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第29話 第一王子と第二王子 (2)
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本宮殿内の執務室で、ジルソン第一王子は声を荒げた。
「ヴィルターの死体が見つかっただと!?」
ペリーはうなずく。
「はい、偽名を使っていた傭兵風の男の死体が、グリンダス通りのホテル・グラノードの最上階で発見されました」
「それが何故、ヴィルターだと?」
「死者の連れの風貌が、覆面をした金髪の男とのことで。覆面の男は現在、行方不明だそうです。この件、憲兵隊長のドミニクから私のほうに内密に伝達がありました。殿下のお耳に入れたほうが良いのでは、と。リチェルが覆面をし、護衛騎士と毎日のように街で遊び歩いている件はドミニクにも伝えてありましたので。私が先ほど確認して参りましたが、確かにヴィルターでした」
「ドミニクか、さすが勘のいい男だ、助かった」
王都には憲兵隊と呼ばれる公共の警察組織があり、その最上位職である憲兵隊長のドミニクは、ジルソンと昵懇の仲であった。
オルワード第二王子は椅子に反対向きにまたがり、背もたれに腕を乗せていた。腕の上にあごを乗せて、冷たい笑みを浮かべる。
「あーあ、しくじったんだ、リチェルの腰巾着。はっぱかけてやっと行動したかと思えば、失敗だって。使えないやつ」
ジルソンは一ヶ月以上前からヴィルターを脅していた。母親の命が惜しければリチェルを殺せと言って。だがなかなか行動に移さないのに痺れをきらし、昨日ついに、母親をさらって監禁するという強硬手段に出たのだった。
ジルソンはペリーに問う。
「その死体がヴィルターと気づいているのは、ドミニクだけか?」
「はい」
「よし、ならば内密にしておけ。間違っても城から憲兵所に死体を取りにいくようなことはするな、そいつは名も無き傭兵だ。捜査は早めに打ち切るようにドミニクに伝えておけ」
「了解いたしました。ヴィルターの母親のほうはいかがいたしましょう」
「殺せ」
「畏まりました。では、本日中に」
オルワードが口を挟む。
「ヴィルターを殺したのはリチェルなの?」
「まだ不明ですが、どうやら別の男もいたらしいのです」
「別の男?」
「はい、バルヌーイ剣闘士団の剣闘士が。ヴィルター殺害の後、誰もリチェルの姿を見ていないのですが、剣闘士が走り去って行ったそうです。どうやらその剣闘士がリチェルを連れて逃げたようで」
ジルソンは眉をひそめた。
「剣闘士?」
「ドミニクの調べによると、リチェルはサイルという偽名を使って剣闘士団の投資主をしていたようです」
兄と弟、二人の王子は互いを見合わせた。弟、オルワードが笑いだす。
「あっはっは、何やってんのあいつ!意味わかんないんだけど、それ」
ペリーがそこで、下世話な笑みを浮かべた。
「噂によると、リチェルはたびたび、剣闘士を閨に呼びつけていたようで」
えっ、という沈黙が降りる。
間を置いて兄は鼻で笑い、弟は急に真顔になって、立ち上がった。立ち上がった拍子に椅子が大きな音を立てて転がった。
オルワードは怒りに震える。
「なんだそれ……!なんだよそれ、リチェルの奴!僕達から逃げたくせに、剣闘士なんかとよろしくやってんのかよ……!」
ジルソンは前髪をかき上げた。その口元に冷酷な弧を描く。
「いいじゃないか!ああ、そこまで落ちぶれてくれたか、あの純真可憐な王子様がねえ。今じゃ自ら進んで奴隷共の肉便器か。俺は実に小気味がいい。散々、犯し尽くした甲斐があった」
オルワードは歯ぎしりしながら、壁に拳をうちつけた。
「リチェル、絶対許さない、僕と兄さん以外に体を開いてるなんて!この裏切り、絶対に許さない!」
「おいおい、お前はまだリチェルに執心してるのか?俺達はリチェルを殺そうとしてるんだ」
「待って兄さん、お願い。殺す前にもう一度僕にリチェルを犯させてよ」
「困った弟だ、まあそういうタイミングがあればな。ともかく現在、リチェルは剣闘士と一緒にいるわけだな」
ジルソンの確認に、ペリーはうなずく。
「はい、おそらくそうだと思われます」
ジルソンは考え込むように窓辺に寄る。あごをさすりながらひとりごちる。
「いっそこのまま戻ってこなければいいのだが。厄介なことになった……」
◇ ◇ ◇
「ヴィルターの死体が見つかっただと!?」
ペリーはうなずく。
「はい、偽名を使っていた傭兵風の男の死体が、グリンダス通りのホテル・グラノードの最上階で発見されました」
「それが何故、ヴィルターだと?」
「死者の連れの風貌が、覆面をした金髪の男とのことで。覆面の男は現在、行方不明だそうです。この件、憲兵隊長のドミニクから私のほうに内密に伝達がありました。殿下のお耳に入れたほうが良いのでは、と。リチェルが覆面をし、護衛騎士と毎日のように街で遊び歩いている件はドミニクにも伝えてありましたので。私が先ほど確認して参りましたが、確かにヴィルターでした」
「ドミニクか、さすが勘のいい男だ、助かった」
王都には憲兵隊と呼ばれる公共の警察組織があり、その最上位職である憲兵隊長のドミニクは、ジルソンと昵懇の仲であった。
オルワード第二王子は椅子に反対向きにまたがり、背もたれに腕を乗せていた。腕の上にあごを乗せて、冷たい笑みを浮かべる。
「あーあ、しくじったんだ、リチェルの腰巾着。はっぱかけてやっと行動したかと思えば、失敗だって。使えないやつ」
ジルソンは一ヶ月以上前からヴィルターを脅していた。母親の命が惜しければリチェルを殺せと言って。だがなかなか行動に移さないのに痺れをきらし、昨日ついに、母親をさらって監禁するという強硬手段に出たのだった。
ジルソンはペリーに問う。
「その死体がヴィルターと気づいているのは、ドミニクだけか?」
「はい」
「よし、ならば内密にしておけ。間違っても城から憲兵所に死体を取りにいくようなことはするな、そいつは名も無き傭兵だ。捜査は早めに打ち切るようにドミニクに伝えておけ」
「了解いたしました。ヴィルターの母親のほうはいかがいたしましょう」
「殺せ」
「畏まりました。では、本日中に」
オルワードが口を挟む。
「ヴィルターを殺したのはリチェルなの?」
「まだ不明ですが、どうやら別の男もいたらしいのです」
「別の男?」
「はい、バルヌーイ剣闘士団の剣闘士が。ヴィルター殺害の後、誰もリチェルの姿を見ていないのですが、剣闘士が走り去って行ったそうです。どうやらその剣闘士がリチェルを連れて逃げたようで」
ジルソンは眉をひそめた。
「剣闘士?」
「ドミニクの調べによると、リチェルはサイルという偽名を使って剣闘士団の投資主をしていたようです」
兄と弟、二人の王子は互いを見合わせた。弟、オルワードが笑いだす。
「あっはっは、何やってんのあいつ!意味わかんないんだけど、それ」
ペリーがそこで、下世話な笑みを浮かべた。
「噂によると、リチェルはたびたび、剣闘士を閨に呼びつけていたようで」
えっ、という沈黙が降りる。
間を置いて兄は鼻で笑い、弟は急に真顔になって、立ち上がった。立ち上がった拍子に椅子が大きな音を立てて転がった。
オルワードは怒りに震える。
「なんだそれ……!なんだよそれ、リチェルの奴!僕達から逃げたくせに、剣闘士なんかとよろしくやってんのかよ……!」
ジルソンは前髪をかき上げた。その口元に冷酷な弧を描く。
「いいじゃないか!ああ、そこまで落ちぶれてくれたか、あの純真可憐な王子様がねえ。今じゃ自ら進んで奴隷共の肉便器か。俺は実に小気味がいい。散々、犯し尽くした甲斐があった」
オルワードは歯ぎしりしながら、壁に拳をうちつけた。
「リチェル、絶対許さない、僕と兄さん以外に体を開いてるなんて!この裏切り、絶対に許さない!」
「おいおい、お前はまだリチェルに執心してるのか?俺達はリチェルを殺そうとしてるんだ」
「待って兄さん、お願い。殺す前にもう一度僕にリチェルを犯させてよ」
「困った弟だ、まあそういうタイミングがあればな。ともかく現在、リチェルは剣闘士と一緒にいるわけだな」
ジルソンの確認に、ペリーはうなずく。
「はい、おそらくそうだと思われます」
ジルソンは考え込むように窓辺に寄る。あごをさすりながらひとりごちる。
「いっそこのまま戻ってこなければいいのだが。厄介なことになった……」
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