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第65話 傀儡工房村、襲撃(5) 多勢
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カサドが叫ぶと同時に、ゴゴゴ、という振動が起きた。
奥にある扉の一つが、中から緑色の光を放った。
と思うや、その扉を蹴破って、中から大量の死霊傀儡がぞろぞろと出てきた。
「れりエル……あれス……コロス……」
「コロス……」
闇色の体、赤い瞳、牙とかぎ爪。
その不気味な存在が大量に出てくる。数十体、いやそれ以上の数だ。
「うっ……嘘だろ……」
レリエルはその数におののき、じりりと後ずさりした。
アレスは真剣な顔で剣を抜き、腰を屈めた。
カサドが勝ち誇ったように哄笑した。
「かあーはっはっは!どうだ凶悪で醜くて最高に可愛いだろお?オレたちの息子たちはよお!やっちまいな!!」
死霊傀儡が一斉に飛びかかってきた。
黒い洪水のように。
二人が一瞬でその洪水に飲み込まれる……かに見えた、その刹那。
「——風斬剣」
アレスが技名と共に回転し、一閃。
風の刃が生じる。
たったその一閃で、最初に飛びかかってきた死霊傀儡たちの一群が、粉々に吹っ飛んだ。さらに、
「——風斬剣、連撃!」
アレスは死霊傀儡の群の中に踊り込んだ。
とてつもない速さで、剣が振るわれる。
その度に風の刃が生じて大量の死霊傀儡たちを粉砕していった。
死霊傀儡の首が、腕が、胴が、凄まじい勢いで飛び散っていく。
剣技と魔法の組みわせ、「魔剣技」だ。
死霊傀儡の切り刻まれた肉片が、枯葉のように工房内で散乱する。竜巻の中心でアレスが見事な剣舞を舞っている。
剣聖、と呼ぶにふさわしい圧巻の剣技だった。
職人天使たちは圧倒された様子でそれを見ていた。
「おい、なんだこれ……なんだこいつ……」
「あんなたくさんの死霊傀儡が、あっという間にバラバラに!」
カサドは頬をひくつかせながらも、口元を歪めて笑った。
「はん、器をバラしたからなんだってんだ?どうせすぐに復活するんだ。こんな大量の傀儡魂をどうやって破壊する!?無理さ!死霊傀儡は百はいるぞ!」
その時レリエルは、アレをやってみよう、と思っていた。
通常の魂攻撃をちまちま打っても駄目だ。
毎日のようにトラエスト城で訓練し、かなりイメージは出来上がっていた。
両腕をつきだし、精神を統一し、見る。
くるくると回転する十の赤い球、傀儡魂。その姿をはっきりと目に焼き付けた。
「……見えたっ!――大破魂!」
直径一メートルの透明な球体が、レリエルの手の中に生じた。
レンズのように空間を歪ませる球体が、死霊傀儡の肉片に向かって放出される。
球体に触れ、舞い散る肉片が爆ぜた。爆ぜたそばから黒い煙となって消えていく。
死霊傀儡数体分の傀儡魂を、レリエルは消滅させた。
「ぼ、僕にも出来たっ!」
レリエルは嬉しそうに言った。職人天使達から唸り声が上がる。
「なんだあの咒法は!?レリエルのやつ、たった一回の攻撃であんなに沢山消しちまった!」
咒法とは、天使達の使う魔法の呼び名である。カサドはふふん、と笑った。
「まあ、確かにすげえ。でも、足りねえだろ。全然だ、焼け石に水だ!」
その言葉に、レリエルは顔をしかめる。焼け石に水、カサドの言う通りだった。
「ま、まだまだだ!何度でも打ってやる!」
そして今成功したばかりの大破魂を連続で繰り出した。
アレスはまだ人型を保っていた、最後の一体を切り刻み、剣舞を止めた。
とりあえず全てを肉片にはした。
無論、ピクピクうごめいてはいるのだが。
アレスは大破魂を連打するレリエルをちらりと見て微笑んだ。
「すげえなレリエル。もう習得したのか。俺も負けてらんねえな」
アレスは剣を収めると、深呼吸をした。
レリエルだけに任せているわけにはいかない、アレスも魂攻撃に参加せねば。
アレスは深く、深く呼吸し、心を安定させた。
集中する。
極限の精神力で、集中する。
波紋一つない透明な湖のように、アレスの心が研ぎ澄まされた。
アレスの瞳には、セフィロトの樹の図形がはっきりと浮かんでいた。
その目に、捉える。全ての傀儡魂を。
アレスの霊眼には今、完璧な座標が描かれていた。
今この部屋にある、およそ百体の死霊傀儡の、およそ千の傀儡魂の、位置を、形状を、座標目盛りミリ単位の正確さで、「見た」。
そして、両手をまっすぐ上に掲げ、術名を叫ぶ。
「――極大破魂!」
部屋の中の全空間がその一瞬、突然さざめいた。
多量の小石を投げ込まれた水面のように、空間がざっと泡立つ。
そして大量爆発が起きた。
大爆発ではなく、大量の小規模爆発だ。
部屋中に散乱した黒い肉片が、それぞれボンっと黒い消し炭となって弾けとんだ。
それはまるで、小さな千の花火、黒い千の花火が、床で一斉に爆発したような有様だった。
工房の作業部屋中に黒い灰が豪雪のように舞い降りる。
見回せば死霊傀儡は一体も、残ってなかった。
あとはただ、凪のような静寂。
職人天使たちが呆然としている。
「な、何だ……。今何が起きたんだ……」
「嘘だろ?全部、消えただと……?」
レリエルも信じられない面持ちで、死霊傀儡の消え去った部屋を見渡していた。
アレスは、がくりと体を曲げ、両手を膝につくと、ハアハアと息をついた。心臓は高鳴り、ガンガン割れるような頭痛がした。
極大魔法はただでさえ体に大きな負担がかかる。まして魂攻撃は、大変な集中力、精神力を必要とした。
だが呼吸を整え、なんとか身を起こすと、笑顔でレリエルに振り向いた。
「すっげーな、レリエル!驚いたよ、お前の大破魂!やるじゃないか!」
レリエルは吹き出すと、呆れたように首を振った。
「このタイミングでそれか?嫌味にしか聞こえないぞ。お前ってほんと、とんでもないな」
「えー、嫌味か?全然そんなつもりないんだけどな」
アレスが頭をかきながら霊体化防御をしているカサドたちに近づいた。
すっ、と片手を突き出す。
職人天使が恐怖に身を捩った。
「くっ、やろうってのか!」
「大丈夫、殺しはしない。魂構成子がラスト一つになれば、行動不能になるな?眠っててくれ。すげー痛いと思うが、我慢しろよ?レリエルも手伝ってくれ」
「え?あ、ああ!」
カサドが悔しげに歯を食いしばった。
「なっ、命を助けるだと!?ふざけるな、情けなんぞいらんわ!こんな老いぼれ、殺したきゃ殺っ……。う、く……うがああああ……っ!」
言い終わらないうちに、カサドは苦悶に顔を恐ろしく歪めた後、気絶した。他の職人天使たちも。アレスとレリエルが調整しながら連打した、魂攻撃によって。
アレスはふうと息をつく。
「これで邪魔はいなくなったな」
------------------------------------------------------
アレス、本日の俺TUEEEタイムでした
奥にある扉の一つが、中から緑色の光を放った。
と思うや、その扉を蹴破って、中から大量の死霊傀儡がぞろぞろと出てきた。
「れりエル……あれス……コロス……」
「コロス……」
闇色の体、赤い瞳、牙とかぎ爪。
その不気味な存在が大量に出てくる。数十体、いやそれ以上の数だ。
「うっ……嘘だろ……」
レリエルはその数におののき、じりりと後ずさりした。
アレスは真剣な顔で剣を抜き、腰を屈めた。
カサドが勝ち誇ったように哄笑した。
「かあーはっはっは!どうだ凶悪で醜くて最高に可愛いだろお?オレたちの息子たちはよお!やっちまいな!!」
死霊傀儡が一斉に飛びかかってきた。
黒い洪水のように。
二人が一瞬でその洪水に飲み込まれる……かに見えた、その刹那。
「——風斬剣」
アレスが技名と共に回転し、一閃。
風の刃が生じる。
たったその一閃で、最初に飛びかかってきた死霊傀儡たちの一群が、粉々に吹っ飛んだ。さらに、
「——風斬剣、連撃!」
アレスは死霊傀儡の群の中に踊り込んだ。
とてつもない速さで、剣が振るわれる。
その度に風の刃が生じて大量の死霊傀儡たちを粉砕していった。
死霊傀儡の首が、腕が、胴が、凄まじい勢いで飛び散っていく。
剣技と魔法の組みわせ、「魔剣技」だ。
死霊傀儡の切り刻まれた肉片が、枯葉のように工房内で散乱する。竜巻の中心でアレスが見事な剣舞を舞っている。
剣聖、と呼ぶにふさわしい圧巻の剣技だった。
職人天使たちは圧倒された様子でそれを見ていた。
「おい、なんだこれ……なんだこいつ……」
「あんなたくさんの死霊傀儡が、あっという間にバラバラに!」
カサドは頬をひくつかせながらも、口元を歪めて笑った。
「はん、器をバラしたからなんだってんだ?どうせすぐに復活するんだ。こんな大量の傀儡魂をどうやって破壊する!?無理さ!死霊傀儡は百はいるぞ!」
その時レリエルは、アレをやってみよう、と思っていた。
通常の魂攻撃をちまちま打っても駄目だ。
毎日のようにトラエスト城で訓練し、かなりイメージは出来上がっていた。
両腕をつきだし、精神を統一し、見る。
くるくると回転する十の赤い球、傀儡魂。その姿をはっきりと目に焼き付けた。
「……見えたっ!――大破魂!」
直径一メートルの透明な球体が、レリエルの手の中に生じた。
レンズのように空間を歪ませる球体が、死霊傀儡の肉片に向かって放出される。
球体に触れ、舞い散る肉片が爆ぜた。爆ぜたそばから黒い煙となって消えていく。
死霊傀儡数体分の傀儡魂を、レリエルは消滅させた。
「ぼ、僕にも出来たっ!」
レリエルは嬉しそうに言った。職人天使達から唸り声が上がる。
「なんだあの咒法は!?レリエルのやつ、たった一回の攻撃であんなに沢山消しちまった!」
咒法とは、天使達の使う魔法の呼び名である。カサドはふふん、と笑った。
「まあ、確かにすげえ。でも、足りねえだろ。全然だ、焼け石に水だ!」
その言葉に、レリエルは顔をしかめる。焼け石に水、カサドの言う通りだった。
「ま、まだまだだ!何度でも打ってやる!」
そして今成功したばかりの大破魂を連続で繰り出した。
アレスはまだ人型を保っていた、最後の一体を切り刻み、剣舞を止めた。
とりあえず全てを肉片にはした。
無論、ピクピクうごめいてはいるのだが。
アレスは大破魂を連打するレリエルをちらりと見て微笑んだ。
「すげえなレリエル。もう習得したのか。俺も負けてらんねえな」
アレスは剣を収めると、深呼吸をした。
レリエルだけに任せているわけにはいかない、アレスも魂攻撃に参加せねば。
アレスは深く、深く呼吸し、心を安定させた。
集中する。
極限の精神力で、集中する。
波紋一つない透明な湖のように、アレスの心が研ぎ澄まされた。
アレスの瞳には、セフィロトの樹の図形がはっきりと浮かんでいた。
その目に、捉える。全ての傀儡魂を。
アレスの霊眼には今、完璧な座標が描かれていた。
今この部屋にある、およそ百体の死霊傀儡の、およそ千の傀儡魂の、位置を、形状を、座標目盛りミリ単位の正確さで、「見た」。
そして、両手をまっすぐ上に掲げ、術名を叫ぶ。
「――極大破魂!」
部屋の中の全空間がその一瞬、突然さざめいた。
多量の小石を投げ込まれた水面のように、空間がざっと泡立つ。
そして大量爆発が起きた。
大爆発ではなく、大量の小規模爆発だ。
部屋中に散乱した黒い肉片が、それぞれボンっと黒い消し炭となって弾けとんだ。
それはまるで、小さな千の花火、黒い千の花火が、床で一斉に爆発したような有様だった。
工房の作業部屋中に黒い灰が豪雪のように舞い降りる。
見回せば死霊傀儡は一体も、残ってなかった。
あとはただ、凪のような静寂。
職人天使たちが呆然としている。
「な、何だ……。今何が起きたんだ……」
「嘘だろ?全部、消えただと……?」
レリエルも信じられない面持ちで、死霊傀儡の消え去った部屋を見渡していた。
アレスは、がくりと体を曲げ、両手を膝につくと、ハアハアと息をついた。心臓は高鳴り、ガンガン割れるような頭痛がした。
極大魔法はただでさえ体に大きな負担がかかる。まして魂攻撃は、大変な集中力、精神力を必要とした。
だが呼吸を整え、なんとか身を起こすと、笑顔でレリエルに振り向いた。
「すっげーな、レリエル!驚いたよ、お前の大破魂!やるじゃないか!」
レリエルは吹き出すと、呆れたように首を振った。
「このタイミングでそれか?嫌味にしか聞こえないぞ。お前ってほんと、とんでもないな」
「えー、嫌味か?全然そんなつもりないんだけどな」
アレスが頭をかきながら霊体化防御をしているカサドたちに近づいた。
すっ、と片手を突き出す。
職人天使が恐怖に身を捩った。
「くっ、やろうってのか!」
「大丈夫、殺しはしない。魂構成子がラスト一つになれば、行動不能になるな?眠っててくれ。すげー痛いと思うが、我慢しろよ?レリエルも手伝ってくれ」
「え?あ、ああ!」
カサドが悔しげに歯を食いしばった。
「なっ、命を助けるだと!?ふざけるな、情けなんぞいらんわ!こんな老いぼれ、殺したきゃ殺っ……。う、く……うがああああ……っ!」
言い終わらないうちに、カサドは苦悶に顔を恐ろしく歪めた後、気絶した。他の職人天使たちも。アレスとレリエルが調整しながら連打した、魂攻撃によって。
アレスはふうと息をつく。
「これで邪魔はいなくなったな」
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