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第13話 小さい羽の天使(3) 鬼畜上官
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レリエルの顔が安堵したようにほころぶ。
「イヴァルト様!助けに来て下さったのですね!」
「助ける?お前を?なんのために?」
そう言って、イヴァルトは冷酷そのものの目つきでレリエルを見下ろした。右手をレリエルにかざす。
「え……?」
レリエルの瞳に不安の影が差す。次の瞬間、レリエルの体がびくんとのけぞった。
「つっ……ぁあっ!」
「なにっ!?」
まさかのことにアレスは目を見張った。
イヴァルトがレリエルの魂構成子を一つ破壊したのである。
イヴァルトは侮蔑の眼差しでレリエルを見下ろしながら冷たく言い放つ。
「人間ごときに敗北した、無能なお前を助けてなんの意味がある?醜い出来損ない、矮小羽のレリエルよ」
レリエルは青ざめ、息を呑んだ。
「み、醜い出来損ない!?」
「羽こそ天使の誇り、我ら天使が神に祝福されし高次生命体たる証。神はお前にそのようなおぞましい羽しか与えなかった」
言いながらイヴァルトはまた手をかざし、冷淡に告げた。
「……あと三つ」
レリエルに向けて思念波が放たれる。
「くぅっ!あああぁっ!」
またレリエルの体が跳ねる。仲間であるはずの天使に魂構成子を連続で破壊されたレリエルはその場にへたりこんだ。イヴァルトが薄ら笑う。
「痛いか?そう、魂構成子は残り少なくなればなるほど、破壊された時の痛みも増す。あと二つ!」
レリエルは苦しげに涙を流しながら、イヴァルトを見上げた。
「イヴァルト様、なぜ……ですか……」
「矮小羽のレリエル。お前は生まれながらに神に見放されし者だ。人間でもなく天使でもない、何者でもない醜き者よ。せめて相応の働きがあればと思って大目に見てきたが、貴様への嫌悪に耐え忍んで来た見返りが、この体たらくか?」
レリエルは悲しそうに唇をかみ締めた。
「そんな風に思ってらした……。僕は、イヴァルト様のこと……」
イヴァルトは目をむくと、レリエルの首を片手でつかみ、持ち上げた。霊体化防御は既に解除されていた。レリエルは苦しがって宙で足をばたつかせた。
「うっ……!くっ……」
「私のことがなんだというのだ、おぞましい奇形の矮小羽よ!貴様は聖なる天界開闢の邪魔だ!醜い役立たずは死ね!」
成り行きを見守っていたアレスの不快感が臨界点に達した。
気づけば、両手で持つ程の大きさの石を、イヴァルトの後頭部めがけてぶん投げていた。
ゴンッ、と鈍い音を立てて直撃する。
「っ……!」
顔を歪めたイヴァルトは手を緩め、レリエルの体は地面に放り出された。
イヴァルトは後頭部を触り、そこに流れる血を確認した。自らの血に濡れた手をぐっと握りしめ、憤怒の形相でアレスに振り向く。
アレスは腕を組み、眉間に縦皺をくっきり刻ませ不機嫌に呟いた。
「頑丈だな天使ってのは。その大きさの石をぶつけたんだぞ、普通は死ぬか気絶だろ?」
倒れたレリエルが目を丸くしてアレスを見つめた。
「僕を助けた……?なぜ……」
「に、人間……!貴様あああっ!人間の分際でこの私によくもっ!」
イヴァルトの怒声に、アレスは心底からの軽蔑で返した。
「俺の名前は人間じゃねえ、アレスだ!あまりの鬼畜上官っぷりに、ついな!下種過ぎて気っ色わりいんだよ、イヴァルトさんよ!!」
「ゴミめ!いいだろう、貴様から殺してやる!!」
イヴァルトが手のひらを突き出した。
「死ね!!」
どん、という衝撃を腹の底に感じた。また魂攻撃である。だが損傷はしたが、魂構成子の破壊は免れた。
「はっ、そこのレリエルって奴の攻撃のほうが強かったぜ、それでも上官か?」
言いながらアレスは後ろ手に熱を集め、イヴァルトから見えないように火の玉を形成した。
「な……?し、死なないだと……!馬鹿な、私の攻撃でも死なないなんて!」
イヴァルトが驚愕に目を見開いた。
その隙を狙っていたアレスは両手を掲げた。手の中の小さな火の玉が一気に大きく膨らんだ。不意をつかれたイヴァルトが焦る。
「しまった!エ、霊体化……」
「遅い!!くらえ、特大火炎玉!」
イヴァルトに向かって放り投げる。巨大な火の玉がイヴァルトを襲う。
「ぐわああああっ」
イヴァルトは頭の上で腕をクロスさせ、炎から身を守った。が、それを消すことは出来ない。
アレスは火炎の向こうのイヴァルトを凝視し、見いだした。イヴァルトの魂を。
「火が消えないうちに……玉ぁ、取らせてもらうぜっ!破魂、乱れ撃だっっ!!」
間髪入れぬ、連続攻撃。
「うっ……!!かはっ……!」
燃え盛る特大火炎玉から身を守ることに手一杯のイヴァルトは、魂構成子を次々破壊され、吐きそうな顔で苦悶している。
「さらに、大破魂!!」
直径一メートルの透き通る球体がイヴァルトの魂を焼く。
「ぐあああああっっ」
イヴァルトの、即死条件の十の魂構成子のうち、七つの魂構成子を破壊した。
「す……すごい……」
アレスの圧倒的な強さに、レリエルが唖然としている。
特大火炎玉の炎がようやく消えた。イヴァルトが腕を降ろした。その腕は指先から二の腕まで赤く焼け爛れていた。
イヴァルトは己の両腕をまじまじと見つめた。その双眸が憎悪に染まり、ほとんど狂人のように光り、アレスを射抜いた。
「私の……私の……体に、やけっ……火傷を……!貴様あああああああああ!!!」
アレスが三本の指を立てた。
「あと三つ。てめえの魂構成子はあと三つだ」
「貴様を殺すに充分な数だ!」
イヴァルトが焼け爛れた両腕を高くあげた。そのまま目を瞑り、呪を唱え始めた。アレスの耳では解読できない、異言語だ。
イヴァルトの全身が青白い光りを放ち始めた。
不穏な予感がした。アレスは舌打ちをする。
「ちっ……なんのおまじないだ?」
レリエルが蒼白となり震え声を上げた。
「こ……この技は……魂自壊……!!自らの魂構成子一つを再生不能レベルに完全崩壊させることで莫大なエネルギーを生み出す……!」
呪の詠唱が終わった。青い光は強さを増し、あたかもイヴァルト自身が一つの星であるかのごとき輝きを放っていた。
イヴァルトはにたりと口角を上げた。
レリエルは枯れた声を張り上げた。
「おやめ下さいイヴァルト様!半径数キロ範囲にあるもの全てが灰燼となります!こんな近くでやれば神域内にも被害が出ます!それに、あなたの魂構成子一つが永久に失われるんですよ!」
「ふっ、醜い異常体め、まだ生きていたのか……?人間もろとも消え去るがいい!!」
「く……このままでは……!」
レリエルが風のような早さでアレスの脇に来て腕をとった。アレスは狼狽する。
「な、なんだ?」
「逃げるんだよ!」
「なにっ……」
レリエルはアレスの腕をしっかりとつかむと、叫んだ。
「光速移動!!」
真っ白な閃光が走り、レリエルとアレスの姿がその場から消失した。
いきり立ったのはイヴァルトである。
「まさかっ!」
魂自壊の術をやめ、その腕を降ろした。青白い光が消える。
一人残されたイヴァルトは、悔しさに奥歯を噛み締めた。
「おのれレリエル!人間に寝返ったか!!逃げ切れると思うなああああ!!」
※※※
「イヴァルト様!助けに来て下さったのですね!」
「助ける?お前を?なんのために?」
そう言って、イヴァルトは冷酷そのものの目つきでレリエルを見下ろした。右手をレリエルにかざす。
「え……?」
レリエルの瞳に不安の影が差す。次の瞬間、レリエルの体がびくんとのけぞった。
「つっ……ぁあっ!」
「なにっ!?」
まさかのことにアレスは目を見張った。
イヴァルトがレリエルの魂構成子を一つ破壊したのである。
イヴァルトは侮蔑の眼差しでレリエルを見下ろしながら冷たく言い放つ。
「人間ごときに敗北した、無能なお前を助けてなんの意味がある?醜い出来損ない、矮小羽のレリエルよ」
レリエルは青ざめ、息を呑んだ。
「み、醜い出来損ない!?」
「羽こそ天使の誇り、我ら天使が神に祝福されし高次生命体たる証。神はお前にそのようなおぞましい羽しか与えなかった」
言いながらイヴァルトはまた手をかざし、冷淡に告げた。
「……あと三つ」
レリエルに向けて思念波が放たれる。
「くぅっ!あああぁっ!」
またレリエルの体が跳ねる。仲間であるはずの天使に魂構成子を連続で破壊されたレリエルはその場にへたりこんだ。イヴァルトが薄ら笑う。
「痛いか?そう、魂構成子は残り少なくなればなるほど、破壊された時の痛みも増す。あと二つ!」
レリエルは苦しげに涙を流しながら、イヴァルトを見上げた。
「イヴァルト様、なぜ……ですか……」
「矮小羽のレリエル。お前は生まれながらに神に見放されし者だ。人間でもなく天使でもない、何者でもない醜き者よ。せめて相応の働きがあればと思って大目に見てきたが、貴様への嫌悪に耐え忍んで来た見返りが、この体たらくか?」
レリエルは悲しそうに唇をかみ締めた。
「そんな風に思ってらした……。僕は、イヴァルト様のこと……」
イヴァルトは目をむくと、レリエルの首を片手でつかみ、持ち上げた。霊体化防御は既に解除されていた。レリエルは苦しがって宙で足をばたつかせた。
「うっ……!くっ……」
「私のことがなんだというのだ、おぞましい奇形の矮小羽よ!貴様は聖なる天界開闢の邪魔だ!醜い役立たずは死ね!」
成り行きを見守っていたアレスの不快感が臨界点に達した。
気づけば、両手で持つ程の大きさの石を、イヴァルトの後頭部めがけてぶん投げていた。
ゴンッ、と鈍い音を立てて直撃する。
「っ……!」
顔を歪めたイヴァルトは手を緩め、レリエルの体は地面に放り出された。
イヴァルトは後頭部を触り、そこに流れる血を確認した。自らの血に濡れた手をぐっと握りしめ、憤怒の形相でアレスに振り向く。
アレスは腕を組み、眉間に縦皺をくっきり刻ませ不機嫌に呟いた。
「頑丈だな天使ってのは。その大きさの石をぶつけたんだぞ、普通は死ぬか気絶だろ?」
倒れたレリエルが目を丸くしてアレスを見つめた。
「僕を助けた……?なぜ……」
「に、人間……!貴様あああっ!人間の分際でこの私によくもっ!」
イヴァルトの怒声に、アレスは心底からの軽蔑で返した。
「俺の名前は人間じゃねえ、アレスだ!あまりの鬼畜上官っぷりに、ついな!下種過ぎて気っ色わりいんだよ、イヴァルトさんよ!!」
「ゴミめ!いいだろう、貴様から殺してやる!!」
イヴァルトが手のひらを突き出した。
「死ね!!」
どん、という衝撃を腹の底に感じた。また魂攻撃である。だが損傷はしたが、魂構成子の破壊は免れた。
「はっ、そこのレリエルって奴の攻撃のほうが強かったぜ、それでも上官か?」
言いながらアレスは後ろ手に熱を集め、イヴァルトから見えないように火の玉を形成した。
「な……?し、死なないだと……!馬鹿な、私の攻撃でも死なないなんて!」
イヴァルトが驚愕に目を見開いた。
その隙を狙っていたアレスは両手を掲げた。手の中の小さな火の玉が一気に大きく膨らんだ。不意をつかれたイヴァルトが焦る。
「しまった!エ、霊体化……」
「遅い!!くらえ、特大火炎玉!」
イヴァルトに向かって放り投げる。巨大な火の玉がイヴァルトを襲う。
「ぐわああああっ」
イヴァルトは頭の上で腕をクロスさせ、炎から身を守った。が、それを消すことは出来ない。
アレスは火炎の向こうのイヴァルトを凝視し、見いだした。イヴァルトの魂を。
「火が消えないうちに……玉ぁ、取らせてもらうぜっ!破魂、乱れ撃だっっ!!」
間髪入れぬ、連続攻撃。
「うっ……!!かはっ……!」
燃え盛る特大火炎玉から身を守ることに手一杯のイヴァルトは、魂構成子を次々破壊され、吐きそうな顔で苦悶している。
「さらに、大破魂!!」
直径一メートルの透き通る球体がイヴァルトの魂を焼く。
「ぐあああああっっ」
イヴァルトの、即死条件の十の魂構成子のうち、七つの魂構成子を破壊した。
「す……すごい……」
アレスの圧倒的な強さに、レリエルが唖然としている。
特大火炎玉の炎がようやく消えた。イヴァルトが腕を降ろした。その腕は指先から二の腕まで赤く焼け爛れていた。
イヴァルトは己の両腕をまじまじと見つめた。その双眸が憎悪に染まり、ほとんど狂人のように光り、アレスを射抜いた。
「私の……私の……体に、やけっ……火傷を……!貴様あああああああああ!!!」
アレスが三本の指を立てた。
「あと三つ。てめえの魂構成子はあと三つだ」
「貴様を殺すに充分な数だ!」
イヴァルトが焼け爛れた両腕を高くあげた。そのまま目を瞑り、呪を唱え始めた。アレスの耳では解読できない、異言語だ。
イヴァルトの全身が青白い光りを放ち始めた。
不穏な予感がした。アレスは舌打ちをする。
「ちっ……なんのおまじないだ?」
レリエルが蒼白となり震え声を上げた。
「こ……この技は……魂自壊……!!自らの魂構成子一つを再生不能レベルに完全崩壊させることで莫大なエネルギーを生み出す……!」
呪の詠唱が終わった。青い光は強さを増し、あたかもイヴァルト自身が一つの星であるかのごとき輝きを放っていた。
イヴァルトはにたりと口角を上げた。
レリエルは枯れた声を張り上げた。
「おやめ下さいイヴァルト様!半径数キロ範囲にあるもの全てが灰燼となります!こんな近くでやれば神域内にも被害が出ます!それに、あなたの魂構成子一つが永久に失われるんですよ!」
「ふっ、醜い異常体め、まだ生きていたのか……?人間もろとも消え去るがいい!!」
「く……このままでは……!」
レリエルが風のような早さでアレスの脇に来て腕をとった。アレスは狼狽する。
「な、なんだ?」
「逃げるんだよ!」
「なにっ……」
レリエルはアレスの腕をしっかりとつかむと、叫んだ。
「光速移動!!」
真っ白な閃光が走り、レリエルとアレスの姿がその場から消失した。
いきり立ったのはイヴァルトである。
「まさかっ!」
魂自壊の術をやめ、その腕を降ろした。青白い光が消える。
一人残されたイヴァルトは、悔しさに奥歯を噛み締めた。
「おのれレリエル!人間に寝返ったか!!逃げ切れると思うなああああ!!」
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