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第71話 革命 (5)

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 王宮騎士団と、王宮前に集った反乱の暴徒民。
 その決戦は、ものの数時間で決着がついた。兵の数では三分の一に過ぎないリチェル・アルキバ軍側の、圧倒的勝利に終わった。

 主戦力として戦った剣闘士たちは、誰もが似たような感想をもらした。
「騎士団は拍子抜けするほど弱かった」と。

 常に死と隣り合わせの極限の状態で鍛錬に鍛錬を重ねた剣闘士達。
 彼らは既に地上最強の戦士であり、剣闘士が一丸となった時、騎士団すらもはや敵ではなかったのだ。

 最終決戦の場は玉座の間だった。オッドとミランダスは敗北を悟り、扉を蹴破られた時点で既に自刃して事切れていた。

 玉座に座る狂人の形相のジルソンと、リチェルは対峙する。
 ジルソンが従えるは近衛騎士、リチェルが従えるは剣闘士。

「殺せええええっ!」

 ジルソンの狂った叫び声と共に、騎士と剣闘士が激突する。

 睨み合うジルソン、リチェル両者の間で、最後の戦闘が行われた。

 罵声と、剣の打ち合う音と、血の匂いが嵐のように吹き荒れた。嵐の中心で最も果敢に戦っていたのは無論、アルキバである。

 やがて嵐が凪ぐ。

 騎士達を斬り伏せた剣闘士達が、リチェルのために道を開けた。
 玉座の間の端ではジルソンに与した臣下たちが、慄きながらひれ伏していた。

 呻き声をあげる裏切りの近衛騎士達の体を乗り越え、その返り血で染まる玉座の間を、リチェルは歩む。

 最後の一人となったジルソンは、爛々と異様な眼光を放ちリチェルに叫ぶ。

「奴隷たちに担ぎ上げられて、それでお前は何者になるつもりだ?奴隷の王か?お似合いだな、大方その淫乱な体を奴隷たちに開きでもしたのだろう!」

 リチェルは静かに、憐れみすらにじませてジルソンを見返す。

「奴隷?もうこの国から奴隷はいなくなります。あなたこそ一体、何者だったのですか?赤い瞳の兄上」

 ジルソンは絶句した。
 その瞳に去来したのは、紛れもなく「羞恥」であった。

 王家簒奪の駒として生まれた、不義の子。赤い眼と茶色い髪を染め上げ、偽物の王族となった偽りの人生。
 恥そのものの人生を、本物の王子に見透かされた。

 ——自分は果たして、何者であったのか。

 ジルソンが手負いの獣のように咆哮し、剣を振り上げた瞬間。

 アルキバの刃が、その首を切り落とした。

 リチェルは臆することなくその首を拾い、玉座の前に立ち掲げた。
 高らかに勝利を宣言する。

「逆賊は討ち取った!ダーリアン三世陛下の無念を晴らし、ナバハイルを偽王から取り戻した!今この時よりこの国は、ナバハイルの真の王、アルキバの統べる国となる!」

 猛々しく戦った剣闘士達は城を揺るがすような歓声を上げ、アルキバは「おいおい」と苦笑しながら、リチェルを見やる。

 血に汚れたリチェルはしかし、つきものが落ちたように神々しく、美しかった。

◇  ◇  ◇

 後の世でこの戦闘は、叙事詩「二人の王」の最初の一幕として描かれる。
 ナバハイル黄金時代の幕開けとなった、二人の王の英雄譚の始まりとして。

 「知の王」リチェルは、奴隷を解放し選挙王制への道を開き、善政によってナバハイルを現世の桃源郷と呼ばれるほど豊かな国に導いた。
 「武の王」アルキバは、元剣闘士を中心とした世界最強の軍勢を率い、メギオン王国その他の敵国を次々打ち破り、史上最大の版図を築いた。

 彼らは後の世の多くの芸術家たちに好んで題材とされた。
 「戴冠式、二人の王」は一番有名なモチーフだ。頭に冠をいただく金髪碧眼の王が、かしずく褐色の美丈夫にもう一つの冠を授ける構図で、多くの絵画や彫刻が制作された。

 リチェルとアルキバの物語は、史上最も民に愛された王として、末永く語り継がれていくことになる。

◇  ◇  ◇


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Q.おしまい?

A.まだです!まだ「本番」が残ってます!
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