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第48話 父と子 (4)
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ジルソンの顔が強張る。
近衛騎士団長、イサイズ・ペルーチェに注目が集まった。ヴィルターはリチェルの護衛騎士だったが、所属は近衛騎士団のままだった。
近衛騎士団長イサイズは起立した。三十代後半くらいだろう。上背はあるが騎士にしては細身で、いかめしい肩書きの割りにどこか気弱そうな印象を与える。
イサイズはジルソンをちらと見ながら、落ち着かない様子で言った。
「わ、私が従者に掲示させました」
ふむ、と王はうなずく。
「して、そなたはヴィルターが田舎に帰る、という話を誰から聞いた?」
縛られたまま黙していたペリーが、このときびくりと肩を揺らした。
「ペリー殿からです」
「なぜ、ペリーから?ルクサル伯爵家のペリーがなぜ、リチェルの護衛騎士のことをそなたに伝え、そなたはそれを信じた?」
イサイズはちらちらとジルソンに視線を送り続ける。その様子が国王を苛立たせた。
「そなたは誰に気をつかっておる?そなたの主君は誰だ、余か、ジルソンか!」
イサイズは焦って背筋を伸ばした。
王がいままでそのような選択肢を示したことはなかった。ジルソンはただ黙し、宙を睨む。
「もちろん国王陛下でございます!わ、私も疑問に思い、『そんなわけはありません、ヴィルターはまず私に伝えるはずです、そもそも何故ペリー殿が?』とお聞きしました。そうしたらペリー殿に……」
そこでイサイズは一旦言葉を切り、言いにくそうに続きを繋げる。
「……ペリー殿に、『ジルソン殿下の案件だ』とだけ言われました。私は、ならば大きな事情があるのだろう、と飲み込み、掲示を指示いたしました……」
「ペリー!!」
突然、大声を出したのはジルソンだった。
えっ、と顔を上げたペリーにジルソンはすごい剣幕でまくし立てた。
「貴様、私の名を使い一体何をしていた!ヴィルター殿になんの恨みがあったのか知らぬが、私怨にこの私を巻き込んだのだな、ペリー!」
ペリーがわなないた。
「な、何をおっしゃるのですか殿下!私は常にジルソン殿下のご命令に沿うて来たではありませんか!」
ジルソンはリチェルの背後に立ち尽くしていた兵士たちを指差した。
「お前達、今すぐペリーを牢に連れて行け!」
すっと手を上げて、また制したのはダーリアン三世である。
「何故、そなたが命ずる?王は余であるぞ、息子よ」
ジルソンはぐっと詰まりながら顔を背けた。
「で、出すぎた真似をお許しください、しかし、あまりにもペリーが許しがたく……」
ふう、と息をつき、王は兵士たちを見やる。低い声音で命じた。
「ペリーとジルソンを捕らえ、牢に連行せよ」
「なっ……!」
ジルソンは目を見開き、国王を見つめた。
「何をしている、早くしろ」
逡巡する兵士たちに、王は再度促した。兵士たちは慌てて、ペリーとジルソンに駆け寄り、その体を拘束する。アルキバは笑顔で、青ざめるペリーを引き渡した。
ジルソンは拘束を振り払おうと暴れた。
「やめろっ、離せ!父上なぜですか!こんな茶番に騙されてはなりません、これは何らかの陰謀です!私を陥れようという陰謀が働いております、どうかあなたの息子を信じて下さい、父上!」
「余の息子はそなただけではない、ジルソン。リチェルもまた息子だ。これからこの事案を精査する。そなたは十分に疑わしい、結果が出るまで辛抱せよ」
はっきりとした物言いに、ジルソンは衝撃を受けたように口をつぐんだ。
目を泳がせながら、兵士たちに連れて行かれる。
去り際、リチェルに憎悪の一睨みを送ることは忘れなかった。
近衛騎士団長、イサイズ・ペルーチェに注目が集まった。ヴィルターはリチェルの護衛騎士だったが、所属は近衛騎士団のままだった。
近衛騎士団長イサイズは起立した。三十代後半くらいだろう。上背はあるが騎士にしては細身で、いかめしい肩書きの割りにどこか気弱そうな印象を与える。
イサイズはジルソンをちらと見ながら、落ち着かない様子で言った。
「わ、私が従者に掲示させました」
ふむ、と王はうなずく。
「して、そなたはヴィルターが田舎に帰る、という話を誰から聞いた?」
縛られたまま黙していたペリーが、このときびくりと肩を揺らした。
「ペリー殿からです」
「なぜ、ペリーから?ルクサル伯爵家のペリーがなぜ、リチェルの護衛騎士のことをそなたに伝え、そなたはそれを信じた?」
イサイズはちらちらとジルソンに視線を送り続ける。その様子が国王を苛立たせた。
「そなたは誰に気をつかっておる?そなたの主君は誰だ、余か、ジルソンか!」
イサイズは焦って背筋を伸ばした。
王がいままでそのような選択肢を示したことはなかった。ジルソンはただ黙し、宙を睨む。
「もちろん国王陛下でございます!わ、私も疑問に思い、『そんなわけはありません、ヴィルターはまず私に伝えるはずです、そもそも何故ペリー殿が?』とお聞きしました。そうしたらペリー殿に……」
そこでイサイズは一旦言葉を切り、言いにくそうに続きを繋げる。
「……ペリー殿に、『ジルソン殿下の案件だ』とだけ言われました。私は、ならば大きな事情があるのだろう、と飲み込み、掲示を指示いたしました……」
「ペリー!!」
突然、大声を出したのはジルソンだった。
えっ、と顔を上げたペリーにジルソンはすごい剣幕でまくし立てた。
「貴様、私の名を使い一体何をしていた!ヴィルター殿になんの恨みがあったのか知らぬが、私怨にこの私を巻き込んだのだな、ペリー!」
ペリーがわなないた。
「な、何をおっしゃるのですか殿下!私は常にジルソン殿下のご命令に沿うて来たではありませんか!」
ジルソンはリチェルの背後に立ち尽くしていた兵士たちを指差した。
「お前達、今すぐペリーを牢に連れて行け!」
すっと手を上げて、また制したのはダーリアン三世である。
「何故、そなたが命ずる?王は余であるぞ、息子よ」
ジルソンはぐっと詰まりながら顔を背けた。
「で、出すぎた真似をお許しください、しかし、あまりにもペリーが許しがたく……」
ふう、と息をつき、王は兵士たちを見やる。低い声音で命じた。
「ペリーとジルソンを捕らえ、牢に連行せよ」
「なっ……!」
ジルソンは目を見開き、国王を見つめた。
「何をしている、早くしろ」
逡巡する兵士たちに、王は再度促した。兵士たちは慌てて、ペリーとジルソンに駆け寄り、その体を拘束する。アルキバは笑顔で、青ざめるペリーを引き渡した。
ジルソンは拘束を振り払おうと暴れた。
「やめろっ、離せ!父上なぜですか!こんな茶番に騙されてはなりません、これは何らかの陰謀です!私を陥れようという陰謀が働いております、どうかあなたの息子を信じて下さい、父上!」
「余の息子はそなただけではない、ジルソン。リチェルもまた息子だ。これからこの事案を精査する。そなたは十分に疑わしい、結果が出るまで辛抱せよ」
はっきりとした物言いに、ジルソンは衝撃を受けたように口をつぐんだ。
目を泳がせながら、兵士たちに連れて行かれる。
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