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第26話 誓い (3)
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「こういうのはどうだろう!私が王になったあかつきには、奴隷制度をやめる!この国の全ての奴隷を解放して自由民と同じ権利を与える。もちろん剣闘士も。闘技会は真剣を使った試合である必要はないと常々思っていたんだ。剣闘士を奴隷身分から解放して、闘技会を、殺さない、誰も死なないものに変えたい!」
いいことを思いついた子供のように語るリチェルを、アルキバはひどく驚いた様子で見つめていた。
何も言わないアルキバに、リチェルは不安になる。
「嫌だったか?この褒美では」
アルキバは首を横に振った。そして感嘆するように息をついた。
「いや、これ以上ない最高の褒美だ。よく分かったな、俺が最も喜ぶこと」
リチェルはとても嬉しくなった。誇らしげに笑む。
「 信奉者は贔屓の剣闘士のことなら、なんでも知っているんだ」
アルキバは吹き出した。
「ははは、参ったよ。いいのかい、そんな国中ひっくり返るようなことを安請け合いしちまって」
「ああ、奴隷解放は母上の願いでもあったんだ。ずっと忘れていたが、そなたが思い出させてくれた。亡き母上と大好きなアルキバの為に、王になって奴隷を解放したい」
言ってしまって、リチェルは慌てて手で口元を隠した。
「す、すまない、大好きというのはつまり、私はアルキバの信奉者だから、そういう意味で……」
そんなリチェルに、アルキバは目を細めた。
「抱きしめてもいいか?」
「えっ……」
そっ……と、ふんわりと。アルキバはリチェルの半身をゆるく抱いた。
リチェルはびっくりしながら、無言でアルキバの遠慮がちな抱擁に、包まれた。
アルキバがその耳元に囁く。
「俺はあんたを裏切らない」
リチェルは息を飲んだ。
——ヴィルターのように裏切ることはない。
そういう意味だろう。
きっと本気ではない。大人の慰め、大人の気遣いだ。
だがたとえ気休めでも、それは今、リチェルを最も揺さぶり、救い上げる言葉だった。
「アル……キバ……」
目頭が熱を帯びる。
涙があふれ、こぼれ落ちた。
ヴィルターに刺され、目覚めてから。初めてリチェルはちゃんと泣いた。
生きることを諦め、凪いでいた心に灯りがともる。
泣き出したリチェルの淡い金色の髪を、アルキバの手が優しくなでた。
「たとえ俺に親がいて、親を人質にとられたとしても、俺はあんたを選ぼう」
リチェルは嗚咽した。額をアルキバの胸に寄せ、泣きじゃくりながら途切れ途切れの言葉を繋げる。
「あり……が……。そな……たの心遣い、感……謝す……、なぐ……さめ……」
「慰めなんかじゃねえ、俺は誓って裏切らない」
アルキバはリチェルの頬を両手ではさみ、上に向けさせた。
どきりとするほど真摯な眼差しが、リチェルを見ている。
まるで本気だと信じてしまいそうな眼差しが。
そこでアルキバが、何かに迷う表情を見せた。
やがてためらいがちに、少し照れた様子で申し出る。
「誓いの口づけをしてもいいか?」
リチェルはぎこちなくうなずいた。
アルキバは、リチェルの額にそっと唇を落とした。
そしてリチェルの表情を確かめる。
リチェルが嫌がっていないか、確認するように。
リチェルはただ、赤面していた。アルキバはほっとした表情になる。
もう一度、今度は頬にキスをしてくれた。
次に顎に、次にもう片方の頬に。
唇以外の全ての場所に、アルキバのキスが降って来る。
(これはまだ夢の中……?)
泣き濡れたリチェルはその優しい誓いを、信じられない思いで受け止めた。
◇ ◇ ◇
いいことを思いついた子供のように語るリチェルを、アルキバはひどく驚いた様子で見つめていた。
何も言わないアルキバに、リチェルは不安になる。
「嫌だったか?この褒美では」
アルキバは首を横に振った。そして感嘆するように息をついた。
「いや、これ以上ない最高の褒美だ。よく分かったな、俺が最も喜ぶこと」
リチェルはとても嬉しくなった。誇らしげに笑む。
「 信奉者は贔屓の剣闘士のことなら、なんでも知っているんだ」
アルキバは吹き出した。
「ははは、参ったよ。いいのかい、そんな国中ひっくり返るようなことを安請け合いしちまって」
「ああ、奴隷解放は母上の願いでもあったんだ。ずっと忘れていたが、そなたが思い出させてくれた。亡き母上と大好きなアルキバの為に、王になって奴隷を解放したい」
言ってしまって、リチェルは慌てて手で口元を隠した。
「す、すまない、大好きというのはつまり、私はアルキバの信奉者だから、そういう意味で……」
そんなリチェルに、アルキバは目を細めた。
「抱きしめてもいいか?」
「えっ……」
そっ……と、ふんわりと。アルキバはリチェルの半身をゆるく抱いた。
リチェルはびっくりしながら、無言でアルキバの遠慮がちな抱擁に、包まれた。
アルキバがその耳元に囁く。
「俺はあんたを裏切らない」
リチェルは息を飲んだ。
——ヴィルターのように裏切ることはない。
そういう意味だろう。
きっと本気ではない。大人の慰め、大人の気遣いだ。
だがたとえ気休めでも、それは今、リチェルを最も揺さぶり、救い上げる言葉だった。
「アル……キバ……」
目頭が熱を帯びる。
涙があふれ、こぼれ落ちた。
ヴィルターに刺され、目覚めてから。初めてリチェルはちゃんと泣いた。
生きることを諦め、凪いでいた心に灯りがともる。
泣き出したリチェルの淡い金色の髪を、アルキバの手が優しくなでた。
「たとえ俺に親がいて、親を人質にとられたとしても、俺はあんたを選ぼう」
リチェルは嗚咽した。額をアルキバの胸に寄せ、泣きじゃくりながら途切れ途切れの言葉を繋げる。
「あり……が……。そな……たの心遣い、感……謝す……、なぐ……さめ……」
「慰めなんかじゃねえ、俺は誓って裏切らない」
アルキバはリチェルの頬を両手ではさみ、上に向けさせた。
どきりとするほど真摯な眼差しが、リチェルを見ている。
まるで本気だと信じてしまいそうな眼差しが。
そこでアルキバが、何かに迷う表情を見せた。
やがてためらいがちに、少し照れた様子で申し出る。
「誓いの口づけをしてもいいか?」
リチェルはぎこちなくうなずいた。
アルキバは、リチェルの額にそっと唇を落とした。
そしてリチェルの表情を確かめる。
リチェルが嫌がっていないか、確認するように。
リチェルはただ、赤面していた。アルキバはほっとした表情になる。
もう一度、今度は頬にキスをしてくれた。
次に顎に、次にもう片方の頬に。
唇以外の全ての場所に、アルキバのキスが降って来る。
(これはまだ夢の中……?)
泣き濡れたリチェルはその優しい誓いを、信じられない思いで受け止めた。
◇ ◇ ◇
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