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第41話 救出 (1)
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アルキバとクラリスは、白蘭邸に到着していた。
リチェルの屋敷は敷地の東側にあったが、白蘭邸は西側にあった。白蘭邸はリチェルの屋敷の三倍はある、白い壁の屋敷だ。
出迎えた白蘭邸の執事は五十がらみの男だった。身長は普通だが胸板は厚く、燕尾服の上からも体を鍛えている節がうかがわれた。
執事はクラリスの顔を見ると、あからさかまに不愉快そうな顔をした。
「第三王子邸の侍女頭殿が、一体なんの御用ですかな?」
クラリスは苦り切った顔で答える。
「地下室を見せていただきたいのです。その、リチェル殿下が、地下室に誰かが囚われている気がする、とおっしゃっておりまして」
執事は口をポカンと開けた後、その顔面いっぱいに、ありえない、という渋面を広げる。
「何を考えておられるのか、クラリス殿!狂王子の乱心にいちいち付き合ってなどいられるか!そんな下らん理由で通すことなど出来ぬ!」
クラリスは疲れた様な嘆息をして、アルキバを見上げた。
「だ、そうです。中に入れてもらえないようですから、戻りましょう」
「おい、ふざけんなよ。それで仕事したつもりか?」
アルキバの物言いにクラリスがかっとした。
「口を慎みなさいアルキバ、奴隷の分際で!ここはあなたが王者でいられた闘技場ではないのですよ!」
アルキバ、という名前に執事はビクッと反応した。アルキバの顔を見て、その表情が驚愕に染まる。
「ま、まさか、そんな……。いやしかしその顔、身体つき、確かに!」
アルキバは執事に、色気のある流し目を送る。
「そうだよ、俺があのアルキバだ。リチェル殿下の用心棒に転職したんだ」
「なんと!わ、私、あなたの大ファンでしてっ」
厳しく肩を張っていた執事の姿勢が急に前のめりになる。クラリスは執事の突然の豹変に、はあ?という顔をする。
「そりゃ光栄だ。執事さんも鍛えてるみたいだな」
「分かるのですか!?」
「もちろん分かるさ」
アルキバは執事の上半身を両手で挟んで、確かめる様にあちこち触った。
「うん、いい大胸筋だ。肩もいい」
そんな無遠慮な行為に、執事は怒るどころか顔を緩ませて、恥じらう乙女の様になっている。
「ほわあっ!アルキバさんんんっ!」
「俺はまだ城での仕事は右も左も分からない。執事さん俺に、手取り足取り教えてくれるかい?」
執事の筋肉を触りながら身を屈める。広い襟ぐりからアルキバの分厚い胸板が覗いた。執事はそのたくましい褐色の肌を凝視しながらどもる。
「ももも、もちろんです!」
「じゃあ最初の俺の仕事、させてもらっていいかな?地下室の鍵を貸してくれ。殿下の乱心にとことん付き合ってやりたいんだよ。どんな仕事でも全力でやりたいんだ。アルキバはそう言う男だって、分かるだろう?」
「分かります!」
元気よく即答して、上着の内ポケットから、大量の鍵の束をさっと取り出した。その中の一つを抜き取り、渡す。
「地下室の鍵はこちらです!西の廊下の突き当たりに地下への階段がございます!どうぞごゆっくりご確認下さい!」
「ありがとう執事さん」
アルキバはニコッと微笑み、どうだ、と言う顔でクラリスに視線を送る。クラリスは不機嫌そうに口を山形にしただけだった。
「そうだもう一つ」
とアルキバはさりげなく聞く。
「ジルソン殿下とオルワード殿下は、今どこに?」
「本宮殿でご公務をなさっています!あと三十分ほどで定例会議が始まります!」
「そうか!」
アルキバはよし、と笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
リチェルの屋敷は敷地の東側にあったが、白蘭邸は西側にあった。白蘭邸はリチェルの屋敷の三倍はある、白い壁の屋敷だ。
出迎えた白蘭邸の執事は五十がらみの男だった。身長は普通だが胸板は厚く、燕尾服の上からも体を鍛えている節がうかがわれた。
執事はクラリスの顔を見ると、あからさかまに不愉快そうな顔をした。
「第三王子邸の侍女頭殿が、一体なんの御用ですかな?」
クラリスは苦り切った顔で答える。
「地下室を見せていただきたいのです。その、リチェル殿下が、地下室に誰かが囚われている気がする、とおっしゃっておりまして」
執事は口をポカンと開けた後、その顔面いっぱいに、ありえない、という渋面を広げる。
「何を考えておられるのか、クラリス殿!狂王子の乱心にいちいち付き合ってなどいられるか!そんな下らん理由で通すことなど出来ぬ!」
クラリスは疲れた様な嘆息をして、アルキバを見上げた。
「だ、そうです。中に入れてもらえないようですから、戻りましょう」
「おい、ふざけんなよ。それで仕事したつもりか?」
アルキバの物言いにクラリスがかっとした。
「口を慎みなさいアルキバ、奴隷の分際で!ここはあなたが王者でいられた闘技場ではないのですよ!」
アルキバ、という名前に執事はビクッと反応した。アルキバの顔を見て、その表情が驚愕に染まる。
「ま、まさか、そんな……。いやしかしその顔、身体つき、確かに!」
アルキバは執事に、色気のある流し目を送る。
「そうだよ、俺があのアルキバだ。リチェル殿下の用心棒に転職したんだ」
「なんと!わ、私、あなたの大ファンでしてっ」
厳しく肩を張っていた執事の姿勢が急に前のめりになる。クラリスは執事の突然の豹変に、はあ?という顔をする。
「そりゃ光栄だ。執事さんも鍛えてるみたいだな」
「分かるのですか!?」
「もちろん分かるさ」
アルキバは執事の上半身を両手で挟んで、確かめる様にあちこち触った。
「うん、いい大胸筋だ。肩もいい」
そんな無遠慮な行為に、執事は怒るどころか顔を緩ませて、恥じらう乙女の様になっている。
「ほわあっ!アルキバさんんんっ!」
「俺はまだ城での仕事は右も左も分からない。執事さん俺に、手取り足取り教えてくれるかい?」
執事の筋肉を触りながら身を屈める。広い襟ぐりからアルキバの分厚い胸板が覗いた。執事はそのたくましい褐色の肌を凝視しながらどもる。
「ももも、もちろんです!」
「じゃあ最初の俺の仕事、させてもらっていいかな?地下室の鍵を貸してくれ。殿下の乱心にとことん付き合ってやりたいんだよ。どんな仕事でも全力でやりたいんだ。アルキバはそう言う男だって、分かるだろう?」
「分かります!」
元気よく即答して、上着の内ポケットから、大量の鍵の束をさっと取り出した。その中の一つを抜き取り、渡す。
「地下室の鍵はこちらです!西の廊下の突き当たりに地下への階段がございます!どうぞごゆっくりご確認下さい!」
「ありがとう執事さん」
アルキバはニコッと微笑み、どうだ、と言う顔でクラリスに視線を送る。クラリスは不機嫌そうに口を山形にしただけだった。
「そうだもう一つ」
とアルキバはさりげなく聞く。
「ジルソン殿下とオルワード殿下は、今どこに?」
「本宮殿でご公務をなさっています!あと三十分ほどで定例会議が始まります!」
「そうか!」
アルキバはよし、と笑みを浮かべた。
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↓旧作。第8回BL小説大賞奨励賞作品です
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