7 / 141
第7話 地獄の六日間(5) 難民
しおりを挟む
天使の襲来から六日目に発生した「死の霧」により、王国は完全に外部と遮断された。
死の霧を通過する者は全て、骨と成る。入る者も出る者も。
通り抜けようとすれば瞬時に白骨化する術。これほどの破壊力を持つ魔術を、人類はまだ知らなかった。
もはや誰も王国に入ることはできず、誰も王国から出てくることは叶わなかった。
カブリア王国は天使により完全制圧されたのである。
だが幸いなことに、と言っては語弊があるが、天使たちはこれ以降、沈黙した。
まるで欲しかったのはカブリア王国だけとでも言わんばかりに、彼らは赤い霧のドームの中から出てこなかった。
死の霧の発生以前に脱出できた王国の民は、難民として各地に散らばった。
トラエスト帝国の帝都キリアに移住する民が一番多かった。新たな仕事を見つけるに最適で豊かな大都市。なによりキリアは広大な帝国の西端に位置し、帝国の西側にあったカブリア王国と近かった。
無事に国外脱出を果たせたカブリア王家も、帝都に居を構えることになった。現カブリア王は、王妃がトラエスト皇帝の遠縁にあたる。
アレスもまた帝都に入った。
帝国政府は、カブリア王国聖騎士団一のつわものと噂されるアレスを放ってはおかなかった。
剣と魔術の両方を自在に操る聖騎士。
それになる資格を持つ者は一握りであり、騎士団を形成できるほど多く集まるのは、カブリア王国だけだった。カブリアの民は生来、おしなべて魔力が高かった。
しかもアレスは、天使の攻撃を受けても死なず、「死の霧」を脱出できた、たった一人の人間だった。
トラエスト帝国の時の宰相ジールは、アレスに帝国騎士団に入るように強く勧めた。
だがアレスは丁重に断った。
自分はあくまでカブリア王国の騎士でありますから、と。
そんなアレスに、帝国の重臣たちは呆れきっているらしかった。
王国の奪還と再建など不可能、どうやって天使に勝つのか?あの死の霧をどうやって晴らすのか?
できるわけがない。誰もがそう思っていた。
肝心要のカブリア王自身が、高齢であることも手伝い、この悲劇に意気消沈しふさぎこみ、とても臣下たちを鼓舞するどころではなかったのである。
だがアレスは諦めてはいなかった。
何故なら自分は生き残ったからである。
天使の攻撃を受けても死なず、あの死の霧を通り抜けたからである。
なぜ自分だけ、他の人間にはないそんな力があるのか。
「神命だ」
アレスはよく、一人寝床で暗い天井を見つめ、そうひとりごちた。
自分は、天使を討てという神からの使命を帯びている。だからこのような力がある。そうとしか思えなかった。
「絶対に許さねえ。俺が天使どもに、罰を下す……!」
死の霧を通過する者は全て、骨と成る。入る者も出る者も。
通り抜けようとすれば瞬時に白骨化する術。これほどの破壊力を持つ魔術を、人類はまだ知らなかった。
もはや誰も王国に入ることはできず、誰も王国から出てくることは叶わなかった。
カブリア王国は天使により完全制圧されたのである。
だが幸いなことに、と言っては語弊があるが、天使たちはこれ以降、沈黙した。
まるで欲しかったのはカブリア王国だけとでも言わんばかりに、彼らは赤い霧のドームの中から出てこなかった。
死の霧の発生以前に脱出できた王国の民は、難民として各地に散らばった。
トラエスト帝国の帝都キリアに移住する民が一番多かった。新たな仕事を見つけるに最適で豊かな大都市。なによりキリアは広大な帝国の西端に位置し、帝国の西側にあったカブリア王国と近かった。
無事に国外脱出を果たせたカブリア王家も、帝都に居を構えることになった。現カブリア王は、王妃がトラエスト皇帝の遠縁にあたる。
アレスもまた帝都に入った。
帝国政府は、カブリア王国聖騎士団一のつわものと噂されるアレスを放ってはおかなかった。
剣と魔術の両方を自在に操る聖騎士。
それになる資格を持つ者は一握りであり、騎士団を形成できるほど多く集まるのは、カブリア王国だけだった。カブリアの民は生来、おしなべて魔力が高かった。
しかもアレスは、天使の攻撃を受けても死なず、「死の霧」を脱出できた、たった一人の人間だった。
トラエスト帝国の時の宰相ジールは、アレスに帝国騎士団に入るように強く勧めた。
だがアレスは丁重に断った。
自分はあくまでカブリア王国の騎士でありますから、と。
そんなアレスに、帝国の重臣たちは呆れきっているらしかった。
王国の奪還と再建など不可能、どうやって天使に勝つのか?あの死の霧をどうやって晴らすのか?
できるわけがない。誰もがそう思っていた。
肝心要のカブリア王自身が、高齢であることも手伝い、この悲劇に意気消沈しふさぎこみ、とても臣下たちを鼓舞するどころではなかったのである。
だがアレスは諦めてはいなかった。
何故なら自分は生き残ったからである。
天使の攻撃を受けても死なず、あの死の霧を通り抜けたからである。
なぜ自分だけ、他の人間にはないそんな力があるのか。
「神命だ」
アレスはよく、一人寝床で暗い天井を見つめ、そうひとりごちた。
自分は、天使を討てという神からの使命を帯びている。だからこのような力がある。そうとしか思えなかった。
「絶対に許さねえ。俺が天使どもに、罰を下す……!」
0
お気に入りに追加
141
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。


代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】
まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる