上 下
48 / 75

第48話 父と子 (4)

しおりを挟む
 ジルソンの顔が強張る。
 近衛騎士団長、イサイズ・ペルーチェに注目が集まった。ヴィルターはリチェルの護衛騎士だったが、所属は近衛騎士団のままだった。

 近衛騎士団長イサイズは起立した。三十代後半くらいだろう。上背はあるが騎士にしては細身で、いかめしい肩書きの割りにどこか気弱そうな印象を与える。

 イサイズはジルソンをちらと見ながら、落ち着かない様子で言った。

「わ、私が従者に掲示させました」

 ふむ、と王はうなずく。

「して、そなたはヴィルターが田舎に帰る、という話を誰から聞いた?」

 縛られたまま黙していたペリーが、このときびくりと肩を揺らした。

「ペリー殿からです」

「なぜ、ペリーから?ルクサル伯爵家のペリーがなぜ、リチェルの護衛騎士のことをそなたに伝え、そなたはそれを信じた?」

 イサイズはちらちらとジルソンに視線を送り続ける。その様子が国王を苛立たせた。

「そなたは誰に気をつかっておる?そなたの主君は誰だ、余か、ジルソンか!」

 イサイズは焦って背筋を伸ばした。
 王がいままでそのような選択肢を示したことはなかった。ジルソンはただ黙し、宙を睨む。

「もちろん国王陛下でございます!わ、私も疑問に思い、『そんなわけはありません、ヴィルターはまず私に伝えるはずです、そもそも何故ペリー殿が?』とお聞きしました。そうしたらペリー殿に……」

 そこでイサイズは一旦言葉を切り、言いにくそうに続きを繋げる。

「……ペリー殿に、『ジルソン殿下の案件だ』とだけ言われました。私は、ならば大きな事情があるのだろう、と飲み込み、掲示を指示いたしました……」

「ペリー!!」

 突然、大声を出したのはジルソンだった。
 えっ、と顔を上げたペリーにジルソンはすごい剣幕でまくし立てた。

「貴様、私の名を使い一体何をしていた!ヴィルター殿になんの恨みがあったのか知らぬが、私怨にこの私を巻き込んだのだな、ペリー!」

 ペリーがわなないた。

「な、何をおっしゃるのですか殿下!私は常にジルソン殿下のご命令に沿うて来たではありませんか!」

 ジルソンはリチェルの背後に立ち尽くしていた兵士たちを指差した。

「お前達、今すぐペリーを牢に連れて行け!」

 すっと手を上げて、また制したのはダーリアン三世である。

「何故、そなたが命ずる?王は余であるぞ、息子よ」

 ジルソンはぐっと詰まりながら顔を背けた。

「で、出すぎた真似をお許しください、しかし、あまりにもペリーが許しがたく……」

 ふう、と息をつき、王は兵士たちを見やる。低い声音で命じた。

「ペリーとジルソンを捕らえ、牢に連行せよ」

「なっ……!」

 ジルソンは目を見開き、国王を見つめた。

「何をしている、早くしろ」

 逡巡する兵士たちに、王は再度促した。兵士たちは慌てて、ペリーとジルソンに駆け寄り、その体を拘束する。アルキバは笑顔で、青ざめるペリーを引き渡した。

 ジルソンは拘束を振り払おうと暴れた。

「やめろっ、離せ!父上なぜですか!こんな茶番に騙されてはなりません、これは何らかの陰謀です!私を陥れようという陰謀が働いております、どうかあなたの息子を信じて下さい、父上!」

「余の息子はそなただけではない、ジルソン。リチェルもまた息子だ。これからこの事案を精査する。そなたは十分に疑わしい、結果が出るまで辛抱せよ」

 はっきりとした物言いに、ジルソンは衝撃を受けたように口をつぐんだ。
 目を泳がせながら、兵士たちに連れて行かれる。
 去り際、リチェルに憎悪の一睨みを送ることは忘れなかった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【続編】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

後輩の甘い支配

ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)  「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」 退職する直前に爪痕を残していった後輩に、再会後甘く支配される… 商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。 そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。 その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げる。 2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず… 後半甘々です。 すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。 更新は2日おきくらいを目安にしています。 よろしくお願いします

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...