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第47話 父と子 (3)
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滅多に声を荒げない王が、大声を出した。
場の空気がぴんと張り詰めた。ジルソンは驚いて口を引き結んだ。うろたえながら顔を伏せて謝罪する。
「し、失礼いたしました、父上」
何か言いたげに口を開いたオルワードを、ジルソンは伏せた目線で制した。だが制したジルソン自身が拳を震わせていた。
ダーリアン三世がリチェルに促す。
「話とは何だ」
リチェルは緊張を律するように深呼吸をし、恭しくこうべを垂れた。
「発言の機会を与えてくださり感謝します、陛下。私は昨晩、グリンダス通りのホテル・グラノードにて、護衛騎士のヴィルターに腹を刺され、ここにいるアルキバに命を助けられました」
ミセス・ダウネスがびくりと顔を上げる。彼女はまだ詳細を知らされていなかった。息子の死についても。
リチェルは言葉を続けた。
「ヴィルターは、ジルソン王太子殿下がミセス・ダウネスを人質に取り、私を殺すよう命じたと申しておりました」
ジルソンは、笑みを浮かべて肩をすくめてみせた。
「ほら、頭がおかしいことを言い出した」とでも言いたげな表情を作って、重臣たちを見渡す。重臣たちは困惑混じりの苦笑いでそれに応えた。
ダーリアン三世は静かに尋ねる。
「そなたを刺したヴィルターは、今どこにいる?」
「俺が殺しました」
国王の質問に答えたのはアルキバだった。場の注目が一気に剣闘士に集まる。アルキバはペリーを取り押さえながら言う。
「ヴィルターがリチェル殿下を刺し、殿下は意識を失ってしまわれた。ヴィルターは俺を殺して俺に殿下殺害の罪をなすりつけようとしました。俺はヴィルターを殺し、殿下を医者の元に連れていきました」
ミセス・ダウネスが泣き崩れた。その肩にクラリスが腕を回し、なだめるように背中をさする。
リチェルが後を引き継いだ。
「私はアルキバを剣闘士団から買い、我が臣下としました。アルキバとクラリスに命じ白蘭邸地下室を調べさせたところ、彼らは監禁されていたミセス・ダウネスを発見し、また監禁の実行犯の一人と目されるペリー・キヌーズを捕らえました次第です」
王は女性二人を見た。
「クラリス、ミセス・ダウネス。リチェルの言うことは本当か?」
クラリスはうなずいた。
「はい、確かに私もこの目で見ました。ミセス・ダウネスが地下室の隠し部屋に縛られ倒れている姿を」
ミセス・ダウネスはさめざめと泣きながら、
「ああリチェル殿下、どうか我が愚息をお許し下さい。リチェル殿下は謀反を起こした息子の母である私を、それでも助けて下さり、あのように優しく抱きしめて下さった。このご恩は決して忘れません」
女性二人のこの証言により、空気が変った。重臣たちは互いを見合わせた。
ジルソンの表情が忌々しげに歪み、オルワードが不安そうに兄と父王の顔をきょろきょろ見比べる。
国王の眉間に深いしわが刻まれた。王は問いかける。
「詳しいことを聞かせてくれ、ミセス・ダウネス」
「はい陛下。実を申せばヴィルターは一月ほど前から私に悩みを打ち明けておりました。ジルソン王太子殿下からリチェル殿下を葬るよう命じられたと。お前はリチェル殿下の臣下なのだから決してその信頼を裏切ってはならない、早く陛下にそのことを奏上なさい、と私は申しておりましたが、まさか息子が私の命を盾に脅されていたなんて。縛られ閉じ込められるまで、気づくことができませんでした。声しか聞いておりませんが、私を捕らえたのは確かに、ジルソン殿下とペリー様でした」
ジルソンがどん、とテーブルを叩いた。
「ミセス・ダウネス!滅多なことを言わぬほうが身のためですよ、姿も見ていないのに声だけで私だとどうして分かるのです?失礼ですが、ご高齢でお耳にガタが来てるんじゃありませんか、マダム!」
ダーリアン三世はその場に集まる重臣たちを見回した。
「王城の掲示板に、ヴィルターとその母は田舎に帰る、という旨の知らせを掲示したのは、誰だ?」
場の空気がぴんと張り詰めた。ジルソンは驚いて口を引き結んだ。うろたえながら顔を伏せて謝罪する。
「し、失礼いたしました、父上」
何か言いたげに口を開いたオルワードを、ジルソンは伏せた目線で制した。だが制したジルソン自身が拳を震わせていた。
ダーリアン三世がリチェルに促す。
「話とは何だ」
リチェルは緊張を律するように深呼吸をし、恭しくこうべを垂れた。
「発言の機会を与えてくださり感謝します、陛下。私は昨晩、グリンダス通りのホテル・グラノードにて、護衛騎士のヴィルターに腹を刺され、ここにいるアルキバに命を助けられました」
ミセス・ダウネスがびくりと顔を上げる。彼女はまだ詳細を知らされていなかった。息子の死についても。
リチェルは言葉を続けた。
「ヴィルターは、ジルソン王太子殿下がミセス・ダウネスを人質に取り、私を殺すよう命じたと申しておりました」
ジルソンは、笑みを浮かべて肩をすくめてみせた。
「ほら、頭がおかしいことを言い出した」とでも言いたげな表情を作って、重臣たちを見渡す。重臣たちは困惑混じりの苦笑いでそれに応えた。
ダーリアン三世は静かに尋ねる。
「そなたを刺したヴィルターは、今どこにいる?」
「俺が殺しました」
国王の質問に答えたのはアルキバだった。場の注目が一気に剣闘士に集まる。アルキバはペリーを取り押さえながら言う。
「ヴィルターがリチェル殿下を刺し、殿下は意識を失ってしまわれた。ヴィルターは俺を殺して俺に殿下殺害の罪をなすりつけようとしました。俺はヴィルターを殺し、殿下を医者の元に連れていきました」
ミセス・ダウネスが泣き崩れた。その肩にクラリスが腕を回し、なだめるように背中をさする。
リチェルが後を引き継いだ。
「私はアルキバを剣闘士団から買い、我が臣下としました。アルキバとクラリスに命じ白蘭邸地下室を調べさせたところ、彼らは監禁されていたミセス・ダウネスを発見し、また監禁の実行犯の一人と目されるペリー・キヌーズを捕らえました次第です」
王は女性二人を見た。
「クラリス、ミセス・ダウネス。リチェルの言うことは本当か?」
クラリスはうなずいた。
「はい、確かに私もこの目で見ました。ミセス・ダウネスが地下室の隠し部屋に縛られ倒れている姿を」
ミセス・ダウネスはさめざめと泣きながら、
「ああリチェル殿下、どうか我が愚息をお許し下さい。リチェル殿下は謀反を起こした息子の母である私を、それでも助けて下さり、あのように優しく抱きしめて下さった。このご恩は決して忘れません」
女性二人のこの証言により、空気が変った。重臣たちは互いを見合わせた。
ジルソンの表情が忌々しげに歪み、オルワードが不安そうに兄と父王の顔をきょろきょろ見比べる。
国王の眉間に深いしわが刻まれた。王は問いかける。
「詳しいことを聞かせてくれ、ミセス・ダウネス」
「はい陛下。実を申せばヴィルターは一月ほど前から私に悩みを打ち明けておりました。ジルソン王太子殿下からリチェル殿下を葬るよう命じられたと。お前はリチェル殿下の臣下なのだから決してその信頼を裏切ってはならない、早く陛下にそのことを奏上なさい、と私は申しておりましたが、まさか息子が私の命を盾に脅されていたなんて。縛られ閉じ込められるまで、気づくことができませんでした。声しか聞いておりませんが、私を捕らえたのは確かに、ジルソン殿下とペリー様でした」
ジルソンがどん、とテーブルを叩いた。
「ミセス・ダウネス!滅多なことを言わぬほうが身のためですよ、姿も見ていないのに声だけで私だとどうして分かるのです?失礼ですが、ご高齢でお耳にガタが来てるんじゃありませんか、マダム!」
ダーリアン三世はその場に集まる重臣たちを見回した。
「王城の掲示板に、ヴィルターとその母は田舎に帰る、という旨の知らせを掲示したのは、誰だ?」
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