忘れられた王子は剣闘士奴隷に愛を乞う

空月 瞭明

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第68話 革命 (2)

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 アルキバが店主とその妻を守り戦っていた頃、王都内の別の区画では。

 十名ほどの憲兵が、路地裏にずかずかと入って行った。

「俺たちは廃棄奴隷の捕縛か、反王家狩りの方が面白いのだが」

「文句を言うな、これも名誉な仕事だ。本日は<粛清の日>。建国五百年記念日の今日、廃棄奴隷に反王家、全ての危険分子を王都から一掃すると陛下がお決めになった。俺たちは歴史に名を刻めるぞ」

「そう思えば腕がなるな」

「いたぞ。王都を汚すゴミどもだ」

 憲兵達の入り込んだ路地の突き当たり。
 そこにはぼろ布にくるまった廃棄奴隷たちが、何十人と寝ていた。

 一人の憲兵が眠る廃棄奴隷を蹴り飛ばした。布の中で廃棄奴隷がうめき声を上げる。

「いてて!何すんですかい、憲兵さん」

 ぼろ布の中から、眼帯をした坊主頭の男が迷惑そうに顔を出す。

「ほら起きろ、目障りな浮浪者ども!お前らを連行する!」

「連行?慈悲深いジルソン陛下が、飯でも恵んでくれるんですかい?」

 眼帯の男が尋ね、憲兵たちは笑い声をあげた。

「そうだ、たらふく食わせてやるから来い!」

「そりゃありがたい!酒もありますか?」

「おお、あるとも!いい酒がな!」

 そう言った憲兵の後ろ、別の二人が小声で囁きあう。

「ただし毒入りの酒だがな」

「馬鹿、酒がもったいない、毒入りの水で十分だ」

 眼帯の男がははっ、と笑って立ち上がった。
 男の意外な体格の良さに、憲兵たちはびくりとする。

「さすがジルソン陛下、けちくせぇな、毒入り水かよ!おっと悪いな、俺は地獄耳でな。税金つかって悪趣味な闘技会やるくらいならエール一杯おごってくれりゃいいのにな!」

 わっ、と歓声が上がる。
 そうだそうだと叫びながら、ぼろ布の中から一斉に「廃棄奴隷」たちが立ち上がった。
 みな、一様に、筋肉質で大きな体の男たちだった。

「なっ……!?」

 目を白黒させながら剣を構えた憲兵たちに、眼帯の男は背中から剣を抜き放つとにやりと笑い、大声で言った。

「本日の目玉は団体戦!剣闘士団対憲兵隊、さあ試合開始だ!」

「おおおーーー!」

 廃棄奴隷、否、廃棄奴隷に扮していた剣闘士たちが手に凶悪な武器を持って憲兵たちに踊りかかる。直剣に三日月刀、斧に大剣に槍。

「剣闘士……っ」

 目を剥いた憲兵が、一瞬で槍の餌食となり胸を血に染める。
 ばたばたと憲兵が倒れていく。

 まるで勝負にならなかった。
 憲兵たちはあっという間に無惨な姿をさらすことになった。

「なんだ、手ごたえねぇな、俺一人でも全部ヤれたなこりゃ」

 剣についた血のりをぼろ布で拭きながら、眼帯の男がぼやく。

「案外強いじゃないか、バルヌーイ」

 亜麻色の髪を長く伸ばした美貌の男が言う。

「おいおい、今頃気づいたのかルシス?」

「まだっすよ、親方!あちこちに憲兵ごまんといますよ!向こうでアルキバさんも戦ってる!」

 巻き毛にオリーブ色の肌の青年剣闘士、ウーノが興奮気味に言った。
 他の剣闘士たちも目に楽しそうな光を宿してうなずく。

 バルヌーイもにんまりと笑う。

「そうだな、アルキバが用意してくれた試合は始まったばかりだ。敵は新王ジルソン、相手にとって不足なしだ!手塩にかけて育てた一級剣闘士を何人も魔獣の餌にしやがって!剣闘士なめたらどんな目にあうか教えてやる!」

 剣闘士たちは歓声をあげ、通りに飛び出して行った。

 ジルソン新王新体制への反乱。
 その革命の火蓋が、切って落とされたのだ。

◇  ◇  ◇
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