45 / 141
第45話 お城勤務(1) 傀儡工房の本気
しおりを挟む
かつてカブリア王国と呼ばれていたその領域を流れる、テイム川の岸辺でも、一夜が明けていた。
おぞましい瘴気をはなつ死霊傀儡工房の村で、職人天使達はその目に闘志をみなぎらせている。
職人天使達がいま、蔵の奥から出してきたのは、漆黒の壺に入れられた、傀儡魂の原型だった。彼らが『原液』と呼ぶもの。
赤く発光する液体だった。
「まさかこれを使う時がやってくるとはな」
職人天使の一人が緊張の面持ちで唇をなめた。別の天使がうなずく。
「遥かなる天界から持ってきた、貴重な上物だ。作るのに三年もかかる、逸品モンよ。これを使って……」
「ああ、絶対に殺してやる。アレスとレリエル、待っていろ!」
※※※
アレスはレリエルを伴ってトラエスト城に登城した。
キュディアス、ヒルデを交えた四人で早朝の小会議が行われた。そこでレリエルの立場が定まる。レリエルの所属はヒルデを長とする宮廷魔術師団だが、アレスと共に死霊傀儡討伐にあたるので、天使捜査任務を担う第四騎士団に出向という形になった。
午前十時ごろ、アレスとレリエルは第四騎士団の野外訓練場に向かった。中では既に他の騎士団員たちが訓練している。
訓練場に入るとき、石壁の門のところでシールラに出くわした。箒ではき掃除を終えて出て行こうとするところらしかった。
アレスは怒りの表情でつかつかと歩み寄ると、紙袋に入れたメイド服を突き出した。
「これ、返します!なんでレリエルに着せたんですか!」
「わあアレス様!どうですか昨夜は盛り上がりましたか!?同棲初夜の熱いひと時を演出したシールラを褒めてくださいな!」
シールラは自分の顔を両手で包み、目を輝かせて聞いてきた。
「何一つ盛り上がってません!」
ムスッと言い切るアレスに、シールラは大きな目をますます大きく見開く。
「ええっ!?ま、まさか、何も起きなかったっていうんですか!?一晩共に過ごして!?やだアレス様、ほんとにボッキフゼン……」
「だから何考えてんですかあなたは!」
食って掛かるアレスを、レリエルが戸惑った様子でいさめる。
「なんで怒っているんだ?貸してもらったのに言い方がきついぞ」
「レリエル様、優しいですぅ!シールラもアレス様がなんで怒ってるのか全然わかんないですう!」
「ぐっ……」
アレスはこみ上げる苛立ちを懸命に抑えた。
「と、とにかく、二度とこういうのやめてください!」
アレスは紙袋をシールラに押し付けると、肩を怒らせ訓練場の中へと入って行った。
※※※
おぞましい瘴気をはなつ死霊傀儡工房の村で、職人天使達はその目に闘志をみなぎらせている。
職人天使達がいま、蔵の奥から出してきたのは、漆黒の壺に入れられた、傀儡魂の原型だった。彼らが『原液』と呼ぶもの。
赤く発光する液体だった。
「まさかこれを使う時がやってくるとはな」
職人天使の一人が緊張の面持ちで唇をなめた。別の天使がうなずく。
「遥かなる天界から持ってきた、貴重な上物だ。作るのに三年もかかる、逸品モンよ。これを使って……」
「ああ、絶対に殺してやる。アレスとレリエル、待っていろ!」
※※※
アレスはレリエルを伴ってトラエスト城に登城した。
キュディアス、ヒルデを交えた四人で早朝の小会議が行われた。そこでレリエルの立場が定まる。レリエルの所属はヒルデを長とする宮廷魔術師団だが、アレスと共に死霊傀儡討伐にあたるので、天使捜査任務を担う第四騎士団に出向という形になった。
午前十時ごろ、アレスとレリエルは第四騎士団の野外訓練場に向かった。中では既に他の騎士団員たちが訓練している。
訓練場に入るとき、石壁の門のところでシールラに出くわした。箒ではき掃除を終えて出て行こうとするところらしかった。
アレスは怒りの表情でつかつかと歩み寄ると、紙袋に入れたメイド服を突き出した。
「これ、返します!なんでレリエルに着せたんですか!」
「わあアレス様!どうですか昨夜は盛り上がりましたか!?同棲初夜の熱いひと時を演出したシールラを褒めてくださいな!」
シールラは自分の顔を両手で包み、目を輝かせて聞いてきた。
「何一つ盛り上がってません!」
ムスッと言い切るアレスに、シールラは大きな目をますます大きく見開く。
「ええっ!?ま、まさか、何も起きなかったっていうんですか!?一晩共に過ごして!?やだアレス様、ほんとにボッキフゼン……」
「だから何考えてんですかあなたは!」
食って掛かるアレスを、レリエルが戸惑った様子でいさめる。
「なんで怒っているんだ?貸してもらったのに言い方がきついぞ」
「レリエル様、優しいですぅ!シールラもアレス様がなんで怒ってるのか全然わかんないですう!」
「ぐっ……」
アレスはこみ上げる苛立ちを懸命に抑えた。
「と、とにかく、二度とこういうのやめてください!」
アレスは紙袋をシールラに押し付けると、肩を怒らせ訓練場の中へと入って行った。
※※※
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?


うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる