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第31話 大浴場(4) 神様
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プリンケを抱えた褐色美女が湯の中から出て、レリエルたちの目の前にまでやってきた。褐色美女は一度頭を下げてから、上品かつ艶やかな笑みを浮かべた。
「おくつろぎのところ、失礼いたします。私はプリンケ陛下護衛のユウエンと申します」
ユウエンの腕に抱かれたプリンケがむっとした顔をする。プリンケはユウエンの頬を人差し指でぐっと押した。
「違う、護衛ではない!ユウエンは余の恋人じゃ!」
ユウエンはほっぺをぐっと押されたまま、上品な笑みを一切崩さず、
「陛下がそちらの魔術師殿とお話をしたいと仰せられております」
シールラがささやき声で突っ込んだ。
「ユウエンさん陛下のお言葉をおもいっきり無視しましたあ~~~!」
「え……僕……」
指名されたレリエルは戸惑った顔をする。
ユウエンにしっかりと抱きかかえられたプリンケは、レリエルを興味津々といった感じで見つめてくる。
「そなた、とても奇妙なオーラを持っているのお!ニンフが紛れ込んだのかと思ったぞ。それにとても綺麗な髪じゃ。その髪は染めてるわけではないのだろう?角度によって金色にも紫にも見える、不思議な髪の毛じゃ。……そっちのピンクは、染めておるな」
シールラが両手でピンク頭を押さえて恐縮した。
「はいいいっ、おっしゃる通りです、パチモンピンクです!地毛は地味茶髪なんですうう!どうかご内密に願いますうう!」
「ははは、いやピンクは似合っておるぞ」
「きゃあ、キョウエツシゴクに存じますう!」
「なぁ……」
レリエルがプリンケを見つめながら口を開いた。
「あんたが人間たちの神なのか?」
「神とな!?」
プリンケが吹き出し、ユウエンは表情を変えず、シールラが焦りまくった。
「ももも申し訳ございません陛下っ!レリエルさんはえっと、その……ト、トラエスト語が苦手で!だから変なこと言っちゃうんですうう!プリンケ様が女神様みたいにお美しいと言ったつもりだと思いますですうううう」
「トラエスト語が苦手?外国人かのう?」
「そそ・そうです、外国人!レリエルさんは秘境国からやって来たワイルド系外国人さんで、文明度がちょっと残念なのでご無礼をどうか見逃してあげて欲しいのですっっっ!」
プリンケが興味深そうにする。
「なるほど、蛮族かの?そなたレリエルと申すのか。レリエルは信仰心が強いのか?ああ、信仰心という言葉は難しいか。神を信じておるか?」
レリエルは毅然として答えた。
「そんなの当たり前だ。僕は神様だけを信じている。僕を愛してくれるのは、神様だけだ」
「ふむ……」
プリンケは少し考えるような顔をした。おもむろに両腕を伸ばすと、小さな手でレリエルの両頬を包んだ。
レリエルはびっくりして目を見開く。
「いかにも、神は全ての人間を平等に愛してくださる。でも、神様『だけ』ということはないぞ。そなたは見た目が綺麗なだけでなく、心も善良じゃ。余にはわかる。そなたを愛する者は、いくらでもいるだろう」
レリエルがうろたえる。激しく動揺しながら、
「な、なんだよいきなり……。そっ、そんなわけ……ないじゃないか……」
プリンケは優しく微笑んだ。
「かわいそうに、そなたはきっと、とても辛い目にあってきたのだろうな」
「っ……」
レリエルの目頭がつん、と熱くなる。レリエルはくちびるをキュッと固く結びうつむいた。プリンケはそんなレリエルを慈愛に満ちた目で見守った。
「陛下、そろそろ洗い場に……」
ユウエンが声をかける。
「おお、そうだな。公務が残っていた、余は長風呂できないのだった!全く面倒くさいのお。ではなレリエル、それからピンク頭。また会おう。今度は見学じゃなく、そなたたちも入浴したらいい。一緒に風呂に入ろうぞ」
シールラは手を額にかざしてピシッと敬礼をする。
「はい陛下っ!ピンク頭、陛下にお声がけいただけて感激の極みでしたぁっ!第四騎士団専属メイド、特技はジュース作りです!以後お見知り置き下さいませええっ!」
「ははは、愉快なやつじゃ」
楽しそうに笑うプリンケを抱いて、ユウエンは去っていく。
湯船を出て洗い場に向かうプリンケとユウエンを見送りながら、シールラが両手を胸の前で絡めて興奮している。
「シールラ、陛下とお話ししたの初めてです!シールラ今日この日を絶対忘れません、日記に書いてシールラの記念日にしないとですうううう!」
レリエルは、プリンケに触られた両頬に手を当て、放心したように佇んでいた。
レリエルのそんな様子を見て、シールラがふふと笑った。
「レリエルさんも陛下に惚れちゃいましたね!すごいですよね陛下って。あの癒しパワーで、みーんな陛下にぞっこんになっちゃうんですよ!私たち帝国臣民自慢の皇帝陛下なんです!二千三百年も前からこの地を治めている、聖なる一族の末裔なんですよお!」
「ほ、惚れてなんかない。僕は別に、何も感じてない」
そう言いながらもレリエルは戸惑いを隠せず、ローブの胸のあたりを握った。
プリンケの慈愛は、かつて「天界」で一度だけ拝謁した、「神」の姿を否応無く思い出させた。
レリエルが心から崇拝し、敬愛する「神」を。
シールラがあっ、と何かを思い出して頭に手をやった。小声でブツブツつぶやく。
「そういえばシールラ、レリエルさんに新設定つけちゃいました。レリエルさん外国人設定、キュディアス様に伝えないとですね~。勝手に大浴場見学に連れ出したこと白状しないとです、怒られちゃいますかね~」
※※※
「おくつろぎのところ、失礼いたします。私はプリンケ陛下護衛のユウエンと申します」
ユウエンの腕に抱かれたプリンケがむっとした顔をする。プリンケはユウエンの頬を人差し指でぐっと押した。
「違う、護衛ではない!ユウエンは余の恋人じゃ!」
ユウエンはほっぺをぐっと押されたまま、上品な笑みを一切崩さず、
「陛下がそちらの魔術師殿とお話をしたいと仰せられております」
シールラがささやき声で突っ込んだ。
「ユウエンさん陛下のお言葉をおもいっきり無視しましたあ~~~!」
「え……僕……」
指名されたレリエルは戸惑った顔をする。
ユウエンにしっかりと抱きかかえられたプリンケは、レリエルを興味津々といった感じで見つめてくる。
「そなた、とても奇妙なオーラを持っているのお!ニンフが紛れ込んだのかと思ったぞ。それにとても綺麗な髪じゃ。その髪は染めてるわけではないのだろう?角度によって金色にも紫にも見える、不思議な髪の毛じゃ。……そっちのピンクは、染めておるな」
シールラが両手でピンク頭を押さえて恐縮した。
「はいいいっ、おっしゃる通りです、パチモンピンクです!地毛は地味茶髪なんですうう!どうかご内密に願いますうう!」
「ははは、いやピンクは似合っておるぞ」
「きゃあ、キョウエツシゴクに存じますう!」
「なぁ……」
レリエルがプリンケを見つめながら口を開いた。
「あんたが人間たちの神なのか?」
「神とな!?」
プリンケが吹き出し、ユウエンは表情を変えず、シールラが焦りまくった。
「ももも申し訳ございません陛下っ!レリエルさんはえっと、その……ト、トラエスト語が苦手で!だから変なこと言っちゃうんですうう!プリンケ様が女神様みたいにお美しいと言ったつもりだと思いますですうううう」
「トラエスト語が苦手?外国人かのう?」
「そそ・そうです、外国人!レリエルさんは秘境国からやって来たワイルド系外国人さんで、文明度がちょっと残念なのでご無礼をどうか見逃してあげて欲しいのですっっっ!」
プリンケが興味深そうにする。
「なるほど、蛮族かの?そなたレリエルと申すのか。レリエルは信仰心が強いのか?ああ、信仰心という言葉は難しいか。神を信じておるか?」
レリエルは毅然として答えた。
「そんなの当たり前だ。僕は神様だけを信じている。僕を愛してくれるのは、神様だけだ」
「ふむ……」
プリンケは少し考えるような顔をした。おもむろに両腕を伸ばすと、小さな手でレリエルの両頬を包んだ。
レリエルはびっくりして目を見開く。
「いかにも、神は全ての人間を平等に愛してくださる。でも、神様『だけ』ということはないぞ。そなたは見た目が綺麗なだけでなく、心も善良じゃ。余にはわかる。そなたを愛する者は、いくらでもいるだろう」
レリエルがうろたえる。激しく動揺しながら、
「な、なんだよいきなり……。そっ、そんなわけ……ないじゃないか……」
プリンケは優しく微笑んだ。
「かわいそうに、そなたはきっと、とても辛い目にあってきたのだろうな」
「っ……」
レリエルの目頭がつん、と熱くなる。レリエルはくちびるをキュッと固く結びうつむいた。プリンケはそんなレリエルを慈愛に満ちた目で見守った。
「陛下、そろそろ洗い場に……」
ユウエンが声をかける。
「おお、そうだな。公務が残っていた、余は長風呂できないのだった!全く面倒くさいのお。ではなレリエル、それからピンク頭。また会おう。今度は見学じゃなく、そなたたちも入浴したらいい。一緒に風呂に入ろうぞ」
シールラは手を額にかざしてピシッと敬礼をする。
「はい陛下っ!ピンク頭、陛下にお声がけいただけて感激の極みでしたぁっ!第四騎士団専属メイド、特技はジュース作りです!以後お見知り置き下さいませええっ!」
「ははは、愉快なやつじゃ」
楽しそうに笑うプリンケを抱いて、ユウエンは去っていく。
湯船を出て洗い場に向かうプリンケとユウエンを見送りながら、シールラが両手を胸の前で絡めて興奮している。
「シールラ、陛下とお話ししたの初めてです!シールラ今日この日を絶対忘れません、日記に書いてシールラの記念日にしないとですうううう!」
レリエルは、プリンケに触られた両頬に手を当て、放心したように佇んでいた。
レリエルのそんな様子を見て、シールラがふふと笑った。
「レリエルさんも陛下に惚れちゃいましたね!すごいですよね陛下って。あの癒しパワーで、みーんな陛下にぞっこんになっちゃうんですよ!私たち帝国臣民自慢の皇帝陛下なんです!二千三百年も前からこの地を治めている、聖なる一族の末裔なんですよお!」
「ほ、惚れてなんかない。僕は別に、何も感じてない」
そう言いながらもレリエルは戸惑いを隠せず、ローブの胸のあたりを握った。
プリンケの慈愛は、かつて「天界」で一度だけ拝謁した、「神」の姿を否応無く思い出させた。
レリエルが心から崇拝し、敬愛する「神」を。
シールラがあっ、と何かを思い出して頭に手をやった。小声でブツブツつぶやく。
「そういえばシールラ、レリエルさんに新設定つけちゃいました。レリエルさん外国人設定、キュディアス様に伝えないとですね~。勝手に大浴場見学に連れ出したこと白状しないとです、怒られちゃいますかね~」
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