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第73話 [幕間] 皇帝陛下のお戯れ
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バトル前に閑話休題。ぶっ込みのヒルデ回です。
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時間は少し遡り、死霊傀儡のトラエスト城出現以前。アレスとレリエルが古い訓練場にいた頃。
王宮の中庭の一角では、ヒルデが棒立ちしていた。
「陛下あの……。私こう見えて結構、忙しいのですが……」
青々とした芝生が刈り込まれ、バラの生垣が壁のように背景を飾る。
そこは段差のない青空舞台で、皇族を楽しませるために道化や吟遊詩人がちょっとしたパフォーマンスをする所だった。
ヒルデの周囲には、ハートや星の形のシャボン玉がふわふわ浮かび、シャボンのお姫様たちがくるくるダンスしていた。
「流石じゃのう、ヒルデ!」
愛らしい少女が、目を輝かせて手を叩いた。
腰まで伸びるふわふわした水色の癖毛に大きな黄色のリボンをつけ、フリルだらけの黄色いドレスを着た少女。
トラエスト帝国の皇帝、プリンケ=ルア=トラエストである。
青空舞台の前に、白い丸テーブルと白い椅子が複数、最前中央にはクッションを敷き詰めた長椅子が一つ置かれていた。
プリンケは長椅子に座る、褐色美女ユウエンの膝に抱かれていた。
ユウエンは布地の騎士服を着て腰に剣を挿していた。前合わせの上衣は胸がはだけ気味で、色っぽい。
プリンケは手にした小瓶にストローをさし、口に含むと、ぷくうと息を吐いた。ストローの先からたくさんのシャボン玉が出てくる。
「次は獣じゃ!象にして見せてくれ!あとイルカとキリンとタコじゃ!」
キラキラした目でプリンケは指示を出した。
ヒルデはフードの奥で死んだ目をして、皇帝の指示に従う。
球状のシャボン玉が、次々と変形した。象に、イルカに、キリンに、タコに。
「可愛い!とても可愛いぞヒルデ!」
そんなプリンケたちの後方に、青ざめたミークがいた。ミークは両手で頭を抑え、うなだれていた。
(ああ俺には分かる、ヒルデ様は今絶対に目が死んでいる……。申し訳ございません、俺が不甲斐ないばっかりに……!)
プリンケ皇帝陛下の午後のお遊び相手……これは本日、ミークが承っていた任務だった。ミークもつい先ほどまでシャボン玉操作を披露していた。
ちなみにシャボン玉操作は、「魔能」の基礎レベルである。「魔能」とは、念動や透視と言った、精霊の力を借りない高等魔術のことである。
シャボン玉操作は魔能の中では高度な技ではないのだが、そもそも魔能を有する魔術師自体が極めて少ないので、できる人間が限られた。
ミークは自分としてはちゃんとできていたつもりである。亀の親子の30段重ねも作ったし、双頭のドラゴンに口からシャボンの火を吐かせもした。見るからにやる気のなさそうなヒルデより、はるかににこやかに楽しげに気合いを入れて。
「貴様を食ってやる!がおー!ボボボボボー!」
そんな効果音だって口頭でつけた。頑張ったのだ。
プリンケもケラケラ笑っていたはずだ。
だが、途中でなぜかプリンケがチェンジを言い渡してきた。
しかもヒルデを名指しして。
ミークは今、涙目で吐きそうになっていた。
皇帝陛下は自分の何がお気に召さなかったのだろう、自分は陛下に一体どんな粗相をしてしまったのだろう、と言うわけのわからぬ恐怖。
しかもその尻拭いを、魔術師長たる超多忙なヒルデにやらせてしまっている、と言ういたたまれなさ。
(こ、これが社会人……!辛いしんどい怖い重い、重すぎる社会人重い……。もういやだ学生に戻りたい、いっそ田舎に帰りたい……!)
ガクガク震えているミークに、プリンケが振り向いた。
「あ、そなたの技も素晴らしかったぞ!またぜひ余と遊んでおくれ、余はそなたが気に入った!」
「はいっ!?」
とミークは涙の溜まった目をパチクリさせた。
「余はただ、急にヒルデの顔が見たくなってしまったのだ!最近、ちいとも余の相手をしてくれないからの!」
「ヒルデ様の……?」
青空舞台からヒルデが声をかけた。
「陛下、シャボン玉はもうよろしいですか?」
「おお、余は満足じゃ!近う寄れ!」
そう言ってプリンケはヒルデを手招きした。
ヒルデは深々と一礼した。
「では、これにて失礼いたします皇帝陛下。ご拝命仕り、至極光栄で御座いました。ご機嫌麗しゅうお過ごしくださいませ」
そしてスタスタと去っていく。
プリンケがすくと立ち上がって、キレた。
「近う寄れと言うておろうがぁっ!!ユウエン!!」
「はっ」
ユウエンが飛び出した。腰の剣を抜き放ちながら。
ヒルデの前に躍り出たユウエンが、身をかがめ剣の切っ先を喉元に突きつけた。褐色美女は黒豹のような目つきでヒルデに告げる。
「陛下がお呼びです、ヒルデ殿」
「うぐう……」
ヒルデは仰け反り、切っ先を見つめ、奥歯を噛み締めた。
剣先をつきつけられたヒルデは、しばらくユウエンとにらみ合っていたが、やがて諦めたように目をそらした。
プリンケの方に踵を返す。
ヒルデはプリンケが腕を組んで踏ん反り返って座っている、長椅子の前にかしずいた。
ため息をつきながら、
「……何か御用ですか?」
「感じ悪いのう!ユウエン!」
「はっ!」
またユウエンの名を呼ばれて、ヒルデはびくりと身構えた。が、後ろから走ってきたユウエンは剣を抜くことはなく、ヒルデを追い越し、プリンケの隣にさっと座っただけだった。
プリンケはユウエンの胸元に小さな手を差し入れ、抱きつきながらその胸を揉みしだいた。
「ひどいと思わんかユウエン!ヒルデは余に冷たすぎる!」
ユウエンは自分の胸を揉むプリンケの髪を優しく撫でながら、
「おかわいそうに、陛下。おかわいそうに」
ミークは「ほわっ」的な音を発して赤くなり、ヒルデはうっとうめいて顔を引きつらせる。
「へ、陛下、まだそういうことを、しかも人前でっ……!陛下はもう八才でしょう、赤ん坊ではないのですからお控えいただかねば!家臣も困るではありませんか!」
プリンケはいたずらっぽい目でちらりとヒルデを見た。
「なんだ、うらやましいのかヒルデ」
ヒルデは喉の奥をくっ、と鳴らすと眉間にしわを寄せた。割と本気怒りで、
「私を誰だとお思いですか!そんなわけがないでしょう!」
プリンケはユウエンをモミモミしながら、得意そうな顔で言う。
「照れるな照れるな、分かっておる。ヒルデも余に乳を揉まれたいのだろう?」
一瞬の間をおいて、ヒルデは視線を流した。
「……そうきたか……」
ユウエンが妖艶な声音でたしなめる。
「魔術師長殿、お言葉遣いがよろしくありません」
「あ、あのですね、あなたが陛下にされるがままだからいけないんですよ!第三者の身にもなっていただきたい!」
そこに別の声が割って入ってきた。
「あー!陛下ったらまたユウエン様ばっかりモミモミしてますう!羨ましいですピンク頭の貧乳も揉んでほしいですう!」
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時間は少し遡り、死霊傀儡のトラエスト城出現以前。アレスとレリエルが古い訓練場にいた頃。
王宮の中庭の一角では、ヒルデが棒立ちしていた。
「陛下あの……。私こう見えて結構、忙しいのですが……」
青々とした芝生が刈り込まれ、バラの生垣が壁のように背景を飾る。
そこは段差のない青空舞台で、皇族を楽しませるために道化や吟遊詩人がちょっとしたパフォーマンスをする所だった。
ヒルデの周囲には、ハートや星の形のシャボン玉がふわふわ浮かび、シャボンのお姫様たちがくるくるダンスしていた。
「流石じゃのう、ヒルデ!」
愛らしい少女が、目を輝かせて手を叩いた。
腰まで伸びるふわふわした水色の癖毛に大きな黄色のリボンをつけ、フリルだらけの黄色いドレスを着た少女。
トラエスト帝国の皇帝、プリンケ=ルア=トラエストである。
青空舞台の前に、白い丸テーブルと白い椅子が複数、最前中央にはクッションを敷き詰めた長椅子が一つ置かれていた。
プリンケは長椅子に座る、褐色美女ユウエンの膝に抱かれていた。
ユウエンは布地の騎士服を着て腰に剣を挿していた。前合わせの上衣は胸がはだけ気味で、色っぽい。
プリンケは手にした小瓶にストローをさし、口に含むと、ぷくうと息を吐いた。ストローの先からたくさんのシャボン玉が出てくる。
「次は獣じゃ!象にして見せてくれ!あとイルカとキリンとタコじゃ!」
キラキラした目でプリンケは指示を出した。
ヒルデはフードの奥で死んだ目をして、皇帝の指示に従う。
球状のシャボン玉が、次々と変形した。象に、イルカに、キリンに、タコに。
「可愛い!とても可愛いぞヒルデ!」
そんなプリンケたちの後方に、青ざめたミークがいた。ミークは両手で頭を抑え、うなだれていた。
(ああ俺には分かる、ヒルデ様は今絶対に目が死んでいる……。申し訳ございません、俺が不甲斐ないばっかりに……!)
プリンケ皇帝陛下の午後のお遊び相手……これは本日、ミークが承っていた任務だった。ミークもつい先ほどまでシャボン玉操作を披露していた。
ちなみにシャボン玉操作は、「魔能」の基礎レベルである。「魔能」とは、念動や透視と言った、精霊の力を借りない高等魔術のことである。
シャボン玉操作は魔能の中では高度な技ではないのだが、そもそも魔能を有する魔術師自体が極めて少ないので、できる人間が限られた。
ミークは自分としてはちゃんとできていたつもりである。亀の親子の30段重ねも作ったし、双頭のドラゴンに口からシャボンの火を吐かせもした。見るからにやる気のなさそうなヒルデより、はるかににこやかに楽しげに気合いを入れて。
「貴様を食ってやる!がおー!ボボボボボー!」
そんな効果音だって口頭でつけた。頑張ったのだ。
プリンケもケラケラ笑っていたはずだ。
だが、途中でなぜかプリンケがチェンジを言い渡してきた。
しかもヒルデを名指しして。
ミークは今、涙目で吐きそうになっていた。
皇帝陛下は自分の何がお気に召さなかったのだろう、自分は陛下に一体どんな粗相をしてしまったのだろう、と言うわけのわからぬ恐怖。
しかもその尻拭いを、魔術師長たる超多忙なヒルデにやらせてしまっている、と言ういたたまれなさ。
(こ、これが社会人……!辛いしんどい怖い重い、重すぎる社会人重い……。もういやだ学生に戻りたい、いっそ田舎に帰りたい……!)
ガクガク震えているミークに、プリンケが振り向いた。
「あ、そなたの技も素晴らしかったぞ!またぜひ余と遊んでおくれ、余はそなたが気に入った!」
「はいっ!?」
とミークは涙の溜まった目をパチクリさせた。
「余はただ、急にヒルデの顔が見たくなってしまったのだ!最近、ちいとも余の相手をしてくれないからの!」
「ヒルデ様の……?」
青空舞台からヒルデが声をかけた。
「陛下、シャボン玉はもうよろしいですか?」
「おお、余は満足じゃ!近う寄れ!」
そう言ってプリンケはヒルデを手招きした。
ヒルデは深々と一礼した。
「では、これにて失礼いたします皇帝陛下。ご拝命仕り、至極光栄で御座いました。ご機嫌麗しゅうお過ごしくださいませ」
そしてスタスタと去っていく。
プリンケがすくと立ち上がって、キレた。
「近う寄れと言うておろうがぁっ!!ユウエン!!」
「はっ」
ユウエンが飛び出した。腰の剣を抜き放ちながら。
ヒルデの前に躍り出たユウエンが、身をかがめ剣の切っ先を喉元に突きつけた。褐色美女は黒豹のような目つきでヒルデに告げる。
「陛下がお呼びです、ヒルデ殿」
「うぐう……」
ヒルデは仰け反り、切っ先を見つめ、奥歯を噛み締めた。
剣先をつきつけられたヒルデは、しばらくユウエンとにらみ合っていたが、やがて諦めたように目をそらした。
プリンケの方に踵を返す。
ヒルデはプリンケが腕を組んで踏ん反り返って座っている、長椅子の前にかしずいた。
ため息をつきながら、
「……何か御用ですか?」
「感じ悪いのう!ユウエン!」
「はっ!」
またユウエンの名を呼ばれて、ヒルデはびくりと身構えた。が、後ろから走ってきたユウエンは剣を抜くことはなく、ヒルデを追い越し、プリンケの隣にさっと座っただけだった。
プリンケはユウエンの胸元に小さな手を差し入れ、抱きつきながらその胸を揉みしだいた。
「ひどいと思わんかユウエン!ヒルデは余に冷たすぎる!」
ユウエンは自分の胸を揉むプリンケの髪を優しく撫でながら、
「おかわいそうに、陛下。おかわいそうに」
ミークは「ほわっ」的な音を発して赤くなり、ヒルデはうっとうめいて顔を引きつらせる。
「へ、陛下、まだそういうことを、しかも人前でっ……!陛下はもう八才でしょう、赤ん坊ではないのですからお控えいただかねば!家臣も困るではありませんか!」
プリンケはいたずらっぽい目でちらりとヒルデを見た。
「なんだ、うらやましいのかヒルデ」
ヒルデは喉の奥をくっ、と鳴らすと眉間にしわを寄せた。割と本気怒りで、
「私を誰だとお思いですか!そんなわけがないでしょう!」
プリンケはユウエンをモミモミしながら、得意そうな顔で言う。
「照れるな照れるな、分かっておる。ヒルデも余に乳を揉まれたいのだろう?」
一瞬の間をおいて、ヒルデは視線を流した。
「……そうきたか……」
ユウエンが妖艶な声音でたしなめる。
「魔術師長殿、お言葉遣いがよろしくありません」
「あ、あのですね、あなたが陛下にされるがままだからいけないんですよ!第三者の身にもなっていただきたい!」
そこに別の声が割って入ってきた。
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