた。
「どうした?元気ないじゃないか」
「別に……。寝起きだから」
「あっ……。だよな!?分かるよそれ、俺もすげえ腹たったわ!日の出前に来訪とかふざけんな非常識か!」
言いながらアレスも身をかがめて、テーブルの破片など拾い出す。
やがてなんとか部屋は片付いた。居間の半分が粗大ゴミで埋まっている状態だが。アレスはぶつくさ言う。
「ちくしょう家具ほとんど買い換えなきゃじゃねえか。家具買うのって部屋の長さ測ったりしなきゃだから、すげえめんどくさいんだぞ!死霊傀儡なんてわざわざ送ってこなくても、こっちから行くってのに!」
「……」
レリエルはどこか遠いところを見るような目で佇んでいる。
アレスはそんなレリエルを見て、眉を上げる。
「やっぱ、なんかあっただろ?」
「えっ!?」
物思いから引き戻されたかのようにびくりとしたレリエルの頭を、アレスは手で軽くポンポンする。
「本当は、宰相になんか言われたんだろ?」
「ち、ちが……」
否定しようとして、レリエルの目に涙が滲み出す。
「それとも体調悪いか?ヒルデに診てもらうか?」
アレスはレリエルの頭をなでなでした。レリエルが狼狽える。
「ぼ、僕のことなんてどうでもいいだろ!」
「無理すんなよほんと。なんでも全部言ってくれよ」
「っ、だから、そういうのが、僕は!!」
レリエルは顔を真っ赤にして、両腕でドンッとアレスの胸を押した。
「なんだなんだ!?」
「僕は嫌われ者の奇形羽だ!誰にも必要とされない、僕が死んでも誰も泣かない、ただあざ笑われるだけ、僕はそういう存在なんだ!」
必死の形相でそんなことを言うレリエルがおかしくて、アレスの笑みがこぼれた。
「何言ってんだ?そんなわけないじゃないか」
レリエルは苦しげにアレスの笑顔を見つめ、きゅっと胸の辺りを押さえた。
「もう……いい!」
レリエルは顔を背けると、窓辺に寄った。この部屋の一番大きい窓。その窓を開け放ち、窓枠に両腕をつき、ぐっと体を持ち上げ、足を掛けた。
その背中の羽根が立ち上がり、ブルブルと振動を始めた。
「な、何してんだレリエル!?まさかそこから飛ぶとか言わないよな?待てって、お前が天使だってバレたら……」
レリエルは窓から飛び立った。
「ちょ、ちょっと待てええーーーーーー!」
アレスは窓辺に駆け寄った。
上空をあちこちぐるぐる見回したが、レリエルの姿はもうどこにも見えなかった。
「うわあ、飛んでった!あいつ一体どうしたんだよ!?」
※※※
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる