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第36話 狂王子 (4)
しおりを挟む 侍女頭のクラリスは衣装部屋にいた。
アルキバを伴って現れたリチェルに、クラリスはにこやかに対応した。作り物めいたにこやかさではあったが。
一つできっちり縛った金髪と、痩せた体に細いあご。神経質そうなその容姿には、しかし若い頃の美しさを忍ばせるものもあった。
「いかがされましたか、殿下」
「そなたに頼みが……。こんなことを頼むのは、きっとまた、そなたを困らせることになるだろうが……」
言いよどむリチェルに、クラリスはまつげを瞬かせる。リチェルがこのような物言いをするのは初めてなのかもしれない。少し、今までとは違った声音で問う。
「どうされました?」
リチェルは言いにくそうに瞳を揺らしながら言葉を繋ぐ。
「白蘭邸の地下室に、もしかしたらヴィルターの母堂が隠されているかもしれないから、アルキバと共に確認して欲しいのだ。私は行きづらいから、そなたに」
クラリスは口を引き結び、困ったように眉根を下げた。
「殿下、まだそのような……」
アルキバが割って入る。
「確認するだけだ。いなければそれでいい。そんな遠い場所じゃないだろう?あんたはリチェルのためにはそんな小さな労力すら割けないのか?」
「なっ……!」
クラリスは目をむいて、反論の言葉を探すかのように口を開けて、前に掲げた手を落ち着きなく開閉させた。
だが、言葉が見つからなかったらしい。ふん、と大きな鼻息をつくと、悔しげにアルキバを睨みつけた。
「分かりました、ご案内しましょう!」
アルキバはにやりと笑う。
リチェルは深々と頭を下げた。
「恩に着る、本当にありがとうクラリス」
そんなリチェルに毒気を抜かれたのか、クラリスはいいえ、と静かに首を振った。いつもの困ったような顔をして。
◇ ◇ ◇
アルキバと侍女頭が連れ立って屋敷を出るのを、他のメイドたちは不思議そうに眺めた。アルキバはそんな彼女らにウィンクをした。
「クラリスさんとデート行ってくる」
途端にどよめきが湧く。
「わ、私とも今度ぜひ!」
「羨ましいですクラリス様!」
クラリスはアルキバを睨みつけ、「いい加減になさい!」と一喝した。
白蘭邸までは馬車で行く。
アルキバはそつなくクラリスをエスコートした。クラリスは不機嫌そうな顔をしながらも、アルキバの手をとって馬車に乗り込んだ。
見送るリチェルは二人に頭を下げた。
「アルキバを頼んだ、クラリス。アルキバ、本当にありがとう」
馬車の中からアルキバは微笑んだ。
「じゃあな、いい子で待ってろよ」
リチェルは眉を下げ、複雑な表情でアルキバを見上げる。馬車が鞭の音と共に出発した。
沈鬱な面持ちで、リチェルは馬車を見送った。
◇ ◇ ◇
アルキバを伴って現れたリチェルに、クラリスはにこやかに対応した。作り物めいたにこやかさではあったが。
一つできっちり縛った金髪と、痩せた体に細いあご。神経質そうなその容姿には、しかし若い頃の美しさを忍ばせるものもあった。
「いかがされましたか、殿下」
「そなたに頼みが……。こんなことを頼むのは、きっとまた、そなたを困らせることになるだろうが……」
言いよどむリチェルに、クラリスはまつげを瞬かせる。リチェルがこのような物言いをするのは初めてなのかもしれない。少し、今までとは違った声音で問う。
「どうされました?」
リチェルは言いにくそうに瞳を揺らしながら言葉を繋ぐ。
「白蘭邸の地下室に、もしかしたらヴィルターの母堂が隠されているかもしれないから、アルキバと共に確認して欲しいのだ。私は行きづらいから、そなたに」
クラリスは口を引き結び、困ったように眉根を下げた。
「殿下、まだそのような……」
アルキバが割って入る。
「確認するだけだ。いなければそれでいい。そんな遠い場所じゃないだろう?あんたはリチェルのためにはそんな小さな労力すら割けないのか?」
「なっ……!」
クラリスは目をむいて、反論の言葉を探すかのように口を開けて、前に掲げた手を落ち着きなく開閉させた。
だが、言葉が見つからなかったらしい。ふん、と大きな鼻息をつくと、悔しげにアルキバを睨みつけた。
「分かりました、ご案内しましょう!」
アルキバはにやりと笑う。
リチェルは深々と頭を下げた。
「恩に着る、本当にありがとうクラリス」
そんなリチェルに毒気を抜かれたのか、クラリスはいいえ、と静かに首を振った。いつもの困ったような顔をして。
◇ ◇ ◇
アルキバと侍女頭が連れ立って屋敷を出るのを、他のメイドたちは不思議そうに眺めた。アルキバはそんな彼女らにウィンクをした。
「クラリスさんとデート行ってくる」
途端にどよめきが湧く。
「わ、私とも今度ぜひ!」
「羨ましいですクラリス様!」
クラリスはアルキバを睨みつけ、「いい加減になさい!」と一喝した。
白蘭邸までは馬車で行く。
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見送るリチェルは二人に頭を下げた。
「アルキバを頼んだ、クラリス。アルキバ、本当にありがとう」
馬車の中からアルキバは微笑んだ。
「じゃあな、いい子で待ってろよ」
リチェルは眉を下げ、複雑な表情でアルキバを見上げる。馬車が鞭の音と共に出発した。
沈鬱な面持ちで、リチェルは馬車を見送った。
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↓旧作。第8回BL小説大賞奨励賞作品です
魔道暗殺者と救国の騎士
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