51 / 141
第51話 キリア大聖堂(4) 硬い傀儡魂
しおりを挟む
アレスの声に反応し、死霊傀儡の動きがピタリと止まった。
その赤い目がいきなり三倍くらい光度を増した。
巨大鳩が、すっかり廃墟と化した円の神殿のはじっこに舞い降りる。
死霊傀儡は鳩から地上に飛び降りたアレスとレリエルに振り向いた。
その姿を認め、歓声をあげた。
「フオオオオオーーーー!アレす!れリエる、見ツケたーーーー!!!」
喜びで活性化したのか、ひき肉のようになっていた肉片が、すごい速さで死霊傀儡に集まった。
両脚も、短くなっていた右腕も一気に復活し、むくりと起き上がった。
レリエルがその巨体を呆然と見上げた。
「こっ、こんな大きい死霊傀儡、初めて見た!」
死霊傀儡が右腕を振りかぶった。と思うやその巨体がジャンプした。
ドシンという轟音とともに、一飛びで目前まで来た闇色の巨体。
そのどでかい拳が、アレスの頭上めがけて振り下ろされる。
「くっ……!」
すんでのところで、アレスは剣で拳を受け止めた。
とてつもない重量だった。
遠目に放心していたミークが息を飲んだ。
「あ、あの化け物を剣一本で支えてる!?あれがカブリア王国の聖騎士様!噂どおりのド超人っっ!」
死霊傀儡がグリグリと拳を剣に押し込んで来た。
アレスの腕はぷるぷると震え、額には脂汗がにじみ出ていた。
踏ん張る両足が、ズズと後ろに滑る。体ごと押される。
アレスは息を整えながら、技名を唱えた
「——炎斬剣!」
途端に、ただの神霊剣が燃え盛る炎の剣に変化した。
剣技と魔法の組みわせ、「魔剣技」。
剣と魔法を極めし者、すなわち「聖騎士」のみが使える技である。
「フンガッ!?」
剣に拳をめり込ませていた死霊傀儡は、熱がってその拳を離した。
アレスはその足元に走り込んだ。
のこぎりで巨木を倒すように、巨大な足に刃を垂直に入れたまま、走り抜ける。
そして一気に切断。
「グガアアアアア」
片足を失い敵は吼える。
アレスは瞬時に踵を返し、もう片方の大足まで駆け込むと、また一太刀で駆け抜けの大切断。
両足を失い、倒れくる巨体を俊足で交わし、
「——風魔法・跳躍」
術名と共に軽く十五メートルは飛び上がると、上空からその巨体めがけて落下する。
落下のエネルギーと共に、縦一閃。
その巨体が真っ二つに分断された。
「あわわわわ、俺一体今、何を見ているんでしょう、これは夢でしょうかっ」
ミークがアレスの超人っぷりにおののいている。
死霊傀儡を切断しながら着地したアレスは、ふうと息を吐き、レリエルを見た。
そこには、両腕を突き出し、顔をしかめているレリエルがいた。
「?どうしたレリエル?」
「こ、この傀儡魂、硬い……!破壊できなったっ……」
「なに?」
アレスも霊眼を発動させ、「見る」。アレスは眉をしかめた。
(なんだこれは)
赤い傀儡魂にあやしい黒いつぶつぶがくっついていた。
こんな傀儡魂は見たことがなかった。アレスはいままで、死霊傀儡への魂攻撃は全てレリエルに任せていたが、後学のために毎回、霊眼の発動と観察は行ってきた。こんなのは初めてだ。
アレスもとりあえず一発、放つ。魂を破壊する呪殺の念。
「破魂!」
効果を凝視した。
透明な球体が赤い傀儡魂に触れる寸前、粒子がアメーバ様に形状変化した。
分厚いアメーバは、赤い傀儡魂全体を黒く覆い隠した。
透明な球体が通り過ぎると、傀儡魂を覆っていたアメーバはシュルシュルと縮んで、粒子に戻った。
傀儡魂は傷一つついていなかった。
粒子がまるで微細な生き物のように、傀儡魂を守ったのだ。
そうこうするうちに、アレスのばらした死霊傀儡の肉片は、もう寄り集まり形を成し始めていた。
「なんだあの、つぶつぶ……!そうだ、氷結させられないか?」
アレスは手の中に冷気の塊を作った。
「レリエル!今からあいつを凍らせる。凍ったら魂攻撃してくれ!」
「わ、分かった!」
「極大氷結玉!!」
アレスの手から放たれた巨大な冷気の玉が、今まさにその形状を復活し赤い目を光らせたばかりの死霊傀儡に直撃する。
見事、氷結。瞬時に凍りついた。
巨大な死霊傀儡は氷の像となった。
ミークが口をあんぐり開けた。
「詠唱もなしで極大魔法!?しかもあの馬鹿みたいな威力!?」
続けざまにレリエルが、
「傀儡魂、破壊!」
レリエルの攻撃を受ける傀儡魂の様子を、アレスは固唾を飲んで観察した。しかしその期待を込めた顔が、悔しさに崩れて渋面となる。
体は凍結しても、あの「つぶつぶ」は凍結させられなかった。
再び、粒子はアメーバ化して傀儡魂を覆い隠し、守りきったのだ。
アレスはいらだたしげに、右の拳で左の手のひらを打った。
「くそっ!一体、どうすれば……!」
------------------------------------------
俺TUEEE系チート主人公アレス、今ちょっとつぶつぶに苦戦中
・魔法威力は、無印<大<特大<極大の順で大きくなる
・氷結玉は氷の精霊の力で敵にダメージを与える精霊魔法だよ。追加効果は一定時間の行動不能。
・火の精霊の力を借りる火炎玉もあるよ。第13話でイヴァルト(レリエルをいじめてた嫌なヤツ)に使ってた魔法だよ。
・もちろん雷の精霊の力を借りるやつもあるよ。電撃玉っていってこれも一定時間行動不能の追加効果があるよ
その赤い目がいきなり三倍くらい光度を増した。
巨大鳩が、すっかり廃墟と化した円の神殿のはじっこに舞い降りる。
死霊傀儡は鳩から地上に飛び降りたアレスとレリエルに振り向いた。
その姿を認め、歓声をあげた。
「フオオオオオーーーー!アレす!れリエる、見ツケたーーーー!!!」
喜びで活性化したのか、ひき肉のようになっていた肉片が、すごい速さで死霊傀儡に集まった。
両脚も、短くなっていた右腕も一気に復活し、むくりと起き上がった。
レリエルがその巨体を呆然と見上げた。
「こっ、こんな大きい死霊傀儡、初めて見た!」
死霊傀儡が右腕を振りかぶった。と思うやその巨体がジャンプした。
ドシンという轟音とともに、一飛びで目前まで来た闇色の巨体。
そのどでかい拳が、アレスの頭上めがけて振り下ろされる。
「くっ……!」
すんでのところで、アレスは剣で拳を受け止めた。
とてつもない重量だった。
遠目に放心していたミークが息を飲んだ。
「あ、あの化け物を剣一本で支えてる!?あれがカブリア王国の聖騎士様!噂どおりのド超人っっ!」
死霊傀儡がグリグリと拳を剣に押し込んで来た。
アレスの腕はぷるぷると震え、額には脂汗がにじみ出ていた。
踏ん張る両足が、ズズと後ろに滑る。体ごと押される。
アレスは息を整えながら、技名を唱えた
「——炎斬剣!」
途端に、ただの神霊剣が燃え盛る炎の剣に変化した。
剣技と魔法の組みわせ、「魔剣技」。
剣と魔法を極めし者、すなわち「聖騎士」のみが使える技である。
「フンガッ!?」
剣に拳をめり込ませていた死霊傀儡は、熱がってその拳を離した。
アレスはその足元に走り込んだ。
のこぎりで巨木を倒すように、巨大な足に刃を垂直に入れたまま、走り抜ける。
そして一気に切断。
「グガアアアアア」
片足を失い敵は吼える。
アレスは瞬時に踵を返し、もう片方の大足まで駆け込むと、また一太刀で駆け抜けの大切断。
両足を失い、倒れくる巨体を俊足で交わし、
「——風魔法・跳躍」
術名と共に軽く十五メートルは飛び上がると、上空からその巨体めがけて落下する。
落下のエネルギーと共に、縦一閃。
その巨体が真っ二つに分断された。
「あわわわわ、俺一体今、何を見ているんでしょう、これは夢でしょうかっ」
ミークがアレスの超人っぷりにおののいている。
死霊傀儡を切断しながら着地したアレスは、ふうと息を吐き、レリエルを見た。
そこには、両腕を突き出し、顔をしかめているレリエルがいた。
「?どうしたレリエル?」
「こ、この傀儡魂、硬い……!破壊できなったっ……」
「なに?」
アレスも霊眼を発動させ、「見る」。アレスは眉をしかめた。
(なんだこれは)
赤い傀儡魂にあやしい黒いつぶつぶがくっついていた。
こんな傀儡魂は見たことがなかった。アレスはいままで、死霊傀儡への魂攻撃は全てレリエルに任せていたが、後学のために毎回、霊眼の発動と観察は行ってきた。こんなのは初めてだ。
アレスもとりあえず一発、放つ。魂を破壊する呪殺の念。
「破魂!」
効果を凝視した。
透明な球体が赤い傀儡魂に触れる寸前、粒子がアメーバ様に形状変化した。
分厚いアメーバは、赤い傀儡魂全体を黒く覆い隠した。
透明な球体が通り過ぎると、傀儡魂を覆っていたアメーバはシュルシュルと縮んで、粒子に戻った。
傀儡魂は傷一つついていなかった。
粒子がまるで微細な生き物のように、傀儡魂を守ったのだ。
そうこうするうちに、アレスのばらした死霊傀儡の肉片は、もう寄り集まり形を成し始めていた。
「なんだあの、つぶつぶ……!そうだ、氷結させられないか?」
アレスは手の中に冷気の塊を作った。
「レリエル!今からあいつを凍らせる。凍ったら魂攻撃してくれ!」
「わ、分かった!」
「極大氷結玉!!」
アレスの手から放たれた巨大な冷気の玉が、今まさにその形状を復活し赤い目を光らせたばかりの死霊傀儡に直撃する。
見事、氷結。瞬時に凍りついた。
巨大な死霊傀儡は氷の像となった。
ミークが口をあんぐり開けた。
「詠唱もなしで極大魔法!?しかもあの馬鹿みたいな威力!?」
続けざまにレリエルが、
「傀儡魂、破壊!」
レリエルの攻撃を受ける傀儡魂の様子を、アレスは固唾を飲んで観察した。しかしその期待を込めた顔が、悔しさに崩れて渋面となる。
体は凍結しても、あの「つぶつぶ」は凍結させられなかった。
再び、粒子はアメーバ化して傀儡魂を覆い隠し、守りきったのだ。
アレスはいらだたしげに、右の拳で左の手のひらを打った。
「くそっ!一体、どうすれば……!」
------------------------------------------
俺TUEEE系チート主人公アレス、今ちょっとつぶつぶに苦戦中
・魔法威力は、無印<大<特大<極大の順で大きくなる
・氷結玉は氷の精霊の力で敵にダメージを与える精霊魔法だよ。追加効果は一定時間の行動不能。
・火の精霊の力を借りる火炎玉もあるよ。第13話でイヴァルト(レリエルをいじめてた嫌なヤツ)に使ってた魔法だよ。
・もちろん雷の精霊の力を借りるやつもあるよ。電撃玉っていってこれも一定時間行動不能の追加効果があるよ
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる