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第27話 緊急会議(2) 地味な道具
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「の、ノックくらいしたまえ!」
ブラーディンがいきり立つ。
ヒルデはつかつかとテーブルに近づき着席しながら、
「もちろんしましたよ、皆様が白熱してらっしゃるので気付かなかったのであろう」
ジールが問いただす。
「弟子、というのはどういうことですかね?」
「名前はレリエル。遠方の知り合いの元で修業させていたのを、呼び戻した。アレスと同様、私が天使との戦い方を教えた。先日のカブリア王国調査ではアレスに同行させた。二人はそこで天使と戦闘し形勢を見て逃亡。故に死霊傀儡はアレスとレリエルの二人を追っている」
ヒルデのよどみない説明に、とりあえず皆、納得したような顔をした。
「さて魔術師として意見させていただきますが、死霊傀儡はあの二人を殺すという明確な目的のために作られた使い魔だ。使い魔の性質として、目的以外の戦闘は基本、行わない。つまり手出しをしなければ真っすぐあの二人の元に行くでしょうから、陛下にも臣民にもそれ程の危険はないでしょう」
ブラーディンは首を横に振った。
「楽観的過ぎる!」
ヒルデはその言葉にうなずいた。
「いかにも。絶対に安全とは言えません。ただ行動指針として広く周知させることで被害のリスクは減らせます。大事なのはあの二人以外は死霊傀儡に手出ししてはならない、という点です。騎士だろうととにかく逃げる、逃げの一手のみ。手出ししなけりゃ、攻撃はしてきませんから。……あの二人狙いの死霊傀儡なら」
ブラーディンはイライラと指でテーブルを叩く。
「あの二人以外を狙う死霊傀儡の場合は?例えば皇帝陛下を狙われたらどうする!」
「それこそ逃げるのみ。そしてあの二人に迅速に退治させる」
ブラーディンがちっと舌打ちをした。
「そんな地道な策しかないのか!」
ジールがふうむと思案する。
「確かに地道。しかし、急がば回れとも言いますね」
それと、とヒルデは裾から何やら取り出し、テーブルの上に置いた。
細長いピラミッド型の、水晶のようなオブジェである。
ブラーディンが眉間に皺をよせた。
「なんだねこれは。文鎮か?」
「天使感知器、とでも言いましょうか。私は天使の接近を感知する魔具の研究をしてきました。それがようやく完成した。近づくと青く発光する。幸い、死霊傀儡にも反応します。先ほどの死霊傀儡出現時も、この魔具にて追尾可能でした」
ジール宰相が嬉しそうに手と手を合わせた。
「おお、私が頼んでおいたものですね。天使が襲来した時に備えて、作って欲しいとお願いしていたものです」
「気休めかもしれませんが、人間が死霊傀儡から逃げる際の補助にはなりましょう」
ヒルデの言葉に、ブラーディンがため息をつく。
「これまた地味な道具だ、逃げるための補助道具とは」
ジールが微笑む。
「仕方ありません。天使と闘う手段のない人間には、逃げのびる以外できませんから。取り急ぎ、城中に設置し、皇族の方々には常にその天使感知器をそばに置いていただきましょう」
ヒルデがちょっと皮肉げな流し目でブラーディンを見やった。
「各騎士団の分も用意してありますが、ブラーディン殿には必要ないですかね。感度は落ちますが、携帯用のアクセサリータイプなんてのもありますが」
ブラーディンが顔を赤くして立ち上がり抗議した。
「なっ……!我々は陛下をお守りする近衛騎士団だぞ!いるに決まってるではないか」
「そうですか?ブラーディン殿にはこんな地味な道具はご不要でしょう。こんな地味な道具」
アレスは苦笑を浮かべ、キュディアスがくっくと笑いを堪え、ジールがやれやれと肩をすくめた。
「ほらほら、そんなこと言わない、ヒルデさん。あなたは時々、大人気がない」
キュディアスが笑い声を立てるのを懸命に我慢しながら、
「時々じゃねえだろお……」
ヒルデは口をへの字にしてそっぽを向いた。ブラーディンは憎々しげに拳を握りしめながら着席した。
ジールはポンと手を打ち、
「ではまあ、他に策もないようですし、ヒルデさんの急がば回れ案を採用いたしましょう。死霊傀儡の出没情報を迅速に収集し、出没したらすぐにアレス君を討伐に向かわせる。地道に着実に確実に、対処していきましょう!じゃあこれにてこの会議は終了といたします」
と言ったあとで、付け加えた。
「……でも、キュディアスさんとヒルデさんとアレス君は、残って下さいね。私ともう少し深いお話をしましょう」
にこりと笑ってキュディアスを見るが、目が笑っていない。どうやら先ほどの「一緒に戦っていた魔術師はヒルデの弟子」、という説明をまったく信じていないようだった。
キュディアスが「はいはい」と肩をすくめる。気まずそうにジールに送る目線は「分かったよ、ちゃんと白状するから」と語っているようだった。
ブラーディンがいきり立つ。
ヒルデはつかつかとテーブルに近づき着席しながら、
「もちろんしましたよ、皆様が白熱してらっしゃるので気付かなかったのであろう」
ジールが問いただす。
「弟子、というのはどういうことですかね?」
「名前はレリエル。遠方の知り合いの元で修業させていたのを、呼び戻した。アレスと同様、私が天使との戦い方を教えた。先日のカブリア王国調査ではアレスに同行させた。二人はそこで天使と戦闘し形勢を見て逃亡。故に死霊傀儡はアレスとレリエルの二人を追っている」
ヒルデのよどみない説明に、とりあえず皆、納得したような顔をした。
「さて魔術師として意見させていただきますが、死霊傀儡はあの二人を殺すという明確な目的のために作られた使い魔だ。使い魔の性質として、目的以外の戦闘は基本、行わない。つまり手出しをしなければ真っすぐあの二人の元に行くでしょうから、陛下にも臣民にもそれ程の危険はないでしょう」
ブラーディンは首を横に振った。
「楽観的過ぎる!」
ヒルデはその言葉にうなずいた。
「いかにも。絶対に安全とは言えません。ただ行動指針として広く周知させることで被害のリスクは減らせます。大事なのはあの二人以外は死霊傀儡に手出ししてはならない、という点です。騎士だろうととにかく逃げる、逃げの一手のみ。手出ししなけりゃ、攻撃はしてきませんから。……あの二人狙いの死霊傀儡なら」
ブラーディンはイライラと指でテーブルを叩く。
「あの二人以外を狙う死霊傀儡の場合は?例えば皇帝陛下を狙われたらどうする!」
「それこそ逃げるのみ。そしてあの二人に迅速に退治させる」
ブラーディンがちっと舌打ちをした。
「そんな地道な策しかないのか!」
ジールがふうむと思案する。
「確かに地道。しかし、急がば回れとも言いますね」
それと、とヒルデは裾から何やら取り出し、テーブルの上に置いた。
細長いピラミッド型の、水晶のようなオブジェである。
ブラーディンが眉間に皺をよせた。
「なんだねこれは。文鎮か?」
「天使感知器、とでも言いましょうか。私は天使の接近を感知する魔具の研究をしてきました。それがようやく完成した。近づくと青く発光する。幸い、死霊傀儡にも反応します。先ほどの死霊傀儡出現時も、この魔具にて追尾可能でした」
ジール宰相が嬉しそうに手と手を合わせた。
「おお、私が頼んでおいたものですね。天使が襲来した時に備えて、作って欲しいとお願いしていたものです」
「気休めかもしれませんが、人間が死霊傀儡から逃げる際の補助にはなりましょう」
ヒルデの言葉に、ブラーディンがため息をつく。
「これまた地味な道具だ、逃げるための補助道具とは」
ジールが微笑む。
「仕方ありません。天使と闘う手段のない人間には、逃げのびる以外できませんから。取り急ぎ、城中に設置し、皇族の方々には常にその天使感知器をそばに置いていただきましょう」
ヒルデがちょっと皮肉げな流し目でブラーディンを見やった。
「各騎士団の分も用意してありますが、ブラーディン殿には必要ないですかね。感度は落ちますが、携帯用のアクセサリータイプなんてのもありますが」
ブラーディンが顔を赤くして立ち上がり抗議した。
「なっ……!我々は陛下をお守りする近衛騎士団だぞ!いるに決まってるではないか」
「そうですか?ブラーディン殿にはこんな地味な道具はご不要でしょう。こんな地味な道具」
アレスは苦笑を浮かべ、キュディアスがくっくと笑いを堪え、ジールがやれやれと肩をすくめた。
「ほらほら、そんなこと言わない、ヒルデさん。あなたは時々、大人気がない」
キュディアスが笑い声を立てるのを懸命に我慢しながら、
「時々じゃねえだろお……」
ヒルデは口をへの字にしてそっぽを向いた。ブラーディンは憎々しげに拳を握りしめながら着席した。
ジールはポンと手を打ち、
「ではまあ、他に策もないようですし、ヒルデさんの急がば回れ案を採用いたしましょう。死霊傀儡の出没情報を迅速に収集し、出没したらすぐにアレス君を討伐に向かわせる。地道に着実に確実に、対処していきましょう!じゃあこれにてこの会議は終了といたします」
と言ったあとで、付け加えた。
「……でも、キュディアスさんとヒルデさんとアレス君は、残って下さいね。私ともう少し深いお話をしましょう」
にこりと笑ってキュディアスを見るが、目が笑っていない。どうやら先ほどの「一緒に戦っていた魔術師はヒルデの弟子」、という説明をまったく信じていないようだった。
キュディアスが「はいはい」と肩をすくめる。気まずそうにジールに送る目線は「分かったよ、ちゃんと白状するから」と語っているようだった。
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