41 / 75
第41話 救出 (1)
しおりを挟む
アルキバとクラリスは、白蘭邸に到着していた。
リチェルの屋敷は敷地の東側にあったが、白蘭邸は西側にあった。白蘭邸はリチェルの屋敷の三倍はある、白い壁の屋敷だ。
出迎えた白蘭邸の執事は五十がらみの男だった。身長は普通だが胸板は厚く、燕尾服の上からも体を鍛えている節がうかがわれた。
執事はクラリスの顔を見ると、あからさかまに不愉快そうな顔をした。
「第三王子邸の侍女頭殿が、一体なんの御用ですかな?」
クラリスは苦り切った顔で答える。
「地下室を見せていただきたいのです。その、リチェル殿下が、地下室に誰かが囚われている気がする、とおっしゃっておりまして」
執事は口をポカンと開けた後、その顔面いっぱいに、ありえない、という渋面を広げる。
「何を考えておられるのか、クラリス殿!狂王子の乱心にいちいち付き合ってなどいられるか!そんな下らん理由で通すことなど出来ぬ!」
クラリスは疲れた様な嘆息をして、アルキバを見上げた。
「だ、そうです。中に入れてもらえないようですから、戻りましょう」
「おい、ふざけんなよ。それで仕事したつもりか?」
アルキバの物言いにクラリスがかっとした。
「口を慎みなさいアルキバ、奴隷の分際で!ここはあなたが王者でいられた闘技場ではないのですよ!」
アルキバ、という名前に執事はビクッと反応した。アルキバの顔を見て、その表情が驚愕に染まる。
「ま、まさか、そんな……。いやしかしその顔、身体つき、確かに!」
アルキバは執事に、色気のある流し目を送る。
「そうだよ、俺があのアルキバだ。リチェル殿下の用心棒に転職したんだ」
「なんと!わ、私、あなたの大ファンでしてっ」
厳しく肩を張っていた執事の姿勢が急に前のめりになる。クラリスは執事の突然の豹変に、はあ?という顔をする。
「そりゃ光栄だ。執事さんも鍛えてるみたいだな」
「分かるのですか!?」
「もちろん分かるさ」
アルキバは執事の上半身を両手で挟んで、確かめる様にあちこち触った。
「うん、いい大胸筋だ。肩もいい」
そんな無遠慮な行為に、執事は怒るどころか顔を緩ませて、恥じらう乙女の様になっている。
「ほわあっ!アルキバさんんんっ!」
「俺はまだ城での仕事は右も左も分からない。執事さん俺に、手取り足取り教えてくれるかい?」
執事の筋肉を触りながら身を屈める。広い襟ぐりからアルキバの分厚い胸板が覗いた。執事はそのたくましい褐色の肌を凝視しながらどもる。
「ももも、もちろんです!」
「じゃあ最初の俺の仕事、させてもらっていいかな?地下室の鍵を貸してくれ。殿下の乱心にとことん付き合ってやりたいんだよ。どんな仕事でも全力でやりたいんだ。アルキバはそう言う男だって、分かるだろう?」
「分かります!」
元気よく即答して、上着の内ポケットから、大量の鍵の束をさっと取り出した。その中の一つを抜き取り、渡す。
「地下室の鍵はこちらです!西の廊下の突き当たりに地下への階段がございます!どうぞごゆっくりご確認下さい!」
「ありがとう執事さん」
アルキバはニコッと微笑み、どうだ、と言う顔でクラリスに視線を送る。クラリスは不機嫌そうに口を山形にしただけだった。
「そうだもう一つ」
とアルキバはさりげなく聞く。
「ジルソン殿下とオルワード殿下は、今どこに?」
「本宮殿でご公務をなさっています!あと三十分ほどで定例会議が始まります!」
「そうか!」
アルキバはよし、と笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
リチェルの屋敷は敷地の東側にあったが、白蘭邸は西側にあった。白蘭邸はリチェルの屋敷の三倍はある、白い壁の屋敷だ。
出迎えた白蘭邸の執事は五十がらみの男だった。身長は普通だが胸板は厚く、燕尾服の上からも体を鍛えている節がうかがわれた。
執事はクラリスの顔を見ると、あからさかまに不愉快そうな顔をした。
「第三王子邸の侍女頭殿が、一体なんの御用ですかな?」
クラリスは苦り切った顔で答える。
「地下室を見せていただきたいのです。その、リチェル殿下が、地下室に誰かが囚われている気がする、とおっしゃっておりまして」
執事は口をポカンと開けた後、その顔面いっぱいに、ありえない、という渋面を広げる。
「何を考えておられるのか、クラリス殿!狂王子の乱心にいちいち付き合ってなどいられるか!そんな下らん理由で通すことなど出来ぬ!」
クラリスは疲れた様な嘆息をして、アルキバを見上げた。
「だ、そうです。中に入れてもらえないようですから、戻りましょう」
「おい、ふざけんなよ。それで仕事したつもりか?」
アルキバの物言いにクラリスがかっとした。
「口を慎みなさいアルキバ、奴隷の分際で!ここはあなたが王者でいられた闘技場ではないのですよ!」
アルキバ、という名前に執事はビクッと反応した。アルキバの顔を見て、その表情が驚愕に染まる。
「ま、まさか、そんな……。いやしかしその顔、身体つき、確かに!」
アルキバは執事に、色気のある流し目を送る。
「そうだよ、俺があのアルキバだ。リチェル殿下の用心棒に転職したんだ」
「なんと!わ、私、あなたの大ファンでしてっ」
厳しく肩を張っていた執事の姿勢が急に前のめりになる。クラリスは執事の突然の豹変に、はあ?という顔をする。
「そりゃ光栄だ。執事さんも鍛えてるみたいだな」
「分かるのですか!?」
「もちろん分かるさ」
アルキバは執事の上半身を両手で挟んで、確かめる様にあちこち触った。
「うん、いい大胸筋だ。肩もいい」
そんな無遠慮な行為に、執事は怒るどころか顔を緩ませて、恥じらう乙女の様になっている。
「ほわあっ!アルキバさんんんっ!」
「俺はまだ城での仕事は右も左も分からない。執事さん俺に、手取り足取り教えてくれるかい?」
執事の筋肉を触りながら身を屈める。広い襟ぐりからアルキバの分厚い胸板が覗いた。執事はそのたくましい褐色の肌を凝視しながらどもる。
「ももも、もちろんです!」
「じゃあ最初の俺の仕事、させてもらっていいかな?地下室の鍵を貸してくれ。殿下の乱心にとことん付き合ってやりたいんだよ。どんな仕事でも全力でやりたいんだ。アルキバはそう言う男だって、分かるだろう?」
「分かります!」
元気よく即答して、上着の内ポケットから、大量の鍵の束をさっと取り出した。その中の一つを抜き取り、渡す。
「地下室の鍵はこちらです!西の廊下の突き当たりに地下への階段がございます!どうぞごゆっくりご確認下さい!」
「ありがとう執事さん」
アルキバはニコッと微笑み、どうだ、と言う顔でクラリスに視線を送る。クラリスは不機嫌そうに口を山形にしただけだった。
「そうだもう一つ」
とアルキバはさりげなく聞く。
「ジルソン殿下とオルワード殿下は、今どこに?」
「本宮殿でご公務をなさっています!あと三十分ほどで定例会議が始まります!」
「そうか!」
アルキバはよし、と笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
1
お気に入りに追加
446
あなたにおすすめの小説
聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。
谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中
BL
俺、春翔は至って平凡な男子高校生だ。
だというのに、ある日トラックにつっこむ女子高生を助けたら……異世界に転移してしまった!
しかも俺が『聖女』って、どんな冗談?
第一王子、カイン。宮廷魔法師、アルベール。騎士団長、アーサー。
その他にも個性的な仲間に囲まれつつ、俺は聖女として、魔王にかけられた呪いを解く仕事を始めるのだった。
……いややっぱおかしくない? なんか色々おかしくない?
笑ってないで助けろ、そこの世話係!!
※作中にBL描写はありますが、主人公が通してヘテロ、最後まで誰とも結ばれないため、「ニアBL」としています。
※全体コメディタッチ~部分的シリアス。ほぼ各話3000文字以内となるよう心掛けています。
【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
倉橋 玲
BL
**完結!**
スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。
金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。
従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。
宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be
※この作品は他サイトでも公開されています。
(R18短編BL)憧れの美形先輩がゲイだった。地味平凡な俺を溺愛してくる
空月 瞭明
BL
大学の美形ゲイ先輩 × 平凡地味ノンケ後輩
甘々イチャラブ
憧れてたので体を許したら気持ちよかった
全4話・5,000文字弱
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました
くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。
特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。
毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。
そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。
無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる