上 下
71 / 75

第71話 革命 (5)

しおりを挟む
 王宮騎士団と、王宮前に集った反乱の暴徒民。
 その決戦は、ものの数時間で決着がついた。兵の数では三分の一に過ぎないリチェル・アルキバ軍側の、圧倒的勝利に終わった。

 主戦力として戦った剣闘士たちは、誰もが似たような感想をもらした。
「騎士団は拍子抜けするほど弱かった」と。

 常に死と隣り合わせの極限の状態で鍛錬に鍛錬を重ねた剣闘士達。
 彼らは既に地上最強の戦士であり、剣闘士が一丸となった時、騎士団すらもはや敵ではなかったのだ。

 最終決戦の場は玉座の間だった。オッドとミランダスは敗北を悟り、扉を蹴破られた時点で既に自刃して事切れていた。

 玉座に座る狂人の形相のジルソンと、リチェルは対峙する。
 ジルソンが従えるは近衛騎士、リチェルが従えるは剣闘士。

「殺せええええっ!」

 ジルソンの狂った叫び声と共に、騎士と剣闘士が激突する。

 睨み合うジルソン、リチェル両者の間で、最後の戦闘が行われた。

 罵声と、剣の打ち合う音と、血の匂いが嵐のように吹き荒れた。嵐の中心で最も果敢に戦っていたのは無論、アルキバである。

 やがて嵐が凪ぐ。

 騎士達を斬り伏せた剣闘士達が、リチェルのために道を開けた。
 玉座の間の端ではジルソンに与した臣下たちが、慄きながらひれ伏していた。

 呻き声をあげる裏切りの近衛騎士達の体を乗り越え、その返り血で染まる玉座の間を、リチェルは歩む。

 最後の一人となったジルソンは、爛々と異様な眼光を放ちリチェルに叫ぶ。

「奴隷たちに担ぎ上げられて、それでお前は何者になるつもりだ?奴隷の王か?お似合いだな、大方その淫乱な体を奴隷たちに開きでもしたのだろう!」

 リチェルは静かに、憐れみすらにじませてジルソンを見返す。

「奴隷?もうこの国から奴隷はいなくなります。あなたこそ一体、何者だったのですか?赤い瞳の兄上」

 ジルソンは絶句した。
 その瞳に去来したのは、紛れもなく「羞恥」であった。

 王家簒奪の駒として生まれた、不義の子。赤い眼と茶色い髪を染め上げ、偽物の王族となった偽りの人生。
 恥そのものの人生を、本物の王子に見透かされた。

 ——自分は果たして、何者であったのか。

 ジルソンが手負いの獣のように咆哮し、剣を振り上げた瞬間。

 アルキバの刃が、その首を切り落とした。

 リチェルは臆することなくその首を拾い、玉座の前に立ち掲げた。
 高らかに勝利を宣言する。

「逆賊は討ち取った!ダーリアン三世陛下の無念を晴らし、ナバハイルを偽王から取り戻した!今この時よりこの国は、ナバハイルの真の王、アルキバの統べる国となる!」

 猛々しく戦った剣闘士達は城を揺るがすような歓声を上げ、アルキバは「おいおい」と苦笑しながら、リチェルを見やる。

 血に汚れたリチェルはしかし、つきものが落ちたように神々しく、美しかった。

◇  ◇  ◇

 後の世でこの戦闘は、叙事詩「二人の王」の最初の一幕として描かれる。
 ナバハイル黄金時代の幕開けとなった、二人の王の英雄譚の始まりとして。

 「知の王」リチェルは、奴隷を解放し選挙王制への道を開き、善政によってナバハイルを現世の桃源郷と呼ばれるほど豊かな国に導いた。
 「武の王」アルキバは、元剣闘士を中心とした世界最強の軍勢を率い、メギオン王国その他の敵国を次々打ち破り、史上最大の版図を築いた。

 彼らは後の世の多くの芸術家たちに好んで題材とされた。
 「戴冠式、二人の王」は一番有名なモチーフだ。頭に冠をいただく金髪碧眼の王が、かしずく褐色の美丈夫にもう一つの冠を授ける構図で、多くの絵画や彫刻が制作された。

 リチェルとアルキバの物語は、史上最も民に愛された王として、末永く語り継がれていくことになる。

◇  ◇  ◇


----------------------------------------------
Q.おしまい?

A.まだです!まだ「本番」が残ってます!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

【完結】世界で一番嫌いな男と無理やり結婚させられました

華抹茶
BL
『神に愛された国』といわれるミスティエ王国。この国は魔術技術がこの世界で一番栄えていて、魔術師たち個々の能力も非常に高い。だがその中でもシルヴィック家とイスエンド家は別格で、この国の双璧と言われるほどの力量を持っていた。 だがこの二家はとにかく犬猿の仲で白魔術師団副団長ジョシュア・シルヴィックと、黒魔術師団副団長ヴァージル・イスエンドも例外なくとにかく仲が悪かった。 それがこの国の魔術師団全体に伝播し雰囲気は最悪だった。お陰で魔獣討伐でもミスが目立ち、それを他国に知られてしまいこの国は狙われることになる。 そんな時、ミスティエ王国の国王はとんでもない王命を発令した。 「ジョシュア・シルヴィックとヴァージル・イスエンドの婚姻を命ずる」 「は……? はぁぁぁぁ!? な、なんでこんな奴と結婚しなきゃいけないんだ!」 「なっ……! 僕だって嫌に決まってるだろう! お前みたいないけ好かない奴と結婚なんて死んだ方がマシだ!」 犬猿の仲である二人が結婚させられたことにより、その関係性は大きく変わっていく―― ●全14話です。 ●R18には※付けてます。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
BL
 俺、春翔は至って平凡な男子高校生だ。  だというのに、ある日トラックにつっこむ女子高生を助けたら……異世界に転移してしまった!  しかも俺が『聖女』って、どんな冗談?  第一王子、カイン。宮廷魔法師、アルベール。騎士団長、アーサー。  その他にも個性的な仲間に囲まれつつ、俺は聖女として、魔王にかけられた呪いを解く仕事を始めるのだった。  ……いややっぱおかしくない? なんか色々おかしくない?  笑ってないで助けろ、そこの世話係!! ※作中にBL描写はありますが、主人公が通してヘテロ、最後まで誰とも結ばれないため、「ニアBL」としています。 ※全体コメディタッチ~部分的シリアス。ほぼ各話3000文字以内となるよう心掛けています。

断捨離オメガは運命に拾われる

大島Q太
BL
番になる約束をした夫が浮気した。何もかも捨てて一人で生きる決意をして家を出た直哉が運命に出会い結婚するまでの話。《完結しました 後日談を追加しています。オメガバースの設定を独自の解釈を織り交ぜて書いています。R18の話にはタイトルに※を付けています》

恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか
BL
仕事をクビになった。住んでいるところも追い出された。そしたら恋人に捨てられた。最後のお給料も全部奪われた。「役立たず」と蹴られて。 好きって言ってくれたのに。かわいいって言ってくれたのに。やっぱり、僕は駄目な子なんだ。 行き場をなくした僕を見つけてくれたのは、優しい騎士様だった。 強面騎士×不憫美青年

消えない幻なら、堕ちるのもいい

Kinon
BL
美少年系バリタチSの高畑玲史と、ゴツめでマジメなM素質アリの川北紫道。セックスの経験はあれど恋愛経験ナシの2人は、気持ちが曖昧なままつき合うことになった。『リアルBL!不安な俺の恋愛ハードルート』と同じ学園モノです。 ※玲史視点:R、紫道視点:Sですが、同じシーン(セリフ重複)はありません。

処理中です...