43 / 75
第43話 救出 (3)
しおりを挟む
縦に並ぶ細長い壁板のうち、数枚だけ音が違う。
アルキバは身をかがめた。音の違う板の下だけ、薄い隙間があった。よし、と思った。
(見つけた)
腰から剣を抜き、その隙間に差し込んだ、その時。
地下室の扉が開かれた。
若い男が立っていた。膝丈の脚衣にベスト、刺繍を施した長い上着という、貴族然とした装いの男。
男は室内の状況に呆然としていた。
「ペリー様?」
クラリスが呼びかけた。
「そなた、リチェル邸の侍女頭……?」
ルクサル伯爵家の三男坊、ペリー・キヌーズは、アルキバが壁板の下に剣先を差し込んでいることに気がついた。途端に青ざめ、ものすごい形相で叫ぶ。
「貴様、何をしている!そこをどけ!」
アルキバはくっと笑って、てこの要領で剣の柄を押し下げた。
壁板が外れこちらに倒れた。壁の中、奥へ通じる通路が現れた。
「まさか!」
クラリスが手で口を押さえる。アルキバは満足げに腰に手をやりその通路を眺めた。
「出て来たな、秘密の通路か。この向こうにヴィルターの母親が監禁されてると」
「くっ……!」
ペリーが剣を抜き、アルキバの背中に切りかかった。
アルキバはひらりと回転し、後ろに蹴りを放った。まるで背中に目がついているかのごとく、その足先は正確にペリーの右手を捉えた。
うめき声をあげて剣を取り落としたペリーの背後をとると、首の前から右腕を回し、首の後ろに左腕を差し入れ、絞める。ペリーは悶絶しアルキバの腕に爪を立てたが、やがてがくりと身動きしなくなった。
「ひいっ!」
クラリスがおののいている。
「大丈夫、死んでねえよ。ジルソンとオルワードをぶっ倒すための大事な証人だからな。さあヴィルターの母親を救いに行こう」
「ほ、本当に通路の向こうにいるんです!?こんなことをして、勘違いだったらどうするんですか!」
「だから今から確かめるんだろ。あんたも来るんだ。本当にリチェルに償いたいんだったら、リチェルを取り巻いてる状況の真実を、自分の目で見てみろ」
「くっ……」
クラリスは床に倒れるペリーと、剣闘士と、秘密の通路を落ち着きなく見比べた。ぐっと歯をくいしばる。
「分かりました、私も行きます!」
「よし、さすが城で一番、リチェルに信用されてる人間だ」
クラリスは言葉に詰まり、照れたように目を伏せた。
アルキバはにっと笑うと、ランタンを持ち通路の奥に突き進んでいく。侍女頭もその後ろについて来た。
通路の奥に扉があった。とりあえずノックをしてみた。返事は無い。ドアノブを回した。鍵がかかっている。ならば仕方が無い。
「ちょっと後ろ下がってな」
クラリスに声をかけ、アルキバはよっと片足をあげると、ドアを蹴破った。大きな音と共に、真ん中で折れた木の扉の破片が舞う。
真っ暗な部屋に入り、ランタンをかざす。悪臭が鼻腔をついた。
部屋の隅、縛られた女性が転がされていた。ヴィルターと同じこげ茶の髪。後ろ手に縛られ布で猿ぐつわをされ、さらに目隠しをされていた。
女性の下半身は尿で濡れていた。厠にも行かせず物のようにここに閉じ込めていたらしい。
女性はまだ生きている。その証拠に、がくがくと震えていた。
クラリスがひっと息を飲む。アルキバが声をかけた。
「リチェル殿下の命令であんたを助けに来た。ヴィルターの母親だろ?」
女性はうんうんとうなずいた。アルキバは紐と布をほどき、女性を解放してやる。
「ああ、ミセス・ダウネス!なんてことでしょう!」
クラリスは涙を流しながら女性の手を握った。血の気の失せていた女性は、相手がクラリスと分かると、ほっとしたように泣き始めた。
「クラリスさん……!うっ、うっ……」
アルキバは身を屈めて問う。
「ここにあんたを閉じ込めたのは誰だ?」
「め、目隠しで顔は見ていないのですが、あの声は……ペリー様と、ジルソン殿下でした……」
クラリスはごくっと喉を鳴らし、アルキバは真面目な顔つきでうなずいた。
「分かった。さあこんな場所、早く出よう」
◇ ◇ ◇
アルキバは身をかがめた。音の違う板の下だけ、薄い隙間があった。よし、と思った。
(見つけた)
腰から剣を抜き、その隙間に差し込んだ、その時。
地下室の扉が開かれた。
若い男が立っていた。膝丈の脚衣にベスト、刺繍を施した長い上着という、貴族然とした装いの男。
男は室内の状況に呆然としていた。
「ペリー様?」
クラリスが呼びかけた。
「そなた、リチェル邸の侍女頭……?」
ルクサル伯爵家の三男坊、ペリー・キヌーズは、アルキバが壁板の下に剣先を差し込んでいることに気がついた。途端に青ざめ、ものすごい形相で叫ぶ。
「貴様、何をしている!そこをどけ!」
アルキバはくっと笑って、てこの要領で剣の柄を押し下げた。
壁板が外れこちらに倒れた。壁の中、奥へ通じる通路が現れた。
「まさか!」
クラリスが手で口を押さえる。アルキバは満足げに腰に手をやりその通路を眺めた。
「出て来たな、秘密の通路か。この向こうにヴィルターの母親が監禁されてると」
「くっ……!」
ペリーが剣を抜き、アルキバの背中に切りかかった。
アルキバはひらりと回転し、後ろに蹴りを放った。まるで背中に目がついているかのごとく、その足先は正確にペリーの右手を捉えた。
うめき声をあげて剣を取り落としたペリーの背後をとると、首の前から右腕を回し、首の後ろに左腕を差し入れ、絞める。ペリーは悶絶しアルキバの腕に爪を立てたが、やがてがくりと身動きしなくなった。
「ひいっ!」
クラリスがおののいている。
「大丈夫、死んでねえよ。ジルソンとオルワードをぶっ倒すための大事な証人だからな。さあヴィルターの母親を救いに行こう」
「ほ、本当に通路の向こうにいるんです!?こんなことをして、勘違いだったらどうするんですか!」
「だから今から確かめるんだろ。あんたも来るんだ。本当にリチェルに償いたいんだったら、リチェルを取り巻いてる状況の真実を、自分の目で見てみろ」
「くっ……」
クラリスは床に倒れるペリーと、剣闘士と、秘密の通路を落ち着きなく見比べた。ぐっと歯をくいしばる。
「分かりました、私も行きます!」
「よし、さすが城で一番、リチェルに信用されてる人間だ」
クラリスは言葉に詰まり、照れたように目を伏せた。
アルキバはにっと笑うと、ランタンを持ち通路の奥に突き進んでいく。侍女頭もその後ろについて来た。
通路の奥に扉があった。とりあえずノックをしてみた。返事は無い。ドアノブを回した。鍵がかかっている。ならば仕方が無い。
「ちょっと後ろ下がってな」
クラリスに声をかけ、アルキバはよっと片足をあげると、ドアを蹴破った。大きな音と共に、真ん中で折れた木の扉の破片が舞う。
真っ暗な部屋に入り、ランタンをかざす。悪臭が鼻腔をついた。
部屋の隅、縛られた女性が転がされていた。ヴィルターと同じこげ茶の髪。後ろ手に縛られ布で猿ぐつわをされ、さらに目隠しをされていた。
女性の下半身は尿で濡れていた。厠にも行かせず物のようにここに閉じ込めていたらしい。
女性はまだ生きている。その証拠に、がくがくと震えていた。
クラリスがひっと息を飲む。アルキバが声をかけた。
「リチェル殿下の命令であんたを助けに来た。ヴィルターの母親だろ?」
女性はうんうんとうなずいた。アルキバは紐と布をほどき、女性を解放してやる。
「ああ、ミセス・ダウネス!なんてことでしょう!」
クラリスは涙を流しながら女性の手を握った。血の気の失せていた女性は、相手がクラリスと分かると、ほっとしたように泣き始めた。
「クラリスさん……!うっ、うっ……」
アルキバは身を屈めて問う。
「ここにあんたを閉じ込めたのは誰だ?」
「め、目隠しで顔は見ていないのですが、あの声は……ペリー様と、ジルソン殿下でした……」
クラリスはごくっと喉を鳴らし、アルキバは真面目な顔つきでうなずいた。
「分かった。さあこんな場所、早く出よう」
◇ ◇ ◇
1
お気に入りに追加
446
あなたにおすすめの小説
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
【完結】一途な想いにも、ほどがある!
空条かの
BL
御曹司の天王寺尚人が一般家庭の姫木陸に初恋をしてしまい、一途に恋心を募らせて暴走していく物語です。
愛してやまない恋の行方は、果たしてハッピーエンドを迎えられるのか?
そんな暴走初恋の長編ストーリーです。(1章ずつ完結タイプのお話)
※性的表現(R18)ありのページは、マークをつけて分かるようにしておきます。
(わりとしっかりめに書くため、ダメな人はお気をつけください)
※設定を変更しましたので、違和感がある場合があります。
◆4章で一旦完結OK。11章で完全完結。
【お詫び】
他サイトにも掲載しておりますが、掲載サイトにより内容を修正しているため、若干異なる部分などがあります。どこかでお見かけの際は、あれ? なんか違うってこともありますので、ご了承ください。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。
谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
BL
俺、春翔は至って平凡な男子高校生だ。
だというのに、ある日トラックにつっこむ女子高生を助けたら……異世界に転移してしまった!
しかも俺が『聖女』って、どんな冗談?
第一王子、カイン。宮廷魔法師、アルベール。騎士団長、アーサー。
その他にも個性的な仲間に囲まれつつ、俺は聖女として、魔王にかけられた呪いを解く仕事を始めるのだった。
……いややっぱおかしくない? なんか色々おかしくない?
笑ってないで助けろ、そこの世話係!!
※作中にBL描写はありますが、主人公が通してヘテロ、最後まで誰とも結ばれないため、「ニアBL」としています。
※全体コメディタッチ~部分的シリアス。ほぼ各話3000文字以内となるよう心掛けています。
断捨離オメガは運命に拾われる
大島Q太
BL
番になる約束をした夫が浮気した。何もかも捨てて一人で生きる決意をして家を出た直哉が運命に出会い結婚するまでの話。《完結しました 後日談を追加しています。オメガバースの設定を独自の解釈を織り交ぜて書いています。R18の話にはタイトルに※を付けています》
恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした
水瀬かずか
BL
仕事をクビになった。住んでいるところも追い出された。そしたら恋人に捨てられた。最後のお給料も全部奪われた。「役立たず」と蹴られて。
好きって言ってくれたのに。かわいいって言ってくれたのに。やっぱり、僕は駄目な子なんだ。
行き場をなくした僕を見つけてくれたのは、優しい騎士様だった。
強面騎士×不憫美青年
消えない幻なら、堕ちるのもいい
Kinon
BL
美少年系バリタチSの高畑玲史と、ゴツめでマジメなM素質アリの川北紫道。セックスの経験はあれど恋愛経験ナシの2人は、気持ちが曖昧なままつき合うことになった。『リアルBL!不安な俺の恋愛ハードルート』と同じ学園モノです。
※玲史視点:R、紫道視点:Sですが、同じシーン(セリフ重複)はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる